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ふぅん

闇閃閑閊 ≡ アノニモス ≒ 楓嵐-風

闇より暗い影

2010-02-02 22:01:13 | 夜々懐想
あの頃とは すっかり変わってしまった
かつて 少しだけ 住んでいた街
でも それは ほんの駅前だけのこと


ちょっと 路地を入って
消防車も通れないような ぎっしりした
アパートの密集地


そこは あの頃と同じ
なんだか 覇気のない 静寂の澱
陽の当たらない道は 昨日の雪が凍っていた





浜松での修行を終えて
調布の音大で 仕事を始めた頃
2年ほど住んでいた 立川


今日は 近くで仕事だったので
スタッフを駅に送った帰り
記憶を頼りに かつての住居を見に行った


1階が コインランドリーで
風呂も 換気扇もない
4畳半一間の 神田川の唄の世界


あの 音大時代の二年間
僕は 暗い記憶しかないのは 何故だろう
技術を磨いたり チェンバロと出逢ったり
それなのに 生活の記憶に太陽は出てこない


貧しかったからかな
ううん きっと違う
何かが きっと違う


毎日 銭湯に通っていたっけ
網戸が無い窓に すだれをかけて
汗だくになりながら 蚊取線香をくぐらせていた夏


石油ストーブを 背中であび
綿の半纏を着込んでるのに
部屋の中でも 息が白かった 凍える冬


初めて自炊を始めて 
レバーで死にかけたり
揚げ出し豆腐で 火事になりかけたり


全てが みじめに思えて
自分を 哀れんでいたんだろう きっと
誰かに 認められたかったんだろう きっと


ふうん


暑さや熱さはあったけど 温かくなかったんだ
寒さや冷たさはあったけど さわやかじゃなかったんだ
飢えてはいなかったけど 満たされてなかったんだ


そして 心のどこかで
そういう哀れな自分に 酔っていたんだろう
悲劇の主人公になりきって


そうやって 鍛えられたのは
暑さと寒さに強くなった体だけ
あの頃から 風邪などひかなくなっていったんだ


それから とにかく
なんでも料理するようになったし
一人で生活することが 基本になった


あの頃の夢は 
独立して 音楽の傍で仕事をすることだった


古ぼけた かつて住んでいた 2階の部屋の窓を見つめ
かつての自分に 聞いてみたかった
どうだい あの頃の夢は叶ったけど 満足かい?


今の僕を見て きっと彼は首を横に振るだろう
そんな暗い目をしてるようじゃ ダメだなって
だから あの時 将来なんか見えなくて よかったのかも知れない


でも 今は 
温かい時も さわやかな時も あるんだぜ
満たされてる瞬間も あるんだぜ
こんな目をしていても


闇は 決して光を生み出せないけど
光は 必ず影を生み出すんだ


あの頃の暗さは 闇だったかも知れないけど
今の暗さは ただの影なんだ


そんな 弁解を 過去へぶつけながら
滑らないように クラッチをつないで
ウインカーをつけた


後方を確認すれば
ミラーの上に 紫のネコがちょこん
ほら 僕には今 たくさんの光がある