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ときどき旅、いつでも変わらぬジャニーズ愛

「コール」(ネタバレなし)

2009-02-23 | 観たものレビュー
映画「フォーンブース」をベースに、舞台をNYから新宿歌舞伎町に置き換えて脚色した舞台なので、映画を知ってる人にはネタバレなしもないのだが、これから大阪公演をご覧になる方もいらっしゃると思うので、あえてネタバレなしとします。


今では、都心でもほとんど見かけることがなくなってしまった「公衆電話ボックス」を舞台の中心としたこの芝居。
昨日の日記で、この日本の舞台発で他の国でもリメイクされても面白いんじゃないか、ということを書いたのだけど、これから数年後、公衆電話ボックスが地上から消えてなくなってしまったら、成り立たない芝居になってしまうのだと後から気づいた。
となると、これは電話ボックスの存在を知っている人々がいる今が旬の舞台ということになるのかもしれない。

雑踏の中にありながら、そこから遮断された完全個室の世界。
携帯電話がこれほど普及するまでは、誰もが気軽に使っていた公衆電話ボックス。
だが、話しながら自由自在に動ける携帯と違って、備え付けの受話器を手にしたらそこから身動きが取れない場所でもある。
そのマイナス面のシチュエーションに気づき、独特な密室サスペンスの場としたこの作品の原作の発想はじつに素晴らしい。
そして、緊迫感とスピード感にあふれた舞台演出は、本来ストーリーの部外者である観客をも引き込んでしまう。
主人公の危機を目にして小さな悲鳴があがったり、芝居の展開に思わず息をのんだりこらしたり。そんな感情の吐露が客席にあふれ、しかもそれがとても自然な感じだった。舞台のライブ感をこれほど肌で感じることは滅多にない。

それにしても、主役が決められた場所から動かない芝居というものほど、難しいものはないだろう。
動きも制約されるし、観客の視線もそこに一点集中しやすい。
そんな状況で長時間、一度も舞台袖に下がることなく、舞台に立ち続けるには相当の集中力を必要とされる。
最初から最後まで舞台に立ち続けるという点では一人芝居と似ているが、一人芝居と違い、対話の相手がいることで芝居は自分のペースだけでは進まない。芝居が動き出したら幕が終わるまで止まらない、そのノンストップ感はかなり強いだろう。

膨大な台詞。
狭い空間での演技。

目の前に突きつけられたハードルを乗り越えて舞台に立つ小山慶一郎と、見えない敵に振り回されながらなんとかその状況を脱しようとする男の姿がダブって見える瞬間が何度もある。
そして気づかされるのだ、登場人物たちが抱える欲望も見栄も卑屈さも葛藤も悩みも苦しみも、多少の違いこそあれ私たちも同様に持っているものなのだと。
自分を少しでも良く見せたい、相手より優位に立ちたい
物心ついた頃から近くの他者と比較され、常に競争社会を生きてきた私たちは、そういう感情と決して無縁ではいられない。
自分に正直に生きるということがどれほど難しいことか。

大衆の面前で恥をさらされ、本当に愛する人を苦しませ、己の中のわずかなプライドを根こそぎ取られる主人公。
しかし、それが何だというのだろう。
嘘に嘘を塗り重ねていままで生きてきたのは、己のつまらないプライドを守るため。だが、そんなものは、大切な誰かの命を守りたいという思いの前では、守るべきほどのものではないのだ。
舞台終盤、主人公が愛する妻や大切な人たちに向かって語りかける真実の言葉に、瞼の裏が熱くなった。美辞麗句で飾り立てた偽りの言葉より、心に響いてくるのは、ありのままの本音での語りかけなのだ。

ラストのシュールなオチも含めて、最初から最後までライブ感にあふれた、見応え十分な芝居だった。


あとはね、やっぱりキャスティングが最高だったと思う。
主演のけーちゃんは言うまでもないけど、去年の「ロス・タイム・ライフ」と比較しても、舞台上での存在感が一段と増してたし、舞台の隅々までよく届く声も素晴らしいって思った。
何より動きや台詞の言い回しがとても自然なんだな。まあ本人が「チャラ男」だから、素で演じてる?(笑)からかもしれないけど。でも、チャラ男なのは見た目だもんね、けーちゃんはあそこまでヤなヤツじゃないよね。
でも、自然とは言っても、ちゃんと舞台向けの動きになっているのがすごいんだよね。
舞台は最上席の一番上の人にも、感情や動きが見えないといけないわけじゃないですか。映像ではアップで拾ってもらえる表情や微かな動きも、舞台ではそんなものはないわけですから。
あ、でも今回はちょっとライブ的な趣向で、バックのスクリーンにけーちゃんの表情がアップで映されたりするので、2階席や3階席の人たちの方がマルチで楽しめるかもしれないですね。
私もそうだけど前列の方はスクリーンがちょっと見えにくかったな。

とにかく、動きを大きく見せながら自然に振舞うってけっこう難しいと思うんだけど、ホント上手かったなあ。

けーちゃんの奥さん役の野波さんも品があって綺麗だったなあ。
ある人の台詞の中に「2人で並んでると絵になる」っていうのがあるんだけど、スリムなけーちゃんと2人並ぶと、ほんっとに絵になってた。
ああいう気が強い仕事が出来る女の人って、自分とは真逆な相手にクラッときたりするんだよね。説得力のあるカップルだったな(笑)

草刈正雄さんの存在感とカッコよさはあえて言うまでもなく…個人的には宮崎吐夢さんが出ているのがツボやったあ。
あの緊迫した空気を一瞬でも緩める役割を果たしてくれてて、観ているこっちも緊張を持続させないで済んで助かりました。


えーと、ネタバレなしのつもりで書きましたが、「これってネタバレじゃん!」って思わせてしまったらスンマセン。
個人的な基準が違ってたってことで、どうぞご容赦ください。
くれぐれも「コール」などしないでくださいね(笑)