いま、上野では『怖い絵』展が大人気、大変な人出だそうで会期と開催時間を延長して公開するのだとか。
単に怖いだけではなく、キチンと『絵解き』をしてくれる展示会が人気を博すのは当然だと思います。
今回は『怖い絵』展つながりで再読した、かなり異常な記録の本をご紹介します。
※ドナルド・ランペロー『十人の切裂きジャック』(草思社/1980年7月8日第一刷)
この本は、19世紀末にロンドンを震撼させた切裂きジャック事件の真相に迫るキチンとした調査書なのです。
作者はまず、①事件の背景を分析し、②事件を詳述、さらに③犯人からの手紙を分析、そして④容疑者とされた十人から犯人を割り出す、そういう作業を地道にこなしています。
事件の舞台となった当時のイースト・エンドはまさに『怖い絵』展でホガースが描いた『ジン横丁』の様相を呈していました。
※ウィリアム・ホガース『ジン横丁』
当時ジンは安価でアルコ-ル度数が高く『手っ取り早く酩酊できる酒』、安く提供するために有害な成分もガンガン混入されていたというから、戦後スグの日本で流行したカストリやデンキブランのような存在だったようです。
で、イースト・エンドをはじめとする貧民街ではこれで身を持ち崩すヒトたちが街に溢れた・・・(画面奥手左から右へ)ジン横丁で繁盛するのは質屋と棺桶屋。安普請の建物が倒壊し、床屋が首を吊り(誰も身なりを気にしない)、誰もが争ってジンを買う(赤ちゃんにジンを飲ませる母親までいる)。飲まなきゃやってけない地獄絵図、(画面中央から右下へ)娼婦の母親は赤ちゃんを抛り出し、屈強な元兵士も瀕死の状態に身を落とす・・・どれも実話だそうで、この絵に描かれた情景こそ、シャーロック・ホームズやオリヴァー・ツイストにも描かれる貧民街イースト・エンドの実態なのです。
ところで『イースト・エンド』って日本語に訳すと『京極』ってカンジになるだろうか、日本でも現在の京極より東はヒトの住む場所ではなく(六道珍皇寺が境界)、屍体が捨てられて動物に喰い散らされたりしていたそうだから、何がしかの共通点を感じたりします。それはさておき、作者のドナルド・ランペローはまず丹念にこのイースト・エンドの惨状を描写します。多くは取材と証言によるもので、あまりの悲惨さと汚さに身震いするほど壮絶な記録となっています。
ジャック・ロンドンを案内した男の言葉が象徴的です。
『女たちは3ペンスか2ペンス、でなきゃ腐りかけのパン一切れで体を売る』のだ、と。
こうした状況をひとりの天才が一気に解決した。それが切裂きジャックだったのです。
事件のあらましは、5人の娼婦(それもけっこう年配の)が次々と惨たらしく切り刻まれて殺される。
切り刻まれるというより『解剖された』という表現が似合うほどの状態で、臓器の一部が持ち去られていました。
事件は突然始まり、突然終結する。・・・犯人は分からない。
事件については詳細な描写があり、図版や写真も充実しているのですが、あまりに酸鼻極まる記事ばかりのため、ブログへの掲載を見送らせて戴きます。
『史上最初の劇場型犯罪』といわれる切裂きジャック事件はロンドン中をパニックに陥れ、社会現象を巻き起こし、これが皮肉なことにイースト・エンドの状態改善のキッカケとなります。
それまでの犯罪は遺産相続や愛憎のもつれによるものが殆どで、分かりやすかったのですが、この事件で世間は初めて『楽しみのために他人を殺す』人物がいることに気が付いたのでした。
警察には『切裂きジャック』を名乗る手紙が殺到、事件をますます混乱させてしまいます。
玉石混交の状態ではありますが、その中でジャック本人のものと思われる手紙には知性の高さが表れており、高い教育を受けた形跡が見受けられます。
天に見放された哀れな売女八人
グラッドストーンが一人を救えば残り七人
一シリングを物乞いする哀れな売女七人
一人はヘネイジ・コートにいて、殺人事件に出くわす
無事を喜ぶ哀れな売女六人
一人がジャックに誘いかけ、かくて残りは五人
四人(four)と売女(whore)で語呂はぴったり
三人(three)と私(me)でまたぴったり
私が勘定を合わせましょう
そして二人になりました
恐怖におののく哀れな売女二人
深夜に心地よい戸口を探します
ジャックのナイフがひらめいて、残り一人となりました
そしてこれこそジャックのとっておきのお楽しみ
この本では十人の容疑者を挙げて、一人づつ順番に検証していきます。
1.間借人
2.M・J・ドルイット
3.スタンレー医師
4.ジョージ・チャップマン
5.ペダチェンコ医師
6.ニール・クリーム
7.クラレンス、スティーブン、ガル
8.ディーミング
9.人
10.切裂きジル
『切裂きジャック』の正体については様々な人が独自の説を展開し、中には『エリザベス女王の孫が犯人で、王室が証拠を隠した』という陰謀説まであります。何でも陰謀にしちゃうとその先の検証ができなくなるので『これはナイだろっ!』と思います。
最近の研究では『切裂きジャックの部屋』を描いた画家シッカートが犯人という説もあるそうですが『ジャックのものとされる手紙の切手に付いていた唾液がDNA鑑定でシッカートのものと一致した』というだけでは、確定的な証拠としてはヨワそうです。
※ウォルター・リチャード・シッカート『切裂きジャックの部屋』
この本では切裂きジャック事件の終結と時を同じくして自殺(?)した『モンタギュー・J・ドルイット』を犯人である確率が最も高いとしています。切裂きジャック事件の真実はいまだ闇の中なのです。
Judas Priest - The Ripper
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まず、とても分かりやすい記事、
絵の細かい説明など、
管理人様の読者様達への愛情を感じました。
本については手に入らず、
多分図書館でも開架でなく閉架でないと閲覧むりかも、、、
国立国会図書館なら一冊保存の義務あるのであり、
現在古本で探しても該当なし。
私、パトリシア・コーンウェルの本と調査は知っております。
7億のDNA鑑定で、シッカード認定ですよね。
700通以上の偽の「自分が犯人です」という手紙の一通が、
たまたま、シッカードの悪戯なのか、
本気で殺っちまったなのかがわからないで、もやもやします。
あと、
ショールからのミトコンドリアで、アーロン・コミンスキー説。
私も、教養もあるモンタギュー・ジョン・ドルイットに一票なのですが。
最後に神谷伝兵衛ファンの私としては、
デンキブラン、
特に浅草の神谷バーのデンキブランは、
結構好きです。おほほ。
書籍と絵画と音楽による三題噺に纏まったか、と(きなこママ聴いてね~!)。
ワザワザ手間を掛けて訪問して戴くのですから、読み応えのある記事に仕上げたつもりです。
あと、読み易さはいつも心掛けているつもり。コメント頂戴できると『もっとイイものを書こう』と意欲が湧きます。
-------☆☆☆-------
実はこれ、思い出の本で、今は連絡の取れない友人から借りたままの本(彼奴は私の『理科系の文学誌(荒俣宏著)』を返さないままだから、まあアイコだ)。
この本、資料としての価値が高いからイマ持っているヒトは手放さないでしょう。
-------☆☆☆-------
ジンは昔から『犯罪者の酒』といわれて、いいイメージがナイのですが私は好き。
ドライマティーニにしてもイイけど、私はボトルのまま冷凍庫に抛りこむ。キンキンに冷えて何やら粘度が増した状態のジンをグラスに少しだけ注いで一気にイク!これが効きます!銘柄は『ボンベイ・サファイア』がお気に入り!
ぷはぁー、骨まで溶けそう!(お酒ヨワい人はマネしないように・・・)。
切り裂きジャックに関しては、今もなお多くの小説、ドラマでも扱われている未解明な件で、犯人に関して
は諸説出回っていたと思います。
犯人シッカート説はかなり有力な検証が色々なされていたと思いますが、事実はどうなのでしょう。
英国ドラマでも 色々観ましたが、直ぐに頭に浮かぶのは、『リッパ―ストリート』、『ホワイトチャペル』、
『コナンドイルの事件簿』、最近のドラマでは『タイム・アフター・タイム』など枚挙の暇もない位多くの作品が
あり、作家、ドラマの製作者にとっても魅力的なジャンルなのだと思います。
ヴィクトリア朝時代のロンドン庶民の貧しい生活、女性の地位軽視、等色々な問題も関連して色々な視点
で描かれていますが、兎に角いずれも暗いので、チョット・・・と云う思いもあります。
シャーロック・ホームズは大好きで別の話なんですけど・・・・(偏見)
パトリシア・コーンウェルの作品は大好きで全部読みましたが、『真相“切り裂きジャック”は誰なのか?』は
途中迄読んでめげたヘタレです(汗)
ロンドンも西側にはヴィクトリア女王時代の郵便ポストまで残っていますが、イーストエンドは道まで変わってしまって、まったく昔の面影はありませんね。
ジャックの正体については、手紙類はすべて犯人のものではなく、単なる人格の破綻した名も無き異常者の犯行で、たまたま運に恵まれて捕まらずに済んだだけというのが、全然面白くなくて小説にもなりませんが、現実的かなと思っています。
たとえば、コルセットをしていたらお腹を切り裂くのは難しかっただろうなあ、とか思いますが、被害者の着衣などについても本によって記述にぶれがあって、空想するしかないものですから、後はフィクションの素材にするだけです。もう一度「切り裂きジャック」に取材した話は書くつもりでいますが、本が全然売れないのでだせるかどうかはわかりません。
お邪魔しました。
-------☆☆☆-------
確かに犯行は残忍で、読んでいて気分がワルくなるような描写の連続でした。
私のブログの隘路にムリヤリ拉致したみたいで申し訳ありません。
-------☆☆☆-------
ホームズの活躍と同じ時期なので、興味がおありになるンじゃないか、と(確か「ホワイトチャペルの恐怖」ではホームズが切裂きジャックの謎に挑んでましたし・・・)。
-------☆☆☆-------
シッカート説も可能性はあると思いますが、ジャックの犯行に異常なほど熱中した「最初のリッパロロシスト」ではないか、と私は思います。
-------☆☆☆-------
お仕事日誌、拝見させて戴きました。
こんな凄い方にご訪問戴けるのも、ブログの醍醐味ですね。いささか身の引締る思いです(著作一覧も拝見させて戴きました、今度書店で探してみます)。
-------☆☆☆-------
今回ご紹介した本はなかなかシッカリ調査されていて読み応えがありました。何と、あのコリン・ウィルソンが「祓(はらい)」を書いてます。
当時のイースト・エンドへトリップしてしまいましたよ...てか就寝前に拝見したので悪夢がーっ (´▽`;)
ホガースの絵は、怖いというよりは嫌悪感そそられる作品でした。
その生き地獄をもジャック・ザ・リッパーが切り裂いちゃったというわけですね。
なぜ何世紀も跨いでジャックが、ランペローをはじめ人々を魅了するのかが謎でしたが、納得致しました。
シッカートは胸がつまる、取り憑かれてイッちゃった人の絵。
アナーキストっぽくないので、犯人じゃないに一票 (*´ω`)ゞ
あのー吉良さま、「マーラー」にも激しく浸りたいのですけれども (*˘∀˘人)*゜♪
どうぞ宜しくお願い致します!
おホメ戴き恐縮です。
-------☆☆☆-------
で、記事では分かりにくいイギリス通貨について補足させて戴きますね。
当時は、1ポンドが20シリング、1シリングは12ペンスでした。
さらにややこしく5シリングが1クラウン、21シリングが1ギニー(なんでこんな中途半端!?)なんて単位が・・・。
-------☆☆☆-------
1ペニー(複数になるとペンス)は50~せいぜい100円くらい。
多めにみて(計算し易く)100円と仮定すると、イースト・エンドで最低の街娼が300円(3ペンス)で買えて、ジャックの歌にある物乞いする1シリングとは2000円、ホームズが頑張った御者にはずむ半クラウン貨が1万円、実験用の豚(ギニー・ピッグ)は4万2千円・・・。
1ペニー50円だとこの半分、ということになります。あああ安い!(嘆息)
-------☆☆☆-------
歴史に名高い切裂きジャックですが、これはやはり唾棄すべき人物です。その行為自体はねこてんさんが戦っている大矢容疑者と変わりないもの、と考えます(遅まきながら紙署名郵送致します)。
-------☆☆☆-------
マーラー・・・ですか!?
実は私、クラシックはヨワいんです。
マーラーに同調するのは『ブラバンが嫌い』という点くらいで・・・。
この分野はチーバの住人にお任せしたいところです(でも、オケは向かんだろうなあ、室内楽っぽいもんナア・・・今朝はクック・ロビン音頭を踊っていたようだし)。
吉良さまがマーラーの記事をアップされていたと思いましたので、伺ってみました。
みゃー大工さんかしら?
署名をありがとうございます。
でも、たぶん、残念至極ですが、執行猶予有りで実刑には及ばない見込みです。
2年で求刑+検察が「凶悪&反省がないから足りん」と述べてくれれば可能性があったのですが。
2年未満で初犯だと難しいと思います。
皆さまからの多くの声は、動物愛護法の改正に生かしたいと考えております。
ご協力に感謝申し上げます。
当時イギリスは12進法、よってこのように訂正致します。
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1ペニー(複数になるとペンス)は50~せいぜい100円くらい。
多めにみて(計算し易く)100円と仮定すると、イースト・エンドで最低の街娼が300円(3ペンス)で買えて、ジャックの歌にある物乞いする1シリングとは1200円(これから判断してもジャックは貧困層ではナイ!)、ホームズが頑張った御者にはずむ半クラウン貨が3千円、実験用の豚(ギニー・ピッグ)は2万5千2百円・・・。
1ペニー50円だとこの半分、ということになります。あああ安い!(嘆息)
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前回『あああ安い!』と言ったのに、どんどん安くなる。ああああ悲惨。
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『資本家は労働者の富を搾取している!』←同じ頃のカール・マルクスの主張です。
このヒトもジャック事件の少し前頃、大英博物館図書館に通っております。
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今も状況は変わっていません。
安倍政権のもと大企業ばかりが優遇されその成果は未だ労働者に分配されていないではありませんか!
景気が良くなり、利益が上がっても、そのほとんどが「企業内留保」として蓄えられているこの実態を見るべきです!
-------☆☆☆-------
『起て!万国のロードーシャ!』