日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

この季節の楽しみ 2011(15)

2011-07-10 23:32:56 | 野球
関東甲信越が梅雨明けを迎えた昨日、全国25の地方大会が開幕し、公式サイトトップの日本地図は開幕待ちの青から開催中の緑へと大きく塗り替えられました。開会式の当日だけに、27大会で79試合と数は決して多くないものの、数字以上の濃密な戦いが全国各地で繰り広げられています。北と南の4大会で細々と戦われてきた高校野球は、この週末から一挙に盛りを迎えます。中でも連休までの10日間は、全国各地で一日数百もの試合が戦われる高校野球の最盛期です。その日の試合の中からごく少数のチームを取り上げてきたこれまでの記録に対して、今後は全国各地の試合結果をいくつかの歪んだ視点から総ざらいするのが中心になります。そこで、本日はおさらいを兼ねて、このblogの定番ネタを紹介しながら昨日の試合結果を振り返ってみたいと思います。

旅した土地に思いを馳せる
紙面の片隅にさりげなく現れては消えて行く小さな町の名前を見つけ、その土地を旅したときの記憶を呼び起こすという、このblogにおける高校野球の楽しみの原点というべきものがこれです。地名から想像をかき立てられるのはなんといっても北海道で、実際のところ、北海道の地区大会を追いかけた先々週などは、大半がこの手の話題でした。逆に、実際に旅した土地ではなくとも、たとえば南西諸島に散らばる離島のように、未知なる土地へ思いを馳せるという楽しみ方もあり得ます。旅人のロマンを追い求めるという、このblogにおいては珍しく健全な視点に立った(しかし野球とは特段関係のない)ネタですが、最盛期には他の濃い話題の中に埋没してしまうネタでもあります。
これまで取り上げた北海道に比べれば、昨日のカードにそこまで心惹かれる地名はないものの、茨城の「大子清流」などはなかなか秀逸です。統廃合で近年できた校名とはいえ、久慈川の清流に抱かれた大子の町をそのまま表す校名は、灼熱の日差しが注ぐ今の時期にはなおさら風流に感じられます。

あっと驚く遠距離対決
同一県内とは思えないほど距離を隔てたチーム同士が、よりによって序盤戦からいきなり顔を合わせているのを見てほくそ笑むという、このblogならではの斜に構えた視点からの楽しみです。定番なのは離島勢で、昨日は東東京の八丈、長崎の五島と上対馬、鹿児島の徳之島に沖永良部が登場しました。沖縄では昨年県4強進出を果たした八重山が16強で散り、同大会から離島勢が全て姿を消しています。沖縄本島を除けば、離島勢が選手権の代表校となったのは、橋で地続きになる前の淡路島を含めても2例しかありません。開催地への移動の負担はもちろんのこと、練習試合をするにも一苦労の離島勢にとっては、試合以前に戦わなければならないいくつもの壁があるのでしょう。そんな苦難を乗り越えた離島勢の活躍を追いかけてしまうのは、ある意味判官びいきに通じるところがあるのかもしれません。
そんなウェットな感情を抜きにして、純粋に遠距離対決を楽しめるのはなんといっても長野です。全国43県のうち第3位という広い県土にくまなく町が散らばって、なおかつ初戦では違う地区同士のチームが対決するように組み合わせが行われるために、直線距離でも100kmを余裕で超える遠隔地のチーム同士が当たり前のように顔を合わせるのです。開幕日の昨日はわずか2試合の開催にとどまり、カードも長野としては比較的平凡でしたが、これからは連日のように好カードで楽しませてくれるはずです。開幕前ではあるものの、青森、秋田、岩手といった北東北の広大県も、青森なら東西、秋田と岩手なら南北に長い県土を目一杯に使った戦いがしばし見られる注目区になります。これに対して数字以上の遠さを感じるのが、同じく開幕前の和歌山と高知で、それぞれ南北、東西に長い県土で高速道路がほとんどなく、列車の便もよくはないため、高規格道路がくまなく走る長野などとは比べものにならない過酷な移動を強いられる場合も出てきます。今年は最大何km隔てた戦いが出現するのでしょうか。

接戦にほくそ笑む
全国制覇を本気で目指す強豪校から素人の寄せ集め集団まで千差万別の地方大会では、大差のコールドゲームはつきものです。しかし、いかにも高校野球というべきワンサイドゲームが散らばる中、ある大会だけが何かの巡り合わせで接戦ばかりになることがあります。プロ顔負けの息詰まる接戦が紙面に並ぶのを見てほくそ笑むというのが、このblogにおける高校野球の楽しみ方の一つです。全くの偶然に左右される希少ネタの一つでもあります。
この日は沖縄大会がまさにビンゴで、16強同士の戦いに入ったとはいえ、延長13回までもつれた1試合を含め、全8試合のうちコールドゲームが1試合もなく、1点差が3試合、2点差が2試合、最大でも6点差が1試合のみという結果でした。開会式直後の4試合のみとはいえ、全試合が9回まで戦われ、2点差から5点差までが各1試合という群馬がそれに次ぐところでしょうか。接戦続きといっても、もともとの試合数が片手で勘定できるほどの数では見ていて面白味がなく、だからといって一日の試合数が10試合以上になると、ほぼ間違いなくコールドゲームが出現してしまいます。参加校が50を大きく超えず、最大でも一日一桁の試合数で乗り切れる中規模の大会が狙い目になるというのが、同じネタを三年続けた上での経験則です。

お前らゼロか!
接戦の楽しみは、地方大会特有のワンサイドゲームがあってのことです。こちらは高校野球でしかあり得ないような大量得点差試合に注目します。この手の試合には、接戦以上の明確な経験則があります。まず、大差で勝つのが強豪校かというと、決してそうではないということです。「お前らゼロか!」の由来ともなっている「スクール★ウォーズ」の相模一高戦のように、強豪校が無名校を完膚なきまでに叩きのめすという試合は、ありそうで実はなかなかないのです。少なくとも、20点差以上がつくようなワンサイドゲームは、相手の強さよりも自軍の弱さが原因になっている場合がほとんどで、たとえばとられた点数と打たれたヒットの数を比べると、得てして前者の方が圧倒的に多いものです。つまり、ただ打たれただけではなく四死球やエラーも相当数出ており、勝つ側も相手の自滅に助けられているという面が多分にあります。それだけに、初戦で何十点も奪い取ったチームが次の試合であっさり負けてしまうということも珍しくはありません。
もう一つの経験則は、20点差以上のワンサイドゲームでは、負けたチームは零封されるか、百歩譲って1点2点を返すのがせいぜいだということです。この手のワンサイドゲームが出現するのは、負ける側の弱さが原因になっている場合がほとんどで、自力で5点6点とれるチームなら、相手に20点差以上をつけられることがそもそもあり得ないというのが、この経験則から導かれる仮説です。実際のところ、20点差以上をつけられながら3点以上を返したのは、記憶する限り昨年の一試合しかありません。このblogを始めて以来、3年間で一万数千もの試合結果を眺めた上での結果がこれですから、かなり強固な経験則といえます。果たして昨日の試合結果を振り返ると、20点差以上のワンサイドゲームは1試合が該当、25点差の零封勝利で初戦を飾ったのは徳之島でした。
なお、これも毎年付け加えていることですが、この楽しみの本質は、大差の敗戦を笑うことではなく、負けた側の悔しさ、無念さに思いをいたす、我が国ならではの判官びいきの心情に他なりません。

伝統校にほくそ笑む
江戸時代の藩校や、旧制中学出自の伝統校の戦いを追いかけます。野球に関しては必ずしも強豪とはいえず、健闘してもせいぜい県8強あたりまでというのが常ではあるものの、競技成績や進学実績を誇るしかない現代の高校が束になってもかなわない風格をこれらの名門は放っています。
長野の松本深志に加えて、この日は九州で藩校ゆかりの名門校が揃い踏みを果たしています。佐賀西、熊本という知られた名前が並ぶ中、注目すべきは小倉藩ゆかりの育徳館です。小倉の藩校といえば、県内はもとより九州屈指の名門校であり、かつ昭和20年代の高校野球界を席巻した古豪でもある小倉高校が圧倒的に有名ながら、来歴をたどれば小倉は分校であり、育徳館こそが250年の歴史を受け継ぐ本校なのです。そんな知る人ぞ知る歴史をたどってほくそ笑むのも、このblogならではの楽しみ方の一つです。

鳶が鷹を生んだ
読んで字のごとし、大選手を生んだ無名校を取り上げます。無名校からプロ野球のタイトルホルダー級の名選手が出るというのは、探せば意外と多いものです。この日は「シュート打ちの名人」の異名をとった大毎ミサイル打線の中核であり、阪神小山との世紀の大トレードでも知られる山内一弘の母校、愛知の起工が延長11回の末に初戦を突破しています。一口に無名校といっても様々で、野村楽天名誉監督を生んだ峰山など、春期や秋期の大会にも出て毎年そこそこ勝ち進むチームと、昔も今も全く無名のチームとに大別されます。起工は明らかに後者の分類に属し、近年は夏のみの出場にとどまり、過去5年を振り返っても一大会で二勝したのが最高の戦績です。そんな無名校から球史に残る大打者が出たという意外性がまた楽しいのです。

よい地名にハァハァ
名前も響きも美しい地名を味わいます。この手の地名の宝庫といえば北海道、そしてなんといっても京都と奈良です。しかし、今日注目するのは愛知の黄柳野です。これで「つげの」と読ませる先人の感性には、先の市町村合併で雲霞のごとく出現した安直な地名など及びもつかない高尚さが感じられます。どんな由来があるのか知りたくなるようなゆかしい地名ではありませんか。

鶯鳴かせたこともある
かつて隆盛を極めた、しかし今はひっそりと現れては消えて行く古豪を取り上げます。この日の白眉はなんといっても徳島の海部です。去年と同じことを繰り返すと、あのジャンボ尾崎を擁し、選抜初出場初優勝を果たした海南高校の歴史を継ぐのがこのチームです。このチームの特筆すべきところは、それが最初で最後の全国大会だったということで、一回限りの選手権大会を制した福岡の三池工とともに、全国大会勝率10割という珍記録をもつ2校のうちの1つになっています。5年前の選手権で県4強に残った他は、春夏秋とも1勝するかしないかといったこの無名校が、太平洋を間近に望む小さな町に紫紺の優勝旗を持ち帰ったのは、東京五輪が開かれた47年前のことでした。

職業高校にハァハァ
先日語った高専を含め、世の中には変わった職業高校がいくつかあります。そんな変わり種の戦いを追いかけるのがこのネタです。
昨日は豊田、舞鶴、都城と高専が揃い踏みを果たしました。豊田は言わずと知れた自動車メーカーのお膝元、舞鶴は我が国有数の軍港として知られ、都城も県下第二の中核都市です。しかし、県や地域を代表する街ではなく、あくまで二番手、三番手の街に置かれる高専という教育機関の中途半端な立場が、これらの地名からうかがわれるようです。
大都市に縁がない高専に対して、ほぼ大都市にしかない職業高校として工芸高校というものがあり、昨日は名古屋市工芸が延長戦を制して初戦を突破しました。制度上工業高校に含まれるとはいうものの、デザイン系の学科を中心とするのが特徴で、その特殊性からごく一部の大都市にしか存在しないという変わり種です。全国に両手で数えるほど存在する工芸高校のうち、今年の選手権に出場するのは、他に高岡工芸、大阪工芸、高松工芸の3校しかありません。芸術家に野球は無縁という先入観に反し、高松工芸だけは2年前の選手権で4強に入るなど、県大会では4強、8強あたりの常連校でもあります。趣味的な観点からは京都の「銅駝美術工芸高校」が出場してくれれば最高なのですが…
工芸高校の前ではやや影が薄くなるとはいえ、愛知の猿投農林や鹿児島の伊佐農林も、山深い土地の雰囲気を伝える心惹かれる職業高校です。

最後は番外編です。昨日は「没収試合」というものが出現しました。広島大会の井口対広島工大の一戦で、延長13回を終えた時点で広島工大の4人がベンチに退き、8人が熱中症に倒れて、残るメンバーが8人となったための措置だそうで、野球規則に10通り示されている没収試合の要件のうち「一方のチームが競技場に9人のプレーヤーを位置させることができなくなるか、又はこれを拒否した場合」に該当するようです。俗に試合放棄として知られるこの制度、それまでのスコアにかかわらず0対9で放棄した側の敗戦になると覚えたはずが、新聞ではなぜか7対7のスコアがつけられ、「延長13回、選手不足による没収試合で井口の勝ち」との長い括弧書きが添えられており、公式サイトも同旨の記載となっています。今年を含め、過去4年で一万数千試合を追いかけた中でも、こんな勝負は初めてです。これだから高校野球はやめられません。わずか79試合でこの濃密さなのですから、300試合を超す明日などはどうなってしまうのでしょうか。楽しみです(ニヤリ)

延々書き連ねてきましたが、実はこの構成、昨年一昨年とほぼ同じです。というのも、列島の北と南で細々と戦われてきた高校野球が、連休の一週前の週末に一挙に開幕して最盛期を迎え、連休の二、三日後に全出場校の登場により終幕を迎えるという展開は、毎年夏の恒例行事です。その分かり切った筋書きに従い、毎年同じことを繰り返しているのがこのネタであり、ある意味では完全なる焼き直しに過ぎません。しかし、繰り返し申しているように、高校野球の楽しみは花見に似ています。咲いて散るのは去年と同じ花だと分かっていても、その年の気候や咲き具合によって、桜はいくらでも表情を変えるものです。そういう意味では、今年と同じ桜は二度と拝めないといってもよく、毎年春が来るたび桜を追って列島を北上せずにはいられなくなります。この理は高校野球にもそのまま当てはまります。一見すれば筋書き通りの展開であっても、それぞれの勝負は一期一会です。そんな一瞬を探し求めて、朝刊の紙面に試合結果を追う日々が今年も始まります。

★茨城大会1回戦(7/9)
 大子清流4-5中央
★群馬大会1回戦(7/9)
 太田東9-4玉村
 前橋東4-8太田工
 渋川0-3市前橋
 榛名6-4藤岡中央
★東東京大会1回戦(7/9)
 八丈0-10x東京
★長野大会1回戦(7/9)
 諏訪実0-7x上田西
 長野南8-5松本深志
★愛知大会1回戦(7/9)
 岡崎西1-2x名古屋市工芸(延長10回)
 豊橋東5-3豊田高専(延長12回)
 旭丘7-2猿投農林
 起工9-7清林館(延長11回)
 黄柳野0-11x豊田北
★京都大会1回戦(7/9)
 舞鶴高専0-11京都学園
★広島大会1回戦(7/9)
 井口7-7(9-0)広島工大(延長13回没収試合)
★徳島大会1回戦(7/9)
 海部10-1鴨島商
★福岡大会1回戦
 育徳館3-0希望が丘
★佐賀大会1回戦(7/9)
 佐賀西8-2小城
★長崎大会1回戦(7/9)
 五島13-1佐世保北
 上対馬2-3長崎工
★熊本大会1回戦(7/9)
 熊本19-0大津
★宮崎大会1回戦(7/9)
 都城高専1-3都城西
★鹿児島大会2回戦(7/9)
 沖永良部10-2伊佐農林
 開陽0-25徳之島
★沖縄大会3回戦(7/9)
 具志川1-3興南
 豊見城5-3与勝
 八重山0-6沖縄尚学
 那覇2-3x真和志
 糸満6-2知念
 名護9-4北中城
 普天間4-3南部工
 中部商5-4浦添商(延長13回)
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