Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

死の3ヶ月から1ヶ月前の兆候

2010-05-31 12:55:09 | 旅立ちー死を看取る
はじめに

すべての人は死を迎えようとするとき、自分自身の独自性を保ちながら、
最後の経験をしていきます。この冊子は、ガイドラインや地図を示しているに
過ぎません。どのような地図でも、同じ目的地に到るには多くの道があり、
同じ町にたどりつくには多くの方法があります。

 非常に個人差があり、断定できることは何もないということを心にとめながら、
この冊子を使用してください。この冊子にある兆候のすべてがみられたり、
一部がみられたり、全然みられなかったりするかもしれません。
また、兆候によっては死の数ヶ月前にみられるものから、数分前にみられるもの
まであります。

 死はしかるべきときに、しかるべき方法で訪れてきます。死を迎えようと
している人にとって、死に方は一人ひとり異なるのです。

 以下に述べる兆候を時間割にあてはめようとすると、その時間割は非常に
変わりやすいものになります。しかし、兆候は死の3ヶ月から1ヶ月前に
始まるということができるでしょう。

 実際に死にゆく過程は、死の2週間まえに起きることが多いのです。
本当に死ぬということを理解し認めることは、死を迎えようとしている
人のこころの内側に起こっているのです。

 しかし、残念ながら、このことはいつも誰かと分かち合われるとは限らないのです。


1.死の3ヶ月から1ヶ月前の兆候 

 (1) 身を引くこと
「自分は死ぬのだ」ということが現実になると、人はこの世界から
身をひくようになっていきます。
 これが別れの始まりです。
 まず新聞やテレビに興味がなくなり、次に人々です。たとえば、
「ジェシーおばさんに『今日はだれとも会いたくない』と言って」
と言うようになるでしょう。そして、最後に子ども、孫、そして
最愛の人たちからも離れていきます。

 これは、自分自身をとりまくあらゆるものから身を引いていき、
内なる世界へ向かっているのです。
 内なる世界では、自分自身や自分の人生を整理し、
価値を見出すようになっていくのです。しかし、その人の内なる世界には、
ただひとりしか入れません。

 この過程はまぶたを閉じたままで行われることが多く、
眠っている時間が長くなっていきます。いつもの昼寝のほかに、
朝のうたたねが付け加わります。

 一日中ベッドの上で過ごし、起きているよりも眠っている時間の方が
長くなっていくのが普通です。
 しかし、ただ眠っているようにしかみえないこの状態でも、
周囲の人々にはわからない奥深いところで、とても重要な作業が
行われていることを知ることが重要です。

 この身を引きつつある過程では、誰かと会話をする必要が少なくなっていきます。
 
 去っていこうとしている世界では言葉が関係しますが、
死を迎えようとしている人にとって言葉は重要でなくなっていきます。

 むしろ、スキンシップや沈黙の方がより価値があるようになっていきます。

                    
                        
  (2) 食事量が減ること
 
 食事をすることは、私たちのからだを元気づける方法です。
食事はからだを維持したり、動かしたり、生かし続けたりする手段です。
私たちは生きるために食事をします。
 しかし、からだが死の準備を始めてときは、食事量が減ることは
ごく自然なことなのです。しかし、このことは家族にとってはとても
受け入れがたい考えです。

 食生活は徐々に変化していきます。何を食べてもおいしくなくなったり、
また、食欲もあったりなかったりします。また、固形物よりも液状のものを
好むようになります。「何も食べる気がしない」と言うようになります。
始めは肉類、野菜、そして飲み込みにくいもの、最後は柔らかいものさえ
食べられなくなっていきます。

 食べられなくなっても大丈夫です。
このときは、ほかの異なるエネルギーが必要になっているのです。
これからは、からだのエネルギーではなく、
こころのエネルギーがその人を支えることになるでしょう。

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(注)太字は私が勝手につけました。

わが国では死が生活から切り離されてから随分と時間がたちました。
死の3ヶ月前くらいから兆候が始まる、というのはホスピスを経験
している私には頷けるものがありますが、多くの御家族にとって、
この兆候は死の準備としては認識されず、見過ごされているように
感じます。その結果として、もっと悪くなってから
「こんなに早く亡くなるとは思いませんでした」
と皆さんおっしゃいます。

もちろん、それでも良いのかもしれません。
ただ、もっとこうしてあげたかった、というような後悔が
ある方も多いので、体調の変化に関する知識を持つことも
有益な場合があるのではないかと思っています。

旅立ちー死を看取る

2010-05-30 13:37:09 | 旅立ちー死を看取る
ホスピスに勤務したての時期、2002年頃であったと思いますが、
病棟でこの、「旅立ちー死を看取る」という小冊子に出会いました。
(以前のブログでも簡単に紹介させて頂きました)
これは、アメリカの元看護師のバーバラ・カーンズ(Barbara Karnes)
という方が書いた"Gone From My Sight: The Dying Experience"
という冊子で、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団から翻訳された
ものが配布されていました。

これは、人が弱り、死に向かう過程を、一般の方々に分かりやすく
簡潔に、そして優しい言葉で書かれた冊子です。
簡潔ですが、残される家族が知りたい内容が、実にしっかりと
書かれた本だと思います。

残念なことに、既に配布が終了しており、手に入らなくなっていますが
良い内容なので、これから何回かに分けてここで紹介させて頂こうと
思います。この冊子は無料で配られたものですが、著者のカーンズさん
とは面識ありませんし、許可を得ている訳ではありません。
著作権等で問題になるようであれば、速やかに削除させて頂きます。

インフューザー

2010-05-27 08:29:33 | 在宅での薬剤の使用について
リニアフューザー、シュアフューザーを御紹介しましたが、最後に
バクスターのインフューザーポンプについて御紹介します。
他社製品と比べてのメリットですが、まず何と言ってもPCAで注入
する薬剤の量に選択肢がある(0.5mlと2.0ml)こと。
またロックアウトタイムも15分、1時間で選択出来ます。
PCAのボタンも、シュアフューザーよりは押しやすそうですし
コンパクトなデザインですので違和感も少ないように思います。

欠点を挙げるとPCAがつくとラインが分かれ、プライミング等が
慣れないと面倒な印象です。またバルーン式なので最大充填量の
プラスマイナス10%くらいの速度のずれは仕方ないようです。
ポンプの値段(定価)は5050円とのことで、PCA付きを考慮すると
他社なみかな、と思いました。細かいですが12個単位でしか購入
出来ないです。薬局で薬剤と一緒に処方する時も薬局の合意が
必要になりますね。

感想として、凄く良い訳ではありませんが、
在宅で麻薬の持続皮下注射を用いるなら
消去法でこれになるかなぁ、という感じです。

シュアフューザー

2010-05-18 13:19:05 | 在宅での薬剤の使用について
ニプロのシュアフューザーの紹介になります。こちらは流量可変式のものと
PCA(早送り)機能の付いたものがあります。しかし、流量可変式機能と
PCAを両立させる事は技術的に難しいようで、現在のところ両方の機能が
付いたポンプはありません。

シュアフューザーは、PCA機能が3ml早送りのタイプしかない
のが問題です。持続1mlのタイプで3ml早送りされてしまうと、麻薬では
3時間分の量が早送りされてしまう事になり、これはかなり多い量になる
と思います。持続3mlのポンプを使えば、ちょうど良い量の早送りになる
ものの、時間3mlのポンプはかなり大きいので、非常に使いにくいです。

また、PCAのボタンが堅い印象があります。力がないと押しにくいので
ご高齢な方では押すのが大変だと感じました。

申し訳ないのですが、上記2点だけでも在宅で麻薬の処方にシュアフューザーを
使用するのはちょっと難しいかもしれません。

シュアフューザーはPCAが付いている割には安めですが、それでも6000円
前後します(定価なので実際はもう少し安いと思いますし、もちろんPCA
がないものはもっと安いです)。前述のように薬局で処方するなら、
単価はあまり関係ないので、安さはそれ程のメリットにはならないかもしれません。

現在、ニプロでは新しいデバイスを開発中とのことですので、
そちらを期待することとしましょう。

リニアフューザー

2010-05-16 15:08:15 | 在宅での薬剤の使用について
リニアフューザーは、テルモから販売されている、ディスポーザブルポンプ
です。linear(直線的な)という名の通り、初めから終わりまで正確に同じ
速度で薬剤を注入出来る点が最大のポイントです。これは、他の使い捨て
ポンプがバルーンの萎む力を使っているのに対して、スプリングを用いて
いることによります。クリニックでも実験してみましたが、確かにかなり
正確です。

一方、最大の欠点はと申しますと、PCA(早送り機能)がないことで、これは
医療用麻薬を用いるには大きな欠点になります。ただし、座薬を用いる事で
代用出来るのも確かなので、致命的とまでは言えませんが。また通常早送り
しない薬剤(サンドスタチンやケタラール)では何ら問題はありません。

もうひとつの欠点は、在宅で医療用麻薬の注射剤を使用する時には、
『速度を患者・家族が変更出来ないようにする』というのがルールに
なっています。リニアフューザーは速度を3段階に変更出来るのですが
患者様・御家族でもいじれてしまうので、上記のルールに反します。

そこで、ロック出来るダイアルカバーを使うことになりますが、これが
一度装着すると二度と外せない構造になっているため、
実質可変式の良さが失われる羽目になります。結論として、
速度を変更出来ず早送り機能もついていない本製品は
リニアフューザーは医療用麻薬の使用には不向き
と言わざるを得ません。
一方、抗がん剤などの在宅での使用も増えてきていますが、そのような
場合、速度が一定であるリニアフューザーは良いかもしれません。

さて、お値段ですが、PCAが付いていない分、安めになっており、
4000円程度で購入出来ます。

※ダイアルカバーはテルモに問い合わせると持ってきてくれます。