Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

性格と予後

2011-02-22 11:45:44 | 日記
患者さんの性格ががんの予後にどう影響するのか、という事は多くの方に
とって興味深いテーマではないかと思います。このテーマに関する論文も
いくつかありますが、最も信頼出来るものは1999年にLancetに出た論文では
ないかと思います。

Watson M, et al. Influence of psychological response on survival in breast cancer:
a population-based cohort study. Lancet 1999;354:1331-36.

こちらでは、がんに積極的に立ち向かう「ファイティングスピリット」が
乳がんの生存率と関連しなかった、という結果でした。
もちろん、これだけでがんの予後に性格が影響しないとは言えませんが
研究のデザインや対象が578人と比較的多数の前向き研究である点から
他の同様のテーマを扱った論文よりも説得力があります。

さらに興味深いのは、同じ論文の中で、女性の抑うつと孤独感・絶望感が
再発率や生存率に影響した、という結果になっています。具体的には、
「抑うつ」を示した女性では、5年後の致命率(つまり亡くなった患者さんの割合)
が50%で、抑うつのない女性の23%よりも倍以上高く、また、孤独・絶望感の多い
女性の再発率は42%で、それ以外の女性の28%よりも有意に高かった、ということです。

このことから、どうやら患者さんの性格よりも精神状態の方が、病気の状態に大きな
影響がありそうです。経験上、症状に対する影響は更に顕著で、不眠・不安・抑うつは
互いに症状に影響し合い、予後だけでなく痛みや倦怠感、食欲や呼吸困難感などの
全ての症状も悪くします。

性格を変化するのは難しいにしても、孤独や抑うつは色々なアプローチで軽減
し得るのではないでしょうか。

スピリチュアリティについて

2011-02-17 11:11:32 | 日記
緩和ケアの領域において、スピリチュアルペインとかケアの重要性が問われて
いますが、「言葉の意味が分かりにくい」という声をよく聞きます。

スピリチュアルペインとは、これまでの価値観や自分の存在の意味を
失い、I am not OKになってしまった状態だと思います。

自己啓発に関する本を数多く著したデール・カーネギーは、
自分自身の存在価値を見出せること、自分が重要だと気付くことが
最も幸せなことだと言ったそうです。
良い意味の自己愛という事ですね。
スピリチュアルペインとは、これと逆の状態を言っているのでは
ないかと思うのです。

服部洋一先生は、スピリチュアリティを考える時に、
「目に見えない箱」を思い浮かべると良いと言いました。
この箱には患者さんの大切なものが入っています。
家族、友達、仕事、趣味、信念、誇り、哲学、宗教…。
スピリチュアルケアは、この箱と中身を大切に扱うこと。
時には中身を見せてもらい一緒に楽しむこと。

緩和ケア病棟に入院した患者様が、「元気になったらまた治療が受けたい」
と話しているのを聞いて、
この患者さんは「否認」しているので「受容」出来るように援助するべき、
等と考える人は、時に“受け入れないあなたは not OK”というメッセージになって
いないか注意するべきではないでしょうか。

時間・関係・自律(村田理論)などの言葉がしっくり来る方はそれでも
良いと思いますが、
スピリチュアルケアとは目の前の患者さんを大切に想うこと。
家族のように接すること。これ以上でも以下でもないと私は思います。


がんは愛に弱い…末期だった妻、夫と夢マラソン

2011-02-09 12:20:15 | 日記
とても良い記事を読みましたので紹介します。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110208-OYT1T00252.htm

胃癌で2年前に「余命3ヶ月」を宣告された20代の女性が、昨年暮れに
ホノルルマラソンを完走したというニュース。
おふたりの笑顔が印象的です。

このような記事を読むと、真実を知ることがイコール不幸ではない、
人間はいつでも希望を持って生きることが出来るのだとつくづく思います。
精神面の影響が疾患に与える影響を否定する医学者もいますが、
私はどう考えても深い関係があるとしか思えない。

こちらは、前立腺癌が消滅した、伊藤勇さんのホームページ。
久し振りに見ましたが、お元気に過ごしておられるようです。

http://www.asahi-net.or.jp/~is9c-yngw/

自宅で末期療養中に、酸素投与をしたほうがよいですか?

2011-02-08 10:55:31 | 呼吸困難の治療
CMECジャーナルクラブに、ランセットの論文が紹介されていました。


Abernethy AP, McDonald CF, Frith PA, et al. Effect of palliative oxygen versus room air in relief of breathlessness in patients with refractory dyspnoea: a double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2010 Sep 4;376(9743):784-93. PubMed PMID: 20816546.


オーストラリア、アメリカ、イギリスで、死期の迫った呼吸困難の患者さん239人を
(室内)空気投与、酸素投与群に分け、numerical rating scale(NRS)を用いた症状改善
を7日に渡って調べたところ、


朝の呼吸困難感は酸素投与群で−0.9ポイント(95%CI−1·3 to−0·5)、
空気群においては−0.7ポイント(95%CI−1·2 to−0·2) 変化した(p=0·504)改善。
同様に夕方においては、それぞれ−0.3ポイント(−0·7to0·1)、
−0.5ポイント (−0·9to−0·1) 改善がみられた(p=0·554)。


という結果。即ち、両群とも、何もしないよりはわずかですが症状が改善。
しかし、空気群と酸素群では症状の改善に差がありませんでした。


これを単純に酸素投与は意味がない、と結論付けている人達がいますが、
何もしないよりも酸素投与(空気と差がないとは言え)によりNRSが改善
した患者様もいた事は特筆すべきではないでしょうか。あくまで平均なので
全く無効な人もいたと推測されますが、逆にNRSで2点程度の改善もあった
のではかいかと思います。これには酸素を吸っている安心感や、空気が
流れている感覚が呼吸困難感を改善しているのではないかと言われています。
プラセボでもなんでも、呼吸が楽になる可能性があるなら試してみたいと
私なら思います。


ただ、酸素投与の前に窓を開けたり、三叉神経領域に風を当てることで
呼吸困難感が改善する方々がいますので、まず試してみるべきである事を
付け加えさせて頂きます。


それから、実は同様の論文は以前にも発表されていました。


Bruera E Palliat Med 2003;17: 659-663 低酸素なしでは空気/酸素投与は同等
Bruera E Lancet 1993; 342:13-14    低酸素ありでは効果に有意差あり
Booth S Am J Resp Critical Care Med 1996;153:1515-1518 鼻腔からの酸素投与で自覚症状がかなり改善する患者がいる


あらゆる病態に酸素が無効、と決め付けるのは乱暴である事は疑いありません。
少なくとも低酸素がある場合、酸素投与を試みる価値はあります。
また、エンドポイントが症状の改善のみであり、延命的な評価はされていない
点も考慮する必要があります。


ただ、緩和ケアの観点からは、自覚症状の改善がないのにダラダラと使い続ける
ことはないと思います。鼻カニューレを嫌だと感じる方も少なくないですので。 




最近の緩和ケア関連薬剤ニュース

2011-02-03 08:24:52 | 緩和・在宅関連ニュース
1.三叉神経後の慢性疼痛に適応を持っていたリリカが、平成22年11月に
「末梢性神経障害性疼痛」に適応拡大となり使用しやすくなりました。

2.1月21日付けで、アセトアミノフェン製剤カロナールの
成人における用量拡大が承認されました。


1回量 300~1000mg、最大量 1日4000mg


従来は保険上、1回300~500mg、1日1500mgまでしか処方が
認められていませんでしたが、この量ではがんの疼痛に対して
使用するには効果が不十分でした。
しっかりした量を使用することで効果の上積みを期待出来ます。

ちなみに、アセトアミノフェンの作用機序はまだ不明なところも
ありますが緩和医療界ではNSAIDsと併用出来、効果がプラスされて
いると考えられています。またNSAIDsの使用出来ない患者さんに
使えたり、何より副作用が軽微な事が魅力です。
但し飲みにくいこと、効果が短いこと、大量に内服した場合に
重篤な肝機能障害のリスクがあります。用法・用量は守るべきです。


3.トラムセット配合錠(ヤンセン)が承認されました。
トラマドール37.5mgとアセトアミノフェン325mgの新配合剤。
既に日本新薬から発売されているトラマドール内服剤(トラマール)
がありますが、こちらは非がん性疼痛にも使用出来るようです。
1回1~2錠 1日3~4回という使い方になるでしょうか。


あとは、昨年8月にフェンタニルの口腔粘膜吸収製剤(アクレフ)も
承認されていますが、こちらはまだ発売日が決まっていないとの事
でした。