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マスク着用に見る思いやりハラスメント

2022-04-08 | 政治・社会
 新型ウイルス「COVID-19」の世界的な蔓延も,すでに2年以上に及ぶこのごろである.その弱毒化と,医療現場の安定により,(先進諸国に限っては)少しずつ収束の兆しも見られてきたものの,混乱する社会のもと,日常生活における感染対策や,ワクチン接種,PCR検査などをめぐって,さまざまな誤解とハラスメントが横行したことに,胸が痛むばかりだ.なかでも,僕が未だに違和感を持たずにいられないのが,公共の場でのマスク着用の大流行である.

 さいわい,日本国内での一連の感染対策に,法的な強制力を持つものはなく,表向きには各個人の裁量に委ねられている.だが,仮にも人命に係ることであるので,それらはやはり過剰かつヒステリックな導入になってしまった.マスク着用はその代表的な現象の一つであるが,いま一度確認しておきたいのが,次のいくつかの事実と経緯だ.まず,当初WHOが強調したように,「マスク着用が感染を防ぐという科学的根拠はない」ということ.ただし,これは単に検証が困難という意味であり,実際には「発話や咳・くしゃみの際の唾液飛散をいくらか弱めうる」とのシミュレーション結果から,念のため,一般に着用が推奨された(周知のように,ヨーロッパなどの国々では,一時期これが条例によって強制された).本来,全員が守ることを目指しているのではなく,着用率が十分に上がれば,「全体数」として感染者を減らす効果があるだろう(個々の感染を防ぐと言っているのではない),との大数則的な予測にすぎない.こうした国や自治体の求めに応えた,あらゆる公共施設・商店・劇場が,「来場者に,その安全と安心のために着用を呼びかけた」ことで,またたく間にこれが普及した.なかには,マスクを着けないと入場を断るケースもある(そうして追い出された利用者は,今後二度と帰ってこないと,追い出した側は覚悟してほしいと思う).

 問題は,「お前マスクしろ」との指図が,99%以上は,その必要のない非感染者に対して行なわれていることの,効率と倫理の両面での不適切さである.第一,資源を大量に消費する行為であることも見逃せない.ちょっと冷静になってみれば分かるように,そんなことを他人に強制する権限など,だれにもないのである.また,僕がもう一つ怖いと思うのは,このような非常の際に,大勢の人が一斉に行動するとき(その内容がたとえ正しいとしても),それがそのまま「そうでない人たち」を圧倒してしまう点である.たとえば,僕はもともと,花粉症と喘息の持ち主だが,よほど症状の重いときを除いて,マスクを着けることを避けてきた.何か原体験があったのか,よく思い出せないのだが,自分が顔を隠して人前に出ることや,また,顔を隠した他人に接して来られることへの,生理的な嫌悪がその理由である.大げさにいえば,顔を知られてはまずい悪事に関与するような,漠然とした後ろめたさと不安に囚われるのである.もちろん,顔に布をまとうのが単に鬱陶しいということもある.とはいえまあ,僕のそれはまったく取るに足らないのであるが,世の中には,もっと深刻な理由でマスクを着けられない人々が,少なからず存在することが想像される.知覚過敏や,自律神経,呼吸器系の障害はもちろん,つねに口話を読む必要のある聾者などである.今や,これらの人たちを公共の場で見かけることがないのは,彼らは無理して着けているか,もしくはそこへ出かけてくるのをあきらめているかの,どちらかに違いないのである.僕にしてみれば,そのような空間で,マスクを着けて過ごすこと自体が,少数者への迫害そのものである.さらに,自分はその少数者になりたくないから,ただ周囲へのカムフラージュとして,何となく着用している層も少なくないという,半ば転倒した状態が到来していると感じるのだ.

 僕の目下の意見は次のとおり.

(1) マスク着用を含む感染対策は,必要最低限にとどめるべきである(そのマスクにしてみたって,よほど必要と思われる場面での着用のみでよい).
(2) それらのうち,何を実行し,実行しないかは,各個人が判断し,その選択を互いに尊重すべきである.
(3) 人命を守り,他人を思いやることは僕も正しいと思うが,それを誰かに強要してはいけない.

 そもそも,今回のウイルス騒ぎは,それに社会全体としてどう対処していくか,制度と暮らしのどちらのサイドからも,十分な議論のないまま,トップダウンもしくは大多数の主導によって,強引に突き進んできてしまっている.ウイルスの脅威が去ってからも,僕たちの生活は続くのであり,それを長い目で見通したうえで,健全で豊かな世の中のあり方を,一人一人がたえず考えて行かなくてはいけないはずなのだ.


外部リンク:
NYで「マスク着用義務」が解除。それでもマスクをする理由は? - Forbes JAPAN (2022.3.30)
https://forbesjapan.com/articles/detail/46658

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