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中川輝光の眼

アトリエから見えてくる情景
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本の紹介・松谷みよ子著「学校」

2013-08-10 | 本の紹介

本の紹介・松谷みよ子著「学校」

ひさしぶりの本の紹介コーナーです。松谷みよ子さんの現代民話考シリーズに収められている、「学校」を紹介したいと思います。松谷みよ子さんのお話には、戦前戦後の色彩が大きく反映されています。そのためか、重く暗いイメージがどうしてもついてまわります。この「学校」も例外ではありません。ただ、どのような時代であれ、子どもたちの集まっている「学校」という場は特有な浮遊感が漂っているものです。この場だからこそ、怪談話が多く生まれる所以かもしれません。子どもたちが帰ってしまった「校舎」には、何が居ても不思議はないのですから。子どもたちも成長すれば、その校舎を後にする、先生にしても数年もすれば去っていく、行き過ぎる場だからこそ「ふりかえる」意識が芽生えても不思議はない。松谷みよ子さんの視線はあくまでも優しい、そこに住む集落の人々の心情に深く入っていく。この人の魅力は、その視線にあるのかもしれない、相当に残酷な出来事が背景にあったとしても、その眼は常に翻弄された人々に向けられています。

今年も、あの日がやってきました。暑い日になりました、ヒロシマ・ナガサキに繰り返し想うことがあります。わたしのアトリエには、松谷みよ子さんの「まちんと」があります。戦争は、大切なものをすべて失わせます。

 


本の紹介・瀧悌三著「一期は夢よ鴨居玲」

2013-03-17 | 本の紹介

本の紹介・瀧悌三著「一期は夢よ鴨居玲」

若き頃、「どのような画家になりたいですか」とよく聞かれたものです。わたしは殊更、誰かのようになりたいとも、こういった絵を描きたいとも思ったことがなかったので、いつも曖昧な返事をしていた。しかしながら、頭の片隅には、「気なる存在」や「イメージ」が無いわけではなかった。そのひとりが「鴨居玲」その人である。わたしの大学の先輩でもあり、その「退廃的なイメージ」は不思議に頭から離れることがなかった。この本「一期は夢よ鴨居玲」が発刊(1991年)されて、程なく読んだのですが、若き頃に抱いていた「伝説」以上に迫る「現実感」に、正直驚かされたものです。俳優のような整った顔立ちと、一処に収まらない「流浪の人」特有のさりげなさが、独自の「伝説」を生み出したのかもしれません。残された作品には、「鬼気迫るもの」があり、その「画家の視点」に、わたしは思わず頷いてしまう。ひとりの確かな技量を備えた画家が見たものは、人の「裏表」ではなかったのか、運命の采の目のように浮遊する「時間」そのものではなかったのか、そう思えてならない。

 


本の紹介・山田風太郎著「神曲崩壊」

2013-02-07 | 本の紹介

本の紹介・山田風太郎著「神曲崩壊」

わたしは、作家・山田風太郎が好きだ。なんていい加減な本だ、そう思う時もあるのですが、それもひとまとめにして好きである。「神曲崩壊」もその一冊です、読めば読んだだけのことはあるのですが、やはり相当にいい加減である。核戦争で世界は崩壊するのですが、地獄で出会うのが「神曲」を書いたダンテです、ダンテだけでなく黒田清隆や田沼意次、江利チエミさんまで出てくる、破茶目茶なストーリーに呆れてばかりいてはいけない、なにせここは地獄ですから。ダンテを案内人にして、地獄めぐりは営々と続くのである、様々な人を登場させて、まったくいい加減ですよ。おそらく本人(山田風太郎)も以前に書いたことを忘れているのではないかと、そう思われる箇所もある、もともとこれは週刊誌の連載ですから仕方がない、そう仕方がないのです、読む方も覚えてやしないのだから。これを一冊の本にまとめる編集者が、そもそも良くないのです。こういったことをすべて含めて、わたしは、作家・山田風太郎が好きなんです。


本の紹介・HGウェルズ著「解放された世界」

2013-02-06 | 本の紹介

本の紹介・HGウェルズ著「解放された世界」

HGウェルズの代表作に「タイム・マシーン」「宇宙戦争」「透明人間」などがある、そうですSF作家として有名な人ですが、「世界史概観」「生命の科学」など社会科学の分野にも名著が多い。わたしは、小学校4年生の頃からの「SF作家HGウェルズ」の愛読者でしたが、社会科学者としての「もうひとつの姿」を知らなかった。著書である「世界史概観」「生命の科学」やこの「解放された世界」を知ったのも随分後になります、本格的に絵を描き始めた頃(美大生の頃)でした。絵と読書だけの日課が続いていた頃、人間HGウェルズに興味を抱いたとしても不思議はない、当時の時代状況(70年安保闘争)も無関係ではない。わたしが生まれる1年前(1946年8月13日)に亡くなった人だということをも、その頃に知ったものです。わたしは、HGウェルズがルーズベルト大統領に宛てた書簡「人権宣言(極めて常識的な内容)」に見られる意図、それが「日本国憲法」に多く反映されていることに驚かされた。「核戦争」を予見していたことと合わせて考えると、ほんらいあるべき「民主主義」の姿をHGウェルズは明瞭に描いていたのではないか、わたしにはそう思えてならない。この「解放された世界」は1913年に書かれたものです、優れた作家は優れた眼を持っているとよく言われますが、ほんとうにそうだと思います。国の憲法というものは「崇高」でなければならない、先人の「叡智」が集約されたものでなければならない、わたしはそう思うのです。


本を紹介・新藤兼人著「ノラネコ日記」

2013-02-03 | 本の紹介

本を紹介・新藤兼人著「ノラネコ日記」

映画監督新藤兼人さんの本を紹介します。「ノラネコ日記」は、それとなく書かれた「ひだまりのような本」です。机上に書きかけのシナリオ、猫に目を移しながら、なんとなくメモ書きしたような文と絵がつらなる、この「ノラネコ日記」はそういった本です。猫という生き物は、その仕草は、人に近い、ように見えてくる時がある。新藤兼人さんの目には、個性豊かな俳優に見えていたのかもしれない。新藤兼人さんと乙羽信子さんとの間に、いつも猫がいる、そのような日記、不思議な感覚がこの本に、短い文章に漂っている。

        


宗左近著「恍惚の王国」の紹介

2012-11-24 | 本の紹介

宗左近著「恍惚の王国」の紹介

 わたしが宗左近の名前を知ったのは、学生の頃です。愛読書の一冊、ロラン・バルト『表徴の帝国』の翻訳が宗左近さんその人でした。2006年に亡くなるまで、それとなく「宗左近」の名とエッセイを書店で目にする都度、手に取ったものでした。それほど『表徴の帝国』は、わたしには印象強い本でした。そこには、日本の文化にみられる「意味のなさない記号」について書かれている。何のことかわからないと思いますが、ヨーロッパ文化が過剰なぐらい記号や意味であふれている、ことと比較して日本文化を論じているのです。意味から切り離されることにより、一層深く輝きを増す表現方法もある、ことを論じているのです。日本文化の魅力が書かれていると言っていいのです。宗左近著『恍惚の王国』にも、そういった視点が多く見られます。ただ、もう少し踏み込んで「日本独自の空間表現」の魅力に言及している。意図した空間、『欠如』と言っていいものを、宗左近らしい筆致で書いている。宗左近は、言うまでもなく詩人です。意図した空間、この『欠如』は、意識しないまでも不思議に存在する。ありとあらゆるところに存在する、ことの不気味さは言いようもなく、怖い。これは、日本に限ったこと、ですが。

 


H.G.ウェルズ「THE SCIENCE OF LIFE vol.1-3」 

2012-05-30 | 本の紹介

H.G.ウェルズ ( Herbert George Wells )「THE SCIENCE OF LIFE vol.1-3」

イギリスのSF小説家H.G.ウェルズ (Herbert George Wells) 、『タイム・マシン』『モロウ博士の島』、『透明人間』、『宇宙戦争』などが知られている。わたしが幼少の頃、江戸川乱歩小説もそうですが、このH.G.ウェルズSF小説に熱中したものです。多少成長し、このような世界から幾分離れましたが、古書店で驚きとともに再会することになるとは・・・青く美しい背表紙を、何気なく目にした時のトキメキは忘れられない・・・「THE SCIENCE OF LIFE vol.1-3」を即購入したのは言うまでもない。「科学ロマンス作家」としての著名なH.G.ウェルズの「もう一つの側面」をそこに見た、文明批評であり啓蒙書である『生命の科学』『世界史大系』を「発見」した瞬間でした。ウェルズの「視野の広さ」と「知的冒険心」に、あらためて驚かされたと言っていい。わたしのH.G.ウェルズ収集が本格的に始まったのは、この頃からです。

        

 


建築美術書「Castel Beranger(カステル・ベランジェ)」

2012-05-15 | 本の紹介

Castel Beranger(カステル・ベランジェ)YEAR OF PUBLICATION /1997

ここに収められているのは、パリを代表するエクトール・ギマール(建築家・彫刻家)のカステル ・べラン ジュ (1895年-1898)です。ギマール自身の絵(60枚の水彩画)と再現された図面、パリの Rue ラ ・ フォンテーヌ、ギマールの住宅設計・プロジェクトと(アール・ヌーヴォーの設計だけでなく)建物の外観イメージ、室内装飾や家具のデザインまでが見られる。この時期の建築資料としても、貴重なものです。建築デザインには、機能的な美しさ(計算された美)が際立つものが多く見られます。この時代の建築には、装飾的な要素(手触り感・曲線美)が遺っていて、暖かい感触に時代の生活をも感じとれるほどです。

 

        


三遊亭円丈著「御乱心」の紹介

2012-04-24 | 本の紹介

先日のわたしのブログで「落語芸談」を紹介しましたが、八代目桂文楽・八代目林家正蔵・六代目三遊亭圓生・五代目柳家小さん、4人の中でも最も好んで聴いていたのが六代目三遊亭圓生さんの落語でした。粋で、且つソフトな語り口で、耳に心地よかった。今日は、その一門の三遊亭円丈著「御乱心」を紹介しておきましょう。この本を読むと、落語界の裏話や悲喜交々がよく分かる、時に「三遊亭騒動」に詳しい(落語協会を離脱する三遊亭圓生さんと弟子たちの心もようが手に取るように伝わってくる)。芸人独自(伝統)の世界には様々な枠組み(決まり事)があり、それに因われすぎると動きが取れなくなってしまう、相互に気遣いながらも、どうにもならない、その優しさがこの世界を支えている。

         

 


亀井勝一郎著「私の美術遍歴」について

2012-04-21 | 本の紹介

亀井勝一郎著「私の美術遍歴」について

わたしが高校生の頃(進路を決めかねていた頃)に、熟読した1冊が・・・亀井勝一郎著「私の美術遍歴」でした・・・。絵の好きな少年にとって、進みたい路は「美術関係の仕事に就くこと」でした、しかしながら、家族を含めて周囲はそのようには考えていなかった。「迷い」を整理して自身の行く末を決めるために、わたしは数冊の本(背表紙のタイトルを見て)を手にした・・・その1冊が「私の美術遍歴」でした・・・それがそのまま、わたしの「羅針盤」になった訳です。周囲を説得することは容易ではなかったが、振り返れば「気持ち」を最優先する以外に選択肢はなかった。亀井勝一郎さんの戦前戦後(当時の知識人たちの置かれた状況は厳しいものでした)の苦悩が、この著書にも見られる、できれば人は「美しい精神世界」の中で生涯を過ごしたいものです、若いわたしにも漠然とではあるがそのようなことは感じ取れていた。穏やかな日々を、古都の回廊を、ゆっくり踏みしめながら歩く亀井勝一郎さんの姿を、わたしは我が姿を重ねて見ていたのかもしれない。