おいみず亭 Family & Friends

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村田エフェンディ滞土録/梨木香歩

2006-01-14 23:24:25 | 最近読んだ本
この話は、ムハンマドが鸚鵡と出会うところから始まる。
この鸚鵡、人の気持ちを知ってるかのように、辛辣な言葉をずばりと発言する。しかし、そこは鸚鵡が発した言葉、いちいち目くじら立てるわけにも行かず、見ているものは苦笑いするばかり。悪意を持たずに、人の笑いをさそう、いわば道化役のような登場人物(?)である。

梨木香歩の作品「家守綺譚」に名前だけ出てくる村田青年がトルコに留学したときの話である。時代は、「家守綺譚」同様明治後半、第一次世界大戦が始まる直前。トルコがヨーロッパ列強に対抗して近代化を図り、その一環としておこなっている遺跡発掘を行っている。

村田青年が宿泊したディクソン夫人の屋敷は、梨木さんがエッセイの中で述べている、ご本人がイギリスに留学したときの下宿がモデルのようだ。各国から遺跡発掘のために集まってた人々が一つ屋根の下に暮らしている。イギリス人のディクソン夫人、ドイツ人のオットー、ギリシャ人(自らビザンツの末裔という) ディミトリス、そして村田。ムハンマドはディクソン夫人の家の召使いである。

実はこの作品、他の梨木作品に比べてお話があまりにも日常的すぎて、途中で一度投げ出しました。投げ出して「アースダイバー」を読んで再びこの本に戻ってきたときに、やっと気がつきました。本来一神教であるイスラム圏で、イギリス人、ドイツ人、ギリシァ人それぞれ微妙に違うキリスト教国の人や、神道の日本人が暮らしている。「アースダイバー」に出てきそうな地霊・精霊が出てくるし、日本からイタリアに向かう木下が持ち込んだ「稲荷」が登場するや否や、そこは一気に多神教的な世界になって行きます。ここで、トルコという東西の交流点を舞台にした設定のうまさに、うなってしまいました。たとえ、一人一人が信じる神が違っていようとも、こうやって仲良く暮らしていく事ができる。ディミトリスが言うように人間として、他の人間に関わる事に関心を持っているからこそ、このように心を通じ合わせることができるのでしょう。

しかし、しだいに戦争の影が近づき、村田は日本に帰らざるを得なくなります。
帰国後、村田の転がり込んだ先が「家守綺譚」の高堂の家。家守の綿貫の居ない間にあがりこんだところに高堂が現れる。
ここからが、「家守綺譚」の続きの話となる。

やがて、村田の許にディクソン夫人から手紙と、少し遅れて鸚鵡が届く。
手紙には、懐かしい同居人の悲しい顛末がつづられている。
人間が人間として、他の人間に関心を持たなくなったときに、戦争のような悲劇が起こり、
そして二度と取り戻す事のできない大切なものを失ってしまう。
梨木さんの叫びが聞こえるようだ。




そうそう、「家守綺譚」で予告だけされている龍は村田が遥か土耳古から持ち帰る事になります。
この龍がいかなる役割を果たしているのかよくわかりませんでした。
「家守綺譚」をもう一度読み直してみよう・・・

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (あんから)
2006-01-17 06:59:06
なるほど

トルコ料理がおいしい理由がわかりました。

(ちょっと違う?)

またトルコ料理食べに行きましょう。
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アンカラ (Oimizu)
2006-01-18 05:10:37
あんからさん、アンカラの料理おいしかったですね。

また食べに行きたいですね。
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Unknown (evergreen)
2007-06-04 08:40:32
梨木香歩さんのこれ読んで無いです。
なるほど彼女独得のいにしえものがはいりこんでいますね。

>人間が人間として、他の人間に関心を持たなくなったときに、戦争のような悲劇が起こり、
そして二度と取り戻す事のできない大切なものを失ってしまう。

ここはぐぐっと感動的言葉
さすがです。

ご紹介ありがとうございます。
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> evergreenさん (Oimizu)
2007-06-04 09:22:27
コメント、ありがとうございます。
さすがに、素早いですねー。

「村田エフェンディ滞土録」最初は、何だ? と思いましたが、グイグイ梨木ワールドに引き込まれました。
「家守奇譚」とあわせて、是非!!
最近、文庫化されました。
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