ぼくが一番好きな小説は、夏目漱石さんが書いた小説「草枕」です。
「草枕」は、著者の芸術に対する考えが書かれています。
俳句や短歌や漢文や英詩や絵画などが作中に登場し、
芸術の事を知る上でとても参考になります。
夏目漱石さん特有の品のある言葉の言い回しや、
絢爛豊富な語彙により、美しい日本語に触れる事が出来ます。
宮崎駿さんやピアニストのグレングールドさんも草枕を愛読していたそうです。
夏目漱石さん自身、「草枕」について以下の通り述べられています。
「現在の小説というものは、必ずしも美しい感じを土台にしていないらしい。
汚くても、不快でも一切無頓着のようである。
しかし、文学であって、仮にも美を表す人間の表現の一部分である以上は、
美しい感じを与えるものでなければならない。
草枕は、ただ美しい感じが読者の頭に残りさえすればいい。
それ以外に特別な目的があるのではない。
だから、話の筋も無ければ、事件の発展も無い。
普通に言う小説、すなわち人生の真相を味わせるものも、結構ではあるが、
同時にまた、人生の苦を忘れて、慰めるという意味の小説も存在していい。
もし、この俳句的小説(名前は変だが)が成り立つとすれば、
文学界に新しい境地を拓く訳である。この種の小説は西洋にも日本にもない。」
夏目漱石さんは「草枕」創作にあたって、美しい感じ、「美」に重きを置いていたようです。
あらすじは、一人の青年画家が都会の生活に疲れ、山路を登っていく。
山の中の温泉宿に泊まると、そこの若奥様である那美さんと出会う。
那美さんの一挙一動、容姿などを見て美しいと感じる反面、何かが足りない事に気付く。
最後の最後、那美さんの顔に「憐れ」の感情が現れた時、
青年画家はそこに美しさを見出す…という流れになります。
主人公の青年画家は、人の世は住みにくいとして、
束の間でも、くつろげて、こころを豊かにし、
住みよくするものは芸術だと信じ、
その芸術的観点から人間やあらゆる物事の考察を述べていきます。
様々な芸術に対し、持論を展開していきますが、
山の中の温泉宿で出会った那美さんという女性に興味を持ち、
「美」という観点で、観察していきます。
作中で主人公は絵を一枚も完成させていませんが主人公いわく、
以下のように語っています。
「画家であれば、紙に絵を描かなくても、五彩の絢爛は心眼に映る。
芸術のたしなみなきものよりは、美しき所作が出来る。
人情世界にあって、美しき所作は正である、義である、直である。
正と義と直を行為の上において示すものは天下の公民の模範である。」
音楽家であれば音楽を演奏しなくても、詩人であれば思いを詩に表さなくても
芸術的思考が出来る人は「美」を意識出来るため、
美しき所作で生活をし、美的観点から物事を見ることが出来ます。
この芸術的観点から見た、人の世はどのようなものなのか
「草枕」を読めばその雰囲気が伝わるのではないでしょうか。
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