kirekoの末路

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第十三回『龍奮闘するが軍敗れ、危機に瀕して一臣の重さを知る』

2007年06月29日 00時03分21秒 | 架空大河小説『英雄百傑』
英雄百傑
第十三回『龍奮闘するが軍敗れ、危機に瀕して一臣の重さを知る』



―あらすじ―

昔々、巨大な大陸を統治する皇帝がいた時代。

国中郡を平定した後、阪州は大重郡攻略に乗り出した
ジャデリンとキレイの率いる官軍20000は、
隊を二つに分けて出発し、大重郡の要所である
頂天教軍が占拠した五城を攻略、開放すると、
頂天教の教主アカシラの主力部隊が潜む妖元山に迫った。

円城で軍議を開いたキレイは、山攻めを易しと説いたが
智謀深き参謀のタクエンの反対され憤慨し、危うく宮中を血で汚す
無礼を行う所だったが、オウセイの機知によってキレイは怒りを留まらせ
臣であるタクエンの前でお互いに跪き、礼と忠を持って詫びた。

しかしキレイの心はすでに岩山のように頑固になっており
ニ部隊による力押しの山攻めは敢行されようとしていた。
次の日、キレイ官軍5000の兵は将兵達の意気もそのままに
円城を発つと妖元山へと向かい、攻略を始めたのだった。
後詰めを任されたキレイの弟キイと参謀のタクエンは
天候を見て大敗を予想すると、山上に立ち込める暗雲は更に
その黒さを増すのであった。

―――――――――――――――――――――


妖元山 中央山道

豪雨降る悪天候の中、妖元山五路の中央を進む
キレイ率いる歩兵2500は、岩肌の見える緩やかな傾斜の坂を上っていたが、
将兵達の意気とは反対に、進軍は難航を極めていた。


ザァー!ザァー!ビューゥ!ビューゥ!

「うわーぁ!す、すべる!」
「なんて道だ、まるで鉛をつけて歩くみたいだ」
「か、風も強い、吹き飛ばされそうじゃ」

ズザザーッガラガラガラッ!

「あっ、また一人転んだか」
「こう道が悪くちゃ仕方ないさ…うわっ!」
「く、くそ。躓いた足が痛みで響きやがる、なんて悪路だ」

ゴロゴロ…カッ!

「ひええ、また光ったぁ!ブルブル…雷怖い」
「い、戦で死ぬのはいいが、雷に当たって死ぬのは嫌だなぁ」

連日の雨で土は水を吸って泥となっており、兵士が歩いた道は深い溝となって
後ろの兵士はその溝に足をとられ、目も開けられないような大きい雨粒の雨と
水を吸った甲冑でバランスがとれなくなっていた兵士は次々と転んだ。
逆風の風も吹き始め、土の無い岩肌と面した路は
山の頂から流れ始めた雨水で更にすべりやすくなり、
前方の将兵達は一歩ずつ足場を確かめて進軍しなければならなかった。
強い風と雨に伴った悪路、そして轟く雷鳴と近づいてくる雷の光が
今まで天を突く勢いだった兵士達の意気をだんだんに削いでいった。


「キレイ様!地崩れと悪天候のため怪我をする兵士も多く、兵達の士気が落ち始めています」

「ぬうう・・・このような鈍足では奇襲の意味がない・・」

「いったん出直し、兵を下がらせて天候が回復した後、攻め入ってはどうでしょうか?」

「馬鹿者!ここで後退すれば敵の追撃の格好の餌食になるわ!どう転んでも敵陣に向かうしか勝利の道はない!それに幸い敵もこの雷鳴で陣から出れんと見える!その証拠に敵の灯火が見えんではないか」

「は、はっ」

キレイは焦っていた。キレイ自身、山攻めの難しさを知っていただけに
攻略によって自分の才略、その成功を見せたかったのかもしれない。
傲慢にも参謀タクエンの言も聞き入れず、頑なに山攻めを敢行した
キレイの軍に、天地は罰を与えるように味方しなかった。
何時の間にか緩やかな坂は断崖絶壁にも感じられるほど辛いものと化し
速攻急襲を狙っていたキレイにとって、これは大きな誤算であった。


しかし、焦る気持ちとは反対に、キレイの脳内は冷静だった。
兵士の士気と進軍の速度をあげるための一計を瞬間的に考え、
その口をもって兵士達に投じ鼓舞したのだ!




「皆の者!足を止めるな!雷、雨、風は我々に与えられた天の試練だ!これを乗り越えれば我らの大勝利が待っている!それっあそこの暗がりに賊兵の間抜け面が見えるぞ!今引けばあの賊兵は我らを笑い罵るだろう。我が自慢の強兵達に、将として、そのような恥辱を味あわせていいのものだろうか?いや断じて許されぬことだろう!誉れ高き強兵達よ!もうすぐ山頂の敵陣だ!間抜けな賊軍に吠え面をかかせてやろうぞ!我慢強く進軍せよ!我慢し、敵の大将首をとった物には褒美として1000兵の大将の地位を約束するぞ!」





「えっ!?1000兵の大将!?」
「おいおい本当か!?」
「こ、この俺が1000人の大将・・・」
「へへっ流石はキレイ御大将だ!太っ腹じゃないか」
「なんだなんだこんな雨や風!1000人の将になれるなら屁でもない!」
「どけどけおまえら!オイラが一番乗りだ!」


ワーワーッ!ワーワーッ!
兵士たちは少しざわめくと、こぞって声をあげ
緩い坂道を走り出すように駆け出した!


「き、キレイ様!兵士たちの意気が上がり、進軍速度も上がりましたぞ!」

「よし!いいぞ!そのまますすめーっ!」


「「「オオオーッ!」」」


キレイの言は、急ごしらえの言葉とは思えぬほど見事で、的確に味方を鼓舞した。
兵士一人一人を褒め自尊心を煽り、破格の褒美で功名心を煽り、
将兵の心を絶妙にとらえ、その功名心を見事なまでにたきつけたのだ。
兵士たちは、我先にと競わんばかりに足を踏ん張り、
前へ前へと坂道を登り始めた。
その足取りは泥に捉われようと軽く、風をものともせず
雷への恐怖は、たぎる功名心で消えていった。

どんな苦難に出くわしても、焦りさえ抱くも冷静に物を考え実行する
まさにキレイの大将としての度量、用兵術の凄さを物語るものだった。

今や進軍速度は神速極まりないものとなり、悪路とは思えない驚くべき速度で
頂天教軍の陣が敷かれた山頂近くの採掘所へと向かっていった。



妖元山 頂天教軍 本陣


キレイ率いる歩兵2500は悪路を抜け、ついに山頂の本陣へとたどり着いた。
山頂への五路には鉄の門が立ち並び、その周りには木の杭を張り巡らした柵が打たれていたが、急遽作った木製の小城といった感じで、防御には隙が余りあり、中央に採石所への入り口があって、そこが鉄の門で閉じられている事と、隣に高台のようなものが見える以外、平地の陣となんら変わらない様相であった。

しかし、陣の簡素さよりも不気味だったのが
陣の中に野営の幔幕や、かがり火を炊くための灯篭はあるものの
そのどれにも人の気配、火の立ち上りは見えず、五路の門にも
守備をする兵士の姿は無かった。


「キレイ様、門、陣中共にもぬけの空にございます」

「門も陣中も兵がいないだと・・?どこかに伏しているのではないか」

「いえ、伏兵の気は何処にもございません」

「むぅ…不気味だが進撃するしかあるまい」


キレイ軍は空を未だ包む暗雲を見ながら、無人の門を潜り
不気味な静けさと暗闇に包まれた無人の陣に歩兵隊を進めた。
陣中の中央ほどに来ると、岩を削って作られたような高台の上に
何か呪術の祭壇のような物が築かれているのがキレイの目に留まった。


「む?あれはなんだ?」

「壷に甕、燈台に剣と旗・・・なにやら祭壇のようですな」

「何か嫌な予感がする・・・」


その時であった!


バリバリバリ・・・ズドォォォン!

「ぎゃああーーーーーっ!」
「うわーーーっ!」
「だ、だいじょうぶか・・・うわあああ!」

物凄い閃光と共に轟音が撒き散らされると
兵士達の断末魔の声が聞こえはじめ、閃光のまぶしい光に揺らぐ目で
うっすらと周りを見ると、キレイは目を疑った。


「ば、ばかな落雷が兵士に当たったのか・・?」


大きな鉄の柱の周りに居た100人ほどの兵士達の殆どが落雷によって
あるものは全身に大やけどを負い、あるものはその場に地上に上がった
魚のように震えながら苦悶の声を発していたのだ。
兵士達は恐ろしくなって中央にかけよると、高台の祭壇から
不気味な笑い声が聞こえ始めた。


「ヒャヒャッ!ヒャッヒャッヒャッ!まんまとひっかかかったねぇ」

「貴様何者だ!名を名乗れ!」

「名乗るほどの名はもってないけどぉ、言っちゃおうかなぁ?」

「むむむ、面妖な奴!あやつをひっとらえい!」

「はっ!それかかれーっ!」

「「「ワーッ!!」」」

兵士達がそれぞれ祭壇に向かって走り出したその時であった。
再び暗雲から稲光が見えると、大地に狙い撃ちするように
兵士達の頭上へと落ちてきた!

バリバリ・・・ズドォォォォン!

「ぎゃあーっ!」
「うおあおおあああああおあおおあ!」

向かっていった50程の兵士達はなす術もなく
次々と雷撃に当たり、あるものは武具が燃えて火だるまとなったり、
あるものは口を開いたまま絶命していった!

「あ、あの男は神か魔か!頂天教とは本当に天を操る妖術を使うのか!?」

「雷など偶然の産物だ!全員恐れずに突っ込めーッ!」

キレイは雷撃を目の前にしたが、天候を自在に操れる
仙人のような男など信じていなかったため、歩兵隊を密集させて
祭壇の男へと突撃させた!


「ヒャ!おやおや健気にも突撃してくるかねぇヒャヒャッ!面白い!そういえば名乗るのを忘れていたね。天を操る教えを恐れずに進む愚かな官軍に天罰を与える頂天教の総大将、天将アカシラとはワシのこと!恐れを知らぬ官軍には罰を与えなきゃねぇヒャッヒャッヒャッ!」

そういうとアカシラは祭壇の後ろに隠れて、
何かの合図をするように設置されたドラを叩いた。

「ヒッヒ、それ今じゃ!」

ジャーン!ジャーン!

「「「ワーーーッ!!」」」

「な、なにっ!?」

進軍する歩兵隊に対して正面の鉱山の入り口の扉が開き
なんとそこから黒い鎧を着た兵士達が現れたのだ!

「ヒャッヒャッヒャッ!ゆけーぃ選ばれた黒の軍団たちよぉ!あの雷鳴を聞けぇ、天は官軍を味方せず、わしらを味方しておるぞぉ!」


「「「ワーーーッ!」」」

「キレイ様、敵が突っ込んできます!」

「ふん!暗雲に合わせて黒い甲冑で心中をかき乱す策とは、まったく子供だましの伏兵だ!それに良く見よ!敵は小勢、いっきに突撃すれば討ち取れるわ!」

雷鳴轟く暗がりで、黒い甲冑を着た頂天教軍の兵士達の突然の登場に
少し焦ったキレイだったが、思ったほど敵の兵士は多くないところを見ると
密集陣形にあった歩兵隊を前へ突撃させ、黒い甲冑の兵士達に当たらせた。


「ヒャ?どうやら少しは骨のある官軍らしいね。では次を動かすかぁ」

ジャーンジャーン!

再びアカシラがドラを鳴らすと、今度は後ろから頂天教の兵士達が現れた!
そしてそれと同時に再び光が密集陣形にある官軍の兵士達の頭上に落ち、
また100人ほどの兵士がその場に横たわり、絶命する。
それを間近で見ていた官軍の兵士達は、功名心を忘れ
まるで蛇ににらまれた蛙のように、恐怖心にとらわれ士気が落ち
脱走するものまでいる有様で、歩兵隊の密集陣形は確実に破られていった。


「おのれ姑息な・・・挟み撃ちで敗れるキレイ官軍と思うなよ!」

「キレイ様!いけません!兵士達が雷を恐れ、逃げ出すものが出ています!」

「なんだと!?ばかな、恐怖で統率した軍が恐怖に破られたと申すか!?」

「何時の間にかそこら中に頂天教の兵士が現れています!円のように歩兵隊が囲まれており、このままではキレイ様の身も危のうございます!ここは一隊で敵の囲いを崩し!逃げるしかありませぬ!」

「なんたる敗戦・・・くっ!全軍!陣形を立て直し!血路を開いて逃げ延びよ!」

キレイは苦虫を噛み潰したような顔で、悔しい思いを胸に抱いたが
大将として気丈に指揮をとり、兵士達を従わせようとしたが、
恐怖の紐を解かれた兵士達に士気はなく、伏兵に囲われた歩兵隊は
見る見るうちにやられ、山地には無残な官軍の死体が次々と積まれていった。


ガキーン!!ドカッ!!!

「キレイ様!危ない!ぐわあっ!」

「く、くそっ!こんな所で、こんな所で!くそッ!くそぉぉッ!」

ついにはキレイを守る副将までも討たれ、
キレイを守る兵士の数は100を数えられるほどになり、
その焦燥感で脳に自分の死を悟らせぬよう、必死に奮戦したが
頂天教の兵士達はすでにそこまで迫っており、
絶体絶命の危機には変わりはなかった。


ブゥン!ガキーン!ガキーン!ドカッ!!

「くッ、おぬし達のような賊軍に討たれるキレイではないわッ!!」

「「「ワーーーッ!!」」」

グワンッ!ヒュンヒュンヒュン!
奮闘するキレイであったが、頂天教の兵士達は
キレイを押し包む形で槍を使って攻撃を加えてきた。
流石にキレイも多数の槍から攻められては剣で捌くことも出来ず
ついには剣をはじかれ、槍で赤い甲冑ごとなぎ払われ
大地に屈してしまう。

「ぬぐっ!うおおおおお!」

「ヒャッヒャッ!それいまじゃ!!」

キレイは最後まで抵抗の表情を浮かべたが
目の前でギラリと光る敵の槍を見ると、もう無理か
と死を覚悟した。

その時であった。


「「「ワーーーッ!!」」」


「若ァァァァ!!!ご無事でござるかー!!!」

別の門から突っ込んできたオウセイの1500の騎馬隊が
キレイを囲み円陣となっている頂天教の軍を切り崩すように突っ込んだ!
そしてオウセイは大地に倒れたキレイを確認すると
馬の手綱を放し、手を差し伸べると、そのまま豪腕で
キレイを馬上に押し上げた!

「お!おお!!!オウセイ!」

「若ッ!少し荒く行きますぞ!しっかりとつかまっててくだされ!」

「地獄に仏とはまさにこのこと…オウセイなんと感謝してよいものか」

「ハッハッハッ!その言葉!無事に敵陣を突破してから陣中のみなの前で頂きたいですなぁ!」


キレイはオウセイに感謝の言葉を言ったが
オウセイは、いつも通り高笑いを浮かべ、ニンマリと笑うと
キレイの言葉に対して冗談で答えた。

それを見てキレイは、このオウセイという猛将を
部下に持ったことを誇りに思い、その信頼をますます覚えた。


ドドドドドドドッ!

オウセイと騎馬隊は休むことなく突撃し、
敵の兵士をなぎ払い、一直線に中央道の山道の門を目指すと
緩やかな山道を急いで下りはじめた。
しかし、後ろからはアカシラ率いる頂天教軍が
逆落としをかける形で迫っていた!

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