よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

めまいに負けないために

2023-03-30 14:45:39 | 健康・病気
 朝ベッドから起き上がった瞬間にぐらっと目が回った、雲の上を歩いているようなふわふわした感じ、激しいめまいと嘔気が続き起き上がれなくなったなど「めまい」にもいろいろな種類があります。今回は「めまい」を取り上げます。

 体がバランスをとって、立ったり座ったり歩いたりするには、「平衡機能」が必要です。平衡機能は、視覚(目)、前庭器(耳)、深部感覚刺激(足の裏)から集まる情報を小脳で集約し、それを全身の中枢である大脳が統括することにより保たれています。そして、これらのどこかが障害されることにより平衡機能が上手く働かなくなった時に「めまい」が生じます。

「めまい」を症状別に分類すると、
回転性めまい(視界がグルグル回る)  三半規管の障害がほとんど
浮動性めまい(体がフワフワする)  回転性めまいの慢性期、加齢、耳石器の異常
動揺性めまい(体が揺れている気がする) 加齢、三半規管の機能低下、小脳の障害
立ちくらみ(立ち上がった時にフラーッとする) 耳や脳の異常のほか自律神経失調症、貧血、睡眠不足、疲労などが原因
に分けられます。
 さらに、中枢性(脳)めまいと末梢性(内耳)めまいに分類することもあります。

 かつては、めまいといえば、メニエール病が有名でしたが、実際はその頻度は多くありません。原因は、内耳の内リンパ液の過剰で、激しい回転性のめまいとともに耳鳴り、難聴をきたします。
 最近よく耳にするめまいとしては、良性発作性頭位めまいがあります。これは内耳の耳石器にある耳石が剥がれて三半規管内を浮遊することにより起こるめまいです。頭の位置を変えたときに数十秒から数分で改善することが多く、嘔吐をともなうこともあります。この病気は、浮遊耳石置換法が効果を発揮します。

 またこの病気とよく間違われるものとして、脳血流低下による中枢性発作性頭位めまいも知られています。これは高齢者に多い動脈硬化やストレートネックや後彎など頸椎の異常により脳への血管が細くなるあるいは圧迫されて生じます。具体的には、脳幹の前庭神経核や小脳下部の前庭小脳の血流障害により、内耳の障害と同様の回転性あるいは非回転性めまいが起こります。
 その他、内耳の炎症による前庭神経炎、片頭痛に伴うめまい、椎骨脳底動脈循環不全、脱水、低血糖、高血糖、貧血などめまいを来す疾患は多岐にわたります。

 さて、「めまい」はどのように回復していくのでしょう。一般的には、平衡感覚の左右アンバランスがめまいの原因であるため、内耳の異常が改善されるあるいは視覚や深部感覚の情報を活用してアンバランスが代償されるとめまいは終息します。言い換えると、片側の前庭器(三半規管、耳石器)の機能低下が改善されるか、目と足の裏の情報を活用して耳の機能低下を小脳でカバーする(中枢代償)ことにより回復してきます。

 めまいの診断・検査は、問診、フレンツェル眼鏡・赤外線CCDカメラによる眼振の検査、頭頸部画像検査によりおこなわれます。特に高齢者であれば、頸椎X線検査による頸椎の異常の有無、頭部MRI&MRAによる脳の血流の評価が重要です。ただし、血行不良のような軽度の異常は現在のMR装置では検出困難です。

 めまいの治療には、主に血流改善目的で抗めまい薬(メリスロン、セファドール、カルナクリン、セロクラール、ケタスなど)、代謝改善薬(アデホス)、筋弛緩作用のある肩こり薬(テルネリン、ミオナール)、酔い止め(トラベルミン)、漢方薬(苓桂朮甘湯、半夏白朮天麻湯、五苓散など)、抗ヘルペス薬、ビタミンDの内服薬が用いられます。その他、首・肩こりのツボ(風池、天柱、肩井)に対する鍼・灸、低周波・遠赤外線・赤外線などの物理療法、理学療法として浮遊耳石置換法やめまいのリハビリも有効です。

 めまいの予防として、①生活習慣の改善(高血圧、糖尿病、脂質異常症、内臓肥満、喫煙など)②姿勢の改善(うつむき姿勢を避ける、肩・首のこりを放置しない)③過労・ストレスを避ける、などがあります。

 めまいは、耳(内耳)の異常だけでなく、脳や頸椎など様々な部位の異常が原因で生じます。すなわち、めまいは耳鼻咽喉科、内科、神経内科、脳神経外科、整形外科など専門の異なる領域にまたがる疾患で、時に診断・治療に難渋し、「めまい難民」になる可能性もあります。「たかがめまい、されどめまい」です。私も、かかりつけ医として、適切なアドバイスができるようさらに勉強したいと思います。


 参考文献:新井基洋『めまいは自分で治せる』マキノ出版
      中山杜人『なかなか治らないめまいが治る』さくら舎 

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食物アレルギーとは

2023-01-21 09:54:08 | 健康・病気
「メロンを食べると口の中がイガイガする」、「エビを食べると蕁麻疹がでる」、など食べると調子の悪くなる食材がある人は結構おられると思います。今回は、成人の食物アレルギーに関する話題です。

 医学的な食物アレルギーの定義は、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が引き起こされる現象」です。一般には、ある食材を食べた後に起こるかゆみ、膨疹、腹痛、下痢を「アレルギー」と呼ぶことが多いですが、その機序が明らかではない場合は、「過敏反応」、「過敏症状」あるいは「食物不耐症」と呼ぶのが正式です。
 さらに、食物アレルギーは、IgE抗体依存性と非IgE抗体依存性に分かれます。IgE依存性食物アレルギーは、血液検査や皮膚検査で抗原特異的IgE抗体が証明されたもので、①潜在的にアナフィラキシーショックのリスクがある、②アレルゲン蛋白質の交差抗原性から食物交差反応が予測できる、③抗アレルギー薬などで誘発症状に対処できる、などの特徴があります。一方、IgE抗体が証明されていないにも関わらず、特定の食物に対して過敏反応を有している場合(例えば牛乳不耐症、セリアック病、ヒスタミン中毒など)を非IgE依存性食物過敏反応と判断します。

 食物アレルギーの原因食物は、小児では、鶏卵、牛乳、小麦が多いですが、成人では、ピーナッツ、魚卵、甲殻類、野菜・果物などが増えてきます。主に食物摂取後2時間以内に発症することが多いですが、まれに4時間以上経過して発症(納豆、アニサキス、マダニ関連の獣肉)することや摂取後運動すると発症する場合(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)や鎮痛薬(NSAIDS)を内服した時に発症する場合もあります。
 また口腔や咽頭の粘膜に限局した口腔アレルギー症候群もあります。これは食物アレルゲンが、消化酵素で容易にアレルゲン性を失い、胃や腸からアレルゲンが吸収されても即時型アレルギー症状を惹起しないためです。

 IgE依存性食物アレルギーの発症メカニズムとして、①アレルゲンが皮膚・気道・粘膜を介して体内に侵入し、免疫細胞がIgE抗体を産生し、これがマスト細胞表面に結合する(感作相)、②感作された体内に、再びアレルゲンが侵入した時に、マスト細胞上のIgE抗体に結合し、マスト細胞が活性化され、ヒスタミンやロイコトリエンといったケミカルメディエーターが放出され、全身の血管や臓器に作用しアレルギー反応が起こる(惹起相)、の二段階があります。

 診断は、血液中の特異的IgE抗体価検査や皮膚テスト(通常はプリックテスト)が用いられますが、血液検査では、偽陽性、偽陰性が少なくありません。またプリックテストの感度も100%ではありません。また結果は、本人の体調、季節、使用する抗原によって変動するため、疑わしい場合は繰り返し検査することもあります。
 最近では、アレルゲンの中の特異性の高いアレルゲン蛋白質(特異的アレルギーコンポーネント)に対するIgE抗体を直接検査できるようにもなっています。尚、食物に対するIgG抗体検査の臨床的意義は現在のところ不明です。

 花粉アレルギーの原因アレルゲンと類似したアレルゲンが果物・野菜の中にも存在するため、交差反応するようになり、成人では、花粉アレルギーや果物アレルギーの患者さんが多くなります(花粉―食物アレルギー症候群)。
 ・スギ・ヒノキ:バラ科果物・柑橘系【アレルゲンはGRP】。
 ・カバノキ科:バラ科果物(リンゴ、サクランボ、モモ、ナシ、イチゴ、
  プラム)マメ科(大豆、ピーナッツ)、セリ科(人参、セロリ)【PR-10】。
 ・イネ科、ブタクサ、ヨモギ:ウリ科(メロン、スイカ、キュウリ)、トマト、
  オレンジ、バナナ、アボカド【プロフィリン】。

 成人小麦アレルギーとして、①乳幼児期発症の持ち越し、②ω-5グリアジン優位型小麦アレルギー(小麦摂取2~4時間以内に運動した場合に全身性膨疹をきたす)、③加水分解小麦による即時型小麦アレルギー((旧)茶のしずく石鹸に含まれていたグルパール19Sという加水分解小麦の経皮、経粘膜的感作による)などが知られています。
 その他、成人で比較的頻度が多いのは、各種スパイス、ラテックスアレルゲン蛋白質に感作されている人がバナナ、クリ、アボカド、キウイなどを食べてアレルギー症状を発症する(ラテックスーフルーツ症候群)、魚類摂取後の過敏症状(魚アレルギー、アニサキスアレルギー、ヒスタミンによる食中毒)、化粧品、ナッツ、納豆(クラゲ刺傷歴のあるサーファーに多い)などが知られています。

 原因となる食物や発症様式がわかっている場合は、原則避けることが肝要です。ただ多くの野菜・果物でアレルギー症状の出る人は、ビタミン不足の懸念もありサプリで栄養補給する場合もあります。また、食物アレルギーの患者さんは、NSAIDS、ACE阻害薬、β遮断薬、胃酸分泌抑制剤などの薬物内服には注意が必要です。

 参考文献:福冨友馬『成人食物アレルギーQ&A』日本医事新報社
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死ぬまで噛んで食べる

2022-11-28 16:35:43 | 健康・病気
 グルメ番組では、口の中でとろける柔らかいものが、美味しいとしてもてはやされる昨今です。しかし今回は、噛んで食べることをおろそかにしないことが健康長寿には欠かせないことをお話しします。

 食べ物を飲み込む動作(嚥下機能)には、多くの要素が関わっています。まず歯で食べ物をすりつぶし、唾液と混ぜ合わせ、舌と頬の内側の筋肉を使い飲み込みやすい大きさの食塊をつくります。食塊を喉の奥に送り、奥歯を軽く噛み合わせ顎を固定します。その後、舌が上顎に向かって上がり、それに伴い舌骨と喉頭が前上方に上がり、気管に蓋がされると食道が開き、食塊が送り込まれるようになります。
この過程は精妙な反射運動で制御されていますが、どこかでうまくいかないと嚥下障害をきたします。嚥下障害になると栄養摂取不良や誤嚥性肺炎の原因になります。

 五島朋幸氏は、「死ぬまで噛んで食べる」ための12の鉄則を挙げています
① 口の渇き、むせ、食べこぼしを見逃すな! これらは口の機能低下の兆候です。
② 歯磨き「食後すぐ3回」はNG! 眠前と起床時にしっかり磨くのが歯や歯茎を守ることになります
③ ペットボトル飲料をダラダラ飲むな! 口腔内細菌が増殖します。
④ インプラントより入れ歯! インプラントは日常の手入れが大変で、怠るとインプラント周囲炎になります。
⑤ 舌を鍛えろ! 嚥下機能の中心です。
⑥ 猫背で食べるな! 首の筋肉が緊張すると舌骨の動きが悪くなり誤嚥しやすくなります。
⑦ 足をぶらぶらさせるな! 体が安定しないと飲み込みが上手くできません。机やテーブルの調整も重要です。
⑧ 胃薬・風邪薬・マウスウォッシュをやたらに使うな! 抗コリン薬は唾液分泌抑制し、抗菌薬は亜鉛をキレートして排出するため亜鉛欠乏の原因になります。マウスウォッシュとアルコールが水を奪い口が乾きます。
⑨ 柔らかいものばかり食べるな! しっかり噛むことが脳を活性化します。
⑩ 栄養をしっかり摂れ! 体力、免疫力が強くなります。
⑪ 入院しても入れ歯を外すな! 噛めなくなると口の機能が低下し、体が弱ります。
⑫ 口から食べることを諦めるな! 本当に口から食べれない人はわずかで、多くの人は、適切な訓練を受ければ口から食べれるようになります。

 死ぬまで噛んで食べるための基本は、“口腔ケア”になります。口腔ケアには、 ①口の機能を維持、向上する機能ケアと②口の環境をよくする器質的ケアと③受ける人と施術者の信頼関係を築くケアがあります。これらの中で最高の口腔ケアが“しっかり噛む”ことと“歯磨き”になります。
しっかり噛んで食べると舌など嚥下に係る60種以上の筋肉群が鍛えられ、唾液の分泌がよくなり消化吸収を助け、脳を刺激し、脳血流を増やすことにより認知症予防にもなります。
歯を磨けば、プラークの原因となる食べカスを除去することができ、口の中が刺激され、サブスタンスPという神経伝達物質が分泌され、飲み込みや咳反射が正常に行われます。口腔内細菌を減らす目的であれば、歯磨きは就寝前と起床時がよいとされます。

 唾液には、副交感神経の支配を受ける耳下腺からでる漿液性唾液(サラサラ)と交感神経の支配を受ける顎下腺と舌下腺からでる粘液性唾液(ネバネバ)の2種類があります。この2種類が自律神経調節により一日1~1.5L分泌されており、殺菌、抗菌、消化作用、粘膜保護作用、歯の再石灰化、PH緩衝作用など様々な作用を発揮します。唾液がなければ食塊を飲みこめないし、味も感じません。
 唾液分泌が減る原因としては、病気(糖尿病など生活習慣病、シェーグレン症候群など)、加齢、閉経、薬物などがあります。唾液の分泌が悪い人は、唾液腺マッサージも有効です。

 高齢者では、嚥下障害があると死因の一つである誤嚥性肺炎が心配になります。そのためかつては、医療者は経口摂取を禁止し、鼻から胃まで挿入した管や胃ろうから栄養補給をすることが多くありました。しかし、誤嚥性肺炎は飲食が原因ではなく夜間睡眠中の唾液の誤嚥が原因であることが明らかになり、口腔内ケアの重要性が認識され、経口摂取が見直されてきています。
 そのためには、医師、歯科医師、看護師、管理栄養師、理学療法士、介護士、福祉用具専門相談員、ケアマネージャー、社会福祉士など多職種連携による食支援サポートが必要になります。

 日本はユネスコ無形文化遺産に指定された“和食”に代表される優れた食文化をもつ国です。人生最期を迎えるまで噛んで食べる幸せを大事にしましょう。


参考文献: 五島朋幸『死ぬまで噛んで食べる』光文社新書
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リンと腎臓と老化の関係

2022-09-26 14:12:22 | 健康・病気
 リン(元素記号P)は、体内では骨の主要成分であるリン酸カルシウムや細胞膜の構成成分であるリン脂質、さらにはエネルギー通貨であるATPの構成成分などとして生命活動に必須の元素です。しかし、ナトリウム(Na)やカリウム(K)などに比べて、知名度が低く地味な存在です。今回は、リンについて掘り下げます。

 生命進化の過程で重要なイベントの一つに、海から陸に進出したことがありますが、そのためには重力に抗して体を支える丈夫な骨格が必要です。軽くて頑強な骨をつくるためにはリン酸カルシウムが最適ですが、体内にリンを蓄える必要があります(海水中のリン濃度は低い)。骨は絶えず壊したり作ったりしながらその強度を保っていますが、体内のリン濃度が低いと迅速に骨をつくることができません。一方、リン濃度が高すぎるとコロイド粒子として血液中を漂うリン酸カルシウムが増え、骨以外の場所(血管、臓器など)に沈着し組織を固くしたり(石灰化)、異物として認識され慢性炎症の原因になります。慢性炎症は、動脈硬化、糖尿病、認知症、自己免疫性疾患など様々な病気の原因と考えられており、老化進行の一因です。すなわち、陸上生物は頑丈な骨を得る代償として、寿命を縮める一因を背負うことになったのです。

 ここでもう一つ興味深い事実があります。哺乳類の寿命を決めているものとして体の大きさがあります。ネズミは3年、ウサギ10年、ゾウは70年など体の大きさに比例して寿命が伸びます。一方、ヒトは80年、コウモリ28年など体の大きさの割に長生きをする動物もあります。しかし寿命と血中リン濃度の関係を調べると、リン濃度が高い方から低くなるにつれて寿命が伸び、きれいな相関関係がみられます。つまり、血中リン濃度が低い(言い換えるとリンの排泄機能がしっかりしている)と長生きできる可能性を示唆します。

すなわち、体内のリンバランスを一定に保つことが大変重要になりますが、この管理をしているのが腎臓です。

 腎臓は、ざっくりいうと「血液をきれいにするろ過装置」になりますが、そのろ過機能の主役が糸球体と尿細管で構成されたネフロンです。血液は糸球体でろ過され(原尿)、尿細管で必要な成分を再吸収し、不要なものが尿として排出されます。通常人間は、左右腎臓に約200万個のネフロンをもっていますが、個人差も多く、また消耗品であるため、60~70歳代では20歳頃に比べて半分になっていると言われます。
 さてリンの血中濃度が高くなり過ぎると、リンを排泄しろというホルモン(骨から分泌されるFGF23)と糸球体でろ過された原尿から尿細管でリンの再吸収を抑制する機構(クロトー遺伝子が関与)が重要になります。この機能に異常がでるとリンの排泄が上手くいかなくなりリンが体にたまり、リン酸カルシウムのコロイド粒子が増え、体の石灰化や慢性炎症が惹起されます。この過程で、原尿のリン濃度が高いことにより尿細管自身も傷害され、ネフロンが減少し腎機能低下が加速される悪循環におちいります。
 さらに、糖尿病、高血圧などによる腎機能低下(いわゆる慢性腎臓病)あるいは加齢によりネフロンが減少すると、リン排出が不十分になり老化が加速することになります。

 ではリンを体に貯め過ぎないようにするにはどうしたらよいでしょうか?

 まずは、高血圧、高血糖、高コレステロールなど生活習慣病によるネフロン減少を避け、加齢以外の原因による腎機能低下を防ぐことです。
次に、リンの過剰摂取を避けることです。リンは、あらゆる食物に含まれていますが、特に肉や大豆といったたんぱく質に多いです。しかし自然界の食物に含まれるリンはほぼ有機リンであり、体内での吸収率は20~60%と低くなっています(一般的には、動物性たんぱく質の方が植物性たんぱく質より吸収率が高い)。一方、加工食品に含まれる保存料や着色料といった添加物のリンは無機リンであり吸収率が90%であることに注意が必要です。すなわち若いうちは少々加工食品を摂取しても問題ありませんが、高齢者ではなるべく避けた方がよいと思います。また牛乳は、カルシウムが多く骨を丈夫にする食品としてのイメージがありますが、同時にリンも多量に含まれています。成長期の子供では骨形成に良い食品ですが、腎機能が低下した高齢者では、摂り過ぎはよくない可能性があります。

 また、運動して絶えず骨に刺激を与えることが重要です。運動不足になると骨からリンやカルシウムが溶け出し、骨が脆くなり異所性石灰化や慢性炎症が起こります。宇宙空間では骨に重力負荷がかからなくなるため、老化スピードが地上に比し10倍速いと言われています。そのため宇宙飛行士が宇宙船の中で毎日運動をしているのをご存知の方も多いと思います。

 今日の話をまとめます。生物は丈夫な骨をつくるために、体内にリンを貯める必要が出てきました。リンは体の中で骨以外にも重要な働きをしますが、過剰になると毒となります。現代社会は、加工食品に溢れ、運動不足のためリン過剰になりがちです。リンを排泄する腎臓を大切にして、加工食品を避け、しっかり運動することが健康長寿には重要です。


参考文献:黒尾誠『腎臓が寿命を決める』幻冬舎新書
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アイスマンと呼ばれる超人

2022-08-03 17:04:49 | 健康・病気
 今年も猛暑で、多くの皆様がクーラーのお世話になっていることと思います。最近の気候は確かに異常ですが、私たちはいつのまにか年中、エアコンのお蔭で快適な温度で過ごすことができるようになっています。ただ、このことが人の病気に対する抵抗力を弱めている可能性が指摘されています。

 突然ですが、皆様はヴィム・ホフという1959年生まれのオランダ人をご存知ですか? 極寒に耐えられる能力を生かし、北極圏での素足でのハーフマラソンのタイム(2時間16分34秒)や氷の詰まった浴槽に居続ける時間(なんと1時間52分)など20の世界記録をもつ超人です。彼は、「低温」に対する能力を鍛えることで、生命力を取り戻す(病気に打ち勝つ)ことができるとして、「呼吸エクササイズ」「コールド・トレーニング」を主体とするヴィム・ホフ・メソッドを考案し世界中の人に啓蒙しています。

 呼吸の重要性は、過去の院内報でも繰り返し指摘してまいりました。求める効果により多少の違いはありますが、口呼吸(胸郭呼吸)ではなく鼻呼吸(腹式呼吸)をすること、吸気より呼気を長くしてゆっくり呼吸することなどです。緊張状態からリラックス状態にするために、深呼吸を実践されている方も多いと思います。
 ヴィム・ホフの「呼吸エクササイズ」は、リラックスするための呼吸法とは違い、自らの力で精神と身体をコントロールして自律神経系に影響を及ぼせるよう意図されたものです。過換気にしてアドレナリンを放出することによりエネルギー産生を増やす効用があります。実践すると最初は頭がクラクラし、とても疲れるかもしれません(失神することもあります)。
① 息を鼻から吸い、ゆっくり吐く。完全に吐き切らず、肺に少しだけ空気を残し、最も気持ちよく感じる速度とリズムで30回繰り返す。
② 息を完全に吐き切って深く吸う。
③ 息を吐いて止め、吸いたくなったら吸う。
 これを、身体がムズムズしたり、頭がクラクラしたり、くたびれたと感じるまで①~③を繰り返します。ひととおり終えると、身体が熱を帯びてエネルギーがみなぎったり集中力が増したりする変化を実感できます。

 皆様も子供の頃、水泳を始めたら風邪を引かなくなったという経験はないでしょうか。 低温にさらされることにより、①血管が鍛えられ血液循環がよくなる。②褐色脂肪細胞が活性化し、ミトコンドリアを介してエネルギー産生を増やし熱を産生する。③白血球数が増え免疫力があがる。などの効用があります。
 「コールド・トレーニング」の第一の取り組みは、冷水シャワーです。
① 1分間ゆっくり呼吸する。温かいシャワーを浴びながら、鼻から3~5秒かけてゆっくりと息を吸い、3~5秒かけて吐く。
② シャワーの温度を少しずつ下げる。温度を下げると呼吸が止まったり速くなったりするかもしれないが、大事なのは呼吸のペースを元に戻す。慣れるまでは無理をしない。
③ シャワーをもう一段冷たくする。この温度に慣れたら、また温度を下げる。呼吸が変わったらゆっくりした呼吸に戻す。
 これを2~3回繰り返して1~2分間冷水シャワーを浴びる。1か月かけて徐々に低温に慣れていく。
 第二の取り組みは、氷水の入ったボウルです。
①大きめの容器に冷水を入れ、氷を加える。
② 両手を氷水に入れる。水温は0度近くまで下がるため、血管が収縮し、最初はヒリヒリとした痛みを感じるが、痛みはすぐに消えていく。
③ 両手が温かく感じたら手を氷水から出す。手が温かく感じるとは奇妙に聞こえるかもしれないが、体内に備わる「暖房機の温度調節つまみを強に回す」ためだ。2分間経っても手が温かくならなければ、そこで終わりにする。 
 この二つのトレーニングを1か月続けることができれば、さらに次の段階に進めます。
 
 ヴィム・ホフ・メソッドは、「低温に慣れる」ことと「呼吸法を習得する」ことを「覚悟をもった熱心な取り組みで行う(コミットメント)」ことが求められます。
 実践者には、病気知らずの体になる、血圧が下がる、血糖が正常化する、関節リウマチなどの自己免疫疾患の症状が軽くなり薬がいらなくなるなどの効果が表れます。その他、はだしで歩く、食事の量が減るなどの反応もみられます。

 日本人も昔は、冷水を浴びる、寒中水泳をするなど自分で体の鍛錬をしてきました。しかし医学や技術の進歩ととともに、快適な暮らしに慣れ、過食・運動不足による生活習慣病の急増や体の抵抗力低下が懸念されるようになってきました。
 私も冷水シャワーを開始し、確かに寒さに強くなり、体が強くなった感じがしています。皆様も体に元来備わっている病気に対する抵抗力を目覚めさせるために、冷水シャワーから始めてみませんか?

参考文献:ヴィム・ホフ コエン・デ=ユング 『ICEMAN 病気にならない体のつくりかた』
サンマーク出版
『ヴィム・ホフ』 ウィキペディア 
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