
ヘンリー・ストークス著『連合国戦勝史観の虚妄』より
国際宣伝処が中国に駐在する各国の新聞記者、外国公館の武官や、ニュース専門委員を集めて開いた記者会見は、1937年12月から11ヶ月で300回を数えるが、このなかで国際宣伝処が「虐殺」に言及したことは、1度もなかった。さらに記者たちは報道について検閲を受けていた。
「あらゆる電報は初級検査を受けたのち、検査者が『検査済みパス』のスタンプを押し、電信局へ送って発信する。もし取り消しがあれば『○○の字を取り消してパス』のスタンプか、或いは『全文取消』のスタンプを押す」外国特派員は中央宣伝部の検閲を受け、結果的に協力したか、積極的に協力した。
1937年11月に、南京に国際委員会が設立された。非戦闘員を保護する目的で安全地帯を作るためだった。11月22日に、ジョン・ラーベが代表に推された。ラーベはドイツのシーメンス社南京支社長だった。ラーベは日記にこう書いている。「われわれ後に残ったヨーロッパ人やアメリカ人が、毎晩8時から9時に国際連歓社(クラブ)で落ち合い、そこで中国人指導者もしくはその代理人と接触できるというのである」
国際連歓社(クラブ)は、中国人と外国人が交流するために国民党政府が運営していた。中央宣伝部はこうした特権を外国人に与え、検閲を巧みに使って外国人達を国民党政府に取り込んでいった。そのサービス振りは驚くほどだった。こうして外国特派員たちは、中国シンパとして、すっかり取り込まれていった。
「南京大虐殺」と称される出来事を最初に世界に報道したのは、南京にいた外国特派員『ニューヨーク・タイムス』のティルマン・ダーディンと、『シカゴ・デイリーニューズ』のアーチボルト・スティールの二人だった。しかし、この記事のネタ元は、ある匿名のアメリカ人で国際委員会のメンバーで宣教師のマイナー・ベイツとやはり国際委員会のメンバーで宣教師のジョージ・フィッチであると判明した。
国際宣伝部処長の曾虚白は「(イギリス、マンチェスター・ガーディアンの中国特派員のティンパーリーの本『ホワット・ウォー・ミーンズ』は)ティンパーリーに、お金を払って頼み本を書いてもらい出版した」と証言している。ベイツとフィッチも第三者ではなかった。
ベイツは国民党政府「顧問」であり、フィッチは妻が蒋介石夫人の宗美齢の親友だった。
誰一人として殺人を目撃していない不思議
ベイツは、中央宣伝部の「首都陥落後の敵の暴行を暴く」計画に従って「虚構」の報告を書いたと考えられる。ベイツは聖職者でもあり人望も厚かったので、ウソをでっち上げるとは、「シカゴ・デイリーニュース」のスティールも「ニューヨーク・タイムス」のダーディンも思っていなかったのかもしれない。二人の特派員にとっては、南京の信頼のおける人物が目撃した報告として報道したが、その真偽の裏は取らなかった。スティールとダーディンは世界で最初に「南京大虐殺」を報道した歴史的栄誉に輝く外国特派員となったが、東京裁判に出廷した時は「頻発する市民虐殺」を事実として主張することは一度もなかった。
日本側による報告ではない国際委員会が受理した南京市民の被害届では、誰一人として殺人を目撃していない。そもそもベイツもフィッチも、南京城内の安全地帯にいた。ベイツやフィッチの描写する「3日間で1万2千人の非戦闘員の男女子供の殺人」や「約3万人の兵士の殺害」とは、どこで起こったことなのか。
中央宣伝部がティンパーリーに依頼し、製作した宣伝本『ホワット・ウォー・ミーンズ(戦争とは何か)』について、興味深い事実がある。同書は漢訳されて『外人目撃中の日軍暴行』として出版された。ところが英文版にあったベイツが書いた文章から、次の部分が削除されていた。
「埋葬隊はその地点には3千の遺体があったと報告しているが、それは大量死刑執行の後、そのまま並べられたままか、或いは積み重ねられたまま放置された」
「埋葬による証拠の示すところでは、4万人近くの非戦闘員の人間が南京城内または城門付近で殺され、そのうちの約30パーセントは、かつて兵隊になったことのない人である」
中央宣伝部は、英文の読者は海外の外国人であるため、バレないと思った。しかし漢訳本となると、中国にいる事情通がこうした記述を読んだら、それは事実ではない、と批判してくるかもしれない。虚偽の宣伝・プロパガンダだと露見してしまう。そこで二文を削除したと考えられる。(注: 当時は国民党に対立する共産軍、北政府、親日勢力など入り乱れていたので、すぐにバレてしまう)
世界が注目する中で行われた敵の首都陥落作戦である。天皇の軍隊である「皇軍」の名を穢す事がないように、南京攻略軍の司令官だった松井石根(いわね)大将が、綱紀粛正を徹底していた。
さらに加瀬英明氏によれば、蒋介石と毛沢東は南京陥落後に多くの演説を行っているが、一度も日本軍が南京で虐殺を行ったことに、言及していないという。このことだけとっても「南京大虐殺」が虚構であることがわかる。