Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

ミルタザピン

2012-03-13 08:57:48 | その他
少し前に、掻痒感の緩和について記事を書かせて頂きましたが、

http://blog.goo.ne.jp/kotaroworld/e/9c6d590b1b11419f3a0aec7693efda61

緩和医療学会のPalliative Care Researchで興味深い記事を読んだので
紹介させて頂きます。タイトルは、
『終末期がん患者の掻痒感にミルタザピンが有効であった1例』
です。ミルタザピン(商品名リフレックス、またはレメロン)は
NaSSAと呼ばれる比較的新しい抗うつ剤です。

文献の内容は、終末期悪性リンパ腫の耐え難い痒みに対して
ミルタザピンを使用したところ、2日目より掻痒が軽減。
7日頃には殆ど痒みに悩まされることがなくなった、という
内容です。有難いことに、緩和医療学会のサイトから全文が
ダウンロード可能です↓

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/7/1/510/_pdf/-char/ja/

さて、何故ミルタザピンが痒みに有効であったのかと言うと、
残念ながら機序は明らかになっていません。
過去に、同じPalliative Care Researchで、肝臓癌の黄疸による
強い痒みにパロキセチン(商品名パキシル)が奏功したという
記事もありました↓

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/1/2/317/_pdf/-char/ja/

いずれも開始1~2日で著効を示していることから、抗うつ効果とは
無関係であることが推測されます。ミルタザピンは抗ヒスタミン作用
も強いですが、ステロイドも抗ヒスタミン薬も無効であったことが
記載されていますので、この作用だけでも説明がつきません。
どうやらセロトニンが痒みに関係しているのではないか…と言われています。
尚、この作用は耐性が生じると言われており、この文献でも2ヶ月後に
再び掻痒感が生じたことが述べられています。

SSRIとミルタザピンの最大の違いは?と言われたら、薬理学的な説明
は他に譲りますが、何と言ってもSSRIの最大の欠点と言うべき初期の
嘔気がほぼ見られないことではないかと思います
(それどころか抗H1作用により吐き気に有効との報告もある程です)。
また、初期量15mgがそのまま有効量となっている点も、漸増する必要
のあるSSRIと大きな相違点です。
その他に薬のメリットを挙げると、効果発現が速く強いこと。
1週目から有意な改善効果がありますが
これらの特徴は終末期のがんの患者様にはとても大きな利点です。
更に繊維筋痛症への適応拡大も考えているということで、疼痛への作用
も期待されており、癌性疼痛への使用も報告の待たれるところです。

短所とされている眠気ですがMRさんによればそれこそミルタザピン
の長所のひとつだそうで、確かに抑うつ・不安・苛立ちなどは睡眠
による影響を強く受けるものだと思います。

※眠気は初日・2日目に強く、しかし逆に2週間目以降は日中の覚醒
レベルを改善させるそうです。

不眠にトラゾドン(レスリン)やミアンセリン(テトラミド)は
よく使われますが、ミルタザピンも、もっと使われて良い薬では
ないかと思っています。ちなみに分割は不可能ではないですが
割線はデザイン線であり、うまく割れるかどうかという問題が
あります。粉砕可(光にやや不安定、遮光推奨)
簡易懸濁は可(5Fr以上は通過問題なし)とのことです。


セロクエル

2012-01-26 09:17:26 | その他
在宅でひどい昼夜逆転やせん妄に対して、この薬を使用出来る
ようになってから困ることが少なくなりました。
セロクエルは非定型抗精神病薬に分類され、保険適応病名は
「統合失調症」ですが、以下を見て頂くと分かる通り、平成23年
9月より「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」
に対しての使用は保険審査上認められる事になりました。
(セレネース、ルーラン、リスパダールも同様です)

http://www.ajha.or.jp/admininfo/pdf/2011/110928_2.pdf

セロクエルの特長は、セレネース・リスパダール等と比較して
抗幻覚・妄想作用は少なく、反面錐体外路症状の副作用も
とても少ないとされています。そして何と言っても鎮静作用が
強く、不眠に対して強い味方になります。

せん妄は、簡単に言えば「主に体調が悪い時にみられる、半分眠っている
状態」です。治療の基本は、出来るだけ副作用の少ない薬を使って、
「夜眠って頂く」ことなので、セロクエルはその点もってこいの薬です。
昼間の幻覚・妄想に対してセレネースやリスパダールを使うより
ずっと良い結果になると私は感じています
(もちろん、状況により併用が必要な事もあります)。

余談ですが、せん妄に対して抑肝散という漢方を使うのが流行りに
なっているようです。確かに、効くことはあると思いますし、副作用の
少なさから第一選択とする事は私も賛成です。
しかし、内服が非常に大変であるため、終末期のがんの患者様に
限って言えば、気軽に試せる薬とは言えません。
お湯や柑橘系のジュースに溶かすと飲みやすいという事ですが…。

話を戻します。セロクエルも、もちろん夢の薬ではなく副作用にも
気をつける必要があります。まず、糖尿病には禁忌です。
肝機能障害の経験がありますし、25mgでも鎮静が強過ぎて昼間まで
眠ってしまう事もあります。誤嚥・転倒・廃用に注意し、適宜半錠にする
等の対応は必要です。尚、腎機能低下に対し通常減量の必要はなく、
半減期も短いのが特徴です。

皮膚の痒みに対する治療

2012-01-25 08:51:52 | その他
進行がんの患者様に限らず、高齢者では皮膚の痒みに悩む方が
少なくありません。対応としては抗ヒスタミン薬の内服や塗り薬
がよく処方されますが、十分な効果がなく、強い痒みを我慢
しなければいけない場合も多いと思います。医療者を含め
多くの人達も、「痛み」と聞くと一大事だと思いますが、「痒み」
と聞くとそこまで深刻に捉えない場合もあるようです。
しかし、実際は強い痒みは著しくQOLを下げる程辛いものです。

どの症状でも同じですが、まずは原因を検索し、原因に対して
治療を選択するのが基本になります。

最も多い原因は皮膚の乾燥によるものですが、
この原因では、きちんとしたケアをするだけで軽減する場合が
多いです。保湿剤はプロペト(白色ワセリン)がベストですが
ベタベタして嫌がられる方も多いと思います。そこで、
ヒルドイドソフト50g+プロペト25gという具合に2:1で混合すると
使用感・保湿力とも丁度良くなりますので試して下さい。
また、掻いて赤くなってしまった部分については、痒みを増すので
そこだけステロイドの軟膏をつけると数日で良くなります。
レスタミン等(抗ヒスタミン薬)の軟膏も良いですが効果が
長続きせず、乾くと新たな痒みの原因にもなるそうですので、
プロペトと混合したり、レスタミンの上から保湿剤を使うのが
良いそうです。

軟膏類の工夫でも痒みが十分に取れない場合は抗ヒスタミン薬の
内服を考えます。眠気が出るものが多いので、患者様がそれを
臨む時を除いてアレグラ等の眠気が出ず、薬物相互作用の少ない
ものが良いと思います。経験的にアレグラでも結構効きます。
亜鉛を含んだ薬が良いと知り、プロマックを使用したところ
割合に良い効果を経験します。しかし効果出現まで2週間程度は
かかる印象で、錠剤の内服が増えるのが辛い患者様には向かない
かもしれません。

黄疸による痒みについては、パキシルが著効する場合がある事を
以前記事に書きました。本来パキシルは重症の肝機能障害には
禁忌ですが、閉塞性黄疸や上記を理解した上で他の方法では緩和
出来ない強い痛みでは考慮しても良いのではないかと思います。
また、リファンピシンも黄疸による痒みに有効という報告も
あります。

過去記事
http://blog.livedoor.jp/kotaroworld/archives/50952092.html

黄疸の痒みに対するパキシルの使用についての論文
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/1/2/317/_pdf/-char/ja/

モルヒネでも強い痒みが出ることがあります。
これも上記の記事に書きましたがゾフランやディプリバンが有効
な場合があるそうです。ホスピス以外では適応症の問題で使用
出来そうにありませんが…。
【追記】ただ、モルヒネの場合痒みには耐性が出来てくる
という報告も多いです。

ゾフランやディプリバンよりはもう少し現実的なアイディアと
して、私が期待しているのはレミッチという薬です。
痒みがオピオイド受容体の中のμ受容体に関係している事が
分かっていますが、これは完全なκ受容体の作動薬です。
何故κ受容体作動薬が痒みに効くの?という方は、下に
示したPDFファイルを読んでみて下さい。良く分かると思います。

2009年に既に発売になっていますが、適応症が
「血液透析患者の掻痒」となっているので一般低には使用
出来ない状況です。理屈からすれば他の痒みでも効果がある
はずで、現在肝機能障害とアトピー性皮膚炎に適応拡大を
検討しているところだと聞いています。
ホスピスでは使用出来ますね。

http://www.remitch.jp/material/file/di_rmt.pdf#search

痒みで本当に困っている人達の福音となる可能性がありますが
一方で薬の性質上オピオイドとの併用による効果・副作用の
問題などは(大丈夫だと思いますが)未知数です。

夜間の頻尿について

2012-01-24 08:47:39 | その他
頻尿は進行がんに限らずたくさんの方の経験する辛い症状の
ひとつです。特に夜間の頻尿は不眠や転倒の原因となります
(筋力の低下や浮腫などがあれば転倒のリスクは格段に高く
なります)。
緩和医療学会のガイドラインにも『終末期がん患者の泌尿器
症状対応マニュアル』があり、PDFファイルをダウンロード
出来ますが、多くの患者様の悩みのひとつになっている事が
伺われます。

血糖・高カルシウム血症や尿路感染など、補正により治療
出来るところから検査をしていくのは言うまでもないですが
これらに異常がない場合はどのような対応を考えたら良い
でしょうか。

頻尿と言うと最近はポラキス・バップフォー等の抗コリン薬が
やたらと使われます。もちろん、劇的に効果がある事もあり
ますが、一方で症状を増悪させたり抗コリン作用による
副作用もあり、使用前に残尿を調べるのはもちろんの事、
体力の低下した高齢者では眠気、ふらつき、便秘、せん妄
等にも要注意です。

※更に進行がんの方はただでさえ抗コリン作用を持つ薬を
多く内服されていると思いますので副作用増強にも注意が
必要です!(モルヒネ・ブスコパン・三環系抗うつ薬など)。

最近は心不全・高血圧のがBNP、カテコラミンといった利尿に
関係のあるホルモンを過剰に分泌させ、夜間の頻尿に繋がっている
という報告も見られるようになりました。このことから午後の利尿剤の
投与が夜間の頻尿を改善するという報告があり、考慮に価する
のではないかと思います。
もちろん、その前に輸液量の見直し等も検討すべきです!


夜間排尿回数、利尿薬投与で中央値6回から2回に減少
http://www.m3.com/academy/report/article/120406/?portalId=academy&pageFrom=openAcademy

夜間頻尿の病態と治療について。BNPの話題も
http://medical.radionikkei.jp/premium/entry-156871.html

もうひとつ紹介したいのは、ロキソニンに頻尿を改善する効果が
ある、という事が最近よく報告されています。腎血流量を低下
させ、膀胱容量を増大させることがその作用機序と考えられて
います。70~80%程度で効果があるとのことで、他の治療で
QOLが改善出来ない場合は考慮出来ると思います。
ここでは長くなるので敢えて論文は挙げませんが、
『ロキソニン 頻尿』等で検索すると多数ヒットします。

進行がんの患者様に対する使用経験はありませんが、
自分自身や頻尿でお困りの方に使用して、確かに効果を
感じています。効果の持続時間は5~6時間で屯用でも
効果があります。寝る前に眠剤と一緒に内服して頂くと
良いかもしれません。もちろん、長期内服では副作用も
多い薬剤ですので、総合的に適応を判断すべきだとは
思います。