門前の小僧

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貞観政要の名言「死するの日は、なお生ける年のごとし」

2010-04-29 10:29:53 | 日記
即ち死するの日は、なお生ける年のごとし。

~『貞観政要』巻第十 魏徴


■名臣魏徴、死を賭しての諫言

「貞観政要」は、唐を建国した聖帝太宗と、同じく国家創業に貢献した賢臣たちとの政治問答の書です。今回の名言、「即ち死するの日は…」は、主君太宗ではなく、股肱の臣魏徴によるもの。唐建国より十有余年、世は太平となり、帝太宗の日常にもいささか懈怠が見られだした。これを日頃観察していた側近魏徴が、災いの芽が大きく伸びぬうちに、と上書した長大な諫言文の末尾にある至言です。太宗の失策、失政を全十か条にわたり指摘し、古今の興国亡国の例をひきながら、理を尽くし、情に訴えながら綿々とつづったもの。その十か条は以下です。

1.名馬や財宝の蒐集
2.民の苦役
3.大宮殿の造営
4.小人を近づけ、君主を遠ざける
5.商工業のみの振興
6.誤った人材登用
7.狩猟・娯楽
8.臣下への礼節欠如
9.奢り・欲望・享楽・野望
10.天災・謀反への無防備

主旨はどうあれ、微に入り細を穿って、主君の悪を書き連ねた罪は、万死に値する。無論、死を賭しての諫言でした。

■わが悪事を千年後に伝え遺す聖帝

「即ち死するの日は、なお生ける年のごとし」。いうべきことは全ていった。やるべきことは全てやり尽くした。皇帝に無礼を働いた罪で、間違いなく自分は死ぬであろう。しかし自分が死んだ日こそ、聖なる帝国唐のよみがえる日。すなわち自分の志が、不滅の生命を得て新たに生まれる日である、という高らかな宣言なのです。
 太宗は、無論凡主ではありません。この魏徴の諫言を見て、わが非を即座に悟り、必ず改めようと約束します。そしてこれらを屏風に仕立て、朝夕仰ぎ見、あまつさえ史官に残らず記録させた。「千年の後の世の人に、君臣の義を知らしめる」ために。帝王自身が、自らの悪行を隠さず記録させたのですから、並大抵のことではありません。まさに、至誠の人といえましょう。



■北条政子も屏風に書かせ愛読

「貞観政要」は、わが国の偉大なる為政者たちの愛読書として知られています。北条政子、徳川家康、明治天皇等、時代の指導者たちは、ここから懸命に政治の要諦を学びました。その結果、武家による政権、鎌倉幕府が日本史上はじめて樹立され、三百年の太平の世、江戸時代が現出し、また明治維新が成し遂げられ、今日へと続いています。なかでも北条政子は「貞観政要」を藤原為長に翻訳させ、屏風に書かせて日々愛唱したとされますが、それはこの魏徴の上奏文かもしれません。

■創業より、守成なお成り難し

太宗と諫臣たちとの間で、たびたび議論される、政治の最大の課題が「創業か、守成か」です。大乱を平定し、国家を打ちたてる「創業」と、国家を永遠に存続させる「守成」。いずれがより困難か。太宗も、魏徴も比べるまでもなく「守成」の難しさを痛感していました。
 そして、「守成」を堅持するためのキーワードが「終わりを慎む」こと。有終の美を飾るだけではなく、創業時の志・慎み・恐れを終生持ち続ける。さらに自分の死後も、その意志を子孫へと伝え、国家の存続と繁栄を不動のものとすることが、国家経営の究極の形といえましょう。ゆえに魏徴は、「死するの日は、なお生ける年」と、死に臨んで快哉を叫んだのです。

 現在市場に流通している「貞観政要」は、大半が抄訳と解説をとりあわせて編集したダイジェスト版です。本文内容が重要であるにもかかわらず、長大なため魏徴の諫争文はカットされており、それらの諸本には収録されていません。今回、【言の葉庵】では、巻第十「論慎終」より、魏徴の上奏文を全文現代語訳にてご紹介したいと思います。


『貞観政要』巻第十 論慎終 第四十 第五章 (能文社 2010)
http://bit.ly/cb1Jhe

『葉隠 名言集』できました。

2010-04-14 17:11:51 | 日記
 「人の心を見たければ、病気になれ」「仁とは、われと人とくらべて、人の方がよくなるように行うだけでよい」…。
江戸時代、鍋島武士の千三百にもおよぶ逸話が収録された『葉隠』。その一編、一編に現代にも通じる普遍的な教訓、深い叡智がこめられています。とりわけ、磨きぬかれた言葉の結晶のような名言・金言の数々は、まさに「武士道の聖典」の名にふさわしいもの。今回、はじめて葉隠にふれる読者のみなさまに、代表的な名言をいくつか取りまとめてみました。ぜひご覧ください。

『葉隠 名言集』

一年ぶりの矢来見学会です!4/20

2010-04-09 09:01:17 | 日記
4月20日(火) 13時30分~
禅と中世日本文化シリーズ 第2回 「矢来能楽堂見学と能楽体験講座」(神楽坂)
http://bit.ly/97vXB4

日本文化交流塾主催「禅と中世日本文化」第二回講座は、現地での体験型ツアーとなります。能の歴史・能舞台の秘密・世阿弥についてレクチャー。九皐会ベテラン能楽師による謡と仕舞のデモンストレーション。実技のご紹介もあります。後半は受講生全員で、楽屋ツアー。普段、一般の方は入れないところ。鏡の間、シテ・ワキ・狂言方の着替えの間・焙じ室・切戸口などをぐるっとめぐり、白足袋ご用意いただいた方はシテになった気分で橋掛かりもあるいていただきます(時間がある場合のみ)。
この機会にぜひご参加ください。能をより身近に感じてみませんか。