Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

終末期のリハビリテーション

2011-02-02 13:22:18 | 日記
終末期のリハビリテーション

ある、がんの終末期の患者さんがリハビリを希望したところ、主治医から
「何故必要なのか」という返事があったとのこと。

死が目前に迫った患者さんに「医療は必要か?」という問いには
多くの医療者は「必要だ」と答えると思います。
「精神的な支えは必要か」という問いにも「Yes」と答える者が多い
のではないでしょうか。
しかし、「では、リハビリは?」と尋ねると必要ないという答えが返って
くる割合が増えるのかもしれません。

以前勤めていた緩和ケア病棟でも、再三の希望にもかかわらず
病院は病棟でのリハビリを認めてくれませんでした。
ただでさえ人数が不足しているリハビリのスタッフをこれ以上割けない、
というのは分かるのですが、リハビリなしで「全人的に支える」ことなど
出来るのだろうか、といつも思っていました。

無論、リハビリは回復という「希望」の象徴ですが、
役割はそれだけではありません。
誰もオムツや差込み便器で排便したくはない、だからこそ
痛かろうが苦しかろうが動ける患者さんは最期まで自分で用を足す
事を願うのです。廃用・拘縮や褥瘡の発症を予防すること、
経口摂取や呼吸困難を緩和するためのリハビリもあり、そう考えると
リハビリとはまさに「人間らしく生きる権利」に他ならないと思います。
「リハビリは不要」は「人間らしく生きる必要はない」と言っているような
ものです。

緩和ケアの目的は苦痛の緩和であり、安楽を提供出来れば役割
を果たしていると考える人もいるかもしれませんが、私はそれでは不十分
だと思います。「その人らしく」と口先だけで言うのではなく
リハビリの導入を真剣に考えていきたいと願います。

「申し訳ありませんががリハビリは提供出来ません」、ならまだ分かりますが、
「何故必要か」などとんでもない返答です。

早期からの緩和ケア開始が余命を延長

2011-02-01 13:07:13 | 日記
私がブログをお休みしている間に、ニューイングランドジャーナルという雑誌に、
早期から緩和ケアを実施することでQOLだけでなく、なんと余命も延長する可能性
がある、という論文が掲載されました。有名な内容なので皆さんご存知かも
しれませんが、一応紹介させて頂きます。

この調査は米国で新たに転移性非小細胞癌と診断された151例を対象に行なった、
ランダム化比較試験(RCT)で、肺癌の標準治療のみを行うグループと、標準治療
に加え、緩和ケアチームが介入し疼痛管理など緩和治療を行うグループに分け、
12週間後のQOLを比較したというものです。当然ながらQOLは有意差を持って
緩和ケア併用群で高かったのですが、緩和ケア群が終末期に積極的治療を受けた
患者が少なかったにも関わらず、生存期間の中央値は早期緩和ケア群のほうが
長かった(11.6か月 対 8.9か月,P=0.02,)とされています。
早くからモルヒネを使ったり睡眠導入剤を使用する事に抵抗を覚える方も
おられますが、決して余命を減らすことはなかった、と言えると思います。

オリジナルを読みたい方は、以下よりPDFがダウンロード出来ます。
http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1000678

早期からの緩和ケア介入が生存期間を延ばす可能性については以前より
示唆されていました(Bakitas M, et al. JAMA. 2009; 302(7): 741-9)。
今回も、生存期間については後ろ向きに解析されたものですので結論めいた
ことは言えませんが、皆さんが躊躇せずに緩和医療を受けられることに
役立てばと思い、紹介あさせて頂きました。