Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

胃瘻の値段

2012-03-16 09:21:32 | 認知症の看取り
今日は胃瘻の値段についてお話をさせて頂きます。
その前に、ここ何度かの胃瘻の話を読んで下さった
方は御承知だと思いますが、
私は自分自身が本当に胃瘻を受けたくないので
どうしても胃瘻に反対の気持ちが入る事が多いです。
ある方にとっては、それは不快に思われるかもしれません。
もちろん、私と違う意見の方を否定する意図はありません。
しかし、介護負担や金銭的負担など詳しい説明もなく胃瘻
を造り、後悔する方が多いのも事実なのです。
導入前に議論を、または自身の意思表示を考えて頂きたい。
それが私のブログの主旨です。

今日はその、金銭的な負担を考えたいと思います。
胃瘻の値段についてあまり論じられないのは、医療の話に
お金の話を持ち込むべきではない、とか人の命に値段を
つけているような不快な想いをする方が多いからではないか
と思います。その感覚はとても良く分かります。
しかし、現実的には生きるために考えなくてはならない事柄
であり、後で知らずに苦しむのは患者様や御家族なのです。

まずは佐々木先生達の以下の文献があります。
http://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/45/4/45_398/_article/-char/ja
PDFファイルで、全文を読むことが出来ます。
これによると、胃瘻では平均1.2年生存し、900万の医療費がかかった
とあります。これは公費の話です。個人の負担は基本的にはこんなに
かかりませんので。
もちろん、一口に胃瘻と言っても患者様の全身状態により、
あるいは介護力によりこの値段はかなり大きく異なると思われます。
あくまで平均です。
しかし、要介護5に近く、また医療費・栄養剤費・消耗品など考慮すると
確かにこれくらいになるかもしれません。
公費ならいいじゃないか、と単純には言えません。
医療費・介護保険が膨れ上がり医療崩壊の危険が叫ばれているのは
周知の事実です。皆保険を必死に守っていますが、そう遠くない
将来、維持出来なくなるかもしれません。

少し逸れますが1960年代には5000億程度であった国民医療費も、今や
30兆を遥かに越えています。
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2010/010878.php
国債を含めて国家予算が85兆円程度だと思いますので深刻さが伺えます。
これらの負担がやがて私達の子供達にふりかかる事になります。

現在、胃瘻の新規導入が20万件程度と考えられており、既に導入になっている
方と合わせると40万人と推測されています。このままでは2025年くらいまでは
100万人程度に増える計算だそうで、これに900万を掛けて頂ければと思います
(ちなみに900万はあくまで1.2年間での話です)。
殆どが家族も、医療者も、御本人も苦しむ可能性の高い延命であるとすると
やはりもう少し議論出来ないかと思うのは私だけでしょうか。

最後に、家族負担を考えます。これもピンからキリまでで、お話するのが
難しいですが、概ね自宅介護では月4~5万(介護者に平均的な介護力がある
場合)、有料老人ホームでは15万~30万(都内は高いです)という事に
なると思います。
諸経費が掛かるので、これより多めに考えて頂いた方が良いですが。
療養型病院や特養では遥かに負担は少なくなり、在宅+αくらいになるかも
しれません。しかし、自己負担が少ないという事は公費がその分多く掛かる
訳です。

お金のために医療を控える事はあってはならないとは思うのですが、
世界の大部分ではそれが当たり前なのです。
我が国でも、この状況を維持する事がかなり難しくなっています。
その事は皆さんに考えて頂く必要があります。
次の世代に苦しみを丸投げしないように…。