中川輝光の眼

アトリエから見えてくる情景
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本の紹介・藤本義一著「鬼の詩」

2013-08-27 | 本の紹介

本の紹介・藤本義一著「鬼の詩」

江戸の円朝、浪華の円蝶、二人のエンチョウと並び称された咄家(名人)がいた。昭和のはじめの頃ですから、わたしはまだ居ない。しかし、この時代の芸人たちのことはかなり詳しい、江戸から明治・大正、昭和初期の庶民文化が好きでしたから、自然と知識が増えたのです。古書店の主としての下地ができたのもこの頃かもしれない。

藤本義一さんの「鬼の詩」は、おもしろく読みました。わたしが、テレビのなかの藤本義一さんに注視していたのは、「鬼の詩」を読んでいたからに他ならないのですが、それを話題にすると、「いやらしい」番組を好んでみている人のように思われてしまう、そんな時代でもありました。この「鬼の詩」に円蝶さんのことが書かれているのです。円蝶さんがそこにいるのではないかと思えるほどに「巧みな会話(やりとり)」で書かれているのです。わたしは、藤本義一さんは「天才やなぁ」と思っていたのですね。ただの風流人ではない、毒のある視線が周囲をしっかり見据えているのがいい。

近頃は、このような人がめっきり少なく・・・つまらない。


本の紹介・加藤一+永六輔著「自転車一辺倒」

2013-08-24 | 本の紹介
本の紹介・加藤一+永六輔著「自転車一辺倒」 
 
わたしも自転車が好きで、さまざまな自転車を持っています。若い頃は、イタリア製のロードレーサーを得意気に乗りこなしていたのですが、近頃は「日本製の街乗り(クロスバイク)」を使うことが多くなってきました。ロードレーサーは、ドロップハンドルです。理由は簡単です、前のめり体型が(腹がつかえて)維持できないのです。それに、そこかしこが痛み出してきたこともあり(わたしでなく自転車の方です)、手直ししているうちに元の姿(イタリアスタイル)からはほど遠くなってきました。このイタリア製のロードレーサーも、ややわたしの体つきに似てきた(どちらが先かわからないが)と思われます。
 
この「自転車一辺倒」には、加藤一の影響もあってか、永六輔さんが自転車に魅せられた頃のお話が満載です。あの永六輔さんが自転車に乗っている姿を、連想できる人はいないと思いますが、加藤一さんは元々レサーだった人です。
 
 

小松市れんが通りも今日1日は「国際通り」

2013-08-24 | 小松を歩く

小松市れんが通りも今日1日は「国際通り」

小松市れんが通りは、今日も賑やかです。

海外から来ている(滞在している)人たちと小松市民との、交流会です。

それぞれ育った文化は違うかもしれませんが、「楽しい場」をつくることに違いはありません。

通りを遮断すると、かなり広い場ができる、それぞれのテーブルから笑い声がきこえる。

子どもたちには、夏休み最後の「楽しみ」だったかもしれません。


本の紹介・春名幹男著「秘密のファイル・CIAの対日工作」上下

2013-08-24 | 本の紹介

本の紹介・春名幹男著「秘密のファイル・CIAの対日工作」上下

わたしたちはグローバルな世界に生きている、そう思っている。モノやカネが世界を行き交い、地球上のすべての人々が次第に豊かになっていく、そう思っている。いち早く、あらゆる国々で今起きていることがニュース(情報)として知ることができる、そう思っている。あらゆる国々の垣根が低くなり、共通の理念を持つようになる、そう思っている。しかしながら、そう甘くないこともわたしたちは知っている。

現在、ロシアに滞在している「CIA職員」はどうしているのか・・・。ふりかえってみれば、あの「ロシアの美人スパイ」は・・・。そして「スパイ天国」に住んでいるわたしたちの意識は、はたして正常なのだろか・・・。あの映画「007シリーズ」とは、ずいぶん違うらしいことぐらいしか、わたしたちには見えてこない。漠然としているのですが、高度に発達してきた今日の「ネット社会」に多く暗躍しているらしい、かなり精度の高い情報が盗まれているらしい・・・。いずれにしても、よく見えてこない「組織」です、すべてが推測の域を出ないお話だからこそ、興味は尽きない。あらゆる戦争や紛争に無関係でないことも、容易に推察できるのも、わたしがこの本「秘密のファイル・CIAの対日工作」を読んだからに他ならない。


廣津里香・詩集「白壁の花」から

2013-08-19 | 本の紹介

廣津里香・詩集「白壁の花」から

私は嫌い 四角いビルは
私は嫌い 四角い部屋は
教室もホテルの部屋も私の部屋もみんな四角い
でもまん丸の部屋だって 私は嫌い
凹凸の部屋よ 私が好きなのは

私は嫌い 髪をキチンと結った人
私は嫌い ズボンをはいてネクタイをキチンとしめた人
キチンとしている人はみんな悲しい
でも滅茶苦茶な格好した人だって 私は嫌い
裸の皮膚よ 私が好きなのは

そして私は四角を拒否した

廣津里香さんの詩集「白壁の花」から、とは言っても、あまり知られていない詩人です。29歳で病死した彼女の詩集や画集は、それ以降に出版されたものです。
わたしにとって、これらの本は忘れがたい想い出とともにあるために、機会あるごとにこうしてとりあげています。
鮮やかな色彩で描かれた絵、沈んだモノトーンが美しい絵、いずれも若い頃のわたしを捉えて離さないエネルギーを感じました。そこに添えられた詩は、さらに強烈なイメージ(連想)を与えるものでした。残像のように、私の心に深く入り込んでしまったのです。


宮本三郎さんの「戦意高揚ポスター」の原画を見る

2013-08-17 | 美術を考える

宮本三郎さんの「戦意高揚ポスター」の原画を見る

1943年3月5日、朝日新聞が企画した35枚の印画紙による100畳敷きの写真ポスターが東京・有楽町の日劇正面に掲げられ、3月10日の陸軍記念日には、その前で陸軍軍楽隊による演奏が行なわれた。

連合艦隊司令長官・山本五十六の戦死が公表された5月には「元帥の仇は増産で(討て)」がスローガンとなった。

この頃が、宮本三郎さんが「戦争画」や「戦意高揚ポスターの原画」を多く描いた時期でもある。

小松市の林画廊さんに見せていただいた作品、それが「戦意高揚ポスターの原画」でした。無造作に折りたたまれた痕跡がキャンバスのいたるところに見られる、この作品が辿った時代の変遷そのものに相違ない。細目キャンバスに、薄く幾重にも油絵の具をのせている。まるで透明水彩で描いたような、その卓越した技法を眺めながら、このような優れた画家を捲き込んでいく「戦争の非情さ」を、わたしは覚えるのです。

このような貴重な作品が、小松市の小さな画廊にひっそりと在る、そのことのほうが、わたしには不思議に思えてならない。こういった「不遇な作品」を、大切に管理してきた画廊主の穏やかな話し方に頷きながらも、「このような作品は美術館が管理したほうがいいのでは」と、ふとそう思ったのです。


本の紹介・松谷みよ子著「学校」

2013-08-10 | 本の紹介

本の紹介・松谷みよ子著「学校」

ひさしぶりの本の紹介コーナーです。松谷みよ子さんの現代民話考シリーズに収められている、「学校」を紹介したいと思います。松谷みよ子さんのお話には、戦前戦後の色彩が大きく反映されています。そのためか、重く暗いイメージがどうしてもついてまわります。この「学校」も例外ではありません。ただ、どのような時代であれ、子どもたちの集まっている「学校」という場は特有な浮遊感が漂っているものです。この場だからこそ、怪談話が多く生まれる所以かもしれません。子どもたちが帰ってしまった「校舎」には、何が居ても不思議はないのですから。子どもたちも成長すれば、その校舎を後にする、先生にしても数年もすれば去っていく、行き過ぎる場だからこそ「ふりかえる」意識が芽生えても不思議はない。松谷みよ子さんの視線はあくまでも優しい、そこに住む集落の人々の心情に深く入っていく。この人の魅力は、その視線にあるのかもしれない、相当に残酷な出来事が背景にあったとしても、その眼は常に翻弄された人々に向けられています。

今年も、あの日がやってきました。暑い日になりました、ヒロシマ・ナガサキに繰り返し想うことがあります。わたしのアトリエには、松谷みよ子さんの「まちんと」があります。戦争は、大切なものをすべて失わせます。