前回のお便りは11月1日の「リンゴジュース」でした。次回は「ヤギミルク」についてのお便り、と思ってからもう半月以上もたってしまいました。ま、私のお便りはこんなものですがよろしくお願いします。
「ヤギミルク」については後日ということで、今日は小さな町の小さな美術館のお話です。
この美術館については以前にもお便りしました。
名称は『信州新町美術館』といい、2年前に長野市と信州新町が合併したのに伴い『長野市立博物館分館 信州新町美術館』になりました。ここには『有島生馬記念館』『化石博物館』が併設されています。
http://www.ngn.janis.or.jp/~shinmachi-museum/index.html
ちなみに美術館の多い長野県(※)ですが長野市立美術館としてはここが唯一です。
※ 全国1,101軒中、長野は約10%の107軒。2位は山梨で29軒でダントツです。ちなみに人口10万人当たり4.92軒で、2位の山梨は3.33軒。
で、今回はこの美術館の開館30周年記念特別展『水彩画の現在 ~日本水彩画会 創立100周年を迎えて~』という展覧会が開かれています。もちろんこの美術館の所蔵作品も『みずゑの魅力展』として展示されています。
期間は10月5日から平成25年の2月3日まで。日本水彩画会が後援していて、絵の好きな人にとってはなかなか見ごたえのある展覧会です。私も1回では見きれないので何度か行く予定をしています。
もし遠方から、というならぜひ『さぎり荘』 に泊まって温泉に入り、サフォーク(ジンギスカン)を食べてゆっくりと絵を見るなんていかがですか(ここのサフォークはこの宿でしか食べられない新町産です。これが柔らかくてホントに美味い!ビーフよりいいかもしれない。普段私が食べているのはオーストラリア産ですが、特別なときにはここまで買いに来ます。なにしろ新町産はここでしか手に入らない)。
えらい広告っぽくなりました。
さて本題に戻ります。
で、今日の13:30から『日本水彩画の歩み~明治から今日まで~』という講演会があり参加してきました。講師は渋谷区立松濤(しょうとう)美術館の瀬尾典昭氏。版画と近・現代水彩画を研究、専門としている方で上梓もされています。
いやいや驚きました。参加者が多く、収容約50人の会場が満員でした。
この講演でいろいろ学びました。
幕末から明治中期までの黎明期、明治後半から明治末までの水彩画家の研究団体の結成や専門雑誌『みづゑ』の創刊による本格的な展開の第1期、第2期は個性の時代とされる大正全期、第3期は大正末から終戦までの変革の時代、そして戦後から現在までの第4期。
特に油絵への対抗意識とコンプレックスから脱却し、水彩画独自の美の追求と表現方法の確立に至るまでの過程では、各期数人ずつの画家の絵をプロジェクターに映しながらの説明で、その変遷が実にわかりやすく面白いものでした。あのイギリスのターナーから日本での先駆者大下藤次郎、石井柏亭、珍しく水彩で描いている岸田劉生の「紫色毛糸洋服着たる麗子坐像」等々を説明付きで鑑賞できたのは、勉強はさておき実に贅沢なひと時でした。
こうした水彩画の移り変わりを見てみると、なるほど絵は「近代的」(説明は難しい!)に変わってきているのがよくわかる。初期の大下藤次郎の絵よりも古賀春江や中西利雄『婦人帽子店』、三橋兄弟治のほうが私にはしっくりとくる。
水彩画は東京から横浜次いで長野へと広まった。
明治初期中期といえば信濃の国は他国とは高い峠に阻まれた、まだまだ奥深い山国と言われていた頃にもかかわらず、です。
その理由として考えられるのが、信州の山河の風景が美しく空気感も透き通っていて、それにひかれた画家、特に水彩画家が訪れるようになって地元住民との交流が生まれた結果だとも言われています。
こんな小さな町のこんな小さな美術館。身近にある幸運を実感しています。
追伸
日本水彩画会の展覧会、これは見ものです。ぜひお勧めします。
ちなみに私は油彩をほんの少し勉強したことがあるので、水彩にはあまりなじめなかったのですが、「違うもの」として考えた方がいいように思いました。
小さな美術館といえば青森のリンゴ農家だった農民画家常田健の「土蔵のアトリエ美術館」。リンゴの花に咲き包まれる頃、行ってみたいなぁ。