もう10数年前の話になるが、例の如く会社が退け、仲間同士で終電間際まで卓を囲んでの帰り道、電車の中で先輩から薦められた一冊・・・今でもこの本を見ると、何故か数年前に亡くなられた先輩が、酒を飲み、煙草をくゆらせながら、麻雀で興じてた笑顔が思い浮かぶ。
本は、主人公・源太郎が、若くして頭髪が抜け落ちる奇病に陥り、主君の嗣子・千代之助に侮蔑され、それを逆らい乱暴を働き監禁される。
ところが、別人の小太郎を名のって生きることを許されるが、実は当人、主君の血筋をひいていたことから、お家騒動にまきこまれることになる。
しかし、源太郎は、宿命的なコンプレックスを強力なエネルギーに変え、市井の人として生きる道を拓いていく。・・・というストーリ。
池波正太郎の代表作といえば、「鬼平犯科帳」だが、初刊が昭和49年~平成6年と約20年間で23冊発行しているが、本、男振は昭和53年に発刊されており、油の乗り切った時期に書かれたものといえよう。
読みやすい文体と、悪人といえども手を抜かない人間描写、藤沢周平と共に好きな作家の一人である。