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山崎雅弘「天皇機関説事件」

2022-09-09 | 政治・社会
 先日買った本を読み終えた.山崎雅弘・著『「天皇機関説」事件』.

 昭和初期,帝国憲法と議会,天皇の関係性を,近代的な国家観の枠組みのなかに捉える定説として通用した,美濃部らの「天皇機関説」が,軍人議員や右翼団体からの徹底した攻撃によって,急速に封殺されていった顛末を,その一々にあまり深入りせず,簡明に紹介したもの.代わりに台頭したのは,「国体」の際限ない神聖化と,生命を賭してまで天皇に仕える臣民という,カルト的な隷従関係であり,このような社会構造が行き着いた無謀な戦争とその悲惨な結末は,誰もが知るところである.また,一連の排斥キャンペーンの間,文字通りの当事者である昭和天皇は,自らの立場と権力が軍部に利用されることに,たえず強い不快感を示しているが,それが学問の,ひいては国家のあり方を根底から揺るがす重大な動きであることには,まったく関心がなく,事実上彼らを黙認し続けたことが分かる.正気でない時代のこととはいえ,一般人までもが,皇室への不遜な言動を理由に,刑事罰だけでなく,嫌がらせの類から殺害を含む暴力にいたるまでの,あらゆる私刑の脅威に晒されるという,暗い世相に改めて胸が塞ぐばかりである.


山崎雅弘: 「天皇機関説」事件
集英社,2017,
ISBN 978-4-08-720878-8

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