長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

83.特別展 『飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡』展

2013-04-10 19:28:48 | 美術館企画展
先月末、東京国立博物館で開催されていた『飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡』展を観に行った。

円空(えんくう1632-1695)と言えば江戸時代前期の行脚僧であり日本全国に『円空仏』と呼ばれる独特の作風を持った仏像を残したことで知られる。その創作活動の範囲は北は北海道、青森県から南は三重県、奈良県までおよんでいる。今回の展示は円空の故郷でもある岐阜県高山市の千光寺所蔵の61体をはじめ、同市所在の円空仏100体で構成されている。

この日は雨天の平日、上野公園のソメイヨシノもそろそろ散り始めていたので、博物館も空いているのではないかと思い、朝から出かけた。読みは当たって会場に着くといつもより空いていた。入場するとさっそく素朴で荒削りの木彫仏が出迎えてくれた。その表現は『一刀彫(いっとうぼり)』などと伝えられているが、実は幾種類もの彫刻刀で丹念に彫られているらしい。昔から興味のあった円空だが、なかなか本物を見る機会がなかった。そういえば木版画の巨匠である棟方志功氏は円空仏に始めて出会った時、思わず「僕のオヤジがいるっ!!」と叫んだらしい。円空の素朴で力強い彫りの表現は棟方氏の木版画の刀表現と重なるものがある。

展示の中で特に大きく目をひいた仏像は『金剛力士(仁王)立像 吽形』である。千光寺境内の地面から生えていた栓の大木に木目や節などを生かしながら彫られたこの像は会場で力強い存在感を放っていた。次に同じく千光寺所蔵の『両面すくな坐像』、日本書紀に登場する2つの顔を持つ飛騨の山の民の祖である。この像も木の性格に逆らわずに彫られたリズミカルな刀のタッチが美しい陰影を作り出していた。こうした迫力のある忿怒相の像とは対照的に柔和な顔立ちの菩薩や天を彫った像も魅力的だった。飛騨国分寺所蔵の『弁財天立像』はとても穏やかで優しい表情をしていた。

大乗仏教の思想に「草木や禽獣など自然界の森羅万象は仏の性を持っている」と伝えられている。円空の自然木から生み出される神仏は、まさにこの思想を現実の造形として現されたのではないか。ゆったりした会場で樹木の持つぬくもりや匂い、そして味わいのある木彫表現に癒された時間を持つことができた。画像はトップが『両面すくな坐像(部分)』、下が『弁財天立像(部分)』(以上、展覧会図録より複写)雨の博物館入口。