あれから職員ユウさんが出勤して来なくなった。
私は私で勤務が減った。
今月から勤務が減っているのは私の希望だからそれはいい。
昨年私は「退職届」を出したのだが、社長に強く引き留められた。
そして「せめてたかぽんさんの代わりに新しく入る職員が慣れるまでは居て欲しい」と言われたので、「週に2、3回ならもう少しは続けます」とした。
いつ辞めるとは決めてなかったが、まあ年度いっぱい3月いっぱいかなと自分の中で決めていた。
でも先日のユウさん問題が起き、黙っていられない私がそれを職員会議で公表した。
あの後は社長が私に対して表情も暗く、視線も合わせなくなった。
私は間違ったことは言ってないし、していないと思っているのだが、もう少しは社長の立場を考えて言うべきだったのかもしれない…
でももう言ってしまったからしょうがない。3月いっぱいで本当に辞めよう。
私みたいに先走った正義感を奮うおばちゃん職員は、会社にとっても迷惑なだけだろう。
そんなことを考えていたところ、2月のシフト表が出来てきた。
それを見て、「え!?」と思った。
私を土曜日から外していた。
パートにとって長時間働ける土曜日は稼ぎ時の日。土曜日はたくさん利用者が来るので忙しい。今まで私が土曜日に入らないのは、希望で休みを取らない限り無かった。
なのに2月の土曜日から私が外されている。
ムカつく。
サイテーだな社長。
望むところだ。
今すぐにでも辞めてやる。
2月のシフトが出た一昨日、とりあえずコウタさんに
「土曜日に私を入れてないみたいだね。社長、よほど怒ってるね」
と話した。
するとコウタさんも驚いて、
「社長の感情でこんなことされては困りますから、俺から社長に言っておきます」
と言った。
「いや、いいよ、私は最後まで社長が作ったシフト通り勤務しようと思うから大丈夫」
とコウタさんを止めた。
「いつも子供達を楽しませてくれるたかぽんさんが土曜日に居ないのは現場としても困ります」と言うコウタさんの言葉は嬉しかった。
でも社長には言わないでと頼んだ…
のだが、コウタさんは我慢できず社長に訴えたらしい。
一昨日の夜、コウタさんから電話が来た。
「社長は何か思い違いをしていたみたいですよ!本当は土曜日にたかぽんさんを入れたかったけど、たかぽんさんが今月からあまり勤務したくないんじゃないかと思って入れなかったらしいです。たかぽんさんさえ良かったら、土曜日に来て欲しいそうです!」
どうかな…
なんだかんだ言って社長にいつも気を遣っているコウタさんのことだから、少し嘘ついてるんじゃないか…
「そうなんだ」
「それとこの前のユウさんのことについても、ちゃんとユウさんのことを処分して、市役所に今回の不祥事を報告するそうです」
え…?
意外。
「ただ、副社長と意見が対立して揉めてるみたいですねぇ…副社長はユウさんを守りたいみたいで…」
そうなんだ。
コウタさんの話を聞いて、私は直接社長と話がしたくなった。
社長の真意が知りたかった。
電話を切る時、コウタさんが言った。
「たかぽんさん、辞めるなんて考えないでくださいね。だめですよ、本当にだめですよ…辞めないでください」
「う~ん…。とりあえずまたね」
「だめですよ、辞めちゃだめですよ…」
電話を切ろうとしても繰り返していた。
コウタさん、泣けるなあ。笑
そんなに言ってくれるんだ。
そして昨夜、私は仕事から帰って来て、勇気を出して社長に電話をした。
少し長電話になるほど、いろいろ社長と話が出来た。
まず土曜日のシフトのことを社長は謝ってきた。
勤務を減らしたらもう少し続けると言った私を、忙しい土曜日に入れるのはだめかなと思ってしまったらしい。
シフトを作り直しますね、と言っていた。
コウタさんの言っていたことは嘘じゃなかったんだなとわかって良かった。
社長はユウさんのことも明らかに許されない行為とも言っていた。
今日、ユウさんと社長と副社長と今後のことを話し合うらしい。
「あの…!」
とっさに私。
「明日、ユウさんにしばらく休んだら、また戻って来て欲しいと伝えてください!ユウさんが居ないと困ることもあるし、待ってるからって伝えてください」
と思わず社長に言った。
実はユウさんは、昔、ひきこもりだった。
夜間の高校を出て、食品工場に就職をしたが、出社たった一日で仕事に行けなくなったらしい。
その後、何年かひきこもってしまい、たまたま何処か(病院?)で社長達に出会い、それからこの会社で働くことになり今に至っている。
私が約6年半前に当時29歳だったユウさんに出会った時、とても物静かな優しそうな人だった。
ところがいつの間にかユウさんは変わっていった。
今の職員の中で一番長いことで社長ら上司達はいつも自分の味方みたいに思っている様子、威張っているようにも見え、挨拶さえもしない、子供達にも無愛想、どんどん昔のユウさんではなくなっていった。
そこへきて今回の問題。
これはユウさんへの運命の戒めだったんじゃないか。
居合わせたのが黙っていられない私だったのも運命だったかも。
だから、ユウさんにはこの挫折を乗り越えて欲しい。
またひきこもってはダメ。
社長達に声をかけられ、ここで働き始めた頃の初心を思い出すための出来事だったんだろう。
みんなに公表した私が言うのもなんだが、ユウさんは戻って来なきゃならない。
そして優しい気持ちを思い出して、もう一度頑張って欲しい。
「辞めないで欲しい、待ってるからって伝えてください!」
と電話口で社長にお願いすると、社長は「ありがとうございます。伝えておきます」と言った。
今日、ユウさんとどんな話し合いになっているだろう。
社長は真摯に今回のことを受けとめ話しているだろうが、あの副社長がネック…
そして、なんだかんだいっても、やっぱりユウさんは私が居ては戻って来にくいんじゃないかな。
「たかぽんさん、辞めちゃだめですよ…ホントだめですからね」…耳に残ったコウタさんの声に迷わされるけど…