モラ夫と死について

夫は「葬儀」「通夜」が大好きだった。
人の死に関するコメントができる、最大のネタづくりになるからである。
（義父もそういう趣味のある人間だった）

まず訃報を聞くと、うきうきするようで、
即刻連絡を寄越し、
「香典包んでくれ。」「数珠とネクタイも用意せぇ」
と言い、そんなに親しくも無い相手でも決まって
通夜と葬儀の両方に参列した。
私も子供が預けられれば必ず同席させられた。

問題はその後である。
「オレはこういう時ホンマにええ奴や。」
「こういう機会にしり込みしたことがないし、どこへでも駆けつける。」
と自画自賛したのちに、
亡くなった人や葬儀の酷評を始めるのである。

「肺がんやったらしいわ。タバコの吸いすぎやろ。
死ぬほど吸えて本望やったんちゃうか。もうタバコ代心配せんでええな。
死んでしもたからな。」
「肝臓やて。よう飲むおっさんやったからな。
死ぬほど飲むなんてアホや。物事には加減が大事やっちゅうことを
死んでやっとわかったんちゃうか。
でもぶっちゃけ奥さんは酒代かからんようなって、絶対助かっとるで。」
「９２才やて、大往生やな。もっとはよ逝ったらよかったって皆言うとったで。
人は死んで惜しまれてナンボやのに、やっと逝ったとか言われたら最低や。
何事も逝き際が大切やろ。」
「しょぼい葬儀やったで。最期ぐらいケチるなって感じやろ。」
「豪勢な式やったけどな、花なんていくら飾ってもおっさん死んで見えへんっちゅーねん。
あんな形だけのことするんやったら生きてる間にあの花
送ってやったらよかったんや」
てな具合である。
聞いている側がどんどん気分が悪くなってくる。
夫の社内の後輩が、若い奥さんを亡くした。
子供はまだ１歳だった。
夫は通夜に遠方まで駆けつけ、
帰るなり私にこう言った。
「あんな、これだけは言うとく。お前が死んだら俺は即刻再婚するぞ。」
「なんでそんな酷いこと言うの」
「子供がかわいそうだからや。」
「本人は死んだからそれでええけど、子供の身になってみ。
だからお前が死んで４９日過ぎたらオレは次探すからな。」
「あいつこの休みあけたらオレちゃんと言うたるねん。
子供のためにすぐ再婚せえよって。」
それ以来、保険の話や、死にまつわる話題になる毎に
「お前が死んだらすぐ次探す」と私は言われ続けた。

また、私側の祖母は乳がんで亡くなったという話をしたとき夫は
「お前は乳がんになるかどうかなんて心配せんでええ。」
「お前は死んだらそれで自分は居ないんやからそれでいいやろ。」
「それより残された俺と子供たちがどうなるか考えてくれ。
家事と育児する人間がいないと一番困るのは俺やから
乳がんにならないように心がけて、なったら金かからんように
ちゃんと保険でもなんでも自分で考えろ。」

言葉を吐くときに、普通の人間というのは
「受け手の心情」を慮るものである。
言葉というのは投げてナンボではなく、受けてナンボ
だからである。
それを「投げたいだけ投げる」のがモラ人間である。
受けてくれようが、こぼそうが、
そのボールによって相手が傷つこうが
そんなことにはお構いなし。
ただ言葉を投げることに意義があるような生き方である。

どうしてそんな男と結婚したのだろう。

冬だからかもしれないが、夫に蹴られて骨折した
左側の鼻がズキズキ痛い朝がある。
ただでさえ自己否定感の強い自分を
数年間にわたり罵り傷つけ続けて、
挙句の果てに顔面骨折した男の罪を私は忘れない。