Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

鎮静(セデーション)とは

2010-04-30 15:45:57 | 鎮静について
緩和ケアにおいて時々行われる『鎮静(セデーション)』に
ついて、少しお話させて頂きます。症状緩和に対する、あらゆる
治療を行っても耐え難い苦痛が軽減しない場合があります。
この場合、緩和ケでは鎮静を選択肢として挙げます。
鎮静とは、患者様の苦痛が軽減するまで安定剤(睡眠薬)を増量
する方法です。薬の量を加減する事で、「呼べば目覚めて答える」
程度の鎮静から、全く反応がなくなる位までの深い鎮静まで
鎮静にも度合いがあります。また、患者様の辛さに合わせて、
一時的/間欠的に安定剤を使用する場合もあります。

鎮静が必要となる症状で最も多いのは呼吸困難とせん妄です。
痛みや嘔気・嘔吐、倦怠感が原因となる場合もあります。
鎮静の頻度は施設間で大きく異なりますが、平均すると20%
程度になります。鎮静の期間は数日間が殆どです。

セデーションについて今後も触れていくと思いますが、まず最初に
これだけはお伝えしておきたい事があります。それは、
『鎮静は安楽死や自殺幇助ではない』
という事です。セデーションの目的は患者様の死ではなく、
苦痛の緩和なのです。
たとえ患者様の死期が迫っていたとしても、
意図的に死を早める決断は誰にも出来ないのです。
従って致死量の薬剤(例えばモルヒネ)を使用したり、
セデーションが開始されたからと言って自動的に他の薬剤を
中止するなどの対応は明らかに間違っています。

緩和医療関連の新規薬剤発売について

2010-04-29 07:32:10 | 緩和・在宅関連ニュース
緩和医療の分野では、ここしばらく疼痛治療で使用出来る薬剤に
あまり進歩がなかったのですが、以下の薬剤がもうすぐ臨床で
使用出来るようになります。

1.『リリカ』(一般名プレガバリン)ファイザー製薬
抗痙攣薬として既に使用されている、ガバペンの後継品として
神経障害性疼痛への使用が期待されています。ただ、最初は
帯状疱疹後神経痛のみの適応になるようです。
4月に承認を受け、発売は6月頃になると思います。

2.『フェントステープ』(フェンタニル経皮吸収型治療剤)久光製薬
デュロテップと同じタイプのフェンタニル貼付剤ですが、交換が1日
1回になるのがメリットです。流石に3日間も貼付すると被れ・痒みが
問題になったり、入浴時には手間でした。地味な変化ですが助かります。
こちらも4月に承認を取っていますので、発売は6月頃です。

3.協和発酵キリンが2月にフェンタニル舌下錠「KW-2246」の承認を
取得しています。商品名はAbstralになるのでしょうか?こちらも
そろそろ販売開始になると思います。

詳細はまた後日お知らせします。

皮下輸液

2010-04-28 06:45:26 | 輸液関連
皮下輸液

癌に限らず在宅で終末期を迎えた患者様に輸液をする場合、
皮下輸液という方法があります。方法は知っていましたが
在宅をやるまで自分では行った事がありませんでした。
経験がないので躊躇する医師が多いようですが
実際やってみるとなかなか良かったので報告させて頂きます。

利点は何と言っても
1.血管を捜して何度も針を刺さなくて良い。部位の変更も
1週間に1度程度で済む事が多い。
2.生食/ヘパリンロックが不要
→点滴をシュアプラグの接続部分から外せば良いだけなので
輸液を外しに再び医療者が訪問する必要は殆どない。

この点、在宅ではかなり有利です。

欠点は、
1.直後はかなり浮腫む(御家族には少し大袈裟に説明しないと
びっくりされる場合がある)。腹部から輸液すると大腿や側腹部、
背中のほうまで輸液が溜まってしまう事もある。翌日には殆どが
吸収される。吸収しきらない時は量を調節したり休みを作ると
良い。
2.点滴出来る輸液の種類が限られている。生食やソリタは大丈夫。
3.身体の向き等で吸収が大きく異なる事があり、点滴の時間は
かなりアバウトになる傾向。
4.現実的には500ml程度の輸液が精一杯

下記に具体的な方法を示したサイトを紹介致します。

OPTIM
http://gankanwa.jp/index.html

ここで、医療者向けツール・資料→ダウンロード用PDFと
進み、IV. 緩和ケアのスキルのPDFファイルを参照して下さい。
また、「関連ムービー」でも実際の皮下輸液の方法を動画
で観ることが出来ます。

また、褥瘡のラップ療法(OpWT)で有名な鳥谷部先生のサイト
でも、実際に皮下輸液を行った経験について説明があり、
かなり参考になりました。

最後に私の方がらひとつ提案を。まず、トンボ針は在宅では
外れた時に危ないです。また胸部にトンボ針を使用し、動いた時に
針が肺に刺さり、気胸となったケースを聞いた事があります。
痩せた方が多いので、サーフローの方が無難だと思います。
22G程度で十分です。

終末期の輸液について

2010-04-27 12:27:09 | 輸液関連
緩和ケアの領域で、経口摂取が困難になった場合、輸液をするかどうか
が問題となる場合があります。緩和医療学会からガイドラインが出ていて
輸液判断のひとつの参考に出来ますが、輸液にはその医療的なメリット、
デメリットの他に患者様、御家族の想いが入り込み、しばしば判断が
難しくなります。

確かに、輸液はせん妄の改善や意識低下を改善する可能性、ある程度の
延命効果は期待出来る一方で、点滴がもたらす延命が単に最もつらい時期を
引き延ばすだけに終わる可能性を考えなければいけません。また、
点滴の管に繋がれていることを苦痛に思う患者様も予想以上に多く、
四肢や顔面の浮腫み、胸・腹水や気道・腸管分泌物の増加、尿量増加
(トイレに移動する患者様では負担増)等輸液そのものが苦痛を増して
しまうこともしばしばあります。緩和に携わる医療者はそういった場面
をたくさんみていますし、逆に輸液を行わない最期が「良い死」である
事が多いので、輸液を行うことに否定的な方が多いです。

私も医療者として、医学的には輸液は避けた方が良い場合も多いと
思います。しかし、理屈のうえではそうでも、患者様、特に御家族
にとっては輸液が命綱、奇跡的な回復の最後の希望のシンボルで
ある場合もあります。その場合、理屈で説得して中止にしても、
後で“想い”が残ってしまう場合があるのではないかと考えています。
実際、患者様が拒否しているならともかく、家族が判断をしなければ
いけない場合、「輸液をしないで良い」という判断を下すのは相当
難しく、つらいことも多いと考えます。

従って、輸液を食べられないから、と自動的に輸液を行うのは
間違っていますが、逆に全例点滴を行わない、とする方針も乱暴です。
当然のことながら、輸液はケース・バイ・ケースで考えていく事柄で、
実際のところ、不感蒸泄を考慮しても200~500ml程度の輸液では大きな
苦痛をもたさず(あまり益にもなりませんが)、中止にしなくて良い場合
も確かにあります。苦痛が明らかに増してくる場合、輸液の減量/中止を検討
しますが、中止にする場合も、「金輪際しません」という決断・説明をする
必要はないと思います。

ちなみに輸液に関しては以前のブログにも書いた事があります。
結論はあまり変わっていないのですが…。
http://blog.livedoor.jp/kotaroworld/archives/12419851.html

ご意見ある方はお待ちしています。

訴えの先にあるもの

2010-04-26 17:23:40 | 日記
緩和ケア病棟にいる時、患者さんから、「食欲が全然なくて痩せて
しまいました」とか、「脚がこんなに浮腫んでしまって」など、
色々な訴えをお聞きしました。
医療者の習性で、そのような症状をお聞きすると
「では、検査で何か食欲に影響する異常がないか調べてみましょう。
異常がなければ食欲の出る薬を」
「脚を上に上げたり軽いマッサージが効果的です。
改善しなければ利尿剤を出しましょう」
などと、検査や薬の話をしてしまいます。
「では、お願いします」
という返答が返ってくることももちろんありますが、
「はい…」と釈然としない返事を頂く場合もあります。
後者の場合、患者様が本当に言いたいことは症状そのものではなく
死が迫ったことに対する不安や、自己喪失の痛みそのものなのです。
それが分かるのですが、その時にどんな言葉を掛ければ良いのか、
黙っている方が良いのか、未熟な私は悩んでしまいます。

では、逆に私なら医療者にどうして欲しいだろう、と考えると、
きっと採血や「食欲の出る薬」はあまり希望しないと思います。
このような言葉を掛ける時は、きっと少し話がしたかったり、
誰かに一緒に居て欲しい気持ちなのではないかと思うのです
(一人になりたければ、きっとそのような訴えもしない気がします)。
だから医療者はその時、誤魔化したり逃げ出すのではなく
留まって話をする方が良いのではないかと思います。
別に気の利いた台詞や感動的な言葉を期待している訳でもないので
話す内容は、きっとそれ程重要ではありません。
誠実に対応して下されば、私ならきっと嬉しいと思いますから。
そう考えると、今の私こんな対応でも、大きく間違ってはいないのかな、
と思うのです。