四月の四天王寺の古本市で、中公新書の『志のうた』竹内実・吉田富夫著 1991 という本を手に入れました。知らないことばかりで、このシリーズで愛の歌・閑適の歌という二冊も出ているようです。今度どこか、本屋さんか古本市で見つけたら手に入れたくなりました。どんな愛の漢詩があることやら……。
さて、その中で、三国志の英雄・曹操の詩が取り上げられています。「歩出夏門行(ほしゅつかもんこう)」という題名がついています。
神亀(しんき)寿(ながいき)すといえども
猶(なお)竟(おわ)る時有り
神様の亀は、長生きする(寿命が千年!)とはいうものの
いつか命が終わる時があるだろう。
騰蛇(とうじゃ)霧に乗るも
終(つい)には土灰(つちくれ)と為(なりは)てん
空に飛ぶ神獣のヘビが霧に乗ったとしても
これもどこかで死んでしまったら土へと返るはずだ。
されど老驥(ろうき)櫪(れき)に伏(ね)るとき
志千里に在(あ)り
年老いた名馬がうまや(厩)で寝ているといっても
その気持ちは千里を走ることに向かっている。
烈士(れっし)暮年(としおいて)も
壮心(そうしん)已(おとろ)えず
正義に生きようとする者が年老いたとしても、
若き日の志は衰えることはないのだ。
されば盈(えい)と縮(しゅく)との期(さだめ)は
ただ天のみに在(かか)るにはあらず
「盈」という長生きすること、「縮」という短命であることは、
天がそのカギを握っているのではない。
怡(い・おだやかなこころ)養いたる福(しあわせ)
永年(えいねん)得(てに)すべし
穏やかな心をいつも心に育てることにより
長き命を手にするべきなのだ。
この幸(よろこび)甚(さて)も至(いたる)ものかな(哉)
歌いて以(ここ)に志詠まん
この幸せを手に入れれば、それは無上の喜びだ
詩を詠んで我がこころざしを伝えよう
本のよみと、私のふりがなと、合わせた訳とを書いてみました。
この中国の歴史と言葉シリーズは、まだ戦国時代のはずでしたね。でも、不勉強で「史記」も途中で終わっているし、あれもこれもやれていなくて、行き当たりばったりでやっていくことにしたんでした。
だから、突然に曹操さんが出てきても、もういいことにします。最後までやれないかもしれない。それはまたそれ、私の不勉強の結果ですから、甘んじて受けるしかありません。先が見えないですし、どれだけ発見があることやら……。
とりあえず言葉としては、
【老驥(ろうき)櫪(れき)に伏(ふ)すとも、志(こころざし)千里に在り】……年老いた名馬は、馬小屋の中で身を横たえながらも、千里の彼方まで走ることを考えている→偉大な人物が、年老いてもなお覇気を持ち続けている様子のたとえ。
後漢王朝末期の武将、曹操[155~220]が作った「歩出夏門行」という詩の一節にあります。
これは赤壁の戦いの前に作った詩ということですから、たしかに五十男ではあっただろうけど、おいぼれ馬ではなくて、もっとギラギラしたものがあったと思います。年寄りを気取ってみたのでしょう。
年寄りになるのがカッコ良かったり、若ぶってみたり、男の美学は揺れるんでしょうね。そして、彼は赤壁では敗れたかもしれないけれど、着実に天下を取る実力と実績を積み、子どもたちにその権力を伝えて行くんでした。大したものでした。