Not doing,but being ~在宅緩和ケアの普及を目指して~

より良い在宅訪問診療、在宅緩和ケアを目指す医師のブログ

本:痛は「怒り」である

2012-01-27 13:34:56 | 日記
この本は2002年の4月に初版が出ていますが、少なくとも一部では
かなり反響を呼んだ本です。腰痛の多くは腰そのものにに原因がある訳
ではなく、ストレスなどに起因した心身症により発症する、という内容。
胃腸の調子や喘息などの症状が心因的な影響を大きく受ける、という
事は広く受け入れられた考えですが、実は骨格筋はこれらと同様、
あるいはそれ以上に感情の影響を受けるというのです。
確かに、骨が著しく曲がっているのに痛みがない人もいれば、
画像上大きな問題がないのに強い腰痛に困っている人は多いと思います。
また、骨折の後があっても時期と合わなかったり、実は痛いのは別の場所
である事も結構あるはずです。

この考え方は著者の長谷川 淳史さんのオリジナルではなく、
ニューヨーク大学医学部教授ジョン・E・サーノ博士が提唱した理論を
元にしており、「ヒーリング・バックペイン」という本などに書かれています
(翻訳されています)。

読んでみれば分かりますが自身の経験を踏まえつつ理論的、かつ慎重な
書き方をされており、医師である私が読んでも納得出来る書き方でした。
もちろん、腰痛のメカニズムには不明な点も多く、この考え方だけで改善
するものばかりではない事は間違いないですが…。
例えばAmazonの書籍のレビューを見ても、この本に救われたという人達が
たくさんいる事が分かります。

この本によると、「怒り」という感情は喜びや悲しみと比べて「持つことは恥、
持たない方が良い感情」として抑制されてしまう事が多く、積もった感情が
症状に影響している、というのです。もちろん「怒りを消す」事は簡単では
ありませんが、この本では「怒りを持つ自分」を認めるだけで痛みが軽減する
事があると言うのです。

そんなものは暗示、プラセボだ、という人は必ずいると思います。
しかし、暗示でも良いではありませんか。腰痛で困っている人が暗示で良く
なるのであれば、こんなに良い話はないと思います。
痛み止めと違い、副作用もなければ薬代もかからない。
この本でも述べられていますが、「あなたの腰は曲がっているから治らない」
等という、悪い方向の暗示より余程良いと思います。
ちなみに、この本でも暗示によって人間が命を落とすという実例を挙げ、
暗示の力についても述べています。

がんの疼痛は、ここで言う腰痛のようにはいかないと思います。
私も同列に扱う意味で、ここでこの話をした訳ではありません。
しかし、自分が「怒り」という感情に支配されてはいないか、と省みる
体験は多くの人にとって無駄ではないと思いますし、
これによってもしかしたら気持ちが楽になったり何かが改善するかもしれません。
それと、医師の余命宣告や、良かれと思って発信している
「病状を受け入れなさい」というメッセージが、時に患者様にとって強い負の暗示
にもなり得るという認識を私達は持つ必要があるのではないかと思っています。


セロクエル

2012-01-26 09:17:26 | その他
在宅でひどい昼夜逆転やせん妄に対して、この薬を使用出来る
ようになってから困ることが少なくなりました。
セロクエルは非定型抗精神病薬に分類され、保険適応病名は
「統合失調症」ですが、以下を見て頂くと分かる通り、平成23年
9月より「器質的疾患に伴うせん妄・精神運動興奮状態・易怒性」
に対しての使用は保険審査上認められる事になりました。
(セレネース、ルーラン、リスパダールも同様です)

http://www.ajha.or.jp/admininfo/pdf/2011/110928_2.pdf

セロクエルの特長は、セレネース・リスパダール等と比較して
抗幻覚・妄想作用は少なく、反面錐体外路症状の副作用も
とても少ないとされています。そして何と言っても鎮静作用が
強く、不眠に対して強い味方になります。

せん妄は、簡単に言えば「主に体調が悪い時にみられる、半分眠っている
状態」です。治療の基本は、出来るだけ副作用の少ない薬を使って、
「夜眠って頂く」ことなので、セロクエルはその点もってこいの薬です。
昼間の幻覚・妄想に対してセレネースやリスパダールを使うより
ずっと良い結果になると私は感じています
(もちろん、状況により併用が必要な事もあります)。

余談ですが、せん妄に対して抑肝散という漢方を使うのが流行りに
なっているようです。確かに、効くことはあると思いますし、副作用の
少なさから第一選択とする事は私も賛成です。
しかし、内服が非常に大変であるため、終末期のがんの患者様に
限って言えば、気軽に試せる薬とは言えません。
お湯や柑橘系のジュースに溶かすと飲みやすいという事ですが…。

話を戻します。セロクエルも、もちろん夢の薬ではなく副作用にも
気をつける必要があります。まず、糖尿病には禁忌です。
肝機能障害の経験がありますし、25mgでも鎮静が強過ぎて昼間まで
眠ってしまう事もあります。誤嚥・転倒・廃用に注意し、適宜半錠にする
等の対応は必要です。尚、腎機能低下に対し通常減量の必要はなく、
半減期も短いのが特徴です。

皮膚の痒みに対する治療

2012-01-25 08:51:52 | その他
進行がんの患者様に限らず、高齢者では皮膚の痒みに悩む方が
少なくありません。対応としては抗ヒスタミン薬の内服や塗り薬
がよく処方されますが、十分な効果がなく、強い痒みを我慢
しなければいけない場合も多いと思います。医療者を含め
多くの人達も、「痛み」と聞くと一大事だと思いますが、「痒み」
と聞くとそこまで深刻に捉えない場合もあるようです。
しかし、実際は強い痒みは著しくQOLを下げる程辛いものです。

どの症状でも同じですが、まずは原因を検索し、原因に対して
治療を選択するのが基本になります。

最も多い原因は皮膚の乾燥によるものですが、
この原因では、きちんとしたケアをするだけで軽減する場合が
多いです。保湿剤はプロペト(白色ワセリン)がベストですが
ベタベタして嫌がられる方も多いと思います。そこで、
ヒルドイドソフト50g+プロペト25gという具合に2:1で混合すると
使用感・保湿力とも丁度良くなりますので試して下さい。
また、掻いて赤くなってしまった部分については、痒みを増すので
そこだけステロイドの軟膏をつけると数日で良くなります。
レスタミン等(抗ヒスタミン薬)の軟膏も良いですが効果が
長続きせず、乾くと新たな痒みの原因にもなるそうですので、
プロペトと混合したり、レスタミンの上から保湿剤を使うのが
良いそうです。

軟膏類の工夫でも痒みが十分に取れない場合は抗ヒスタミン薬の
内服を考えます。眠気が出るものが多いので、患者様がそれを
臨む時を除いてアレグラ等の眠気が出ず、薬物相互作用の少ない
ものが良いと思います。経験的にアレグラでも結構効きます。
亜鉛を含んだ薬が良いと知り、プロマックを使用したところ
割合に良い効果を経験します。しかし効果出現まで2週間程度は
かかる印象で、錠剤の内服が増えるのが辛い患者様には向かない
かもしれません。

黄疸による痒みについては、パキシルが著効する場合がある事を
以前記事に書きました。本来パキシルは重症の肝機能障害には
禁忌ですが、閉塞性黄疸や上記を理解した上で他の方法では緩和
出来ない強い痛みでは考慮しても良いのではないかと思います。
また、リファンピシンも黄疸による痒みに有効という報告も
あります。

過去記事
http://blog.livedoor.jp/kotaroworld/archives/50952092.html

黄疸の痒みに対するパキシルの使用についての論文
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/1/2/317/_pdf/-char/ja/

モルヒネでも強い痒みが出ることがあります。
これも上記の記事に書きましたがゾフランやディプリバンが有効
な場合があるそうです。ホスピス以外では適応症の問題で使用
出来そうにありませんが…。
【追記】ただ、モルヒネの場合痒みには耐性が出来てくる
という報告も多いです。

ゾフランやディプリバンよりはもう少し現実的なアイディアと
して、私が期待しているのはレミッチという薬です。
痒みがオピオイド受容体の中のμ受容体に関係している事が
分かっていますが、これは完全なκ受容体の作動薬です。
何故κ受容体作動薬が痒みに効くの?という方は、下に
示したPDFファイルを読んでみて下さい。良く分かると思います。

2009年に既に発売になっていますが、適応症が
「血液透析患者の掻痒」となっているので一般低には使用
出来ない状況です。理屈からすれば他の痒みでも効果がある
はずで、現在肝機能障害とアトピー性皮膚炎に適応拡大を
検討しているところだと聞いています。
ホスピスでは使用出来ますね。

http://www.remitch.jp/material/file/di_rmt.pdf#search

痒みで本当に困っている人達の福音となる可能性がありますが
一方で薬の性質上オピオイドとの併用による効果・副作用の
問題などは(大丈夫だと思いますが)未知数です。

夜間の頻尿について

2012-01-24 08:47:39 | その他
頻尿は進行がんに限らずたくさんの方の経験する辛い症状の
ひとつです。特に夜間の頻尿は不眠や転倒の原因となります
(筋力の低下や浮腫などがあれば転倒のリスクは格段に高く
なります)。
緩和医療学会のガイドラインにも『終末期がん患者の泌尿器
症状対応マニュアル』があり、PDFファイルをダウンロード
出来ますが、多くの患者様の悩みのひとつになっている事が
伺われます。

血糖・高カルシウム血症や尿路感染など、補正により治療
出来るところから検査をしていくのは言うまでもないですが
これらに異常がない場合はどのような対応を考えたら良い
でしょうか。

頻尿と言うと最近はポラキス・バップフォー等の抗コリン薬が
やたらと使われます。もちろん、劇的に効果がある事もあり
ますが、一方で症状を増悪させたり抗コリン作用による
副作用もあり、使用前に残尿を調べるのはもちろんの事、
体力の低下した高齢者では眠気、ふらつき、便秘、せん妄
等にも要注意です。

※更に進行がんの方はただでさえ抗コリン作用を持つ薬を
多く内服されていると思いますので副作用増強にも注意が
必要です!(モルヒネ・ブスコパン・三環系抗うつ薬など)。

最近は心不全・高血圧のがBNP、カテコラミンといった利尿に
関係のあるホルモンを過剰に分泌させ、夜間の頻尿に繋がっている
という報告も見られるようになりました。このことから午後の利尿剤の
投与が夜間の頻尿を改善するという報告があり、考慮に価する
のではないかと思います。
もちろん、その前に輸液量の見直し等も検討すべきです!


夜間排尿回数、利尿薬投与で中央値6回から2回に減少
http://www.m3.com/academy/report/article/120406/?portalId=academy&pageFrom=openAcademy

夜間頻尿の病態と治療について。BNPの話題も
http://medical.radionikkei.jp/premium/entry-156871.html

もうひとつ紹介したいのは、ロキソニンに頻尿を改善する効果が
ある、という事が最近よく報告されています。腎血流量を低下
させ、膀胱容量を増大させることがその作用機序と考えられて
います。70~80%程度で効果があるとのことで、他の治療で
QOLが改善出来ない場合は考慮出来ると思います。
ここでは長くなるので敢えて論文は挙げませんが、
『ロキソニン 頻尿』等で検索すると多数ヒットします。

進行がんの患者様に対する使用経験はありませんが、
自分自身や頻尿でお困りの方に使用して、確かに効果を
感じています。効果の持続時間は5~6時間で屯用でも
効果があります。寝る前に眠剤と一緒に内服して頂くと
良いかもしれません。もちろん、長期内服では副作用も
多い薬剤ですので、総合的に適応を判断すべきだとは
思います。

2012年

2012-01-20 16:54:20 | 日記
なかなかブログの更新、コメントのお返事が出来ないまま、長い時間が過ぎて
しまいました。藁をもすがる思いでサイトを検索するうちにこちらに辿りつき、
コメントを下さった方にも返信が出来ず大変申し訳なく思っています。
時間が空くと更に再開する勇気はなく、ここまで長い間ブログを放置する事に
なってしまいました。

2011年は仕事の面ではそれなりに余裕があったのですが、プライベートでは
色々あり忙しい1年でした。今年も同様に多忙になると思いますが、このままでは
いけないと思い久し振りにブログを見直しました。
大きな事は出来ないかもしれません、また休み休みの更新になることも予想
されますが、何方かの、いくらかのお役に立てることを祈りつつ、
細々と再開させて頂こうと思います。

とにかく、少しずつでも継続していきたいと考えています。

※両方の更新は出来ないと思いますので当面掲示板は閉鎖のままとさせて
頂きます。