市田氏の言葉は私の心に深く深く突き刺さった。
元々、私はとても自己否定の強い、
自分に自信の持てない人間だったから、
このように、自分のとった行動によって
相手方が著しく傷ついたことや、
その友人が悶絶し、男ながらに涙を流すほどに
苦しんでいたことを知ると、
選択した自分の道を信じて歩いてもいいのだろうか?
自分が自分らしく生きることは、とても大切なこと。
けれどそれが誰かを傷つけるなら、
間違った道なのではないか?
そう思えてきた。
そう思うに十分なほど、
普段冷静で、緻密で、動じない市田さんが
激昂したことが衝撃だった。
家に戻って、子供達を入浴させて、
へなへなと座り込んだ。
私は、なんて弱い人間なんだろう。
人の意見に、左右されて、行ったり来たり。
悔しくて、情けなくて、涙が出た。
「自分はないのか?!」と怒鳴りたくなった。
私は、もう離婚することに関しては迷っては居なかった。
この結論は動くことはないだろうと確信していた。
けれど、「早く早く一刻も早く」離婚したいという気持ちは、
若干身勝手なように思えてきた。
市田氏も、夫も、
「離婚は仕方がない、でも待ってくれ」
と口を揃えて言っている。
もし、確実に離婚ができるのなら、彼が納得行くまで
時間を置いてあげて、その後話し合いをしてもいいかも知れない。
そういえぱ、川崎社長も、前回の面談のとき、
「じっくり考えて、冷却期間を置いて」と話してくれた。
私は、なぜ急いでいるのだろうか。
早く離婚して、どんなメリットがあるというのだろう。
果たして、今すぐ別れることと、
「待つ」こととでは、どのような違いが想定されるだろうか。
私は、じっと考え込んだ。
そもそも自分で人生の決断をしたことがない人間である。
流されるままに、「あ、それでもいいよ」という感じで、
ランチのメニューを決めるときのように
人生の選択をしてきた自分だから、
私は、重大な決断をすることに全く慣れていなかった。
でも、考えなきゃ仕方がない。決断しなきゃ仕方がない。
迷って膝を抱えている場合ではない。
私は、市田氏の電話まで、
次々と「内容証明」→調停申立と、
矢継ぎ早に行動することしか考えていなかった。
一日も早く離婚したいと思っていた。
そうでなければ、どんどん離婚が遠のく気がしていた。
そもそも、営業マンだったから、長年の癖で
「早く捺印をもらわなければ」そんな使命感があって、
早く離婚してもらわなければ、と思っていた、
それも原因の一つだったかもしれない。
また、夫の姓を名乗っているのが長引けば長引くほど、
自分が損するような気がしていた。
早く旧姓に戻りたい、戸籍上、夫の妻で居たくない、と思っていた。
また、離婚しなければ、母子家庭の補助が受けられないことも、
大きく影響していた。
保育園への支払いは、離婚すれば二人分の54000円がすべて無料になる。
また、児童扶養手当と、児童手当が合計57000円もらえるから、
合計11万の違いがあった。
また、保険証も、夫がうつ病を理由に、私に寄越さないことが多く、
そのため、子供達が病気になるたびに、お金を立替えて、
保険証を夫が渋々渡してくれたときにようやく清算するようにしていた。
医療費も、母子家庭になれば、全く要らないようになる。
それらを考えると、やはり別居状態を続けることに、
全く意味がないと思った。
逆に、待ってあげるとして、
待ったことでお互いにいいことはあるのだろうか。
長年連れ添った夫の心を思いやれば、
今ショックで荒れているというならば
待ってあげたならば、少しでも
彼のショックが和らぐだろうか?
私の評判が良くなるだろうか?
答えは明白で、NOだった。
彼が結論を現実として受け止めなければならないということは、
時が経過しても変わらない。
どんな道をたどろうが、離婚と言う結論は出ているのだから、
先延ばしにして良いことなどひとつもない。
また、私の評判など、夫の周囲ではすでに、
地に落ちていただろう。
現に上司やら取引先や親友から、私は散々批難されていた。
10年勤めた会社だけれど、積み上げた信頼も
きっと夫によりばらばらに潰されていただろう。
それでも、そんなに夫が弱っているのなら、
周囲に迷惑をかけるのなら、
少し待ったほうがいいのではないか。
・・・どうしよう。
せっかく拳を握り、「もう、迷わない!」「戦う!」と決意したくせに、
もう、にわかにその気が失せて、
ふらふらと座り込んでいる自分が、ただ情けないと思った。
もどかしかった。
困ったときの、
Sさん頼みだった。
ネット上の友人であり、メンターである彼女に、
また私は答えを求めた。
彼女の答えはいつも簡潔で、的を得ていた。
私は私の心の奥底に詰まったものを
いつもすべてさらけ出し、教えを乞うた。
負担になっているだろうかなどと、
あの頃の私には、考える余裕は全くなかった。
とにかく、自分が立ち上がるために、彼女が必要だった。
だからいつも必死で、手を伸ばした。
メールの返事が来た。
「時間が経てば経つほど、
あなたがDVを受けた事実より、
夫のうつ病の事実の方が大きくなり、
まっち~が不利になる。
迷わず、法的にガンガン行くべし。」
また、極めて簡潔で的を得た答えだった。
そうか、このまま時間が経てば経つほど、
私は不利になる。
ここでようやく、私ははたと気付かされた。
夫は脱出より今まで、持てるあらゆる「駒」を利用して
私を詰めてきているのだ。
夫は、随分前から、詰め将棋で私をじわじわと追い込んでいたのだ。
最初は手紙という戦略。次に絶食して心配をかける。
電話での攻略、脅し、すかし、泣き付き。
姉からも電話があったし、
知人、友人、上司をフル活用して私に刺客として向かわせ、
うまくいかなくなると、うつ病に逃げ、診断書を取得した。
夫は最初から、戦いの中に居たのだ。
なのに、私は、
精神的地獄に居たり、トラウマに苦しんだり、
アダルトチルドレンの渦に飲まれたり、
夫との人生と、母子家庭の人生について考え悩んだり、
好きだ嫌いだと花びらを千切るように過ごしたり、
子供のことで悩んだりしていた。
夫が合理的に戦略的に私を責めてきていたのに対して、
私は用意周到に脱出したにもかかわらず、その後は
極めて情緒的に、感情的に、
その場しのぎの対応しかしてこなかったのである。
そしてウロウロウラウラと時を費やし、
すでにその時点で別居後半年も経過させてしまっていた。
市田さんの奥さんとは、二人で子育てしてきたのだから、
一生友人で居ると思っていたし、
ご主人である市田氏は、夫の親友だから、
ずっと一生友達でいられると思っていた。
けれど、私の脱出により、
うまく付き合いながら離婚など、
もうできる状況ではなかった。
捨てなければならない人間関係ならば、捨てざるを得ない。
最初は4人で、子供達ができてからは8人で、
ずっと楽しく過ごしたたくさんの思い出は、
・・・どうしてももうこれ以上積み重ねることはできない。
離婚によって、失う事柄の数々を指折り数え上げれば、
きりがなく、新たに得られることの方が少ない気がした。
離婚して、3人での生活が始まったところで、
私は幸せなんだろうか?
3人きりの、周囲に知人の居ない生活を思った。
夫も、隣人も、ママ友も、義父母も、
7年掛けて築き上げた人間関係の全てを、私は捨て、
夫も、隣人も、ママ友も、義父母も誰も居ない世界で、
生活を始めるのだ、と思った。
ぞくっ、とした。
3人ぽっちで、広い世界の真ん中にぽつんと取り残されたような、
酷い焦燥感と孤独感に苛まれる。
怖い、と思った。
でも人生、たとえ失うものが多くても、
決断しなければならないときがある。
想像できない未来が怖くても、
進まなければならない時がある。
それがまさに、この時だった。
私はまた、涙を拭き、フラフラと立ち上がった。
泣いている場合ではない。進まなきゃ。
私は、自由を手に入れて、幸せになる。
絶対に、子供達を幸せにする。
自分に言い聞かせるように、
おまじないをかけるように、
自分を抱き締めて眠った。
翌日、私は自分のアドレス帳の中から、
友人である山田弁護士の電話番号をピックアップした。
そしてジャスト9時、
電話をかけた。
↓皆さんのお陰で2位になりました☆ありがとうございます☆
↓とても的を得てると思います。
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↓夫の本棚にあった本。どんな本やねん・・・
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離婚という重大な選択をしようとする人間に、どちらか一方の様子がひどいからといって、もう一方に電話で激昂するなど笑止千万ですね。
つくづく、元夫さん、いろんな人を操ってますね。
離婚を待つことでまっち~さんが不利になると見抜いたSさんはさすがです。
どんなに有利に思える事実も、時間が経てば色あせていく。
これであちらの言う通り何年も待った挙句に離婚手続きを始めていたら
「いつまでも昔のことを錦の御旗のように掲げて」
などと非難されていたのだろうなと思います。
ところで、元夫さんの本棚にあった「セカンドチャンス」、これ、アメリカでは離婚後の子どもたちを長期に渡って(20年以上)追跡調査したことで、有名な方の本なんですよ。
確か、最初の調査は1970年代初めだったんじゃないかな。
この著者は研究の結果として、離婚は子どもに対して大きなダメージを与えると言っています。
だから、離婚を避けたい元夫さんの本棚にこの本があったのも、納得。
ただし!
アメリカでもまだ離婚やステップファミリーが一般に受け入れられていない時代からの調査で、養育費や面会などについてもあいまいな時代の話なので、この研究を盾に「子どものために離婚はよくない」などと言い出すモラ夫がいたとしても、笑い飛ばしてあげましょう。
私は「こういう状況は子どもに害があるから避けるべし」という読み方をするための本だと思ってます☆
これが簡単にできないんだよねぇ~
思い切って捨てると~思ってより簡単ですがね......
本当に感動しました。
その強さはきっと子供たちにも
伝わりますね。
本当に素晴らしいことです。
Sさんの一言…すごいですね。私も読みながら、当時のまっち~さんのように、「うーん。待つべきなのかなぁ」と思わず悩んでしまったので。けど、先のことまで見通したSさんには、本当に感服しました。
まっち~さんの幸せを、こころから願っています。