Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

自宅で末期療養中に、酸素投与をしたほうがよいですか?

2011-02-08 10:55:31 | 呼吸困難の治療
CMECジャーナルクラブに、ランセットの論文が紹介されていました。


Abernethy AP, McDonald CF, Frith PA, et al. Effect of palliative oxygen versus room air in relief of breathlessness in patients with refractory dyspnoea: a double-blind, randomised controlled trial. Lancet. 2010 Sep 4;376(9743):784-93. PubMed PMID: 20816546.


オーストラリア、アメリカ、イギリスで、死期の迫った呼吸困難の患者さん239人を
(室内)空気投与、酸素投与群に分け、numerical rating scale(NRS)を用いた症状改善
を7日に渡って調べたところ、


朝の呼吸困難感は酸素投与群で−0.9ポイント(95%CI−1·3 to−0·5)、
空気群においては−0.7ポイント(95%CI−1·2 to−0·2) 変化した(p=0·504)改善。
同様に夕方においては、それぞれ−0.3ポイント(−0·7to0·1)、
−0.5ポイント (−0·9to−0·1) 改善がみられた(p=0·554)。


という結果。即ち、両群とも、何もしないよりはわずかですが症状が改善。
しかし、空気群と酸素群では症状の改善に差がありませんでした。


これを単純に酸素投与は意味がない、と結論付けている人達がいますが、
何もしないよりも酸素投与(空気と差がないとは言え)によりNRSが改善
した患者様もいた事は特筆すべきではないでしょうか。あくまで平均なので
全く無効な人もいたと推測されますが、逆にNRSで2点程度の改善もあった
のではかいかと思います。これには酸素を吸っている安心感や、空気が
流れている感覚が呼吸困難感を改善しているのではないかと言われています。
プラセボでもなんでも、呼吸が楽になる可能性があるなら試してみたいと
私なら思います。


ただ、酸素投与の前に窓を開けたり、三叉神経領域に風を当てることで
呼吸困難感が改善する方々がいますので、まず試してみるべきである事を
付け加えさせて頂きます。


それから、実は同様の論文は以前にも発表されていました。


Bruera E Palliat Med 2003;17: 659-663 低酸素なしでは空気/酸素投与は同等
Bruera E Lancet 1993; 342:13-14    低酸素ありでは効果に有意差あり
Booth S Am J Resp Critical Care Med 1996;153:1515-1518 鼻腔からの酸素投与で自覚症状がかなり改善する患者がいる


あらゆる病態に酸素が無効、と決め付けるのは乱暴である事は疑いありません。
少なくとも低酸素がある場合、酸素投与を試みる価値はあります。
また、エンドポイントが症状の改善のみであり、延命的な評価はされていない
点も考慮する必要があります。


ただ、緩和ケアの観点からは、自覚症状の改善がないのにダラダラと使い続ける
ことはないと思います。鼻カニューレを嫌だと感じる方も少なくないですので。 




2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ぴすた)
2011-02-09 11:11:54
 疾患による影響もあるかとは思いますが入院という拘束された状況に対して「息が詰まる思い」をされた結果ではないかと感じる方も多くいるように思いますがいかがでしょう?
返信する
Unknown (こたろう)
2011-02-09 12:19:54
そうですね、特にマスクは閉塞感が強いと思いますので、心理的に良くない影響もありそうです。ケースバイケースですね。
返信する