門前の小僧

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新刊『現代語訳 十牛図』発売!

2016-01-30 13:53:46 | 仏教
言の葉庵現代語訳シリーズ、『現代語訳 十牛図』(PHPエディターズ・グループ)が発売となりました。
水野聡古典翻訳第十二作目にして、初めて本格的な禅の分野にチャレンジしたものです。


・文字では、禅は伝えられない

中世の日本文化を理解する上で、鎌倉時代わが国に伝わった最新の仏教、禅の影響を抜きにしては何も語れません。しかし禅は論理と言葉に依らないため、これを読み物や知識から理解することはほとんど不可能だとされてきました。
師と弟子の間で、以心伝心で伝えられてきた禅の精神とはいったい何か。悟りを開くためにはどうすればいいのか。そもそも人は悟りを開くとどうなるのか(変わるのか)。禅にはじめて触れた人は、とてつもなく多くの疑問に打ちのめされ、途方に暮れることでしょう。禅の師もまた、これを言葉では弟子に伝える手立てをもたない。この問題は、禅宗のお坊さんも、一般の禅を学ぶ人も、中国も日本も、数百年前も現代も、まったく変わらないのです。

・悟りを導く、十枚の牛の絵

「これはいかん」。宋の廓庵という偉いお坊さんは一念発起しました。そして悟りを開くためのヒントを言葉ではなく、絵で描いて見せたのです。
これが『十牛図』。十枚の牛の絵です。見失ってしまった「真の自己」を牛に託して、自分探しの旅の過程を描いたもの。牛を探し、見つけ、捕え、手なずけ、自らのものとなしていく、すなわち悟りを開くプロセスを簡潔な絵と短い詩文であらわした作品です。

・本格的な禅の古典にはじめて触れる

今日「断捨離」などのブームにより、禅が一般の人にも注目されています。禅関連の書物も毎月出版され書店にならんでいます。
鈴木大拙を筆頭とする禅の入門書や掛け軸に書かれる禅語の本を読んだ方は時々いらっしゃるでしょう。しかし、本格的な禅の古典籍である『臨済録』、『無門関』、『正法眼蔵髄聞記』などにチャレンジしたという声をぼくの周りではいまだ聞いたことがありません。また禅入門の手引きとしてこれらを勧める人もいません。
ここに、『十牛図』の大きな存在価値があります。牧歌的かつ素朴な牛の絵を一枚一枚めくっていくことで、禅とは何か、悟りを開くとどうなるのか、を少なくとも肌で感じることができるのです。


本書ははじめ、能文社より電子書籍として出版されました。今回、監修として玄侑宗久さんのお力を借り、大幅に加筆修正。禅にはじめて触れる読者にもわかりやすい解説も加えて再度書籍として世に問うこととなったものです。


◆現代語訳 十牛図
http://nobunsha.jp/book/post_161.html


【本書の特徴】
◆禅の古典的名著を現代人にもわかりやすく、簡明な言葉で訳しました。自然にすらすら読め、かつ原文参照も想定した直訳です。
◆『十牛図』原画に直接触れていただくために、全ページオールカラー。コンパクトな「禅の絵本」として手元で繰り返しご覧いただけます。
◆古典翻訳家による原テクストの明快な訳出に加え、禅宗碩学による緻密な監修とわかりやすい解説を付しました。
◆全体の構成は、十枚の牛の絵と、それぞれに付された「序」「頌」と呼ばれる詩文を配置。それぞれに簡潔な「鑑賞」を加えました。巻末には原文(読み下し文)も収録。訳者まえがきと監修者の解説・あとがきを、はじめて十牛図を読む読者の方への案内としています。


●玄侑宗久さん『十牛図』ページ
http://genyu-sokyu.com/index.html

●PHP研究所さん『十牛図』ページ
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-82787-2



【釈迦の名言】 犀の角のようにただ独り歩め

2013-12-30 19:15:13 | 仏教
本年最後の釈迦の名言は、『スッタニパータ』(「ブッダのことば」中村元訳 岩波文庫)冒頭のもっとも高名な「犀の角」より、以下三句をご紹介しましょう。


◆四方のどこでも赴き
害心あることなく
何でも得たもので満足し
諸々の苦痛に堪えて
恐れることなく
犀の角のようにただ独り歩め。

◆音声に驚かない獅子のように
網にとらえられない風のように
水に汚されない蓮のように
犀の角のようにただ独り歩め。

◆今の人々は自分の利益のために
交わりを結びまた他人に奉仕する
今日利益をめざさない友は得がたい
自分の利益のみを知る人間はきたならしい
犀の角のようにただ独り歩め。


人にひきずられることなく、まっすぐ信念をもって歩み続ける尊さが、釈迦の力強い言葉のリズムをもって朗々と謳われる名段落。
今回、三句のみ取り上げましたが、原文では全40数句が、同じ文末「犀の角のようにただ独り歩め」により、とぎれることなく語り続けられます。

内からふつふつと力のわきあがってくる、何と力強い言葉なのでしょうか。一年の疲れを吹き飛ばし、新しい年を迎える勇気ふたたびを与えてくれます。

『ブッダの名言』(言の葉庵)
http://dp20101654.lolipop.jp/img/ブッダの名言(能文社).pdf


【言の葉庵】アクセス数No.1コンテンツ

2013-12-06 21:22:43 | 仏教
【言の葉庵】2005年創設以来、早や8年の歳月が流れました。
エントリー数も徐々に増え、300を超えました。最近当庵を訪れる人にとって、古いコンテンツはなかなか全てご覧になることも難しかろうと推測しています。

さて、当ホームページでは、一般にあまり知られていない、が、内容としては不変の価値を持つ名作古典の数々をご紹介することを使命としています。
出版作品は11作品を数えますが、印刷物では紹介しきれない短文の名作も実はたくさんあります。
今回ご紹介する過去ログは、これまで言の葉庵関連コンテンツ(他のブログも含む)で、代々アクセス数がもっとも多かったものです。

No.1コンテンツは「風狂のバケモノ、寒山拾得」。中国唐代の幻の風流子、寒山と拾得の物語です。中世仏教画の画材としてたびたび歴史的名画家に取り上げられた、寒山と拾得の来歴を明かす秘話。禅の奥儀に触れる普及の名作、『寒山子詩集』から翻訳した作品です。

アクセスNo.2は、「救われる極悪人『今昔物語』」。箸にも棒にもかからない極悪人(讃岐の源大夫)があるきっかけにより、改悛。阿弥陀仏を求める苛酷な旅の末に往生し、世にも美しい奇跡を起こすという逸話です。芥川龍之介の文学作品にもなった、有名な仏教奇譚ですが、やはり原文には及ばなかったかも。【言の葉庵】の新訳でお届けしています。

以上古典の名作中の名作二篇、ぜひこの機会にご鑑賞ください。


■風狂のバケモノ、寒山拾得。
http://nobunsha.jp/blog/post_83.html

■救われる極悪人『今昔物語』
http://nobunsha.jp/blog/post_133.html