先月末より猛暑の続く中、板目木版画による作品『熊鷹・クマタカ』の版を毎日彫っている。モチーフとしているのはタイトルそのままの猛禽類のクマタカのプロフィールである。この板目木版画のシリーズ作品は3年程前から始めたのだが「野生の肖像」という連作名である。野鳥や野生生物を実物大よりも大きく彫ることで生命というものの「尊さ」「重さ」のようなものを表現できないだろうかと、試行錯誤しながら制作している。
クマタカは英語名を"Mountain Hawk Eagle"といい、中国南部、ベトナム、我が国の九州以北の山地等に留鳥として分布し、低山から亜高山帯の林に周年生息するタカ科の大型猛禽類である。翼開長は140~165㎝あり、イヌワシなどに次いで大きいタカである。 "ピッピィーピッピィー" と姿のわりに可愛らしい声を出す。
僕はこれまでの探鳥体験で何度かクマタカに遭遇しているのだが、大抵は山の稜線の上など遠方を飛んでいるのを発見するケースが多く、なかなか近距離でマジマジと観察したことがなかった。ところが、このブログにも以前投稿したのだが今年の2月、群馬県の山間部にある森林公園を越冬の小鳥たちの取材のため訪れた時のことである。目の前の給餌場に降りるアトリの大群やミヤマホオジロの小群を観察していると真上を " ピッピィー、ピッピィー " と冬の森林によくとおる澄んだ声が降ってきた。慌てて双眼鏡を上空に向けるとやや大きさの異なるタカが2羽、ゆったりと旋回飛行をしているではないか。「クマタカだっ!」「しかも雌雄ペアーのディスプレイ・フライトだ!」とその場で周囲にいる野鳥観察者に叫んで知らせた。翼の下面の模様が手に取るように観える。感動の瞬間的出会いだった。この時、僕はこのクマタカのペアーに「我々を版画に彫りなさい」とお告げを受けたと勝手に思い込んだのだった。いや、きっとそうに違いない。
制作のモチベーションというものはそうした思い込みということもあるのではないだろうか。と、言うわけでスケッチから始めて下絵を制作し用意した版木にトレースしてからようやく版を彫り始めたのだった。いつものことだが、彫り初めは気持ちを高揚させていくためにBGMをかける。クマタカの持つ雄大な姿を表すにはどんな曲がいいだろうか。迷った結果、ショスタコービッチの交響曲第15番を選んだ。何回彫っても最初の一刀は緊張する。小さな突破口ができるとそれからは彫刻刀の刃先に集中してドンドン彫って行く。試し摺りをとるまでは眼を瞑って絵を描いているようなものなので仕上がりがなかなか見えてこない。1回目の試し摺りがとれたあたりからは絵の全体像がボンヤリと見えてきて彫りのスピードにも加速度がついてきた。ここから先は納得いくまで彫っては試し摺り、彫っては試し摺りの繰り返しとなっていく。
関東地方はまだ梅雨開け予報が発表になっていないのに真夏のような暑さが続いている。板目木版画『クマタカ』の彫版も佳境に入ってきた。しばらくは冷房をきかせた工房で彫刻刀の刃先に全神経を集中しての彫りの日々が続いていく。
完成した作品はグループ展、個展などで発表します。画像はトップが版を彫る手。下が向かって左から版を彫るようす4カット、彫りに使用している彫刻刀。
クマタカは英語名を"Mountain Hawk Eagle"といい、中国南部、ベトナム、我が国の九州以北の山地等に留鳥として分布し、低山から亜高山帯の林に周年生息するタカ科の大型猛禽類である。翼開長は140~165㎝あり、イヌワシなどに次いで大きいタカである。 "ピッピィーピッピィー" と姿のわりに可愛らしい声を出す。
僕はこれまでの探鳥体験で何度かクマタカに遭遇しているのだが、大抵は山の稜線の上など遠方を飛んでいるのを発見するケースが多く、なかなか近距離でマジマジと観察したことがなかった。ところが、このブログにも以前投稿したのだが今年の2月、群馬県の山間部にある森林公園を越冬の小鳥たちの取材のため訪れた時のことである。目の前の給餌場に降りるアトリの大群やミヤマホオジロの小群を観察していると真上を " ピッピィー、ピッピィー " と冬の森林によくとおる澄んだ声が降ってきた。慌てて双眼鏡を上空に向けるとやや大きさの異なるタカが2羽、ゆったりと旋回飛行をしているではないか。「クマタカだっ!」「しかも雌雄ペアーのディスプレイ・フライトだ!」とその場で周囲にいる野鳥観察者に叫んで知らせた。翼の下面の模様が手に取るように観える。感動の瞬間的出会いだった。この時、僕はこのクマタカのペアーに「我々を版画に彫りなさい」とお告げを受けたと勝手に思い込んだのだった。いや、きっとそうに違いない。
制作のモチベーションというものはそうした思い込みということもあるのではないだろうか。と、言うわけでスケッチから始めて下絵を制作し用意した版木にトレースしてからようやく版を彫り始めたのだった。いつものことだが、彫り初めは気持ちを高揚させていくためにBGMをかける。クマタカの持つ雄大な姿を表すにはどんな曲がいいだろうか。迷った結果、ショスタコービッチの交響曲第15番を選んだ。何回彫っても最初の一刀は緊張する。小さな突破口ができるとそれからは彫刻刀の刃先に集中してドンドン彫って行く。試し摺りをとるまでは眼を瞑って絵を描いているようなものなので仕上がりがなかなか見えてこない。1回目の試し摺りがとれたあたりからは絵の全体像がボンヤリと見えてきて彫りのスピードにも加速度がついてきた。ここから先は納得いくまで彫っては試し摺り、彫っては試し摺りの繰り返しとなっていく。
関東地方はまだ梅雨開け予報が発表になっていないのに真夏のような暑さが続いている。板目木版画『クマタカ』の彫版も佳境に入ってきた。しばらくは冷房をきかせた工房で彫刻刀の刃先に全神経を集中しての彫りの日々が続いていく。
完成した作品はグループ展、個展などで発表します。画像はトップが版を彫る手。下が向かって左から版を彫るようす4カット、彫りに使用している彫刻刀。