Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

私というパズル

2021-03-26 | 外国映画(や・ら・わ行)
★★★★ 2020年/カナダ・ハンガリー・アメリカ 監督/コーネル・ムンドルッツォ

冒頭の出産シーンがそれはそれは壮絶で主演女優のノミニーも納得。しかし、自宅出産で子を亡くした女性の悲しみがメインテーマだが、その裏にあるのは母と娘の確執。このドラマ部分が非常に弱い。醒めていく夫との関係も深掘りが足りない。凄まじい冒頭ゆえに却って後半失速の印象。
ダメ男、シャイアラブーフはダメっぷりが流石の演技。(褒めてる)

獣の棲む家

2021-03-25 | 外国映画(か行)
★★★★ 2020年/イギリス 監督/レミ・ウィークス

スーダンの難民夫婦。英国政府に家を提供されるが怪奇現象が次々と起こる。 呪われた家ホラーの仮面を被った社会派。静かでアート作品のような佇まい。そして徐々に明かされる夫婦の秘密。生きる事を選択した人の苦悩が胸に迫る。ダルデンヌやケンローチを見た時のような余韻。

なぜ怪奇現象が起きるのかという興味を、この難民夫婦の秘密へとスライドさせる技法が見事。ドラマチックに見せない非常に抑制の効いた演出で、夫婦が抱える秘密が明らかになるシーンは真相を捉えられない人もいるのではと心配になる程だ。しかしそのあまりに静かな筆致が本作の個性でもある。

メイキング・オブ・モータウン

2021-03-24 | 外国映画(ま行)
★★★☆ 2019年/アメリカ 監督/ベンジャミン・ターナー ゲイブ・ターナー

新しいサウンドを生み出しただけでなく、自社で作詞作曲家を抱え、スターを育成し、マーケティングを行い、流通販路を拡大した。その発想源は何と自動車工場。 政治的な志向は避け、ヒットをとことん目指した男の一代記。偉大なる才能が一時代に集結した奇跡と軌跡。

黒人音楽の歴史を知るにも格好の一品。「マレイニーのブラックボトム」「あの夜、マイアミで」「ザファイブブラッズ」など、黒人映画の秀作たちと続けてみると色々繋がってくる。しかしこれだけの才能が集まれば、そりゃいざこざも起きましょうて。本当はもうちょっと揉めた話も盛り込んで欲しかった。

胸騒ぎのシチリア

2021-03-23 | 外国映画(ま行)
★★★ 2015年/イタリア・フランス 監督/ルカ・グァダニーノ

ルカグァダニーノによる「太陽が知っている」のリメイクだが、まあみんな裸、裸、裸。ティルダスィントンの足おっぴろげのプールサイドカットに仰天。避暑地の恋愛模様と殺人。気怠いムードがいかにも欧州的だが人物のキャラが立ち過ぎてギクシャクした感じ。それも本作の個性か。

しかし、ルカグァダニーノは本当にティルダ・スィントンが好きなんだねー。元ロックスターという設定(それもどうなのと個人的には思うが)でデビッドボウイみたいな舞台衣装からハイブランドのリゾートウェアまで、全編ティルダのファッションショー。その着こなしはさすが。衣装はすごく楽しめた。

聖なる鹿殺し

2021-03-22 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2017年/イギリス・アイルランド 監督/ヨルゴス・ランティモス

ギリシャ悲劇が元ネタらしいだが、それを知らなくても観た人がそれぞれにこれはなんの寓話かと思い巡らせる面白さに溢れている。マーティンは神か悪魔か。次々と呪いを成功させるホラー的な展開に胸糞ここに極まれりな結末。だが嫌いじゃない。いや大好きだ。ニコールの佇まいも最高。

北欧の監督は「気まずい」を描くのがうまい。彼らが描く関係性の気まずさは日本映画にも通じると思う。あとは突拍子もないエピソードの挿入。全身麻酔ごっこ、爆笑だし。脇毛見せて欲しいとかさあ。もう何なのの連続。宗教や哲学モチーフにヘンテコエピソードをぶっこむ離れ技。誰にも真似できません。

時の面影

2021-03-21 | 外国映画(た行)
★★★★ 2021年/イギリス 監督/サイモン・ストーン

舞台は大戦前の英国サフォーク州。未亡人エディスと初老の掘削者の心の交流を描く良作。非常に静かな映画だが、全く飽きることがなく引き込まれた。なぜ遺跡を掘り起こすのか。古代に思いを馳せることで、過去と未来が繋がっていく。見終わった時には壮大なテーマが心に沁みる。

作品選びが堅実でこの人が出てたら必ず見るという女優の1人がキャリー・マリガン。本作もすごく良かった。大屋敷の女主人なのだけど、物静かで聡明で。あと、彼女が住んでいる家が本当にステキ!この家を見ているだけでも全く飽きなかった。朴訥な掘削者を演じるレイフファインズも流石の演技。

高い城の男 シーズン1

2021-03-14 | TVドラマ(海外)
★★★★☆ Amazon Prime

第2次大戦に日独が勝利しアメリカを分割統治している歴史改変SF。トンデモ設定かと思いきや、ナチス統治下のNY、日本統治下のサンフランシスコ、いずれも脚本やセットが緻密で唸らされる。日独の駆け引きがまさに東西ベルリンを彷彿とさせ、ポリティカルサスペンスとして実に面白い。

米国が勝利していた別世界のフィルム映像が鍵を握る展開。プロパガンダで勢力を拡大したナチスだからこそ、フィルム回収に躍起になるという設定がリアル。あちこちで鉤十字がはためき、憲兵隊が横暴を振るう。そのビジュアルは生理的嫌悪感を催す人もいるだろう。それでもなお、抗えない魅力がある。日本人キャストも魅力的だ。


薬の神じゃない!

2021-03-13 | 外国映画(か行)
★★★★ 2018年/中国 監督/ウェン・ムーイエ

人助けという高邁な精神ではなく単に金儲けでインドから白血病の薬を仕入れたチョン・ヨン。しかし、高額支払いに苦しむ患者との交流を通じ彼の心も変わっていく。演出がややベタだが、国と企業の暗部、患者の苦悩、詐欺師の存在など様々な要素を盛り込んだ社会派エンタメを堪能。

先ほど、バイデン大統領がインド製のワクチンを認めるというニュースをしていて、タイムリーな鑑賞に。個人の行いが国を動かしたというのは胸熱な展開だけど、穿った見方をすれば、中国も社会状況を見て変化しているというメッセージとも受け取れる。ひねくれてますかね私。

ザ・ホワイトタイガー

2021-03-11 | 外国映画(さ行)
★★★★ 2020年/インド・アメリカ 監督/ラミン・バーラニ

インド製ポップチューンに載せテンポよく進むエンタメ感は楽しく、一発下克上のノリに前のめりになる。しかし、立ちはだかるカースト制の実情はあまりに厳しく呑気に見てるとビンタを食らう。染み付いた「使用人根性」の絶望感。パラサイトにも通じる現代インドの格差映画。

本当に今でもインドこんななの?と驚くことの連続。超高級マンションの地下駐車場にはお抱えドライバーたちが暗闇と湿気の中で日々を過ごしている。誰もがそれを当然と思っている恐ろしさ。そして、どこまでもまとわりついてくる家族という地獄。ヘビィな内容だが娯楽作として見応え十分。

ザ・ファイブ・ブラッズ

2021-03-11 | 外国映画(さ行)
★★★★☆ 2020年/アメリカ 監督/スパイク・リー

退役軍人が戦時に埋めた金塊と友の遺骨を取り戻しにベトナムへやってくる。帰還兵のPTSD。未だ残る地雷。アメリカとベトナムに残る遺恨。黒人差別の現在・過去・未来。これほどのテーマを散りばめながら、全てが際立ち、融合する。これぞ監督の手腕ありという見事な1本。

154分の尺に腰が引けていたが、これは早く見るべきだった。本作の肝は黒人のポールがトランプ支持者であること。搾取され続けてきた彼が固執するものとは何か。とことん考えさせられる。 そして、今となっては亡き友を演じるのがチャドウィック・ボーズマンであることがことさら胸にしみた。

すばらしき世界

2021-03-02 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2021年/日本 監督/西川美和

正義を声高に叫べば生き難く、しかし我慢の積み重ねもまた心を蝕む。この世界には寛容と不寛容があふれている。さあ、あなたはどう生きるかと突きつけてくる。ほんの少しの優しさが生きる道しるべになるのなら、私はそちらの側にいたい。文字通り世界はすばらしいと私は受け止めた。

脇役陣みなすばらしい演技だが、私が一番印象に残ったのは六角精児。親父が同郷という親近感であれこれ世話を焼いてくれる。まっすぐで人のいいおじさんぶり、こういう存在がどれほど大事か。クセはあるが時に可愛らしく見える元ヤクザを演じる役所広司はさすがの一言。新たな代表作の誕生ですね。

洗骨

2021-03-01 | 日本映画(さ行)
★★★★☆ 2018年/日本 監督/照屋年之

風葬の後、骨を洗う「洗骨」という風習を通じ、壊れた家族が絆を取り戻し、命を繋ぐすばらしさを描く人間賛歌。沖縄の美しい自然を捉えるロングショット、テンポいいセリフ運びとユーモア溢れるやりとり、そして満を持して迎える圧巻の洗骨シーン。お見事。見終わって思わず拍手。

蓋を開けた時は息を呑んだ洗骨シーン。敬意を持って撮影しているのがよくわかる。綿密なリサーチと地元の協力。沖縄出身監督だからできたのかもしれない。それにしてもガレッジセールのゴリさんとは。だって、脚本もすばらしい。ブランコのロングショットなんて巨匠の風格ですよ。大した才能で驚いた。