本朝徒然噺

着物・古典芸能・京都・東京下町・タイガース好きの雑話 ※当ブログに掲載の記事や写真の無断転載はご遠慮ください。

キモノ雑誌について思うこと

2004年09月21日 | 着物
私は、季刊の着物雑誌を2冊、毎号購読している。
うち1冊は、重いので定期購読を申し込んで毎号自宅に配送してもらっているほどだ。
どちらも年に4回、季節の変わり目に合わせて発行されるのだが、読み終わってしまうと、「早く次の号が出ないかなあ」と待ち遠しくなる。

同じ着物雑誌でも、ターゲットにしている読者層が微妙に異なるのか、一見似たようなテーマを扱っているように見えても、よく読んでいくと全体の構成や記事の内容がけっこう異なっているから面白い。

1冊は、どちらかというと少し高い年齢層の女性(だいたい40代後半以上)、しかも、いわゆる「マダム」という世代の人を中心にしている感じだ。あとは、着付けをはじめ、お茶やお花、踊りなどのお稽古をしている人、あるいはそのお師匠さんといったところか。

もう1冊は、もう少し下の世代、30代くらいの人から、職業も、独身貴族(?)のOLまで念頭においている感じだ。

両誌の表紙にとりあげられる女優やタレントにも、それが表れているように思う。

どちらも、着物に関する知識と「いいものを見分ける目」を身に付けるためには、とてもよい材料だと思う。

しかし、一つ気になっていることがある。
対象とする読者の年齢層が上であればあるほど、往々にして、「どう考えても普通の人には縁遠い材料」が大々的にとりあげられているように思える。これはいかがなものだろう。
普通の人(自称・他称を問わずいわゆる「中流」といわれる層の人々)にはそうそうしょっちゅうは買えないであろうと思われるような着物、ブルジョワジーの奥様やお嬢様方の着物生活(注:この場合の「着物生活」とは、日常的に着物を着ている人の生活様式を指す場合もあるが、普段は着物をお召しにならないお嬢さんの豪華な「晴れ着」アイテムを指す場合もある)を大々的に掲載されても、実感がわかないばかりか、「やっぱり着物ってお金がかかって大変なのね……」と、せっかく着物に興味を持ち始めてくれた人々を、着物から遠のかせてしまうことになりかねない。

そういう雑誌も、いちおう「着物初心者の方も読者対象にしております」といわんばかりに「着物初心者のための着物の常識」とか「ふだん着の着物」といった特集をたびたび組んでいるが、「ふだん着の着物」といって大島紬や結城紬、夏物なら芭蕉布や上布のような高価なものを紹介されても、目が回ってしまうだけである(そりゃあ、たしかに紬や芭蕉布は、どんなに高価でも普段着にしかならないが)。
「着物の常識」についても、着物初心者が本当に知りたいと思うであろうこと、「ここだけは外せないよ」ということと「ここはこういうふうに応用できるよ、ふだんから着物を着慣れた人ならこういう着こなしをしてるよ」ということが、バランスよく書かれていないように思う。
しかも、「高価な着物を何枚も作ってもらう」ことにも主眼を置いているのか、わざわざそれに合わせたかのような「常識」が作られているきらいもある。

前にも書いたが、私は、「着物の常識」の原則は「季節を守ること」と「TPOを考えること」の二つだけだと思っている(これは、洋服の場合とまったく同じであろう。むしろ私は、洋服よりも着物の決まり事のほうが、よっぽど緩いと思っている)。「この季節にはこれを着る=この季節にこれはダメ」ということと「こういう場合にはこれを着る=こういう場合にはこういう格好はだめ」ということを、身近なものでいいから実例を細かく挙げて説明していくほうが、よほどわかりやすいのではないだろうか。

「着物を着慣れた人は、この季節やこういう場では、こういう着こなしをしているよ」というのを、高い着物ではなくて、普通の人に手が届くような着物を使って説明していくほうが、よほど役に立つと思う。

もちろん、ファッション雑誌と同じで、商品の宣伝という大きな目的もあるのだろうし、広告料などの大きな問題もあるのだろうから、高級な商品を掲載してはいけないというつもりは毛頭ない。
しかし、等身大の記事がもう少し増えてもいいのではないか、と思うのである。
ファッション雑誌で、ブランド物の高価な洋服ばかりが載っているページよりも、「1か月の着回しパターン」というような記事のほうが面白いのと同じである。


最近の若い人の中には、「着物」=「浴衣」と思っている人も多いと聞く。だから、夏になると浴衣姿で電車に乗って遠くに出かけてしまったりするのである。本来、「浴衣」は「入浴の際の衣」で、それが発達して「湯上がりに着る衣」になった。つまり、「浴衣」は、どんなにがんばっても、洋服にたとえるとパジャマかジャージなのである。だから本来、町内を離れて着る物ではない(花火大会や夏祭りの時なら、着ている人がたくさんいるから今は全然問題ないのかもしれないが)。
しかし、「普通の人にも手が届きそうな商品」が掲載されているのが、年に一度の「浴衣」の特集、という着物雑誌のありかたを見ていると、そういった若い人の勘違いを責められないのではないかと思う。
着物に興味を持ってくれる若い世代に着物の良さをわかってもらえるよう、着物雑誌には、着物好きの人たちのオピニオンリーダーとしてもっとがんばってもらいたい。


追伸:
着物を着こなしたいと思う人は、まずは基本である「季節」と「TPO」を雑誌や本で押さえて、あとは街で着物を「きちんと」着こなしている方々の装いを、自分の目でたくさん見ていくのがいいのではないだろうか。
私も、電車の中や街の中で着物を着ている年配の(かつ「着慣れてるな」というのがわかる)女性を見かけると、思わずじーっと目で追ってしまう。これによって「ああ、こういう時は、こういう着物にこういう帯のとりあわせでもいいんだな」というのがよくわかってくる。逆に、「きちんとした着こなし」を見なれてくると、「マナー違反の着こなし」もわかってくる。
「百聞は一見に如かず」なのかもしれない。