もっとましな嘘をついてくれ ータイ歌謡の日々ー

タイ歌謡について書いたり、うそをついたり、関係ないことを言ったりします。

「ばんぬら」と「ふぇぐえん」

2021年03月06日 19時04分40秒 | タイ歌謡
 コーヒーの穫れる地域は、ほぼ北回帰線と南回帰線の間であって、一般にその地帯が「コーヒーベルト」と呼ばれている。回帰線のことを英語でトロピック(tropic)っていうんだけどね。だからトロピカル(熱帯的)ってのはコーヒーベルトと同じエリアだと考えていい。
 もちろんこのベルトから少しでも外れたらコーヒーは育たないのかというと、そんなことはなくて、現におれも札幌でコーヒーの木を鉢植えで育てている。もちろん室内の栽培で、実際の植生とはかけ離れているから参考にもならないが、まだ花が咲いたことがなく、どうやら北海道で結実するのは早くても6年目だそうだ。初代の木は4年目にアルカリの苦土を与えたら速攻で枯れてしまった。そういえばタイのコーヒー農園は赤土の酸性土壌だったな、と反省。今の二代目の木は3年経つが、こないだの入院から戻ったら誰も水をくれてやらなかったので8割の葉が枯れ落ちた。もう駄目かと思ったが、新しい葉も生えてきたりしていて、おれと同じく瀕死の淵から生還したようだ。しかしこんな様子では結実は遠そうだ。
 北回帰線は台湾の南端近くを通る緯度なので、日本は外れている。が、沖縄にはコーヒー園が複数あって、あの辺りが北限になるんだろうか。中国でもコーヒーは作られていて、雲南省のコーヒー豆は評判が良い。雲南省もギリギリ北回帰線をさらに北に外れているが、発生したてで勢いのある沖縄の台風に比べて雲南省では来襲頻度が少ないだろうし、内陸部ゆえに勢力も衰えていると思われるのでコーヒーの栽培には向いてるんだろう。

 アジアでのコーヒーの栽培は盛んで、ヴェトナムはブラジルに次いで生産量が世界第2位と、収穫量が多い。ブラジルが300万トンで、ヴェトナムは170万トン弱。その他アジアではインドネシアが76万トンで4位、インドが32万トン弱で8位だった。ではタイはどうかというと、2万4千トンちょっとで30位だ。隣国ラオスは16万5千トンで12位というのに。これはタイの平地面積が多いからで、国土の森林面積が2/3という日本の10倍の平地面積があると日本財務省の報告があるが、具体的な面積は数字の記述がない。まあいずれにせよ平地が多いのは確かで、タイに行くとわかるが、山というものが少ない。北部の方にないことはないが、日本と比べるとショボい。従って、平地では水稲。コーヒーの栽培に向いてるのは、なだらかな山岳部なので、いきおいコーヒーの作付面積は少なくなる。
 タイ北部には、かつて麻薬で悪名を馳せたゴールデントライアングルがあって、そりゃ芥子の栽培のほうがコーヒーよりは儲かるだろうな、と思うのは素人で、芥子で得られる収入は小麦のそれと変わらなかったそうだ。だから20年以上まえ、王室のプロジェクトで芥子栽培を止めて、コーヒー栽培に切り替えた村が話題になったのだった。
 タイの農民は土地や作物への執着が淡白で、土地が枯れたりすると簡単にそこを打ち捨てて、他の場所へ移動してしまうし、作物の価格が落ちると、他の作物の生産に切り替えるのに躊躇がない。国土が肥沃で広大だからできる話で、江戸時代には日本の農民は土地に雁字搦めに縛りつけられていた。インドでは、こういうのを「マハトマ雁字搦め」という。ウソだ。いいません。支配されるというのは、そういうことで、とくに中南米などではコーヒーの栽培がモノカルチャーで縛られている。モノカルチャーってのは、植民地政策のひとつで、農作物の単一生産を強いることだ。アジアではフィリピンがそうで、例えばバナナならバナナだけ、パイナップルならパイナップルだけを作らせる。そうすると生活に必要な米や小麦は買うしかないし、販売ルートも選べないから、バナナから他の作物への転換をしたくてもできない、というような奴隷制度みたいな支配のメソッドだ。キューバが反米になったのは、ユナイテド・フルーツ社(今のチキータ)がバナナ生産を押し付けた結果で、まったく碌でもない連中だ。果物やコーヒーのせいで人が不幸になって良いわけがない。
 タイで穫れるコーヒーは、ふつうのレギュラー・コーヒーで使うアラビカ種ではなく、インスタントコーヒーや缶コーヒーの原料になるロブスタ種がほとんどで、だから安く買い叩かれる傾向があったが、近年になってロブスタ種も使いようではレギュラーコーヒーにブレンドしても旨いということになり、評価が上がってきている。まあ、それでも値段ということになると、やっぱりアラビカ種には敵わない。国際相場で今年の平均(21年3月での)がアラビカ種$3.60-/kg に対してロブスタ種$1.59-/kgです(ちなみに去年の平均がアラビカ種$3.32/kgに対してロブスタ種$1.52/kg)。このアラビカ種が日本へ着くとキロ500円弱くらいかな。去年は400円くらいで、ここのところ価格は上昇中だね。うんと安い時だと200円ちょっとだったな。市販の価格が標準的な物で¥2000~4000/kgというところか。格安の物でも¥1000/kgくらいでしょ。まあ悪くない価格設定だと思う。
 参考までに小麦が$198.42-/t(2020年6月)で、トンあたりだからkgに直すと$0.19842/kgか。今のレートだと日本円で¥21/kg。これが日本国内に来るといろいろゴニョゴニョされて政府売渡価格が¥51.42/kg(令和2年4月期)でしょ。そこから企業に渡って市販の小麦粉の販売価格が、あんなものならこれも良心的だと思うよ。ゴニョゴニョのところは納得いかないが。
 小麦は、お国がゴニョゴニョできちゃうくらい元手が安い。そりゃ山岳民族の皆様がケシからコーヒーの方に乗り換えたわけだ。最近はケシからコーヒーに乗り換えたって話は聞かないんだが、それはケシの買取価格が上がったのか、それとも覚醒剤撲滅キャンペーンの賜物でタイ北部での生産が激減したのか。あるいは活動資金は現地調達が基本で裏の黒幕CIAの方針なのか、はたまたここのところ流行りのイチゴ栽培などの新しい作物に変わっているのかもしれない。
 まえにも書いたように、おれは昔コーヒー農園の役員もやっていて、農園の日本人スタッフ(某有名メーカーで発売していたので、その会社からの出向社員だった)がノイローゼになって使い物にならなかった時期、補欠の従業員が来るまでの3ヶ月ほど替りに農園に入っていたこともあるんで、コーヒーには少しだけ詳しい。あろうことかカップテイスターのマネ事までもした。最初は味見したのを吐き出す事を知らずに、少量づつ飲んでいたら、心臓がドキドキして青ざめて、その場にへたり込んでしまったことがあったな。急激に摂り過ぎると死ぬこともあるというから、カフェインには気をつけたほうがいいよ。

 コーヒーの木と友達なのは「モッデーン(มดแดง)」と呼ばれるアリで、直訳すると「赤蟻」だが、和名はツムギアリといって、葉を幼虫の吐いた糸で紡いで巣作りをするアレです。野生のなんとかみたいなTV番組で見たことあるでしょ。このアリが獰猛で、すぐに噛み付いてくるんだが、唾液に毒も含まれていて、噛まれると笑っちゃうくらい腫れる。そんで、チョー痛い。こんなのに集られた日にゃ生きていくのがイヤになりそうなものだけれど、地元の人々は「こっちから何かしない限り大丈夫だよ」と言い、じっさい噛まれていないのだ。でも、おれみたいな不案内な人は蟻の通り道に踏み込んだりするから噛みつかれるというのね。
 なるほど。蟻の気持ちになって歩けば良いのだ。と、そうして歩いたら、これが噛まれる噛まれる。何だよ蟻の気持ちって。わかんねぇよ。虫の料簡なんて。しかも、この蟻は規格外にデカくて、1cmはある。食いでがあっていいよな、と言うんだけれど、おれは昆虫食なんて嫌だから食わない。蟻は旨いって言うんだけどね。蟻酸があって酸っぱいから昔は蟻入のチョコレートなんてのがアメリカで売られていたんだが、今じゃ聞かないね。おれが子供の頃で、もう50年ほどまえのことです。アメリカ人が食わないくらいだもの。おれだって食いたくない。それでもタイの赤蟻は柑橘系の酸味があってムイビエンだっつうのね。
 で、蟻の本体よりも人気があるのは卵と幼虫で、これが北部の市場なんかだと赤蟻の卵と幼虫を山盛りに積んで売ってる。この画像の手前の白っぽいのがそうです。

 いや。蟻の話は、もういい。コーヒーだ。コーヒーの花が咲くのはタイの猛暑期の4月頃で、あたりまえに摂氏40℃を超える頃だ。山の麓の方から順番に上に向かって咲いていく。それはそれはもう見事で、コーヒーの花って思ったのと全然違って細いのが放射状にいっぱい咲いて、しかも馬鹿みたいに大きいんだ。稲の花は小さくて、なんか甘い粉っぽい香りだけど、コーヒーの花の香りはジャスミンに似ている。おれはジャスミンの香りって、芳香族っぽい鋭さがあって、そんなに好きじゃないんだけど、コーヒーの花の香りは、尖ってなくて、とてもいい。似てるけど違うんだ。そしてジャスミンの花と決定的に違うのは開花している日数で、ジャスミンは結構長い。でもコーヒーの花は1日か2日で枯れてしまう。けれど、稲の花より良いね。稲の花は午前中に、ほんの1時間か2時間くらい、とてもささやかな花を咲かせる。あれ、よっぽどタイミングが良くないと見つけられないよね。だから、稲の花粉が甘い香りだなんて、知る人は少ない。あ。でもそれは日本の稲の話で、タイのインディカ米はどうなんだろう。たぶん同じようなものだと思うんだけれど、「カオホームマリー(ข้าวโฮมมารี)」って言うくらいで、直訳するとジャスミンの香りの米ってことだから花粉の香りも違ったりして。うちの奥さんに訊いたら、微笑みながら「存じません(ไม่ทราบ)」って、すげえ丁寧なタイ語で答えが返ってきてビビった。あの人、たまにこういう返しをするんだが、怒ってるでもなくて、なんていうか日本人にない感覚なんだよね。これ、タイ人と結婚しないとわかんないんで、ここに書いてもしょうがないのかもしれないが。
 まあいいや。そんで花が散ったら、それから苦節8ヶ月以上。果実が大きくなって収穫は12月から2月頃。結実したのをコーヒーチェリーと言って、果肉が仲々に旨い。ほのかに甘いとか、そんなんじゃなくて、しっかり甘い。けっこう糖度が高いんじゃないかな。旨いんだが、食うところが少ないうえに、とても足が早い。もぎたては良いけど、すぐに味が落ちる。豆腐が半日経つと隨分と味が落ちるけど、あんなものの比じゃない。早い早い。だから流通しないのね。マレーシアあたりでジャコウネコに食わせて「コピ・ルアック」にするくらいか。タイでも象に食べさせて、その糞から豆(正確に言うと種だ)を採ったりして売り出したけどね。まだ売ってんのかな。おれは、そんなもの飲みたくないですよ。
 あと、果実を集めてジャムにしようとしても、ペクチンが少ないからサラサラでジャムにならない。で、ペクチンの粉を買うより他の果実(蜜柑とか)の方が安くて増量にもなるから、それと混ぜてジャムにすると、コーヒーの実が負けてしまって何だかわかんないことになってしまう。ダメじゃん。ぜんぜんダメだ。つうことで、コーヒーの実は農園関係者だけで、美味しくいただいております。また食いたいな。
 ついでに、コーヒーの花や若葉をヤムというタイのサラダに混ぜ込んでる動画を見つけたんだが、コーヒーの花は良いかもしれない。いい香りだからね。葉っぱは若葉じゃなきゃ相当に硬いと思うんだが、新芽から少し大きくなったところで、おれもやってみようかな。
แปรรูปดอกกาแฟ : วิถีทั่วไทย ( 26 พ.ย. 61)

 初めてコーヒーを飲んだのは小学生のときで、こんなに旨いものが世の中にあったのか、と感動した。やがて、どういったきっかけだったのか喫茶店でコーヒーを飲んだら、これが今までのインスタントとぜんぜん違う。中学生が一人で喫茶店なんかに行くと補導されてしまうからと、毎日のように喫茶店に連れて行ってくれと親にせがんでいたから、これはうるさい。しょうがなく、親はレギュラーコーヒーの粉とネルのドリップ袋を買ってきて、これで淹れて飲めと言った。本屋でコーヒー入門みたいな本を買って、ネルの袋を茹でて(布が糊付けされてる訳でもなさそうで、水に馴染ませる為なんだろうか。理由がわからないままに今でも初回は必ず茹でている)冷まして絞って淹れて飲んでみたら、これが笑いを堪えきれないくらい旨い。
 中学生くらいでレギュラーコーヒー淹れてるようなガキは大嫌いだが、それがおれだった。あっという間にコーヒーサーバーや琺瑯のヤカン(今ではあたりまえの注ぎ口が細いヤカンが北海道の山奥では売ってなかった)を買い揃え、毎日コーヒーを淹れていたら、そりゃ当然巧くなる。親も、「これはヘタな喫茶店より旨いぞ」と言い、サイフォンなども買い与えてくれたが、サイフォンという器具は雰囲気だけで、旨いコーヒーを淹れるには限界がある。味なら、やっぱりネルかペーパードリップだ。おれはネルが好きで、ペーパーだと紙臭くなるのがイヤなんだが、「そんな匂いなんかしない。おまえ、ちょっとおかしいんじゃないか」と言われて悔しかった。今では鼻が良いせいだとわかるのでオーケーだけれど。
 ところで最近は金属製のドリッパーで淹れてます。ステンレス製で円錐形を逆さまにした形態で、細かいメッシュがびっしり打たれてるの。いかにも邪道っぽいんだが、これだとネルや紙みたいにフィルターに香りを捕まえられることがないのか、すげぇ香りよく淹れられる。お勧めです。ただ、サーバーの底にフィルターの穴を潜り抜けた細かい粉が溜まるから、底の方は飲まないほうが良い。あと、毎回使う毎に手入れをしないとフィルターが目詰まりしてしまうので、使用後よく洗ってからセスキ炭酸ソーダと漂白剤を溶かしたぬるま湯に漬け置いて、それから細い毛のブラシで詰まりを落とすんだけど、まあこれまでのネルの手間に比べたら、ちょっとだけラクかな。ネルは使用後に洗って水に漬けておくのは面倒じゃないが、市販の袋の形が気に入らなくて、生地を切って自分で縫っていたからなあ。あれが面倒くさかった。

 それはそうと、コーヒーは毎日淹れて飲んでるんだと言うと、「さては通だね。それじゃ一番美味い缶コーヒーを教えてくれ」と訊かれることが、なん度かあったが、それは知らない。缶コーヒーは飲まないから。あれは苦手だ。
 コーヒーの業界の隅っこにいたんで、ちょっとは詳しくなったんだが、缶コーヒーが流通してるのはほぼ日本だけと言ってよく、他の国でも売ってないことはないが、まあ微々たるものです。で、缶コーヒーは自動販売機で売られることが多く、小銭を投入して選択ボタンを押してから、ローラーコースターみたいにガラガラと迷路状の通路を駆け抜けて受け口の所に、ごと、と落ちてくるまでにシェイクされて泡立ち易い。コーヒーって泡立ちが良いのね。で、コーヒーに限らず飲み物は泡立つと味が変わるように感じてしまうが、とくにコーヒーは泡立つと美味しく感じられない。
 そこで消泡剤を添加するわけです。
 缶コーヒーって、口に含んだ途端に、なんか舌にビリっと来るよね。あれが苦手なんだ、って言ったら、「へえ。あれ感じるんだ。感じない人のほうが多いんだけどね」と某メーカーの人に言われたことがあって、「あれは消泡剤として入れてるシリコンのせいです。たいした量じゃないんで気が付かない人が多いんですよ」と聞いて納得した。それまで、あのビリビリは金属のイオンか? などと思ったりもしたがカップに注いでも刺激が来る。なるほど。シリコンだったのか。他にも味が変わらないように酸化防止剤とか乳製品入れたら必ずセットで付いてくる大腸菌の処理とか質問したような憶えもあるが、忘れましたぁ。
 ここまで読んで、でもエスプレッソは、あの泡が旨いんじゃないか、と思われた方もいらっしゃいましょう。あれは例外。エスプレッソマシンで圧力のかかった抽出液が放出口から出て通常の大気圧に晒されたとき、その気圧差で泡が生じるのだが、この泡が非常に細かい。泡が細かいと、空気で味がまろやかになる、という理由だ。泡を保たせるのはコーヒーのアクで、だから泡のところはアクが濃いところです。エスプレッソでも泡だけをスプーンで掬って味わうと、これが渋くて、不味い。もう、震えが来るほど不味い。細かい泡のおかげで、渋さがマイルドになるってことだ。
 しかしシリコンはすごいね。表面張力を低下させて泡を消す。昔の乾麺って茹でると泡立って吹きこぼれたでしょ。最近のはそういうことがなくて、あれはガスの火の勢いを調節できるようになったからだみたいなことを言うけれど、火の強さを調節できるようになったのはおれが子供の頃からで、昔はそれでも麺類を茹でると吹きこぼれたりするので、通称びっくり水が必要だった。シリコンまぶしたらそういうことは必要なくなったんだけど、乾麺は茹でたら茹でこぼしたり水で〆たりするんでシリコンは残りませんね。でもシリコンまぶしてっから吹きこぼれナシ、なんて書くと、「大丈夫か?」って思われちゃうから書かない。麺に練り込むわけじゃないから原材料の欄に記されることもない。ところで、インスタントラーメンも麺を茹でこぼした方が旨いと感じる人も多いんだけれど、あれはシリコンだけの理由じゃないと思う。茹でこぼした方が淡白な感じになるよね。あの麺の塊から、よくわからないものが溶け出してるように思うのだが、メーカーの人に、言いがかりだ、って怒られそうなので話題を変えよう。
 まあいずれにしても、いつ淹れたんだかわからないコーヒーの味を劣化させない缶コーヒーの技術ってのは、凄い。コメダ珈琲なんかも、初めて飲んだとき、「なんだ、こりゃ」と思ったんだけれど、あのコーヒーは工場みたいな所で大量に淹れて、それをガロンボトルみたいな大きなボトルに詰めて各店まで届けて、そして小分けに温めてカップで提供してるんで、感動的に旨いってのは無理だ。それよりも、そんなことしてあの品質はすごい。家で淹れたコーヒーを瓶詰めにして数日おいたのを飲んだら、ひどく不味いと思うもん。あれは、どういった技術なんだろうか。お客さんでコメダに来ていて「あ。これは淹れ置きだな」って見抜けてる人は少ないと思う。コメダは凄い。おれは飲まないが。
 ま、他にもリン酸塩の事なんかもあって、コーヒーは市販の出来合いのものなんかじゃなく、個人経営の喫茶店か、自分で淹れて飲むのがいいね。

 タイで売ってるコーヒーで多いのは、屋台なんかでおなじみの「オリエン(โอเลี้ยง)」といって、これがすんげぇ濃い。筆に含ませて不祝儀袋の記名ができるほどに濃い。それもその筈で、うっかりしたら炭になっちゃう直前くらい深く焙煎したロブスタ豆の粉を、写真のように深いネル袋(相当な量の豆になる)に入れて、お湯を落として淹れるんだが、これで終わりじゃない。ここで出来たコーヒーをさらにもう一度、ネル袋のコーヒー豆粉にくぐらせる。つまり、一度目は湯で落としたコーヒーを、二度目は、そのコーヒーでまたコーヒーを落とす。もっと濃くしたいときは、わかりますね。そう。その濃いコーヒーをまたコーヒー豆粉にくぐらせる。そりゃ濃いわ。

 そんなもんで、屋台なんかでこれを頼んで、あとは黙ってると練乳(コンデンストミルク)をドバドバ入れられちゃう。これがもう、甘いなんて生易しいもんじゃない。ちょっと口に含んだだけで、重量級の甘さが眉間をずぅーん、と直撃して、そのまま首の後に抜けて、延髄にどぉーん、とタックルかましてくる。そして血中糖分が急上昇で動けなくなっちゃう。裏返ったカブトムシが、うねうねと6本の足を意味なく動かす気持ちが自分のことのようにわかる。だから、練乳は少しで良いです、なんて控えめな言い方だと、チョー過激に甘いのが、過激に甘いくらいにしかならず、「ほんの少し。あくびの涙(น้ำตาหาว)くらい少し」と言うと、にっこり笑って少しだけ入れてくれる。あくびの涙なんて言い回しはタイ語にはないが、こう言うと、大概のタイ人は「んー」って言って喜ぶ。うちの奥さんは、こういう新しい形容に弱くて、いちいち喜ぶ。むかし、カーテンというタイ語を知らずに「窓の服(เสื้อหน้าต่าง)」と言ったときなど身悶えせんばかりに喜んでいた。今では「マン(ม่าน)」とか「パーマン(ผ้าม่าน)」というのを知っているが、うちじゃ今でも「窓の服」と呼ぶ。気に入ってるようだ。
 ところでオリエンだ。あのコーヒーは何であんなに濃いのかっていうと、氷が溶けて丁度良くなるっていうんだけど、氷が全部溶けても、まだまだ甘いし、コーヒーとしても濃い。
 タイの事務所では毎朝レギュラーコーヒーを淹れていたんだが、これをタイ人スタッフは、あまり飲まない。どいつもこいつも遠慮するようなタマじゃないから不思議だったんだが、ブンソンというおじさんが、これを飲んで「薄い(จืด – チュート)!」と言って、そのコーヒーにインスタントコーヒーの粉をドバドバと追加して、うむ、と頷いていたんだが、そういうことです。オリエンは濃いんじゃなくて、あれがタイ人にとっての普通なのだった。
 でも最近では、オリエンみたいなのを「カフェーボラーン(กาแฟโบราณ)」と呼ぶ。意味は昔風(つうか原始的って意味合いが強い)のコーヒー。スターバックスがタイに来て、若い者はそっちに流れちゃった。コーヒー好きに言わせると、あんなインチキなコーヒーはない、と言う人もいて、まあ賛否両論なんだが、そんなことはお構いなしにタイの若者も、こぞってスターバックスに行きたがる。
 個人的にはバニララテとかね、余計なことするんじゃねぇ、と思うんだ。蕎麦にワサビが付いてきて、あれは蕎麦つゆのカツオの生臭さを消すのに良いんだろうが、そんなことしたら、蕎麦の香りが飛んでしまうんで、もうどうしていいのかわかんないのと同じですね。しょうがないから、おれは一味で食ってるが。あと北海道で見られるゴマ蕎麦ってのもダメだ。ゴマで蕎麦の香り消してどうする。
 とは言うものの、バニララテいい香り♡とか言って喜んでるんだから、まあ好きなら、それでいいか、と思うわけだ。合衆国のコーヒーなんかに多いんだが、flavored coffeeとか言ってコーヒーにチョコだとか木の実や果物の香りを付けるのがあって理解に苦しむんだが、そういうのが好きなんじゃしょうがない。好きにしたらいいよ。あと「Iced Vanilla Latte」って書いてあるのを見て英語なら英語。イタリア語ならイタリア語に統一してくんねぇかな、って思うが、それよりコーヒーって単語はどこ行った、って話だ。たしかに香りってことならコーヒーではなくなってるんだよね。とにかく多言語が入り乱れるのは違和感があって、「香草香濃的Iced Latteコーヒーおいしくてดีที่สุด」って書いてあったらイライラするでしょ。
 で、スターバックスは高いのにイマイチ味が薄い(タイ人にとって)ってことで、街中にはスタバのパチもんみたいな店が、オリエンとスタバの中間くらいの濃さと値段で、オシャレなコーヒーを提供しています。もうバニラどばどば。そこが過剰になっちゃったか。タイ人、バニラ好きだもんね。値段は格安でも百円くらいから。昔のよりは高い。もちろん普通のコーヒーもある。そっちのほうがバニラよりは安い。でも中学生の頃のおれみたいなガキが、コーヒー飲みたくて百円握りしめて買いに行けるんだから、タイはいい国だよね。

 さて、今回の曲はライラというグループの「バニラ」って曲です。
LYRA - "Vanilla" (Official Music Video)
 このユニットはAKB48のタイ支部っていうかAKBグループのタイ法人っていうか、そんな集団でBNK48ってのがあるんだが、そのサブユニットの2つ目だ。ライラのまえに「ミミクモ」ってサブユニットがあって、これがそこそこヒットしたんで、二匹目の泥鰌です。MVを観ていただければわかるように、歌が巧いわけではない。あと、美人でもない。
 タイに美人ってのは、ゴロゴロいて、そういえば昔ゴクミってのがいて三田佳子の娘役で風邪薬の宣伝なんかしてて懐かしいね。あのゴクミが半分だったか1/4だったかタイ人でしたね。タイに行けばわかるが、美人が掃いて捨てるほどいる。ありがとう神様。まあその代わり普通の人の割合が少なくて、あとアレだ。これはどうしたことだ、というのも多い。何やってんだ神様。つうことで、美人を揃えるのなんか訳もないことだろう。第2期のメンバーのオーディションには1万人以上の応募があって、その後も増え続けている筈だ。
 それだけの人数から選んで、これだけ美人がいないってことは、ぜったいに外してるよね。歌が巧い人も外されるのではないか。日本のAKBのメソッドと同じなんだろうね。
 最初からのコンセプトが「会いに行けるアイドル」だったから、スターっぽいオーラなんか要らないってことだろうね。48人前後って編成は、学校のクラスの構成人数かな。感情移入し易いってことか。でなけりゃ討ち入りの人数だ。まあタイのカチコミがそんな人数編成かどうか知らないが。
 とにかく日本と同じやり口で、自前の劇場を持ち、選挙の制度や、CDを買ったら握手券のポイントや撮影券のポイントがつくのも同じだし、歌などのパフォーマンスも未熟だと批判されているのも同じ。でも、芸術的なものなんか最初から目指してない。芸能というものを馬鹿にしたようなスタンスは同じだ。AKBが自民党と組んでるように、BNKが軍事政権と組んでいるような様子はまだないけど、こいつらは油断ならない。そのうちBNKのお姉ちゃんたちが軍艦の上で敬礼しながら笑顔で「守ろう! わたしたちの国」とかやりだしたらやだな。
 歌詞も、どうってことない。
 あなたがいないと寂しい。わたしはバニラアイスが好きで、フィルムカメラで写真を撮るのが好きで、月を見るのが大好き。でも、いちばん好きなのは、あなたを見ること。
 みたいな。

 今回のタイトルは、わかりますね。蛇足ながら説明しておくと、津軽弁だ。「ばんぬら」ってのは、もちろん「バニラ」のことだね。「バニラのやつ、ください」は、津軽弁だと「ばんぬらぬやづ、けへ」かな。クリームソーダなんかのバニラ味の炭酸飲料は、「ばんぬらぬ、じがじが」だね。
 あと、「ふぇぐえん」ってのは、とうぜん「百円」のことだべぉん。これも津軽弁だはんで。「へぐえん」でも可だんず。
 へば。

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