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急行特急は行く…

急行特急THが、気のみ気のままに形創るブログ

空色騎士2 その5

2017年06月13日 00時07分00秒 | 物語・小説

そして、宿場村3滞在初日の夜の事、リッターとエスパーダは、村の酒場に居た。
「賑わってますね」
エスパーダは、酒場の中を見通しながら、そう言った。
飲食物の臭いと人々の営みがそこにあり、リッターは、こんな村にもこんな表情があるのかと少し回りに圧倒されていた時だった。
(ん?)
酒場の奥の席で、金色の立派な長髪の龍人が、嬉し楽しそうな表情を浮かべ、1杯やっている姿が、リッターの目にうつった。
錯覚かと眼を疑ったが、龍人もリッターに気付いたのか、
「おう」とでも言うように、手を振った。
「どうしたんです?」
エスパーダがリッターに問う。
「いや、変わった客人が居るなと」
リッターは、一瞬、龍人の方を指差したが、エスパーダには見えないようだった。
「何かさっきから、キツネにつままれたような感じですねえ」
エスパーダは、酒場内を見渡していると、
「御二人さん、見ない顔だね。旅人?」
綺麗な容姿の女性が、リッター達に声をかけてきた。
「はい。ところで、どなたかこの村周辺に関することの情報通の方、いらっしゃいませんかね?」
エスパーダが女性に問うと、
「情報ねえ。うーん。まあ、マスターに訊いてごらんなさいよ」
と女性は良い、カウンター席にリッター達を案内した。
「マスター、この人達が、訊きたい事があるって」
女性がマスターに声をかけた。
「何だい、訊きたいことってのは?」
とマスターがリッター達に問いかけた。
「ええ。この街の東の森にまつわる、何か、こう、言い伝えみたいなのは、ありませんか?」
エスパーダが訊くと、マスターは、顎に手をあてた。
「言い伝えねえ。うーん。ああ、森の忘れ形見って言うのがあるぜ」
「森の忘れ形見ですか。それはどう言ったもので?」
エスパーダが身を乗り出すかの様にして食いつくと、
「まあ、その前に注文してくれよ。こっちも商売だからよ」
マスターが言うと、さっきの女性がメニューを持って来た。すると、
「ああ、そこの水色の鎧着た人、あっちのお客さんが呼んでたわよ」
「えっ、私を?」
リッターは、女性が指差した方向を見ると、さっきの龍人が手を振って微笑んでいた。
「リッターさんは、そっちで情報収集を。私はマスターから聞き出しますので」
エスパーダは、何かしらの酒を注文した様だった。
リッターは、龍人の所へ行った。
「よっ。空色騎士リッターさん。まま、一杯行こうか」
龍人は、テーブルの上の酒瓶を手にすると、グラスに入れリッターに差し出した。
「あっ、俺の名前は、カンヘルって言うんだ。よろしくな」
カンヘルは、リッターに手を差し出したので、リッターは、恐る恐るその手を握り返した。
「まあ、そう警戒するなよ。何もしやしないぜ。それにしても、俺に気付くとは、ちょっと居ない空色騎士様だ。いや、愉快愉快」
「神獣で名高いカンヘルが、何でこんな所に?まさか、森の忘れ形見の正体ですか?」
リッターが問う。
「それは、あいつだ。昼間会ったろ、アミスターの事さ。コールドラッドの」
「コールドラッド。やはり妖精だったか」
リッターは頷いた。
「あいつを見れば、これまでの空色騎士連中は、後を追いかけて来たが、あいつも意地悪で、姿を消しちまうんだ」
「へえー」
会えれば、ラッキーレアキャラ。でも、効果無しって奴で、探求には影響しないパターンかとリッターは思った。
「しかしまあ、珍しいくらい貧弱な空色騎士さんだわな。だがな、アミスターの心、お前には閉じていない。だからきっと会えるぜ。安心しな」
リッターは、カンヘルが入れたグラスを飲んだ次の瞬間には、マスターの居て、隣にエスパーダが居るカウンター席に居た。
「――って所よ」
どうやらマスターが、森の忘れ形見について、語っていた所の様だった。
「それで、目撃談は?」
エスパーダが、グラスをあけ、さらに一杯頼んだ。
「それなりにはあるぜ。小さな建屋があるって話は本当で、俺も見たことはあるんだが、姿までは。だが、完全なる廃屋でもない感じだったから、まあ、まんざらでもなさそうさ」
「なるほど。興味深いですね。是非、行ってみましょう」
エスパーダの好奇心は、止まらない様だった。
(そう言えば、カンヘルは?)
リッターが酒場を見渡したが、姿はなかった。
(さっきのは、気のせいだったのか?)
妙な所に来てしまったな――とリッターは思った。

空色騎士2 その4

2017年06月12日 18時46分56秒 | 物語・小説

「おや。易商さんは、不在のようですね」
エスパーダの手にした地図の場所に易商用の掘っ立て小屋はあったものの、誰も居なかった。
「ああ、すみません。ここの易商の方は?」
エスパーダは、近くを通りかかった人に訊ねた。
「ここに、易商なる人は、居ませんよ」
通行人は、あっさりそう答えた。
「そこに、箱あるでしょ。必要費用を入れると、蓋があいて、中に入った紙切れがとれます。易商というより、御神籤ですよ。それでも、第2の街から第1の街から、たまにこの箱に紙切れを入れていくから不思議なもんですね」
通行人は、笑いながら姿を消した。
「御神籤。面白そうですね」
エスパーダは、易商の掘っ立て小屋内の箱を見つけると、必要な銭を払った。
「さあ、リッターさん、1枚取ってください。さっきの方の言う通り、紙はたっぷり入っています」
「私が取るんですか?」
リッターは、気が進まなかったが、どうしても、とエスパーダに迫れ、1枚紙切れを取った。
「さっそく、中を――」
エスパーダは、幼子のようにワクワクした目で、リッターをせっついた。
「はいはい、今、開けますよ」
リッターは、折り畳まれた紙切れを広げた。
「''この街より、東へ行った所に暗示あり。その暗示に従い西へ行く事が我が導きである,,」
リッターは、うそくさ、と肩を落とした。
「この村の東ですか…なにもないと思いましたが」
エスパーダは、地図を広げた。
「森林地帯が広がりその先は、第1の街近郊。森林。何かありそうですね」
エスパーダは、好奇心に溢れた表情をリッターに見せた。
「本気で、こんなのを信じるんですか?正気の沙汰とは――」
リッターは、顔をひきつらせた。
「この街には、情報屋がない代わりに酒場があるようです。夜に行って聞いてみましょ」
エスパーダは、本気の様だった。リッターは、もうどうにでもなれ――と言う気持ちで、エスパーダに付き合う事にした時だった。
「ん?何だ?」
リッターは、足に、何かが触れたのを感じた。
「鳥?」
真っ赤な色をした小さな鳥がリッターの右足を嘴でつつくと、一気に飛び上がり右肩に止まった。
「どうしたんです?リッターさん?」
エスパーダが、不思議そうに問うて来た。
「いや、肩に鳥が」
リッターは、右肩に乗った小さな鳥を指差した。
「何いってんです?何もありませんよ?きっと疲れていらっしゃるんです。夜まで宿でお休みになってて下さい。私は、村を散策して来ますので」
とエスパーダに言われ、リッターは宿に戻った。だが、小鳥は飛び去らず、ずっとリッターの肩に乗ったままだった。
「どっから来たんだコレ」
流石に部屋には、つれていけないので、宿で預かってもらおうとした。
「お客さん、ご冗談を。鳥なんてお持ちじゃないでしょ」
と宿の管理人にも言われた。
「どう――なってんだ?」
赤い鳥は、何も言わずただリッターの肩に止まっていた。
リッターが部屋につき、寛ごうとした時だった。不意に鳥が飛び、部屋の扉を嘴でつついた。
「外に出たいのか?」
リッターがドアに近づいた時だった。
(誰か居る)
リッターは、身を構えた。すると、鳥は再び、リッターの肩に乗っかってきた。
(敵か?こんな街に?)
リッターは、そっとドアを開けると、緑髪で青い眼をした少年が居た。
「帰るよ」
少年が手を差し出すと、鳥は少年の手に止まった。
「ありがとうございます」
少年はそれだけ言うと、出ていった。
(あれ、人じゃないよな、きっと)
妖精だな、とリッターは思った時、赤い羽がハラリと床に落ちた。
「美しい羽だな」
リッターが羽を眺めていると、エスパーダが帰ってきた。
「どうしたんです?」
「いや、何でもないですよ」
リッターは、右手で赤い羽を弄んだが、エスパーダは、気付かなかった。

空色騎士2 その3

2017年06月12日 16時40分51秒 | 物語・小説

リッター戦闘能力の低さと遅い成長の為、旅程は思うようには行かないで居た。
第1の街を出てから7日過ぎても、第2の街にはたどり着けず、ようやく中間点の宿場村3に辿り着いた。その頃には、資金はあっても、物資不足が起こっていた。

「おお、宿場村3につきましたか。良い感じの村ですね」
エスパーダは、村の入り口にある看板を見上げつつ、美しい花が咲き誇る明るい雰囲気が気に入ったようだった。
一方のリッターは、精神的な疲労にやられつつあった。ここまで、野宿が当たり前のようにあり、怪物への警戒を常にしなければならず、安心感が持てなかった上に、エスパーダに申し訳が立たないのが辛かった。


「ほほう、この村には、易商があるんですねえ」
宿屋に到着すると、エスパーダは、村の案内図を見ていた。
「村の易商、面白そうですね」
リッターの方を向いて、エスパーダは言った。
「あの、まさか、その易商に行こうと言うのではないですよね?この旅程、大幅に遅れていますのに――」
リッターは、エスパーダに問うた。
「はい。やってみましょうよ。このクエスト、予定の通り情報通りににやっても、''骨折り損,,なんです。資金はあります。怪物さん達も多数。制限時間はありません。横の道にそれても、誰も文句は言いません。行ってみましょ、行ってみましょ」
エスパーダは、リッターの背中を押し、宿に外出届けを出したので、リッターは訊ねた。
「エスパーダさん、本気ですか?」
自分のせいでヤケになってしまったのではないか?とリッターは思い、歩みを止めてしまった。
「こういう村の易商は、本当に興味深いんですよ。いや、1度聞いてみたいって思ってたんですが、攻略が先、クエストクリアして即物的なモノばかり求める――ばかりでは、探求の意味がないですし、まともなクエストのように、恐ろしく強い怪物さんも居ない、恐ろしい罠も用意されていないで有名なこの空色騎士探求。導き導かれてなんぼです。旅程の遅れなんて気にしないで下さい。明日、明後日に第2の街につかないと、他の挑戦者達に先越されて、お仕舞いではないんです。競争相手はいませんから、大丈夫ですよ」
さっ、行きますよ――とエスパーダは、嬉しそうだった。
(どうなってんだ、こりゃあ)
妙な人だな、とリッターはエスパーダの背中に向かって呟いた。

空色騎士2 その2

2017年06月12日 15時55分01秒 | 物語・小説

「さっ、怪物レベル5さんのご登場ですね。行きますよ、リッターさん」
エスパーダが、炎術レベル2を放ち、怪物レベル5が少し怯んだ隙に、リッターは剣を抜き、怪物レベル5の左腕に斬りかかった。すると、ものの見事に、リッターは、怪物レベル5に弾きとばされ、地面に体を叩きつけられた。
(やっぱつえーな)
何とかリッターは、立ち上がると、体勢を直し、再び怪物レベル5に斬りかかろうとした時、エスパーダは、催眠術をかけた。
「さあ、怪物さんの心の臓を貫いちゃってください」
エスパーダの言葉に、リッターは頷くと、怪物レベル5の急所を一気に貫き、撃破した。
「ナイスファイト!」
エスパーダは、右手の親指を立てた。
(あの怪物って、催眠術効いたっけ?)
訓練時代にリッターが見た、怪物資料の情報では、今、倒した怪物レベル5に、催眠術は効きにくいので、ひたすら攻撃系術法と打撃で立ち向かうべし――とあった筈だった。
(一体、どれだけの術力を持ってるんだエスパーダさん)
リッターは、息を切らしながら、そう思った。
「体の方は、大丈夫ですか?」
エスパーダは、回復術をリッターにかけた。
「痛快なる1撃、見事でしたね。その剣、見た目以上に、威力がありますね」
エスパーダは、リッターの剣を指差した。
「あの怪物さん、心の臓を易々と貫けるクラスじゃないんですけどねえ」
不思議な事もあるもんですねー、とエスパーダは呟く。
「そうでしたっけ?」
記憶違いをしていたか?とリッターは思った。
「物事に、良い意味での例外や意外はあるもんです。この調子で、先々参りましょ。おや、怪物レベル3のCタイプさん達が4匹現れましたよ」
左右から4匹がふってわいてきた。
「よく出るなあ、おい」
リッターは、剣を抜いた。幸い怪物の大きさが小さかったのと形状が良かったので、剣を横一文字にスライドさせながらリッターは、怪物4体を斬りさくとエスパーダは電撃術レベル2を怪物4体に向かって放ち、一掃した。
「良い闘い方しますね」
エスパーダは、またもリッターに右手の親指を立てた。
「それは――どうも」
リッターは、一先ず頭を上げた。だが、今の怪物4体にリッターはそこまで深く斬り込めず、中途半端な横一文字斬りだったのだ。エスパーダの電撃術に救われたのは言うまでもなかった。しかもレベル2と言う威力が中の下と言うクラスの術で、あっさりとあのクラスの軽い手負いをおった程度の怪物を撃破しまったエスパーダは、ただ者ではないとリッターは思った。
これまでのパーティだったなら、きっと、

――お前の所為で、面倒になる――

と言って、嫌なため息をつかれて終わっていたなと、リッターは思う。あんな風な、褒めの一言は、絶対に出てこないのに、エスパーダは、何も気にせずに、ただ目の前の道を行き、方位磁針と地図を時折睨みつつ、
「この別れ道は、右のようですね」
と方向を指差し、リッターを引っ張っていき、道すがらやってくる怪物をあっさりと貧弱なリッターの剣術をもろともせずに、突き進んだのだった。しかも、嫌な顔をひとつも見せることなく、リッターの攻撃支援を続けたのだった。

空色騎士2 その1

2017年06月12日 12時06分53秒 | 物語・小説

「さて、空色騎士リッター。そなたの次の行き先だが……西とあるな。西にある、第2の街へ行くと、次なる旅の暗示があろう」


と言う第1の街での易商の言葉に従い、リッターとエスパーダは、第2の街を目指す事にした。

「第1の街がここです。第2の街は、ここになります。これは、結構かかりそうですね。小さな宿場村は、幾つかあるようですが、心してかからないとですね」
エスパーダは、第1の街を旅立つ事を決めた日、宿でリッターに地図を見せた。
「最低7日はかかりそうですね」
エスパーダは、地図を折り畳んだ。
「と言っても、レベル1の探求です。難しい旅にはならないでしょう」
御安心を――と笑みを浮かべてリッターに言った。
「今日は、旅支度です。洗礼旅で消耗したものの他、必要なものを取り揃えに行きますか」
エスパーダに引っ張られるように、リッターは、第1の街中へ出て、旅に必要なものを取り揃えると、一気に所持金が無くなった。
「使いすぎじゃないですか?」
リッターは、少なくなった手持ちの資金をみて、不安にかられた。
「最低7日の道のりです。怪物さん達は、ゴロゴロいます。怪物さんのレベルは3から6と言う所ですから、大丈夫です」
エスパーダの言葉に、リッターはすくんでしまった。
「3から6?」
リッターの力では、対応しきれないクラスの怪物であった。幾ら、空色騎士の称号を獲る旅をしたとはいえ、そこまで強くなったと言う自覚はなかった。それに、そこまで怪物のレベルが高いと、2人で対応するのも無理がありそうだった。
「大丈夫ですよ。甘甘ですから」
エスパーダが浮かべたその笑みに、覚悟しておけよ、と言う言葉が隠れていたのをリッターは感じ、これで、自分の本性がバレ、エスパーダに呆れられる、と思え、気が重くなった。


翌日、2人は第1の街を出た。天候は良好で、旅立ち日和であった。
「今日は、この1A村へたどり着くのが目標です。よろしくお願いしますよ」
エスパーダは、リッターの背中を叩いた。
「俺の力で対応出来るかなー」
リッターは、顔をひきつらせた。
「期待してます」
エスパーダは、何の不安もないと言う表情だった。

空色騎士 その1

2017年05月07日 01時12分00秒 | 物語・小説


「お前、使えないから俺らのパーティから外すわ。居ると厄介なだけだからな」


リッターは、これで4度目の戦力外通告を所属していたクエスト集団から受け、ひとりになった。
お宝入手、魔王討伐、謎解き名誉取得、世界開拓探求――とリッターはやってみたが、パーティ内での戦力には成れず、また、パーティでの対人トラブルもあった。

リッターは、騎士と言う職を選び、この世界での訓練を始めたが、そこでも鳴かず飛ばずで、落第。そこで、魔術使いへの道へ職を変えて、訓練を受けたものの、最低ランクでの修了であったのとそれすらも資質に欠けると言う事を言われたのだった。

剣の道も術の道も人並みの能力に至らずも、この世のしきたりで、何らかの組織またはパーティに所属して、この世界での活きなければならないのは、リッターにとってはきつかった。その上、4度もの転属が、さらなる苦難をリッターに与えたのだった。

(さて、これからどうしようか)
4度目の初心者の館への出戻り。
初心者の館で、この世界で活きる為の探求事(クエスト)を探し、何らかの組織またはパーティに所属すると言う、就職活動を行うと言う基礎・原点に立ち返るのだった。
リッターは、それに、もう飽き飽きしていた。この自分の能力のなさと背負った離脱のハンデが重くのしかかり、この世界から離脱したい――人生を辞めたいとさえ思っていた。
(色々あっても、みんな、やり手か癖のついていない本当の初心者対象のものでしかないな)
4度目の就職活動初日で、早くもリッターは心が折れた。
(またやめるんじゃないか、使えないんじゃないか、は、求める者同士同じか)
リッターは、深いため息をつき、街の憩いの場で足を止めた。
(空は今日もきれいで蒼いで、無垢だよなー)
羨ましい、とリッターは見上げた快晴の空をみて、そう呟いた。
(何でもいいから、1個でも満足にいける探求事あって欲しいな)
世の中、そう都合良くはいかないが、他の誰かには都合良く物事は進んでいるように、リッターは感じていた。


空色騎士 その2

2017年05月07日 01時11分00秒 | 物語・小説

就職活動2日目。
何か無いか。
何かあって欲しい。
何か自分でも可能なものが――。
と言うリッターの願いが叶うなら、この世に、苦悩や苦労と言う2文字は無いだろうとリッターは思ったし、この世にあぶれ者もまたいないだろう。
情報収集をしてみても、リッターにとって、相応しいというのものはあったとしても、そこで続けていけるかは別問題であるし、相手から、リッターならOKでしょう、と納得されるくらいのものがないから、これ良いかもな――でもダメだろうな、で終わり行くのは言うまでもない話であった。

そんなままに、時間と日数だけが過ぎて行き、リ初心者の館と憩いの場と自宅の通いと言う面白味の無いリッターの日常が完成された。
日に日に、もうどうにでもなれ、と言う気持ちが先行し、リッターの就職意欲は低下の一途だった。

(今日も無駄足だったな)
いつもの憩いの場で、リッターは、青い空を見上げた。今日も快晴の空であり、何の悩みもなく、希望だけを吸い込み大きくなる無邪気な心の象徴の様だなとリッターは思った。
「何か空にありますか?」
突然声がして、リッターは驚いた。
「よくここに来て、空を見上げてますよね?」
リッターに声をかけてきたのは、リッターと年齢は同じような男だった。
「ああ。別に。他にみるものないからで」
リッターは、そう答えた。
「興味深(おもしろ)い事、言われますね。ああ、私はエスパーダです。よろしく」
エスパーダは、リッターに右手を差しだしてきたので、リッターはその手を握って挨拶をした。
「見たところ、休職中か探し中ですよね?」
エスパーダがリッターに問うた。
「休んでは居ないですよ。探し中なんですわ。でももう諦めてまして。エスパーダさんも探し中か何かで?」
さらっとリッターは訊き返した。
「ええ。探しています。この探求に同行してくれる人を」
と言ってエスパーダは、リッターに求人記事を差し出した。
「探求レベル1空色騎士。それか。ブラックな探求で評判な」
空色騎士探求。
誰でも出来、簡単に探求を終わらせられるが、簡単なだけで、結末は骨折り損のくたびれ儲け。ただ、称号だけ与えられて、次の探求もその調子で行こう、的な誉め言葉をかけられて終わるみたいなものとリッターは聞いていた。
「これを私と2人でやってもらえませんでしょうか?」
「2人で?正気ですか?。それ4人探求物ですよ?」
いくら簡単とは言え、探求の基本は4人でやるものであり、最小2人は無謀とされた。
「簡単なんです。2人でやりましょうよ。普通には例外がつきものですし」
エスパーダの「例外」と言う二文字にリッターは、少し心をひかれた。
「普通ではない探求。どうです?挑戦してみる価値はあると思います」
リッターは、その時、何のあての無い直感で、エスパーダの誘いを承諾した。

空色騎士 その3

2017年05月07日 01時10分00秒 | 物語・小説

リッターとエスパーダは、空色騎士の探求を始めた。
この探求に2人だけで挑む申請を、官庁にした時は、流石に妙な目でみられたが、LV1の探求なだけあって、心配や差し止めはなかった。

「では、これからよろしくお願いします」
エスパーダは、リッターにそう言うと、探求の扉を開けた。そして2人は、長い階段をひたすらに降りていった。

「どうやら、最初の街にたどり着いたようですね」
階段を降りきった先には、晴れた空があり、草木と水の豊かな集落が見えた。
リッターは、エスパーダの後ろにつき、ついていった。
「さて、最初は――探求者へのヒントをもらう店に行きたい所ですが、先に、宿を取っておきましょうかね」
エスパーダの言葉に、リッターは首をかしげた。
「もう、宿?早いんじゃ」
「先ずは、2人で打ち合わせましょ。お互いの情報交換から始めないと」
エスパーダの言葉に、どこか説得力を感じたのと旅慣れている感じがしたので、リッターはそれに従う事にした。

宿は簡単に取れ、手続きも容易であった。さすがは簡単なレベルのものだなと、リッターは思った。
宿の部屋に付き、荷物を置くと、エスパーダが
「リッターさんは――もとは騎士ですか?」
と訊いて来た。
「挫折しましたけどね」
エスパーダは、リッターのプロフィールデータを自分の鞄から取り出して、眺めた。
「なるほど。私も武道の心得は、不得手で、術が専門ですので、戦闘の折りには援護します」
「そうですか」
とリッターは言葉を発しつつ、エスパーダに迷惑かけるなこれは――と思った。LV1の探求物とは言え、術の効かない敵もあるのは言うまでもない。
「成績不良とありますが、そんなにいけなかったので?見たところ、武道も術もバランス良さそうですが」
エスパーダは、リッターを上から下まで見た。
「よく言われますけど、見かけ倒しです。剣の片手、盾を片手でやると、剣がうまくふるえないんです。剣を両手持ちすると、今度は太刀筋が良くなくて。力はあると言われてはいるんですが」
リッターは、過去によく言われた駄目な点を話した。
「なるほど。それで、訓練ではレベル幾つの敵を想定した所まで行けたのです?」
「良いとこ3ですね。悪いと1でももたない時がありました」
何とも情けない話だなとリッターは思う。けれど、事実だった。
「それで、術の方は?成績はどうあれ、こちらも訓練修了ですから、それなりに?」
「おしなべて5段階の中のレベルの1、2しか使えないようなものです」
リッターは、恥ずかしさで、つい俯いてしまった。
「修了試験に必要な一部のみレベル2が使えると言う事ですか。なるほど。この探求が丁度良いですね」
エスパーダは、リッターのプロフィールを鞄にしまった。
「では、今回の探求、リッターさんは、騎士らしく剣を使ってもらう事にしましょう。無論、使える術は使って下さい」
エスパーダは、リッターの両肩に手をのせた。
「何か良い探求になりそうです」
エスパーダは、笑みを浮かべて言った。
「では、この街にあると言う秘密の宝物庫の情報を仕入れに行きますか」
「秘密の宝物庫?こんな最初の街で、初っぱなから?裏テクですか?」
1体どうしようと言うのだろう、とリッターは思った。
「レベル1の探求だからこそあるんですよ」
エスパーダは右手の人差し指を立ててそう言った。

空色騎士 その4

2017年05月07日 01時09分00秒 | 物語・小説

「宝物庫?お宝ハンターかい?」
第1の街にある情報屋の店を、リッターとエスパーダは訪れていた。
「っていっても、大した宝物でもないって話で評判だ。御代は頂くが、返金には応じないからな」
と店の者は、もってけドロボーと言わんばかりの勢いで、宝物庫の地図を差し出した。
「次来るときは、もっと金になる情報を引き出しに来な。待ってるぜ」
カウンターの台を叩いて、店の者は言った。

「ただも同然の情報料でしたね。本当にあるんですか?」
情報店を出た後、リッターとエスパーダは、街の公園に行き、入手した地図をエスパーダが見ている中で、リッターは、エスパーダに訊いた。
「初歩の初歩の探求で、値の張るようなものを期待してはなりません。二束三文の宝物でも宝物は宝物。旅の記念程度にしかならないものでしょう」
なるほど、あの辺りか――とエスパーダは地図を見ながら頷いていた。
「旅の記念かー。そんなんあったよなー」
リッターは、2回目に入ったパーティでの探求の第一関門突破時に入手した装飾品を荷物袋から取り出した。
「確かに記念にしかなってないな」
リッターが入手したその装飾品は、剣につけるものであった。2回目の所属したパーティを、リッターよりも早く抜け出した人物から、要らないからと言われて受け取ったものだった。
「探求レベル4の品ですね」
エスパーダが言う。
「探求レベル12段階の初級者レベル向けでも、使い物にならないって言われて、悔しい、おぼえていろよ――って言う気があった頃の品で、本当は棄てようと思ったんですけど、当時それなりに世話になった人からの譲り受け物でして、今もあるんです」
過去を否が応でも突きつけられるような品は、とっとと始末してきたリッターであったが、それだけはどうしても――であった。
「おぼえておけよ――ですか。今はないんですか?そう言う想い」
チラッとリッターの顔をエスパーダは、見て訊ねた。
「ないですね――4回も挫折してるんです。もう呆れ果てて諦め悟ってますよ。おぼえておけよ――って言えるだけの実力もないのに叫んでみても空しいだけです。この世においていかれた、何者にもなれない単なるヒトでしかない――人間になれなかった成人男性の成れの果てでしょうかね」
リッターは、ため息をついた。また思い出したくはない過去が脳内を過った。
「金と権力と名誉だけ入手して、人間になったつもりのヒトも多いと思いますが」
「確かに」
話わかるな、とリッターは思いつつ、エスパーダがきっと自分に話を合わせてくれたんだろうな、とリッター思い、エスパーダに感謝していた。
「それでは、宝物庫にいってみましょうか。場所は、先程の情報店のようです」
エスパーダは、先程入手した地図とこの街の地図をリッターに見せた。
「情報店からのとこの地図を照らし合わせますと間違いないようです」
エスパーダがリッターに説明を施した。だが、一体いつの間のエスパーダは、この街の地図を手に入れていたのだろうか、とリッターは思った。
「通りで安い料金で教えてくれた訳です。行ってみますか」
エスパーダは、地図を道具袋にしまった。
「さっ、参りますか」
エスパーダは、そう言うと情報店に向かって歩き出した。

空色騎士 その5

2017年05月07日 01時08分00秒 | 物語・小説

リッターとエスパーダは、情報店にたどり着いた。
「入り口はどこでしょうかね?」
エスパーダは、周囲を見渡した。
「裏口があったりして――って思いますけど、この出入口の反対側にあるとか」
お決まりのパターンとしては、そんな所だろうとリッターは思った。
「良いこといいますね。では
いってみましょうか」
エスパーダと共にリッターは、店の壁伝えに行くと、扉口があった。
「お約束だなあ」
リッターは、拍子抜けした。
「レベル1の探求らしくて、良いじゃないですか。行ってみましょう」
エスパーダは、扉を開けた。すると、下へと続く階段があり、うっすらと灯りがみえた。
(正解の様だな。これだけ簡単だと、あるものも大したものじゃないだろうな)
リッターは、良い期待しないようにしながら、エスパーダと共に、階段を下り、地下階のフロアについた。天井も含めて一面鮮やかな明るい青色で壁面で出来ていた。そして、視界の先には、もとは薄色系なのかフロア内と同じような色の鎧冑と楯そして長剣があり、緑色ローブと黒色帽子、銀色の杖が置いてあった。
「旅に必要な品、揃ってますねえ」
エスパーダは、周囲を見回し、物品の近くまで行くと歩みを止めて、リッターの方を見た。
「悪い仕掛けはなさそうです。ありがたくいただきましょう」
エスパーダが、嬉しそうに言ったので、リッターも物品の傍に行った。
「リッターさんは、騎士としてこれらの重装備をお願いします」
エスパーダが鎧兜を指差した。
「お願いしますって、装備出来るんですかこれ?」
リッターは、鎧兜、楯そして剣を近寄ってよくみると、強そうでカッコいいではなく、美しくてカッコは良くても実戦には不向きと言う、見かけ倒しな感じがした。宝物は宝物と言う感じは十分にあった。
「そのままよりは良いでしょう。今のままでは、敵との戦闘も不安ですし」
エスパーダは、ローブと帽子に杖を装備した。
「エスパーダさんは、良い感じですね」
術師として様になっていた。
「それはどうも。ささ、リッターさんも装備して下さい」
「これをですか?」
リッターは、気乗りしなかったが、とりあえず身に着けた。重装備品な感じはしたが、すぐに壊れそうな感覚をリッターは受けた。そしてこの装備品は、薄色系の塗装ではなく、晴れた空の色の様な美しさがあったので、余計に実戦向きではないな、とリッターは思った。
「空色騎士リッターさんの誕生ですね」
エスパーダは、手を叩いた。
(何とも弱そうな感じで、象徴の騎士だよな、これ)
リッターは、鎧の両腕を見ながらそう思った。もし他の探求で良い装備品を手に入れていたら、探求だけやって終わる――そんな気もリッターはしていた。