本の紹介・藤本義一著「鬼の詩」
江戸の円朝、浪華の円蝶、二人のエンチョウと並び称された咄家(名人)がいた。昭和のはじめの頃ですから、わたしはまだ居ない。しかし、この時代の芸人たちのことはかなり詳しい、江戸から明治・大正、昭和初期の庶民文化が好きでしたから、自然と知識が増えたのです。古書店の主としての下地ができたのもこの頃かもしれない。
藤本義一さんの「鬼の詩」は、おもしろく読みました。わたしが、テレビのなかの藤本義一さんに注視していたのは、「鬼の詩」を読んでいたからに他ならないのですが、それを話題にすると、「いやらしい」番組を好んでみている人のように思われてしまう、そんな時代でもありました。この「鬼の詩」に円蝶さんのことが書かれているのです。円蝶さんがそこにいるのではないかと思えるほどに「巧みな会話(やりとり)」で書かれているのです。わたしは、藤本義一さんは「天才やなぁ」と思っていたのですね。ただの風流人ではない、毒のある視線が周囲をしっかり見据えているのがいい。
近頃は、このような人がめっきり少なく・・・つまらない。