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中川輝光の眼

アトリエから見えてくる情景
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本の紹介・米倉斉加年&松永伍一著「風よついてこい」

2013-11-03 | 本の紹介

本の紹介・米倉斉加年&松永伍一著「風よついてこい」

わたしは米倉斉加年さんの絵本が好きで、それらを買っているうちに、それ以外の本も買うようになったのです。この本は、そのうちの一冊です。「風よついてこい」を読んでいると、穏やかな日差しの下、気の合う二人がそれとなく会話を楽しんでいる、そういった雰囲気が伝わってきます。BS3早朝ですが、朝ドラ「ちりとてちん」が再放送されていますが、おじいさん役に米倉斉加年さんが出ています。もちろん俳優としても好きですが、はまり役です。このような人(多才な人)ですから、松永伍一さんとのやりとりが、絶妙です。エスプリが効いていて、無理がないのですね。持統天皇の「衣ほすてふ天の香具山」について話している、なんでもない美しい情景を歌っているのですが、この二人の会話では、時代のメルヘンそのものととらえている、この辺りがなんともおもしろい。わたしは近頃、平安時代に書かれた資料や物語、絵巻物を調べています。それでいくつか解ってきたことがあるのです、貴族の生活がきわめて装飾化されているのです。平安貴族の生活(現実)が、過剰な装飾を透かして見えてくるのです。文学や絵画に見られる豊かな文化の背景がどうであれ、常に生きた人々の生活が反映されているのかも知れない。その辺りを気づくことが出来れば、わたしたちの歴史ももっと魅力あるものになるのかも知れない。

 

 


本の紹介・志村ふくみ著「母なる色」

2013-10-17 | 本の紹介

本の紹介・志村ふくみ著「母なる色」

台風か過ぎ去り、風が凍えるような声で囁く、なにもかも急がないと・・・。冬は、気ぜわしい季節です。

志村ふくみさんのエッセイ集「母なる色」に、このような文章があります。「・・・ただ、胸の奥で真紅の小菊がひとつの象徴のように咲いているのを感じた。そして、わたしは小菊でありたいような気がした。少女の頃からずっと年老いて死ぬまで、わたしは籠の小菊でありたいと思った。ありともなしに薫るあのしんしんとした香りと、思いをこめて真紅になるまでひとつのことに打ち込みたいという願いと、それを支えてくれる籠の織りなす優しさと、それらはひとつに溶け込んでわたしをみたしたのだった。」

10月は、小菊の季節です。できれば静かに、本でも読んでいたい、絵を描いていたい、レコードを聴いていたい、そんな気持ちになれる季節です。志村ふくみさんは、色感の優れた染織家です。冷たい水に晒された色彩ほど鮮やかです、そのことを知っている人の文章には力があります。

 


本の紹介・チェーホフ著「六号室」

2013-09-20 | 本の紹介

本の紹介・チェーホフ著「六号室」

チェーホフの「六号室」について、ちょっと想い出したのです。ですから、いつものようにこの本の内容については書きません。

わたしが中学3年生の頃、若い国語教師が生徒に「今読んでる本があったら聞かせてほしい」と・・・。何でもないこういった場面を、わたしは鮮明に覚えています。数人の生徒から、本のタイトルと内容について聞き、その先生が少し話を膨らませるというものでした。一呼吸置いて、クラス一の美女?(医者の娘)に聞くと、彼女は「源氏物語」と答え、読後感をさらりと言うのです。若い国語教師は、あきらかに不意を突かれたように、「そうかそうか・・・」と言い、明瞭な補足もせずに、何故か、即私の名を呼ぶのです。わたしは「チェーホフの六号室を読んでいます」と答える。すると、「チェーホフに六号室というのあったかな?」と言う。わたしはあわてて、「短編ですし、六号病室とか六号病練というのもあります」と言うと・・・「おもしろいか」と言われて・・・読み始めたばかりですし・・・教室の空気が少々重くなっているのを感じた。

わたしも既に「源氏物語」を図書館で読んでいましたし、中学生が読んでもさしさわりのない内容(源氏物語絵巻のような絵の多い)でしたし、医者の娘もそれを読んでいたのかもしれないと思っていたが・・・。

わたしは、美大を卒業し、即、地元の教師になりました。そこで、この国語教師に再会したのです。わたしは画家になりたくて、1年で教師を辞め、しばらくして他国へ行くことになります。さらに数年、事情があり、再度教師に復帰することになるのですが・・・地元に赴任したとき、この若い国語教師は教育長になっていました。ただただ、驚きです、まあこのようなものです世の中は・・・。何でもないことを、鮮明に覚えていたのにはそれなりの理由があるのです。


本の紹介・梅原猛著「隠された十字架」

2013-09-20 | 本の紹介

本の紹介・梅原猛著「隠された十字架」

多くの読書家がそうであるように、「広く浅く」から「狭く深い」領域に、いつしか傾斜していくようです。わたしの「古書店・月映書房」には、梅原猛さんの本が整然と並んでいる。20代の頃から継続して読んでいたのですが、この書棚を眺めながら、不思議な感覚にとらわれます。

中学・高校時代は、三島由紀夫・川端康成・谷崎潤一郎さらに亀井勝一郎を読んでいました、まさに「広く浅く」です。美大時代は、芸術・絵画論を軸に、これも「広く浅く」ですが、許される時間が多いこともあり「乱読」に近いものでした。「左翼」が主流の学内でしたから、マルクスも一通り読んでいました。わたしも「左翼」を自認していたのですが、マルクスの「芸術論」には違和感を覚えていました。

梅原猛さんの「隠された十字架」を読んだのは、文芸雑誌「すばる」で連載されていた頃ですから、大学を卒業してからになります。この連載を、待ち望んで読んだことを今も懐かしく想い出します。梅原猛さんが京都美大(現京都芸大)の学長になった頃に、わたしは友人の紹介でお会いしていたのですが、穏やかなその表情からはとうてい結びつかない内容に、驚かされたのです。それ以来、梅原猛さんの著作はすべて読んでいると言っていいのです。見つめる「眼」の確かさを、わたしはこの人に感じたのかもしれません。「古代史」をこれほどリアルに(生臭く)描いた人は、わたしは他に知りません。

梅原猛さんも高齢になられて、筆勢がやや衰え始めたのかもしれません・・・しかし、穏やかなエッセイもいいものです。


美しい「画集」の魅力

2013-09-17 | 本の紹介

美しい「画集」の魅力

絵画の本質を、わたしは「画集」から学んだ。

若い頃は、様々な「展覧会」に出かけ、多くの名作(ほんもの)を目にしてきました。国内だけでなく、海外にも足を運んだものです、優れた作品から直に学ぶことは大切です。確かに、20代のわたしが得た「表現力」は、そこで培ったものに違いないからです。しかしながら、空気感というか「時代感覚のズレ」というか、その作品が置かれている場と、それが描かれた時代状況がなかなか伝わってこないものです。多くの資料と「画集」が、その距離を縮めてくれるのですが、それでも何らかの「違和感」は残ります。その時代を生きる作家特有の「癖」というものが、周囲に「壁」のようなものをつくっているのかもしれないのです。

わたしは、きわめて美しい「画集」を何冊か手に入れた。このクリムトの画集も、その一冊です。ほんものにより近いことが、優れた画集の条件ですが、これは「ほんもの以上に美しい」、とにかく色彩が美しいのです。クリムトが優れたデザイナーであったことが、このコンパクトな「画集」から、見事に伝わってきます。そうです、ある程度時間をかけて、手元に置いて(身近な存在にして)じっくり眺めないとわからないのです、「本質」というものが・・・。すべての表現者に言えることですが、「本質」を外した表現ほどむなしいものはありません。「謎解きは画集で」と、わたしは若い人に言うことにしています。


本の紹介・ジョルジュ・ムスタキ著「私の孤独」

2013-09-01 | 本の紹介

本の紹介・ジョルジュ・ムスタキ著「私の孤独」

わたしたちの店舗(古書店)では、常にBGMで音楽を流している。グレン・グールドやキース・ジャレットのピアノ曲が多い、ほとんどがクラシックになります。並んでいる本を眺めている客の気持ちに、最も触らない「穏やかさ」がいいのです。アニメ制作の仕事にも、クラシックは合うように思います。

わたしの個人的な好みから言えば、ジョルジュ・ムスタキがいいですね。ジョルジュ・ムスタキは、ジョルジュ・ブラッサンスから直接シャンソンを学んでいます。この2人は、フランスの心を最も大切に歌っていると言えます。囁くように歌うその歌詞は、叙情的で美しい。

ジョルジュ・ムスタキが自らの生い立ちを含めて、歌に込める気持ちをこの「私の孤独」に吐露しています。

 

 


本の紹介・藤本義一著「鬼の詩」

2013-08-27 | 本の紹介

本の紹介・藤本義一著「鬼の詩」

江戸の円朝、浪華の円蝶、二人のエンチョウと並び称された咄家(名人)がいた。昭和のはじめの頃ですから、わたしはまだ居ない。しかし、この時代の芸人たちのことはかなり詳しい、江戸から明治・大正、昭和初期の庶民文化が好きでしたから、自然と知識が増えたのです。古書店の主としての下地ができたのもこの頃かもしれない。

藤本義一さんの「鬼の詩」は、おもしろく読みました。わたしが、テレビのなかの藤本義一さんに注視していたのは、「鬼の詩」を読んでいたからに他ならないのですが、それを話題にすると、「いやらしい」番組を好んでみている人のように思われてしまう、そんな時代でもありました。この「鬼の詩」に円蝶さんのことが書かれているのです。円蝶さんがそこにいるのではないかと思えるほどに「巧みな会話(やりとり)」で書かれているのです。わたしは、藤本義一さんは「天才やなぁ」と思っていたのですね。ただの風流人ではない、毒のある視線が周囲をしっかり見据えているのがいい。

近頃は、このような人がめっきり少なく・・・つまらない。


本の紹介・加藤一+永六輔著「自転車一辺倒」

2013-08-24 | 本の紹介
本の紹介・加藤一+永六輔著「自転車一辺倒」 
 
わたしも自転車が好きで、さまざまな自転車を持っています。若い頃は、イタリア製のロードレーサーを得意気に乗りこなしていたのですが、近頃は「日本製の街乗り(クロスバイク)」を使うことが多くなってきました。ロードレーサーは、ドロップハンドルです。理由は簡単です、前のめり体型が(腹がつかえて)維持できないのです。それに、そこかしこが痛み出してきたこともあり(わたしでなく自転車の方です)、手直ししているうちに元の姿(イタリアスタイル)からはほど遠くなってきました。このイタリア製のロードレーサーも、ややわたしの体つきに似てきた(どちらが先かわからないが)と思われます。
 
この「自転車一辺倒」には、加藤一の影響もあってか、永六輔さんが自転車に魅せられた頃のお話が満載です。あの永六輔さんが自転車に乗っている姿を、連想できる人はいないと思いますが、加藤一さんは元々レサーだった人です。
 
 

本の紹介・春名幹男著「秘密のファイル・CIAの対日工作」上下

2013-08-24 | 本の紹介

本の紹介・春名幹男著「秘密のファイル・CIAの対日工作」上下

わたしたちはグローバルな世界に生きている、そう思っている。モノやカネが世界を行き交い、地球上のすべての人々が次第に豊かになっていく、そう思っている。いち早く、あらゆる国々で今起きていることがニュース(情報)として知ることができる、そう思っている。あらゆる国々の垣根が低くなり、共通の理念を持つようになる、そう思っている。しかしながら、そう甘くないこともわたしたちは知っている。

現在、ロシアに滞在している「CIA職員」はどうしているのか・・・。ふりかえってみれば、あの「ロシアの美人スパイ」は・・・。そして「スパイ天国」に住んでいるわたしたちの意識は、はたして正常なのだろか・・・。あの映画「007シリーズ」とは、ずいぶん違うらしいことぐらいしか、わたしたちには見えてこない。漠然としているのですが、高度に発達してきた今日の「ネット社会」に多く暗躍しているらしい、かなり精度の高い情報が盗まれているらしい・・・。いずれにしても、よく見えてこない「組織」です、すべてが推測の域を出ないお話だからこそ、興味は尽きない。あらゆる戦争や紛争に無関係でないことも、容易に推察できるのも、わたしがこの本「秘密のファイル・CIAの対日工作」を読んだからに他ならない。


廣津里香・詩集「白壁の花」から

2013-08-19 | 本の紹介

廣津里香・詩集「白壁の花」から

私は嫌い 四角いビルは
私は嫌い 四角い部屋は
教室もホテルの部屋も私の部屋もみんな四角い
でもまん丸の部屋だって 私は嫌い
凹凸の部屋よ 私が好きなのは

私は嫌い 髪をキチンと結った人
私は嫌い ズボンをはいてネクタイをキチンとしめた人
キチンとしている人はみんな悲しい
でも滅茶苦茶な格好した人だって 私は嫌い
裸の皮膚よ 私が好きなのは

そして私は四角を拒否した

廣津里香さんの詩集「白壁の花」から、とは言っても、あまり知られていない詩人です。29歳で病死した彼女の詩集や画集は、それ以降に出版されたものです。
わたしにとって、これらの本は忘れがたい想い出とともにあるために、機会あるごとにこうしてとりあげています。
鮮やかな色彩で描かれた絵、沈んだモノトーンが美しい絵、いずれも若い頃のわたしを捉えて離さないエネルギーを感じました。そこに添えられた詩は、さらに強烈なイメージ(連想)を与えるものでした。残像のように、私の心に深く入り込んでしまったのです。