昼すぎの下り列車がディーゼル音を響かせながらゆっくりと出て行った。このあと2時間、列車は来ない。羽祐はいつものように自転車で家に戻っていった。
鍵を差してドアを開ける。そして、ただいまと呟いてケージを見る。
「さ、駅長さん、出勤だよ」
声をかけて聞き耳をたてると、ケージの中にあるドーム状のハウスの中で、ゴトゴトと音がした。寝返りを打っているのだ。
ケージにしっかりとバンドをかけて、自転車の後ろに積む。ケージを入れるために大きなカゴを取り付けてあって、ちょうどすっぽり入るように作ってある。
ちゃんと固定されてはいるが、羽祐は用心のため、乗らないで押していく。駅長さんは無報酬なのだからこれくらい手厚くしてあげないと、と羽祐は思うのだ。
駅に着いて、以前まで改札だった小部屋に入る。そしてホーム側に置いてある台に、ケージを置いた。羽祐は椅子に座って文庫本を読む。
がさごそと音がして、ケージを見ると駅長がチーをしに起きてきていた。隅にお尻を押し付けてじっとしたと思ったら、すぐに前まで走り、何かくれとアピールする。羽祐は立ち上がって、小皿におやつを盛って差し出した。