Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

盲獣

2008-02-23 | 日本映画(ま行)
★★★★★ 1969年/日本 監督/増村保造
「ドラマティック・エロス」


実にインパクト大。江戸川乱歩の作品は、今なお多くの映画化が続いているけれど、おそらく人々が一般的に乱歩作品から嗅ぎ取るのは「淫靡」や「倒錯」のムードだと思う。しかしながら、増村保造の描く乱歩は隠されたエロスというより、むしろ実にストレート。鷹揚としたセリフ回しと異常な世界を斜め目線ではなく真正面から描く演出は一度見たら忘れられない強烈な印象を残す。それは同じく耽美的エロスの世界を描いた「卍」にも言えるかも知れない。

やはり、見どころは、肉体のオブジェたち。女の目や耳や鼻、そして乳房をかたどった彫刻が所狭しと並べられた密室で、緑魔子と船越英二がくんずほつれつの死闘(笑)を繰り広げる様がとにかく強烈。どでかい乳房の谷間にすがってむせび泣く船越英二の演技は必見。目がイッちゃってます。こんなに奇妙な役をくそまじめにやっている船越英二は演技がうまいんだか、ヘタなんだかさっぱりわからない。

この目や鼻、乳房にまみれた彫刻の部屋、今の美術スタッフが再現したら、こういう部屋にはならないような気がする。おそらく、もっとオシャレな感じに仕上がってしまうんではないだろうか。しかし、この荒削りな美術セットだからこそ、先にも述べた大真面目な演出にぴったり合っていて、独特の世界観を作り上げている。

盲人に捕らわれ、体中を触れられているうちにいつしかアキもこの密室空間の異様な世界に魅入られてしまう。お話としては、かなり変態的ではあるけれど、やはりそのドラマチックな演出ぶりに時折笑いがこみあげてくることすらあって。その辺がとても増村監督らしい。しかしながら、乱歩作品を一種の芸術やお高くとまった前衛的作品として仕上げるよりは、よほど本質を捉えているような気がする。

しかし、ドラマチックな演出によって作品全体がベタでB級なテイストに満ちているか、と言われると、これまたそうでもないのが増村作品のすごいところ。冒頭の緑魔子のポートレートなんかとってもクールだし、演出だけではなく画面の構成、切り取り方で観客の目を引きつけるテクニックがある。数ある乱歩作品の中でも、実に異彩を放つ作品だと思う。