徳島行きの列車が出るまでの持ち時間は実質一時間、必然的に今回は新規開拓なしの一軒限定となります。しかして、高松でただ一軒再訪したい店はどれかと自問したとき、教祖おすすめの「美人亭」を差し置いて浮かんできたのはこの店でした。「おふくろ」の暖簾を一年ぶりにくぐります。
一言で形容するなら、大衆酒場というより大衆食堂といった方が当てはまりはよいのでしょう。右手に十人少々座れるカウンター席、左手にテーブル四つ、奥に座敷を備えた直線基調の店内はこざっぱりして気持ちがよく、長いカウンターにはステンレスのバットに盛られた惣菜が並び、いちいち品書きなどはありません。よって、惣菜に何があるかをざっと眺めてから席に着くというのがこの店で最初にすることです。しかして自分は中央の冷蔵ケースから鰹のたたき、左右のバットからがんもの煮付けと鯛フライをそれぞれ選択。酒を一合空けたところでご飯と味噌汁を注文し、残ったおかずと味噌汁でご飯をいただきます。この一見客には分からない独特の流儀も、慣れてしまうと楽しみに変わるものなのです。
店を差配するのは大女将と二代目兄弟に若女将、そして三代目の合わせて六人です。直接そうと聞いたわけではなく、聞かずとも気配だけでそのように分かるとでも申しましょうか。拍子抜けするほど静かな繁華街とは裏腹に、店内は常時満席に近く、彼等も休む間がなさそうです。そんな動きをカウンター越しに眺めながら酒を呑むという、大衆酒場、大衆食堂の正しい楽しみ方というものがこの店にはあります。
一人客にもお櫃で出されるご飯は艶やかに炊かれてたいへんおいしく、お椀になみなみ注がれた味噌汁と、醤油豆を添えた漬物さえあれば、米粒一つ残さずにいただけてしまいます。瀬戸内のよりどりみどりの魚を味わいたいなら、他にもよい店はあるでしょう。しかし、高松で大衆食堂の雰囲気に浸りたいなら、この店に勝るものはなさそうです。
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おふくろ
高松市瓦町1-11-12
087-831-0822
1700PM-2330PM(日曜及び月曜の祝日定休)
カツオタタキ
がんも煮付け
タイフライ
ご飯・なめこ汁