栗太郎のブログ

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出羽三山の旅(7) 月山

2015-09-23 17:37:03 | 見聞記 東北編

湯殿山と即身仏を拝観した一日を過ごした、その数日後。

「今度の休みに予定がないんだけど、山形、また行く? 月山とか、羽黒山とか。」とJ君に水を向けると、「行く」と即答。
せっかく「出羽三山」の一つに行ったので、ほかの二つも熱が冷めないうちに行かないとどうも気が済まなかったのだが、J君も同意見のようだった。
そこで、まるで数日前をなぞるような時刻に宇都宮を出て、東北道を走り、山形市内の風景を横目にして、奥羽山脈を越えて鶴岡方面へと向かう。

まずは月山へ。
月山への登拝口は、昔は「八方七口」といって、羽黒口、大網口、七五三掛口の庄内側3カ所と、本道寺口、岩根沢口、大井沢口、肘折口の内陸側4カ所があった。
明治の廃仏毀釈を経て現代にいたり、現在、月山に登るには3つのルート。(以下、説明文は鶴岡市観光連盟のものを借用してます)
1.羽黒山口 
  8合目レストハウスからのルート。全体的に岩場の道だが、距離のわりに登りはきつくないため登山者が多く、
  弥陀ヶ原、鳥海山、庄内平野、月見ヶ原などの眺望にすぐれ、高山植物も多彩である。 所要時間2時間30分
2.湯殿山口
  湯殿山本宮前が登山口。装束場(施薬小屋)までは急な岩坂、鉄はしごと続き、まさに修験場と呼ぶにふさわしい。
  金姥で志津ルートに合流。 所要時間3時間10分
3.姥沢口(志津口)
  リフトを利用するこのルートは全ルート中最短。リフト上駅からしばらく木道が続き、牛首を越えた頃から
  岩場の心臓破りの急坂となる。とはいえ高山植物をゆっくり楽しみながらでも2時間程度で山頂へ着く。 所要時間 1時間45分

姥沢口からのルートには「リフト」と「最短時間」という魅力はあったが、帰りに羽黒山に寄ろうとしていたので、今回は、羽黒口から登ることにした。
湯殿山側からのルートははじめから選択肢になかった。「鉄はしご」という難所の存在が足を遠のけた。

ということで、まず目指すは羽黒山方面。
数日前に寄った湯殿山の入り口を素通りし、これまた数日前に寄った本明寺のすぐ下を通り抜ける。
月山の麓を時計回りにぐるりと回遊するように道を行くと、羽黒山の大鳥居が見えた。
大鳥居をくぐり、羽黒山を後回しにして、バス一台がやっとの山道をどんどん登っていく。
どんどん、どんどん、登るに従い麓の風景がジオラマのように小さくなっていく。
だんだん周りの樹木の背が低くなってきて、森林限界を越したのか?と思わせるような山岳風景のなか、八合目の駐車場に着いた。



駐車場は重い曇り空。雨は降ってはいない。
とはいえ、この様子では山頂までの天気は、間違いなく雨模様のはず。
合羽、帽子、高機能タイツ、ウエストバック、、多くはこの日のために買い揃えたものを用意して、いざ月山へ。



駐車場からすぐ上が、弥陀ヶ原湿原。遊歩道の案内板。



湿原の中にある、中之宮の御田原神社。ここはスサノオの妻、奇稲田姫神を祀っている。
月山神社の遥拝所でもある。
ここに着いた頃にはもう、霧雨、というよりも雲の中にいる高湿気状態。






山頂まで、4.5km。まだまだ道のりは長い。
ぐっしょりになりそうなので、合羽を着た。
J君にも着るように催促すると、持ってきていないという。ええ!濡れるにきまってるじゃん!



様子をみながら遊歩道を行くと、分岐点が現れた。ここから山頂まで2時間30分とある。



途中、ご高齢のご婦人が数人いらっしゃって、ああこういう人たちでも山頂まで行けるのか、と思ったのだが大間違いだった。
湿原の植物を鑑賞するのが目的の方々は、このまま遊歩道を回遊して駐車場へ行くのだ。
ここから先が登山道となる。J君は躊躇した。当然だ。100m先の視界さえ確保できていないのだ。
合羽もなしに、ずぶ濡れの状態で往復の行程を考えれば、体調を崩すわ。
戻って車で待つか?どうする?と思案に暮れて立ち止まっているところへ、軽装で降りてきた青年が通り過ぎようとした。
呼び止めて山頂までの様子を聞くと、やはり雨を覚悟したほうがいいとのこと。
2時間半?と聞くと、まあ、私の場合、下りで1時間半ですかねえ。とすまし顔で言ってきた。
ドヤ顔するくらいなんだから、そのタイムは早いのだろう。やはり上り2時間30分は覚悟か?
せっかくここまで来たんだし、と気合をいれて、じゃ、先に行くから~!と二人を置き去りにして僕は登りだした。

こんな道や、



こんな道や、



こんな道。どこまで行っても果てしなくつづく岩の道。



途中、J君からLINEがきた。「車で待ってます」とのこと。
登山断念のことよりも、電波が届くことに驚きながら、先を行く。

山道は登り優先。
すれ違う人に、道を譲ってもらいながら、ふと岩場に登って退避してくれている人の足元を見ると、ビーチサンダルを履いていた。
思わず二度見をし、その足の主を見上げてしまう。
その場に立っていた青年は、山を侮っている風体ではなく、むしろ、精悍な顔立ちですばしっこそうな物腰。
この辺りでどのくらいまで来れましたか?と尋ねると、まだ半分も来てませんよ、と息も切らさず笑顔で返してきた。こいつは相当なつわものだ。

山頂はまだか、山頂はまだかと泣きそうになっていると、目の前に突然、小屋が現れた。そこは9合目の仏生池小屋だった。
え!山頂どころか、ここでようやく半分じゃないかと唖然となった。



なんと、池がある。
ゆえにこの場所が休息地となったのだろうが、この高さでありながら、山の保水力の凄さに驚きを禁じ得ない。



休むともう止めたくなってしまうのが目に見えているので、小屋に入らずに先を行く。
たぶん、晴れてれば、左は何もない崖下なのだろうなあと思いながら、雨の中を行く。



足元には、高山植物。
こちらのヘトヘトなんて気にもせずに、すごく生き生きしている。



道の傍らの岩に、「山頂まで一六〇〇」と赤ペンキで書かれていた。
もちろん、1600mってことでしょう。



「行者返しの岩」だと。
「役の行者が月山登拝の折 月山大神より修行未熟を悟され羽黒山へ戻された地」と書かれている。
西行戻り橋みたいだ。役の行者は、いじられキャラなのか?



視界が悪くても、開けたところまで来ているのはわかる。



おや、おや、これはもしかして尾根を歩いているのか?
晴れてれば、怖くて歩けないかもよ?



まだまだ石畳が続く。
ん?いまさらだけど、これって、誰かがどこかから持ってきて、下から全部敷いたってことか?すごいぞ!



あ、木道になった!



すると、周りは高原植物の園。晴れていれば癒しスポット。



道が折れているところは木の端が重なるので、切り込みが入っている。心配りがにくい。



木橋は、それほど長くは続かなかった。
また石畳の道。





おや?だんだん視界がよくなってきた。



前が見えたり見えなくなったり。雲が流れている証拠なのだろう。



あらま、下界が見下ろせる!
こんな高いとこまで来ちゃった!と興奮してきた。



左手下の雄大な眺望に気をとられて歩いてたら、気が付けば目の前に石垣に囲まれた建屋が現れていた。
これだけ高いとこにあるとすれば、月山神社に違いない!
その興奮は、見つけた喜びというよりも、ゴールに着いた安堵に近い。



石垣を迂回すると、はたして月山神社の入り口だった。
ここに来るまでの雨と雲が嘘のように、周りはすっきりと晴れてきた。



月山、1984m。神社はその山頂にある。さっきJ君を置き去りにした分岐から1時間40分で着いた。
振り返ると、山小屋とトイレ。その先の道は、湯殿山へと続く。



八紘一宇の石碑。



脇には、「日本青年団長有馬良橘書、奉納紀元二千六百年八月廿八日 山形懸聨合青年団」と刻まれていた。
有馬良橘という人物は、幕末に紀州藩士の家に生まれ、海軍大将まで昇進し、退役後は明治神宮宮司を務めた人。
紀元2600年といえば、昭和10年、西暦1940年のこと。神武天皇即位2600年を祝う機運が全国にあって、その一環として山形の青年団が記念碑建立を催したのだろう。
「八紘一宇」は軍部の提唱したスローガンなので、太平洋戦争のさなかに軍事演習の登山で担いできたのか?と思ったが、日付からみればどうやら日米開戦よりは前のことで、まだ日中戦争の最中のようだ。


鳥居がわりの木枠をくぐり社務所で参拝を申し込む。
建屋は、風雪に耐えうるように板金で囲ってある。






お祓い料は500円。
お祓いを受け、白くて薄い紙でできた人形(ヒトガタ)で身体を撫で、三回息を吹きかけて水に流す。湯殿山神社と同じだ。
そのまま先にある本殿で参拝。御祭神は、天照大神の弟、月読命。
ついでに神職のかたに話を伺った。
話を総合して解釈してみると、どうも、出羽三山と総称していながら、月山は、天台宗の羽黒山と真言宗の湯殿山の双方にとっての聖地、という位置づけのようだ。
同じ密教であっても仲のよろしくない間柄。つまり月山は、エルサレムのようなものか。
だから、月山を修験場とする山伏たちは、それぞれ山頂までやっては来ても、向こう側に降りることがなかったのだという。
まったくなかったのか?と問うと、スリを変えれば行けたでしょう、という。スリとは、山伏の装束のことらしい。
学区の境にあるゲーセンは人気があって、喧嘩の絶えない両校の生徒が集うのだけど、隣の学校側に立ち入るには制服を着替えないと物騒だ、といったところか。
スリは「すりつける」からきた名前ですという説明だったで、「摩」「擦」「摺」あたりのようなのだが、どうググっても出てこなかった。

ほかに、山頂を示す三角点はどこにあるんですか?と聞いてみると、ないです、ときっぱりという。
いやいや、三角点はあるでしょう?、もしかしたら、ある場所がご神体の真下とかそういうタブー?


自分の足でここまできた者のみが手にすることができる、登拝認定証。






神社からでてくると、目の前にJ君の彼女のYちゃんがいてビックリした。
どうやらJ君だけが車に戻ったようだ。
彼女に、参拝してきな、と促し、僕は山小屋へ。



これが欲しかったのだ!
月山山頂小屋特製手ぬぐい。黒地なんてデザインはそうはない斬新さ。月夜にミヤマクロユリの図柄。



こんな高地にあるトイレは、水洗のわけもドッポンのわけもなく、微生物が排泄物を浄化してくれるバイオトイレだ。チップ100円。



中に入ると、いやなトイレ臭もなく、珍しがって便座を覗くと、肥料の混じった土のようなものがびっしりと埋まっていた。
このとき健やかなる僕の肉体は、活発なる腸内活動の結果、大いなる分泌物を排泄することを欲していた。
無事その行為をすまし、便座横の起動ボタンを押すと、ステンレスのプロペラがゆっくり僕の分身を撹拌していく。
ウぃ~ン、ウぃ~ンと音を立てながら、微生物の栄養となっていくのを見届けながら、なぜか満足感に浸る。
ちょっとうれしくなって、出口に打ち付けられていた鳥の家のような募金箱に500円を納めた。


さて、Yちゃんと合流し、下山。
「三角点ってないんだって」、と話してると、通りすがりのオジサンが首を突っ込んできて、
「ありますよ。神社の向こう側にロープをたどっていけばちょっとした引き込みがあって、そこにちゃんとありますよ。」と教えてくれた。
ほうほう。そうと聞けば、この目で確かめないと気が済まない。でもなぜないって言ったのだろう?

さっそく、さっき聞いた通りに、ロープ伝いに三角点を目指す。
お!ロープが上へ来いと誘ってる!



たどって登ってみると、



あった!
隠しコマンドを発見した高揚感!
この正面のすぐそこに神社があるのだが、もう霧で見えない。



後ろを振り返れば、尾根。
霧が晴れていれば、右も左も谷底で、そうとうビビっていたはずだ。



帰りは、緩い下り坂。
あ!雪だ!と指さすと、そのすぐ横には仏生池小屋が見えた。



立ち寄って、おでん。大根を食べ終わして揚げを一口かじったあと。
800円。ここまで人力で持ってきたものを温かくしてもらって食えるのです、安いもんです。



一休みを終え、さらに下る。
外国人の4人家族とすれ違った。北欧からやってきたらしい彼らは皆、Tシャツの軽装。寒くないのか?

だんだん視界もよくなってきて、遠くの山々もよく見えるようになってみた。



石畳をはねるように飛び降りながら、歳のわりには疲労がないことに我ながら驚く。
塞ぐように並んだ岩場に足を着ける位置を見つけようとし、気が付けば、左側の大岩が直角に削ってある。
誰かがこうして足場を確保してくれてるのか、とうれしくなる。



まるで、かかとがめり込んだような窪みを発見。
子鬼のケンパア石、と名付けよう。



さっきは霧雨が降っていた弥陀ヶ原は、爽快な見晴らしに様変わり。
天のお花畑にも喩えられるというが、時期が時期ならさもありなん。



J君を置き去りにした分岐点に戻ってきた。
さっきと全然風景が違う。



弥陀ヶ原の遊歩道を歩いてクールダウン。
振り向けば、一番奥のひょっこりなだらかな稜線が月山か?
結構歩いたものだ。



ようやく駐車場まで戻ってきた。途中の休憩を含めても、三角点から2時間はかからなかった。
のんびりする暇もなく、羽黒山へ急いだ。







※今回は、心ならずも月山登頂を達成できなかったJ君のために、途中の画像を多めに並べてみました。


(つづく)



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2 コメント

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Unknown (まーる)
2015-09-23 21:57:24
お疲れさまでした。凄い体力じゃじゃないですか!
この分なら富士山もいけそうですね。
途中から見晴らしが良くなるところなんかも、栗太郎さんはやっぱり何か持ってます。
実は私、昨日からぎっくり腰で座ってるのもつらい状態。。。早く治して、来年までにもっと体力つけておかねばです。
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>まーるさん。 (栗太郎)
2015-09-24 15:20:27
結局、この夏の富士山登山はなしとなりました。しかし、改めて富士山山頂への道のりを調べてみると甘くなく、朝行って夕方までに帰ってくるとはいかないようで...。
僕ら三人の場合は、宝永山までがちょうどいいようです。なにせ、帰り道に浅間神社寄って、沼津あたりで美味い魚を食らうつもりなのですから。
ギックリですか!無理な態勢で仕事をしていたのでしょう。じっとしてれば、じきに痛みは引きます。癖にならぬように気をつけて。
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