8/11~13の三日間、仕事の下見で、“北アルプスの秘境”雲ノ平(くものたいら、富山県)へ行きました。
黒部川源流部の標高2500~2700mに位置し、周囲を急峻な山々に囲まれたなだらかな溶岩台地。池糖をたたえる湿性草原が広がり、高山植物の宝庫でもあります。登山者憧れの地に、初めて足を踏み入れることができました。
■8/11(木)/曇りときどき雨
(8/10 新宿西口・住友ビル23:20~夜行バス~富山駅5:45/6:10~富山地鉄バス~)折立8:00/8:30-太郎平小屋11:55/12:05-薬師岳山荘13:35/14:00-薬師岳14:40/14:45-薬師岳山荘15:15<泊>
折立(おりたて)登山口。標高1350m、気温20℃。雨がパラついていました。
登山計画書を出そうとすると…
何と、標高2300mにある太郎平(たろうだいら)小屋まで登らないと提出できない…!
同小屋に薬師岳(やくしだけ)方面山岳遭難対策協議会の詰所があり、そこの隊員の話では「事故の際は、この場所を拠点に救助活動を行うのが効果的なため」らしい。仕方ないのでしょうが、何だか…?(苦笑)
登山口にある「十三重之塔 慰霊碑」。
この薬師岳で1963(昭和38)年1月、猛吹雪と寒気(三八豪雪)のため遭難死した愛知大学山岳部員13名の慰霊碑です。この悲劇を教訓に、富山県は二年後、世に名高い山岳警備隊を結成したそうです。
2000m付近から薬師岳方面(左奥)を望む。残念ながら雲の中…。
その時…
富山県警のヘリが太郎平方面へ。10分ほどで戻って行きました。薬師岳山荘の話では、黒部五郎岳で転倒・骨折事故があったとのこと。最近多い遭難のパターンです。
太郎平小屋着。ここで、登山計画書を提出。
それにしても、最近どこの山へ行っても人が増えました。平日にも関わらず…やはりブームなのでしょうね。
雨が降らないうちに…
標高2701m、本日の宿泊地・薬師岳山荘へ。昨年建て替えられたばかりで、新しい。1泊夕食、弁当付きで8900円也。
サブザックで薬師岳(2926m)を往復。気温14℃、風速5~10m/s。(東京は当日猛暑だったそうですが…ここは)肌寒い。そして、何も見えませんでした。
本日出逢った花たち(一部)。
イワショウブ(岩菖蒲/ユリ科)。初めて。花茎に繊毛があって粘りがあり、虫がくっつくことからムシトリセキショウの別名も。
ニッコウキスゲ(日光黄菅/ユリ科)。夏山の緑に映える定番です。
チングルマ(稚児車/バラ科)。お気に入りの花。といっても、れっきとした木です。
ミヤマリンドウ(深山竜胆/リンドウ科)。陽が翳ると閉じてしまうそうですが…何とか一輪と対面!
ウサギギク(兎菊/キク科)。姿も名前も愛らしい。その名の由来は、葉の付き方にあります。
ヨツバシオガマ(四葉塩竃/ゴマノハグサ科)。いつ見ても、色鮮やか。
ミヤマホツツジ(深山穂躑躅/ツツジ科)。初めて。手前の針葉はハイマツ(這松/マツ科)。
■8/12(金)/晴れときどき曇り
薬師岳山荘4:35-太郎平小屋5:50/6:05-薬師沢小屋7:55/8:10-雲ノ平山荘-10:35/10:55-三俣山荘13:30/14:00-鷲羽岳14:55/15:25-三俣山荘16:00<泊>
本日はいよいよ雲ノ平へ。
黎明の北アルプス。南に槍ヶ岳(右奥)も見えます。気温9℃。今日は好天に恵まれそう。
朝露に輝くチングルマの果実が美しい。
太郎平から標高差で300mほど、一気に下った薬師沢沿いで…
白いトリカブトにお目にかかりました。と、思ったのですが、調べてみると、亜高山帯の林縁に生えるオオレイジンソウ(大麗人草/キンポウゲ科)と判明。花の色は、正確には淡黄色。初めてで、幸先良い。
黒部川・奥の廊下にある薬師沢小屋(1912m)。この辺りから秘境の雰囲気に。雲ノ平への入口となるこの吊り橋も、よく揺れて、なかなかスリリングです。
この小屋から2350m付近までの登り返しが、キツかった。湿ってコケむした岩が積み重なる急登。安易に足を出すとツルッと滑ります。ここを下るのは、神経を使うことでしょう。樹林帯を1時間半喘いで、飛び出したところが…
雲ノ平です。一気に天上界に飛び出した気分。写真は、西端にあるアラスカ庭園と呼ばれる場所。シラビソなど針葉樹の木立が、まるでアラスカのよう?
ここからは、天国への木道が続きます。(笑)
南に黒部五郎岳(くろべごろうだけ・2839.6m=右)と笠ヶ岳(かさがたけ・2897.5m=左奥)。
進行方向の東には、北アルプス最奥の山といわれる水晶岳(すいしょうだけ・2986m)。別名・黒岳(くろだけ)。
ミヤマリンドウも、今日はご機嫌の様子。
雲ノ平で唯一の小屋、雲ノ平山荘。登山者の憩いの場です。こちらも昨年建て直したばかりとか。
この先には、岩と池糖が点在するスイス庭園があるらしい(今回は時間の関係でパス)。後ろは水晶岳。
振り返ると、来し方薬師岳(右奥)が大きい。
雲ノ平は、明るく、垢ぬけた感じでさほど“秘境”を感じませんでした。それよりもむしろ、自然植生が荒らされることなく、まさしく原始のまま残されていることに、私は感激しました。人間の動線を木道で明確に示し、それ以外の場所は立ち入らせない、また立ち入りにくい環境を作っているのが、一番の理由ではないでしょうか。
人が歩道を外れて歩くと、そこに踏み跡ができ、続く踏圧や雨水の浸食などによって山が荒れていくことは、中国地方の名峰・大山(だいせん・1729m、鳥取県)の事例にも現れています。大山山頂では1970年代ころから、国の特別天然記念物・ダイセンキャラボク(大山伽羅木/イチイ科)の純林が登山者の踏みつけなどで裸地化しました。しかし、1985年「大山の頂上を保護する会」結成を機に、木道の敷設や有名な「一木一石運動」などが成果を上げ、ほぼ以前に近い緑を取り戻しつつあります。
環境面や経済面から、どこでも適用できるというわけにはいかないでしょうが、高山の厳しく、希少な自然を守る手段としての木道の有効性を、この雲ノ平で改めて実感しました。
次回はテントを張って、一日ゆっくり散策してみたい場所です。
雲ノ平東端にある日本庭園を過ぎると…
黒部川が産声を上げる鷲羽岳(わしばだけ)と、右奥に槍ヶ岳が見えて来ました。
そして足元には…
イワギキョウ(岩桔梗/キキョウ科)を発見!初めて。
同じ仲間のチシマギキョウはお馴染みだったのですが、イワギキョウはこれまでお目にかかれませんでした。まさしく花冠に毛がなく、チシマギキョウよりもフワリとやわらかい感じ。揃って上を向いて咲く姿も、爽やか。
黒部源流を挟んで反対尾根上に、本日の宿・三俣山荘(みつまたさんそう)の赤い屋根。(写真真ん中右)
黒部川源流付近、標高約2400mに一旦下り立ちます。ここを沢伝いに詰めたい衝動に駆られます。(笑)
大輪のシナノキンバイ(信濃金梅/キンポウゲ科)のお花畑が見事。
比差約150mを登り返し、三俣山荘着。少しきついですが、スケジュールの都合で今日中に鷲羽岳を往復しなければなりません。宿泊手続きを済ませ、軽装で出発。
鷲羽岳。黒部川の母なる山は、端正で優しい姿。
2924.2mの山頂。天気が良かったので、今回の山行で初めて、30分ほどのんびりと過ごしました。
18:00 三俣山荘前より。正面の槍ヶ岳に、雲がまとわりついていました。
■8/13(土)/曇りときどき晴れ
三俣山荘4:30-三俣蓮華岳5:25/5:30-双六岳6:25/6:35-双六小屋7:10/7:20-鏡平小屋8:50/9:10-わさび平小屋11:15/11:30-新穂高温泉12:30(/13:30~バス~松本15:40~JR~自宅)
イヤな乱層雲が上空に立ち込める中、三俣山荘を出発。
三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ・2841.2m)。気温10℃、7~8m/sの西風が吹き抜け、寒い。
双六岳(すごろくだけ・2860.3m)。こちらは結構賑わっていました。
双六岳周辺。なだらかな山ほど、ガスの中のルートファインデングが難しくなります。
どうでもいい話ですが…
私好みの、シンプルで耐久性のある?道標。現在地を明記しているのもいい。
標高2550mに建つ双六小屋は、要塞のように立派。こちらも新しく、北アルプスは新築ラッシュ?
そしてこの頃から、晴れ始めました。
鏡平(かがみだいら)へは、槍・穂高連峰を従えた雲上の散歩道。
空を切り裂く槍ヶ岳と北鎌尾根が際立ちます。
標高2280m、鏡平小屋も素敵な場所にありました。
下山時に出逢ったキヌガサソウ(衣笠草/ユリ科)。花の白が抜けてもう終わりかけですが…存在感のある姿で見送ってくれました。
新穂高温泉(1100m)着。松本行き13:30発のバスに間に合い、ホッ…。実はこの便を逃したら、当日中に帰京できなくなる事情がありました。
ついでに温泉で汗を流すこともでき、万事めでたしの三日間。
最新の画像[もっと見る]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます