Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

スウィング・キッズ

2020-12-28 | 外国映画(さ行)
★★★★ 2018年/韓国 監督/カン・ヒョンチョル

ファッキン、イデオロギー。本当にそうだよ。音楽に、ダンスに人は等しく熱狂し、エモーションを共有しあえる存在なのになぜその愚かな行為を繰り返す?タップシーンの凄さに息を呑みスタオベしたも束の間、訪れる悲劇。悲惨な現実を突きつけつつ、見事なエンタメに昇華した1本。

ただ…。前半部のベタなコメディ演出。緩急のつけ方として作り手が意識的にやっているのは承知だが、自分は好みじゃない。サニーもその辺がノレなかったところで。あれをなくすと映画の個性が失われるのかもしれないが、やはりそこは好き嫌いの範疇ということになるだろう。

家族を想うとき

2020-12-27 | 外国映画(か行)
★★★★☆ 2019年/イギリス 監督/ケン・ローチ

何度も繰り返される「俺の責任」と言うセリフ。もはや個人の努力ではどうにもならない経済構造の歪みを突きつける。たくさん働いても稼げない。むしろ働くほどに行き詰まる生活。そんなバカな。誰しも静かな憤りを感じずにはいられない。傑作。

この家族の暮らしぶりがドキュメンタリーのようにリアルで、特にある事件の真実が発覚した時の夫婦の愕然としたリアクションが本当に演技に見えなくて鳥肌が立った。配送会社の主任マロニー。彼も忠実に自分の仕事を全うしている側の人間だが、サム・ライミの「スペル」なら地獄に引きずられる方だな。

幸せへのまわり道

2020-12-26 | 外国映画(さ行)
★★★★ 2019年/アメリカ 監督/マリエル・ヘラー

取材する側が取材される側の導きによってヒーリングされるという実に奇妙な話。何度もインサートされるジオラマや番組内ミュージカルなど、一体自分は何を見せられているのだという感覚に。映画の語り口は無限ということを知らしめる。ハートフルな感じかと思ってたら全然違う。

怒りを抑えるにはどうすればいいか。聖人君子みたいなフレッドも欠落があり、良く生きるための努力をしている。それしてもだ。トムハンクスのあの作り笑顔が頭から離れない。フレッドの複雑な内面を感じさせるトムハンクスの演技が味わい深い。

ナイチンゲール

2020-12-22 | 外国映画(な行)
★★★★ 2018年/オーストラリア・カナダ・アメリカ 監督/ジェニファー・ケント

19世紀の豪州タスマニア。強姦され夫と赤ん坊を殺されたクレアはアボリジニのビリーを案内人に復讐の旅に出る。極限状態における人間の醜さを容赦ないバイオレンス描写で描く。社会の除け者同士が友情深めるバディものとか思ってると強烈なビンタを食らう。壮絶の一言。

アイルランド流刑囚にアボリジニの虐殺。よくぞまあ、イギリス黒歴史にここまで切り込んだもんだ。また、クレアが見る悪夢はまるでホラーのような禍々しさで、さすが「ババドック」の監督と思い至る。それにしても美青年サム・フランクリン、最近嫌な奴の役が多くて少し気の毒。

マ・レイニーのブラックボトム

2020-12-21 | 外国映画(ま行)
★★★☆ 2020年/アメリカ 監督/ジョージ・C・ウルフ

ほぼ地下のリハ室で展開するミニマムな構成。黒人差別の現実をラップのように畳み掛けるセリフの応酬で魅せる。チャラ男のようで心に闇を抱える男をチャドウィックボーズマンが好演。レコーディングという短い時間内に差別の根深さ、やり切れなさを凝縮させた1本。

ビオラデイビスのビジュアルがあまりにインパクト大きく、完全に音楽映画だと勘違いしていた。これから見る人は戯曲の映画化ということを知っておいた方がいい。例えば「真夜中のパーティー」などが近いスタイル。個人的には音楽を扱うなら、ライブシーンなど動きのある映画的な作品の方が好みだな。



2020-12-21 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2018年/日本 監督/武正晴

偶然銃を拾った大学生のトオルはいつか誰かを撃つのだという強迫観念にとらわれる。トオルはいつ、誰に銃口を向けるのか。モノクロの映像が緊張感を増幅させ、ついに訪れるその瞬間の映像的な変化が見る者に強烈な余韻を残す。まるでATGのような“今”の邦画の手触りとは全く異なる作風にやられた。

主人公トオルの人物造形が実に魅力的。武器を手に入れた虚無感は太陽を盗んだ男のジュリーみたいだし、友人を見下したりガールフレンドを弄ぶニヒリストっぷりは若い頃の仲代達矢みたいだし。そんな複雑なキャラを見事に演じる村上虹郎恐るべし。しかも待ちに待った村上淳との共演があれ。食らった。

本作でもリリーフランキーの得体の知れなさが炸裂。この空気感は誰にも真似できない。彼が出るとそこからもう物語世界が歪むというか、異なる位相に行ってしまう感じ。やはり、リリーフランキー出演作品は見逃せない。

ザ・モーニングショー

2020-12-20 | TVドラマ(海外)
★★★★☆ AppleTV

人気アンカーがセクハラで降板。激震に見舞われる報道局。誰が後釜に座るのかの椅子取りゲーム話かと思いきや、セクハラを容認していた組織のあり方に容赦なく斬り込み、一人のセクハラは周囲の全ての人間に不幸にすると突きつける。Me Tooのその先にアプローチした問題作。

Me Too一波で告発された奴はクズだが、俺のような二波組は、とばっちりと主張する男(スティーヴ・カレル)。セクハラを知りつつ、男社会で勝ち取った今の座を手放したくない女(ジェニファー・アニストン)。主張が強く、正義感を振り回す地方局キャスター(リース・ウィザースプーン)。人物配置が絶妙。

組織内の足の引っ張り合いもえぐい展開だし、セクハラ告発の行方もきゃっきゃと楽しめる娯楽印では全くない。ただ、旧世代女性から新世代女性への継承とか、社内恋愛までセクハラになるのかとか、非常に多角的な切り取り。ドラマのカタルシスがほぼないという割り切りが凄い。それだけの野心作と思う。


黒い司法 0%からの奇跡

2020-12-19 | 外国映画(か行)
★★★★ 2020年/アメリカ 監督/デスティン・ダニエル・クレットン

アラバマ州、無実の死刑囚を救うため若き弁護士が立ち上がる。映画的には「白人憎し」な演出にした方がドラマチックで溜飲も下がるが、それを極力避けているのがいい。よりフォーカスされるのは人権。誰かの都合や主張のために生きている人など一人もいない。予想外の良作。

黒人間の格差がテーマになっていたブラックパンサーでキルモンガーを演じたマイケルBジョーダンが信念の弁護士を演じているのが味わい深い。そして、こんなにいいジェイミー・フォックス久しぶりに見た。社会に見放された男の孤独と諦念を見事に表現。これ賞レース来るでしょってくらい良かった。

しかし邦題がわけわからんのは、どうにかならなかったのかなあ。原題はJUST MERCY。黒い司法って何だよ。

Mank/マンク

2020-12-17 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2020年/アメリカ 監督/デビッド・フィンチャー

Mankはなぜ市民ケーンを書くに至ったか。市民ケーン同様の語り口と映像を駆使して描く。フェイクニュース、クリエイターの矜持、創作物は誰の物か。まさに大統領選あり、映画館の行く末危ぶまれる2020公開に意義を持つ1本。映画創作を問う作品がNetflix出資という皮肉までが構成要素だ。

市民ケーンの背景について知らないと、何の事かわからないシーン多数。それは一部ファン向けというより、市民ケーンを通じて映画創作のの危機感をあぶり出す目的だろうか。出資者と配給会社が公開を牛耳る様子はコロナで来年公開作が揉めに揉めている現状と気味が悪いほどに重なる。

市民ケーン

2020-12-15 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 1941年/アメリカ 監督/オーソン・ウェルズ

Mank見る前に復習。

新聞王ケーンの波乱万丈の人生を描く不朽の名作。久しぶりに見たが、語り口のうまさに感動。特にシーンの繋ぎ方。シーンの切り替え時に心情の変化や時の経過が即座にわかる。パンフォーカス、ロングテイク、CG合成。誰もやらなかったことがここから始まった。まさに映画作りの教科書。

火口のふたり

2020-12-14 | 日本映画(か行)
★★★★☆ 2019年/日本 監督/荒井晴彦

柄本佑と瀧内公美、2人だけの世界を堪能。震災への負い目。子を産みたいという女の本能。ラストの賢治のセリフ。欲望のまま体を重ねているように見え、命を授かるという性行為の本来の意味に返っていく展開に胸を打たれた。風力発電を背景にしたふたりのラストシーンがとても美しい。

中盤明かされる二人の関係。そして予想外のラスト。原作未読だったのでこの展開は驚いた。エンドロールを見て女性スタッフが多いなと思っていたが、やはり意図的にそうしていたようで安堵した。裸のふたりを撮影したモノクロームの写真がすばらしくいい。カメラマン野村佐紀子。写真集欲しくなった。

レ・ミゼラブル

2020-12-14 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★☆ 2019年/フランス 監督/ラ・ジリ

パリ郊外、モンフェルメイユ。黒人少年がある物を盗んだことから街は一触即発の事態に。刻一刻と変化する事態を臨場感たっぷりに伝える手持ちカメラ。一寸先は闇。高まる動機が抑えられない。子供達にとって現実はあまりに無情。守られるべき側から当事者になるしかない過酷な現実。

シェルブール(!)から異動の警官ステファンを相棒が街案内していく語り口がうまい。我々もステファン同様、警察の横暴やマフィアの癒着に面食らう内に事件が勃発、完全に住民目線で事態を眺めることになる。そして腐った男達にも人の心がある事をチラリと見せるのが憎い。2020年最もズシンと来た。

エノーラ・ホームズの事件簿

2020-12-13 | 外国映画(あ行)
★★★ 2020年/アメリカ 監督/ハリー・ブラッドビア

謎解きも中途半端だし、冒険譚も中途半端。女性の自立を盛り込みたすぎて、全部が中途半端。失踪した母がHBカーターで「未来を花束にして」とほぼ同じ役だけにそこの掘り下げ期待したじゃん。あと視聴者に話しかけ過ぎな。この演出好きじゃない。やるなら1回でいい。

ボディガード 守るべきもの

2020-12-13 | TVドラマ(海外)
★★★★☆ 2018年 BBCドラマ

BBCで大人気だったドラマをNetflixで観賞。とにかく密度が濃い。テロ対策で政治、警察、MI6がくんずほつれつの駆け引きを行う中、毎回事件が起き、凄まじい緊張感が続く。しかも重要人物が中盤に死亡、ラストはそう来たかのどんでん返し。ポリティカルサスペンスの大傑作。

開始早々の自爆テロ犯逮捕劇から、こりゃとんでもなく面白いぞを確信。そしてアフガン帰りのボディガードを演じるリチャードマッデンが魅力的。主人公を取り巻く上司がみな一癖ある女性で、劇中何度も出てくる「Yes,Mom」(女性上司なので「Yes,Sir」ではない)のセリフがいかにもイギリスドラマの風情。

Red

2020-12-11 | 日本映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2020年/日本 監督/三島有紀子

商社マンの夫、可愛い娘。何不自由ない暮らしの主婦が昔の男と再会する。手垢のついたネタである。安い不倫映画になりそうなものだが、全編吹きすさぶような寂寥感を漂わせ、孤独な男女の逃避行として魅力ある作品になっている。不倫のゲスさを極限まで削ぎ落とした三島監督の手腕が光る。

再会シーンの妻夫木聡の色気がすごいよ。ふわっとカーテンの隙間から現れて。あれはエロい妻夫木をお見せします!という宣言だ。無愛想でミステリアス。SEXシーンもリアル。妻夫木聡、惚れ直した。同僚を演じる柄本佑、夫を演じる間宮祥太朗。演技巧者が抑えた演技で作品の質をさらに高めている。