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Henry Cowへの道 / In Praise of Learning

2007-04-12 01:55:30 | Henry Cow
まったく、なんでいまごろ30年も前のアルバムにはまっているんだろう、と思うほど、ここのところHenry Cow漬けになっています。


1.War(戦争) Moore/Blegvad
2.Living in the Heart of the Beast(野獣の心に棲みつき) Hodgkinson
3.Beginning: The Long March(序曲: 長い3月 長い行進) H.cow/S.Happy
4.Beautyful as the Moon - Terrible as an Army with Banners(月のように美しく、軍旗はためく軍隊のように恐ろしく) Frith/Cutler
5.Morning Star(明けの明星 ヴィーナス) H.cow/S.Happy

靴下三部作の3作目です。
このアルバム、いくつかの聞き所があると思います。
そのひとつが、超アバンギャルド・ポップなSlapp Happyと合体したHenry Cowの方向性。

まず、メンバーを見てみると・・・
Anthony Moore: Piano,Electrics & Tapework
Dagmar Krause: Voice
Tim Hodgkinson: Organ,Clarinet,Piano
John Greaves: Bass,Piano
Fred Frith: Guiter,Violin,Xylophone,Piano
Cris Cutler: Drums,Radio
Lindsay Cooper: Bassoon,Oboe
Peter Blegvad: Guiter,Voice & Clarinet

guest
Geff Leigh: Soprano Sax
Mongezi Feza: Trumpet
Phil Becque: Oscillator

メンバー多すぎます。
そりゃ、2つのバンドが合体したのだからしかたありません。

前作、無DesperateStraightsは、どちらかというとSlapp HappyのバックをHenry Cowが勤める、といった感じの曲が聞かれました。
が、このアルバムでは、スラップハッピー風の曲は、最初の1曲のみ。後はHenry Cowらしい曲になっています。

「Henry Cowらしい」といっても、初期のLegendやUnrestに比べて、おとが随分洗練されています。そして、深みがあります。
音楽を、浴練り上げるという方法論は、Slapp Happyが合流する事によってもたらされた、よい方向への変化ではないかと思います。

そして、なんといってもHenry Cowにとっての最大の収穫。もっとも大きなインパクトは、歌姫ダグマー・クラウゼを獲得した事ではないかと思います。

ダグマー・クラウゼの歌声は、あるときは人間離れした、スコーンと突き抜けるような透明感のある歌声。またあるときは、ドスのきいただみ声。でもなんといっても、その歌いぶりのドラマチックな事。曲が先か、歌声が先か、どちらから歩み寄ったのか、この時期のHenry Cowの音楽と、クラウゼ嬢のうたが、ぴったりと一致して新しいHenry Cowの世界を作り上げています。

1曲目「戦争」。戦争を生み出した女神(?)のストーリー。「満たされぬ心が、暴力を生み出す」と、ドイツ語訛り(というか、クラウゼはドイツ人だから)巻き舌で、まるでポップソングのように(まるで、SlappHappyのように)歌うかと思えば、
2曲目「野獣の心に棲みつき」では、ブレヒトの人民オペラかくありきと思わせるような、ドラマチックな歌唱力を見せつけ、
名曲「月のように美しく、軍旗はためく軍隊のように恐ろしく」では、これまたドラマチックに謳い上げているのですが、より神話的な透き通った歌声を聞かせてくれます。
ダグマー・クラウゼの歌を獲得した事により、Henry Cowは音楽的な幅と方向性を明確にすることができたのではないでしょうか。
滔々とうたうダグマークラウゼの歌声を聞くたびに、このアルバムが再発されてほんとうに良かったと思います。

もう一つのポイントは、戦うバンドとしてのHenry Cow。
Henry Cowのデビュー作は、当時の新興レーベル・ヴァージンからリリースされていました。
その後、ヴァージンレコードが、コマーシャリズムに向かい、売れるレコードしかリリースしないようになり、Henry Cowの靴下レコードは廃盤になってしまったそうです。
アルバムを作成したミュージシャン本人の意思が通じず、レコードが廃盤に成ってしまう事に疑問を感じたHenry Cowは、ミュージシャン自らの手でレコード販売をする方法を模索して、Recommendedレコードを設立した。と解説に書いてありました。

1stアルバムが「伝承」
2ndが「不安」
3rdがSlapp Happyとの合作「悲しみ一直線」
そして4作目が、この「学ぶ事への称賛」
ラストアルバムにあたる5枚目「Western Culture」では、西洋文明への批判。アルバムジャケットには、槌と鎌。
Henry Cowじたい、もともとが左翼思想に傾倒した学生バンドとして発生した、という話も聞いた事があります。
歌詞の内容を見ても、Henry Cowの向かおうとするところが、簡単に見てとる事ができます。
その傾向がもっとも分かりやすい形で表現されているのは、Western Cultureだと思います。西洋の都市文明にたいする批判的な未来像。そして、あのジャケット。

でも、Western Cultureは、言葉をもちません(体調をくずしたダグマーが脱退後に作成されています)
本作では、ダグマー・クラウゼという類いまれなる声の持ち主による、言葉の表現によって、Henry Cowの主張がもっとも説得力をもって表現されていると思います。

とは、いうものの・・・
クリス・カトラーは音楽そのものが政治的なメッセージだと言ったとか。
アルバムの裏ジャケットには「芸術は鏡ではない、それは槌である」というジョン=グリアソン(左翼系映画監督だそうです)の言葉。
なんとなく、わかる気はするのですが、でも、音楽をそこまで追いつめなくても良いんじゃないか、と思うわけです。
音楽って、もちろん、そういう主張もできるツールではあるのですが、だからといって、偏狭的になる必要もないのではないか、そう感じてしまいます。

特に、このアルバムの素晴らしい曲を聞いていると、henry Cow自体「自分たちは、こうあるべきだ」という「べき論」に縛られてしまったのではないかと思います。
もっと、自由に、伸び伸びと、ダグマー・クラウゼ+Henry Cowの音楽を聴きたかったな、って思います。




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2 コメント

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Unknown (evergreen)
2007-04-14 12:12:49
牛さんはほんとまだほとんどそろっていなくって・・・
これもカンタベリーに入れられちゃってますが
どうなんでしょうね・・・
「べき論」こういうのに葛藤があるのがミュージシャンの姿でしょうね。
聴き手はいつだってお気楽なんですよね。
> evergreenさん (Oimizu)
2007-04-14 12:30:24
ドラムのクリス・カトラーが、デイブ・スチュワートと一緒にやっていた事もあるそうなので、カンタベリーでも良いんじゃないですか????
「?」沢山つけてますが・・・

脱退したジョン・グリーブスがナショナルヘルス行ったり、解散後リンゼイ・クーパーがナショナルヘルス参加したり、失踪したジョージー・ボーンがナショナルヘルスに誘われたりしてるので、やっぱりカンタベリー系ですよ。

でも、老後に聞くと、辛い系かもしれません