職人気質の弊害

Weblog / 2010年05月14日

参院選を目前に控えてただ今支持率急降下の民主党。その民主党が支持率回復に期待を寄せる唯一の政策である「事業仕訳」の第２段がスタートした。マスメディアも連日取り上げていることからの国民の注目度の高さが伺えるようである。枝野大臣や蓮舫議員も当然そのことは意識しているだろう、税金の無駄遣いや幹部官僚の天下り、金権腐敗の癒着構造に是非とも鋭いメスを入れて頂きたいものである。頑張って欲しい。

さて今日のお題の「職人気質の弊害」であるが、先日こんな話をお客様としていたことから、ふとこういうことを書いてみようと思った次第である。どんな話かというと「スナップオンはブランドで売っているから若いヤツにどんどん売ったらいい。俺ら年寄りはＫ○Ｃで十分なんだよ」と言った内容である。おそらく俺だけでなく全国のスナップオンディーラーの皆さんも嫌というほど聞かされるベテランメカニックさんの有り難いお話である。勿論俺もビジネスだからスナップオンブランドというものを否定しないしするつもりもない。今俺があるのはスナップオンブランドのお陰である。そしてそんな俺が昔から疑問に思っていることを思い切ってそのお客さんに訊ねてみた。

「何故あなたはスナップオンをそれほど必要としないのでしょうか？」

実はそのお客さん、なかなかの腕前で地元でも評判の業者さんである。俺は常々そういう腕の良いメカニックさんにこそスナップオンを使って欲しいと思っていた。いや俺だけでなく全国のスナップオンディーラーが皆同じ思いである。アメリカではトップシェアを誇るスナップオンもここ日本では素人が好むピカピカ工具の最たるものといったイメージが残る。若い将来あるメカニックさんのためにもスナップオンの地位を確立したい、というのは日本でスナップオンディーラーを営む我々にとっても永遠の課題だ。それにはやはり腕の良い職人さんに支持してもらうのが近道である。

「スナップオンじゃなくてもネジは回せるからね」

そうお客さんが言った。確かにその通りである。しかし真の良さ、いざというときに他の工具とは比べ物にならないくらい喰い付きの良いホールド感というか、やばいときにこそ真価を発揮するのがスナップオンである。過去色んなスナップオンユーザーさんに聞いては出て来る答えがその究極の「信頼性」だ。スナップオンユーザーなら誰もが経験があるのではないだろうか。

「ではスナップオンは使いたくないですか？」と俺はそのお客様に聞こうとして踏みとどまった。使いたくないわけがない。使えないわけがあるのだ。あえていう、儲かっていないからだ。儲かっていれば買える、儲かっていないから買えない、ただそれだけのことである。誤解のないように補足すれば全ての車屋さんが儲からないわけではない。しっかり努力されていてちゃんと利益を出されている車屋さんも沢山ある。ただ日本の傾向として職人気質の車屋さんは割りに儲かっていない傾向にあるように思える。何も決算書類を見せて頂いたわけではないのであくまでも想像である。儲けたくないわけではなく儲けにあまり興味が無いというか儲け方を知らないというか仕事そのものに満足しているようにも思える。

技術者とは得てして商売人にはなれないものだ。だから技術者なのだ。職人も営業向きな性質なら職人にはならず営業マンになっているだろう。冒頭の民主党「事業仕訳」で危惧するところがそこにある。この「事業仕訳」で仕訳られる側も仕訳ける側も科学者や技術者もいうなれば職人気質な方達である。そんな儲けに興味のない方達に将来の国益にかなう技術であるかどうかを立証しろというほうが無理なように感じるのだ。世界１位の技術を持ってどのように日本が世界をリードするのか、「我々の研究している技術はこのような将来性がありますよ」と営業する性質じゃない人達にただ無駄な経費を削るが如くバッサリ斬って捨てては将来大変なことになりそうだ。この点お隣中国なんかは(後出しジャンケンも功を奏して)国策で多様なそれを世界のスタンダードとして自分の技術として売り出している。実に上手いやり方である。

職人さんは原価を知っている。しかし売価が分からない。言うなれば入り口しか見ていないので出口が分からないのだ。これだけで作っているから値段はこのくらいかな、と原価１５００円だから２０００円で取引先に渡してしまう。これが商社の手に渡り、問屋を介して売り手に渡る。エンドユーザーには最終的に２万円前後か。世の中そういうもんだ。職人さんがエンドユーザーに直接売ればどんなに儲かることか。世のモータース屋さんも儲かってくれれば日本でのスナップオンももう少しスタンダードになるかもしれないのだけどね。