LIFE is PHOTO Masa Takahashi

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現代地方譚Ⅳ アーティストインレジデンス須崎

2016年11月27日 | アート

 現代アートは、「理解」という言葉で判断してはいけない、ということを知った。

 

高知県須崎市の「すさきまちかどギャラリー」を拠点に開かれている

「現代地方譚Ⅳ アーティスト イン レジデンス須崎」を観て、

そう確信を持った。

 

「理解できるかできないか」で、現代アートを観ようとすると、

作品を眺めることよりも、作家の解説を読むことに気をとられ、

解説にならんだ難しい言葉を、脳内で自分の使い慣れた言葉に置き換え、

翻訳していく作業に追われてしまう。

しかも、翻訳が終わったあと、その解説と作品を「理解」できたのかといえば、

それは、はなはだ怪しい。

 

今回の現代地方譚は、すさきまちかどギャラリーのほか、元銭湯、元耳鼻科、海岸、須崎駅前の空き地で

開かれている。まちかどギャラリーの作品を観ながら、「理解」する努力した結果、

たった30分ほどで、疲れ果ててしまった。

このままでは、他の会場を観て回る気力が失せてしまう。

そこで、「理解」をきっぱりと、頭から捨て去ってみた。

分かろうとしなくていい。

いや、そもそも分かるなんて出来ないのだから、

その努力をするだけ無駄なのかもしれない。

 

缶コーヒーを自販機で買い、

タバコに火をつけて、散歩のつもりで、元銭湯に向かった。

そこには、竹花綾さんの上の作品があった。

街や浜辺で拾われてきたであろう材木やトタンや網が、

絶妙な間隔で、元銭湯のタイル貼りの床や浴槽に置かれている。

どこまでがこの銭湯にそもそもあったものなのか、どれが意図的に置かれた作品なのか、

一見すると判別できない。

この板は作品で、ここの鏡は元々あったもので、じゃあこの埃の積もったたらいは・・・

「理解」を捨てたはずだったのに、またも「理解」の罠にはまりそうになってしまった。

どれが作品でどれか元銭湯の名残なのか、この作品を見る上で重要ではない。

アーティストインレジデンスとは、須崎そのものをアートと化すための、アートイベントなのだ。

そうすると、街と作家の融合がこの作品なのだ。

竹花さんは、あえて、作品と名残の境界を曖昧にしているのではないか。

 

床に坐り直し、缶コーヒーを飲みながら、

この銭湯がまだ現役だったころに思いを馳せてみた。

冬の凍えるように寒い海から、漁を終えて戻って来た漁師たちが、
湯船につかり、「あぁ、生き返ったわ」と声にしたかもしれない。
 
夏。近くの海岸で泳いでいた子どもたちが、
体を洗うのもそこそこに湯船につかろうとして、
おんちゃんに怒られたかもしれない。
 

ちゃぽーんと湯船に水が滴る音が、男湯に響く事は、もう二度とない。
時代の変遷。この旧市街地にまだ活気のあった時代。

すこしおセンチな気分になりながら、竹花さんの作品をあとにした。

銭湯を出たとたん、自分の感覚が、作品を観る前と後で、

少し変わっていることに気がついた。

街がアートに見えるのだ。

なんでもない電線に止まった無数のムクドリ。

カンカンカンと遮断機が降り、

アンパンマン列車が横切っていく。

 

 次の目的地。富士ヶ浜までの道中が楽しいこと、楽しいこと。

右に左にカメラを向けながら、ぶらりぶらりと、街を歩いた。


たどり着いた富士ヶ浜で、衝撃を受けた。

KOSUGE1-16と読み方のわからない作家さんの作品「fate」

 

浜の草の生い茂る一角にぽつんと置かれた作品。

寺田寅彦の随筆「嵐」が、この浜で拾ってきた石や板、トタンなどに書かれている。

ただそれだけなのに、何の予告もなく、突然と現れた映画のクライマックスを見たような

高揚感に包まれた。

 

浜辺に腰をおろし、タバコに火をつけ、コーヒーを口に運び、

心を落ち着けて、「嵐」全文を読んだ。

嵐は、寺田がここで病気療養をしていた明治34年ごろに書かれた随筆なのに、

まるで、いま、ライブで書かれたのではないかと思えてきた。

随筆の登場人物「熊さん」が、いまにもそこを歩いてきそうだ。

明日は天気が荒れるらしい。

熊さんのバラックが飛ばされないか、心配になってきた。

 

熊さんは現れなかったけれど、

浜では、高校生だか中学生だかが、楽しそうに遊んでいた。

 

アートは理解ではない。

アートは刺激なのだ。

竹花さんの作品が、KOSUGE1-16さんの作品が、

僕にシャッターを押させてくれた。

 

 
 
 現代地方譚も残す会期は、あと2日。
30日までですので、ぜひ足を運んでみてください。
まちかどギャラリーは月曜休館です。

 


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