経済(学)あれこれ

経済現象および政策に関する意見・断想・批判。

内需拡大、成長戦略、福祉工学

2010-06-30 03:08:39 | Weblog
      内需拡大、成長戦略、福祉工学

 内需に関して考えてみました。これからの内需はサ-ヴィス業の発展にあるとも言われています。しかしサ-ヴィス業務とは単なる対人関係内の操作でしょうか?体系的に考えて見ましょう。製造業は単に物(TVや自動車などの単品)を製造するだけではありません。それら物を組み合わせたシステムも作ります。工場そのものなどがプラントとして輸出される事もあります。道路・橋梁・港湾建設なども海外で製造(建設)できます。新幹線、リニヤ-モ-タ-カ-、高速道路、そして他の交通システムもあります。トルコのボスフォラス海峡を跨ぎ、欧州とアジアを結ぶ橋は日本の熊谷組が建設しました。瀬戸・鳴門大橋は日本のすぐれた製造業と建設業の成果です。
 この辺は序の口、もう少し未来志向で見てみましょう。太陽発電とLD発光を結びつけた植物工場があります。太陽光発電とそれを蓄積する電池がもう少し発達すれば、植物性の食物は工場で作ることも可能です。こうなれば土地の面積は必ずしも重要ではありません。建設技術如何では10階建て・20階建ての植物工場も出現します。それに海洋における養殖を組み合わせると、魚類も遠洋まで取りに出かける必要はなくなります。
 水ビジネスがあります。汚れた水の処理が必要です。この技術において日本は非常に優れています。さらに廃棄物の処理もシステム化されるべきです。実際日本では過去の蓄積があるので、鉄や銅そしてアルミなどを海外から輸入する必要性は少なくなっています。くず鉄などの再利用で間にあうのです。緑化ビジネスもあります。巨大な市場を見込める、うま味のある業種です。
 将来交通事情、特に東京、大阪、名古屋を中心とする大都市圏の交通は根本的に変わるでしょう。大量輸送は電車バスなどの公共交通に任せるとすれば、車による移動距離は少なくなります。かといって車そのものが不必要になるとはいえません。現在路上を走行している大きな車ではなく、自転車かバイクを少し大きくし、1-2人乗りで、最大速力40km、短距離走行用の、超小型車で充分になります。充分であるだけではありません。高齢者にとっては絶対必要な物になります。ちょっとそこのス-パ-に買い物に行くためにはこの種の移動機関が必要です。将来の交通システムは大量輸送と短距離走行の組み合わせになります。こういう観点から都市の交通システムを根本的にスクラップ・アンド・ビルト、すればいいのです。
 以上は機械や物のみのシステムです。ここで本論の主題である、福祉工学を考えて見ましょう。福祉工学とは人と物の組み合わせです。福祉の主軸である、教育、医療、介護を例に取ります。
端的に言います。現在の教育量を2倍にしましょう。別に3倍でもかまいません。具体的には学校数と教職員数を倍にします。他の設備や要員もそれにつれて倍増します。簡単で大雑把な計算をしてみます。私が住んでいる隣町に豊中という市(大阪府)があります。人口は50万から60万人、市内にある学校は小中学校と高等学校だけで60以上になります。つまり人口1万人に一個の割合で学校があるのです。この計算を日本全体に広げると、12000個の学校があることになります。学校一つを建設するのに、100億円要るそうですから、教育量を倍にすれば、すなわち20人学級にすれば、新しい学校建設だけで120兆円の建設需要が見込めます。また豊中市の教員数を基準として考えれば、教員の増加数は少なくとも30万人以上になります。
 学校という箱物、教職員という人間が増えるだけではありません。教育内容を充実させましょう。視聴覚教育を充実させます。理科の設備もけちけちせずに増やしましょう。実験設備、化学薬品なども充分に供給します。社会科の見学用にはバスを多用して大いに出かければ宜しい。音楽や図工の教育も視覚化、立体化、具体化するべきです。音程や和音の教育にはそのための設備が必要です。社会化も同様です。イタリアのシスティナ聖堂の内部やニュ-ヨ-クの市街を教室にいて、見られたらなんと素敵でしょうか。宇宙の構造や人体の発生などを動画で見れば、自然への感動は大きくなります。学問の出発点はなによりもこの種の勘当です。源平の合戦や平安王朝の生活などは、動画にして見せればよろしい。数学の教育だって、十年一日のごとく、黒板に数式を描くのではなく、IT技術やプロジェクタ-を使って、シミュレ-ションを駆使して、もっと面白く解りやすくできます。給食も同じ、中央管理センタ-で作り、それを暖かいまま教室に運ぶシステムも可能なはずです。他校の授業を見聞することも、動かずに可能になります。大阪にいて東京の学校の授業を聞くこともできます。沖縄や北海道のことなど、現地の学校の授業を聞いたほうがよく解るはずです。生徒同士の遠距離間討論も可能です。外国の学校との交流も盛んにできます。会話の実習にもなります。
 これらの投資は莫大なものになります。別に教育をこのように充実してはいけないことはありません。要は人と物を同じシステム内に繰り込んでしまう事です。更に付言すれば学校の敷地の問題もあります。地価は上がります。上がった方がよいでしょう。このように教育を充実拡大するためには、制度の一部を変える必要があります。教職課程を簡単にし、教員免許を取りやすくすることが必要です。大学を出たのなら、一定の試験と若干の実習体験で教員資格を与えるのが賢明です。この方が、雇用の流動性が増し、教員の質も向上します。
医療の問題ではどうでしょうか。ここでも医師と看護師の数を倍加します。他の職種の数も同様です。当然病院や医院の数も倍になります。医療は教育以上に機械と物をたくさん必要とします。ペットやMR、CTなど高価な機械はどんどん揃えればよろしい。薬が開発され効くとなれば大いに使いましょう。検査をけちけち制限する必要はありません。患者の苦情受付、助言、管理などはもっとシステム化すれば能率よくできます。患者の搬送も同様です。夜間の巡回などは、一々人間が行うのではなく、ロボットで充分なはずです。得られるべき必要なデ-タを入力しておけば、大体のことはわかります。後の残りの特殊部分が人間の役割です。こうすれば看護師の疲労も軽減され、30歳を過ぎたら看護師免許はたんす入りという事態は避けられます。食事に関しては学校と同じです。病人用にもっと美味しく、暖かくて食べやすい、必要な栄養を含んだ病院食を開発できるはずです。さらに病院医院と患者の家をオンライン化すれば、緊急の事態に備えられます。救急に関しても同様、もっと効率よく運営方法を考えるべきです。
 医師や看護師、ケ-スワ-カ-や臨床心理士、薬剤師、検査技師が必要なのは病院だけではありません。保健所の数も増やし、そこに充分な人員と装置を配備すれば、予防医学は進歩します。学校や企業などに必要な医師等の数も増やせばいいのです。介護施設への医療関係人員の配置についても同様です。刑務所の医療は改善する必要があります。またここでも教育に関していったのと同じ事がいえます。むやみと専門家を作らないことです。医療行為が充実するためには、一人の医師の目の届く範囲が一定以上である必要があります。狭い範囲に専門を局限すれば、総合的には医師の診断能力は落ちます。専門家であるかないかは、利用者である患者さんの判断に任せたらいいのです。すでにネットで病院の医療実績は公示されています。良い医者、良い病院と聴けば、患者さんは駆けつけます。むやみと専門化細分化すれば医師の労働力の流動性を妨げ、不能率な医療になります。また医師の職務の一部は看護師等に委譲すべきです。その方が医療行為を効率化できます。医師しか出来ない事を医師は行うべきです。どこに線を引くかは、状況々々によります。
 介護はハ-ドな仕事です。老人という半分壊れかかった人間の心身の面倒を見なければなりません。なにより肉体労働であり、40歳を過ぎれば現場の仕事はできないとも言われています。(この点は保育も同じ)加えて利用者(老人とは心理的に扱いにくいものです)やその家族への神経も使います。心身の疲労が相乗して、介護ストレスが生じます。人員を倍増し、機械で出来る部分を増やし、余力は利用者の心と生活のケアに回しましょう。食事介助はともかく、入浴・搬送・排泄援助などは機械化できます。ロボットを使います。備品管理、施設の維持管理もロボットでできます。夜間の監視に関しては病院について言ったのと同様です。ロボットで充分です。在宅利用者との連絡はオンライン化できます。後は現場の人達で考えてください。まだまだ改良の余地はあるはずです。効率の良いシステムに仕立て上げましょう。
 福祉工学の目的は、人的資源と機械装置を組み合わせ統合して、一つのユニットにまとめて仕上げる事にあります。この方が効率は上がります。人間自身の労働には余裕ができます。繰り返しますが、人間と機械を組み合わせたユニットの形成、が眼目です。
教育、医療、介護においてこれだけ、人員と設備を増やせば、そのための経費はどうなるのか、という問題が生じます。人員が増えれば雇用も増えます。諸種の機械製造開発は製造業を賦活します。生産が増大すれば、景気はよくなり税収は増加します。(医療や介護の保険も税金みたいなもの)保険財政の赤字云々に悩む必要はなくなります。
財源はどうする?原則的には国債発行で充分です。国債が民間資金需要を圧迫しそうなら、国債を日銀に買わせればいい。いっそのこと始めから国債を日銀に引き受けさせて、流通貨幣量を増加させ、それをもって政府が以上にのべた福祉工学を先導する事が肝要です。金がないから増税し予算を縮小して、健全財政にもっていってから云々ではまだるこしいのみならず、成果は上がりません。何もできません。よくて現状維持、多分デフレが亢進するでしょう。
 簡単な経済学的考察をしてみましょう。日本国内が不況にあるとします。失業率は高くなります。遊休労働力を今述べた、教育・医療・介護にまわします。教育等福祉の質は向上します。経済学上の術語を用いれば、コモディティ(commodity、便益)が増大します。つまり価値が創造されるわけです。GDPが増加すると思ってくださってもかまいません。それだけでそれなりの価値があるのですが、ただそれだけではもったいない。なによりもサーヴィスの水準があまり上がりません。
 だからそこに機械をぶち込み、機械と人間を組み合わせます。サーヴィスの水準は飛躍的に向上します。機械と組み合わせる事により、福祉業務の内容は高度化します。ただし以上の過程において、貨幣流通量は、雇用増加に比例して増加させるとします。
福祉を仮に、人間の労働だけで行うとすれば、雇用は一定の段階で頭打ちになります。雇用の増大は必然的に輸入の増加を伴います。他の条件が変わらなければ、製造業の内需は増えますが、輸出競争力は変わらず、ですから輸出でもって輸入の増加に対処する事はできません。ではこの種のサ-ヴィス業を輸出できるかと言いますと、人間の 人間集団のみを輸出する事には、文化摩擦などの困難が伴います。
しかし私が述べた福祉工学は、人員と機械の組み合わせです。福祉と同時に製造業をも賦活します。そして福祉工学が要求する機械装置は複雑なものが多く、新しい需要も開発されます。早く走る自動車より、排泄を補助する装置の方が明らかに複雑な機械です。さらに福祉工学は人間と機械の組み合わせですから、この組み合わせ自体が高度なものになり、習得には時間と経験が必要になります。簡単には模倣できません。複雑で高度に統合された福祉工学ユニット、これは輸出できます。日本が輸出大国になる必要はありませんが、一定度の輸出能力は必要です。内需が拡大すればするほど、輸入は増えます。その分輸出で埋め合わせしなければなりません。一定度の出超は、日本が他国に必要とされているという証です。
 福祉工学に必要な機械設備は高価なものでしょうか?決してそうはなりません。大量に生産すれば価格は低くなります。
 現在、日本の産業は転換点にあります。家電、自動車、IT機器などの販売は国内では限界に達しています。だからこれらの産業は輸出に出口を求めたり、海外への資本投下に活路を見出そうとします。それはそれで構いません。しかし福祉を工学と組み合わせると、全く別種の需要が開発でき、新たな製品が出現します。個々の単品を人間の活動にあわせて組織的に配備したシステムを生産する事が可能になります。これは今までの製造業の製品とは異なる、別種の製品であり、簡単には真似できないものです。工学に福祉が絡む事により(工学が生活の中に進出する事により)新たな需要がどんどん開発されます。
このような観点から福祉工学を大胆に押し進めるべきです。そうする事によって日本の産業構造を世界に先駆けて変革しましょう。なによりも、現在が産業構造の転換点であるという認識を政府がもって、強力に指導する事が重要です。
 福祉工学は、工学でもって福祉生活を掘り下げ、コモディティ-を発掘し、需要を喚起する、新たな手法の産業です。生活が科学技術により深化される限り、需要は発生します。

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