今日の仕事は正直行きたくなかった。
れいのワガママ王子が来る日だったから。
ワガママ王子は1年生。
生まれつきの障害で、立つことも歩くこともできないが、元気に這って動くし話すことは達者。
相手の人が自分の思う通りにならないと怒ったり泣いたりいじけたり。
「それはちょっとおかしいと思うよ」なんてちょっと注意した日にゃあ、「ママー!」と大声で呼んだりする。
ママっていうのは1階に来てる子達を担当しているパートのアイさんだ。
職員の子供が施設に来てるのはホントやりにくい。
注意をしにくいったらありゃしない。
だけどワガママ王子は特に私に甘えてくるし私と遊びたがる。
そう聞けば、『あら、良いことじゃない?可愛いじゃない?』と言われそうだが私としてはウンザリだ。血圧が上がる。
まず、今日も私に会うなりパンチをしてきた。
「ちょっと、そういうのやめてよ○○くん」
と言うと、すぐ泣きそうな顔になりいじけるのだ。
「ボクそんなに痛くやってないのに」
(充分イテーよ)
「痛かったよ~」とワガママ王子のゴキゲンを直すために抱きしめると、今度は私の手を噛んでくる。
「痛ッ!」
と反応して痛がる私を見てニヤニヤしているワガママ王子。
こんなことの繰り返しだ。
更に今日はこんなことがあった。
3年生の女の子二人がシルバニアファミリーで遊んでいる所に行き、ジーッと見て、急に怒り出したのだ。
「ねぇ!どうしてボクを無視するの!」
(は?)
二人の女の子達もキョトンとしている。
「○○くーん、別に○○ちゃん達は無視したつもりは無いと思うよ。二人で遊びに夢中になってただけだよ」
私がそう言うと、またしてもいじける王子。
「だって、ボクだって一緒に遊びたいのに」
「そういう時は『ぼくもいれて』って言わなきゃ」
と言うと、ワガママ王子は、
「でもボクはまだ1年生なんだよ!3年生は1年生を大事にしなきゃならないんだから!」
とワケがわからないことを言い出した。
「そうかもしれないけど、まずは自分からいれてって言わないとね」
「えー!たかぽんさんは○○ちゃん達の味方なの!?」
(ハァ…疲れるガキだ)
おっと!イカンイカン、そんな言葉を頭の中とはいえ言ってはいけない。
「いいよ、一緒に遊ぼう」
3年生の女の子達が王子に声をかけた。
(おぉ!良い子達だ)
すると王子、
「やだ。シルバニアじゃない遊びがいい」。
(おまえー!)
「でもシルバニアで遊びたい…」
と困ったような顔の女の子達。
しかしまた王子は、
「ほらあ!やっぱりボクのことを大事にしないじゃないかー!」
と、聞いててひっぱたきたくなるようなワガママを言って怒り出した。
聞いててムカつく気持を押さえて、
「じゃあ、シルバニアの遊びが終わるまで私と待ってようね」
と王子を抱っこした。
「そうだ。スマホで天気予報を見ようか」
と、私は自分のスマホを取り出し王子と一緒に見始めた。
すると王子、突然スマホに「プッ」と、ツバをふいてきたのだ!
「え!」と、驚いた瞬間、なんと今度は鼻水を「フッ!」と吹きかけてきた!
んもぉー!正直な気持ち、『ふざけんなっ!』である。
ヒロキは今日から仕事に来たが、相変わらず事務所にただ居たり、或いは1番しっかりしている楽な子にずーっとついてスマホをやっていたり。
腹立つわー。
ヒロキもワガママ王子も。