kirekoの末路

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第二回『天下乱流の時、牢に凡人在りて天を仰ぐ』

2007年05月30日 11時29分15秒 | 架空大河小説『英雄百傑』
英雄百傑
第二回『天下乱流の時、牢に凡人在りて天を仰ぐ』



ここは皇帝が治める大陸の東国のある郡の牢屋。
鉄で出来た格子に、冷たい石の床、雨水が流れこみポタポタと流れる水滴が
いかにも牢屋という気分をかもし出している。

スタスタスタ・・・

牢屋の外の通路の奥から、二人程の足音が聞こえてくる。


「町で無銭飲食などけしからん!お前のような奴は牢にぶち込んでやる!」
「お役人様人違いですよ、私は無銭飲食などしておりません」
「馬鹿な事を申すな!店主は一部始終を見て言っておるのだ!」

着物の上に鉄の鎧を着た役人らしき男が、左手一本で優男を捕え離さずにいる。
優男はその拘束を解こうと必死になっているが、口ぶりと表情はどこか
余裕が見えるというか、落ち着いているというか、まあ必死ではない様子だ。

「お役人様、私は無銭飲食ではなく、犬に餌をやっておっただけでございます」
「犬に餌を?それはお前の犬か?」
「いえ、私の犬ではありません」
「では何処の犬だ!」
「野良犬でございます」
「野良犬に餌をやるために無銭飲食をしたのか!」

『子どもが考えつくような嘘』と言っては子どもに失礼だが、
そんな馬鹿馬鹿しく幼稚な嘘をつかれ、役人の真っ赤な顔が
さらに怒りに満ちて真っ赤になっていく。

「では問うが!店の品物を故意に野良犬にやったのはお前なのだな?」
「はい、可哀想な野良犬に餌をやるために頼んで食事を運んでもらいました」
「では金はお前が払うのが当然ではないか!」

再び憤慨する役人に対し、ニコッと屈託の無い笑みを浮かべると優男は言った。

「いえ、私の犬ではないただの野良犬ですが、もしかしたら皇帝陛下が飼われた由緒正しい『お犬様』かもしれません。それを何も知らない『民』の私が身銭を切って払うというのは『お門違い』というものでしょう役人様」
「こ、こやつ。なんたる屁理屈だ!」

とてつもない馬鹿馬鹿しい嘘を並べ、屁理屈をこねる優男に
これまた憤慨する役人であったが、この嘘に一つ乗って
屁理屈のぐうの音も出ないようにするため、再び優男に問いかける。

「百歩譲って犬が食べたとしよう。では、犬の餌に手はつけなかったのか?」
「はい、私は畜生の餌には手をつけるほど落ちぶれてはおりません」
「はっはっは!貴様の嘘もこれまでだ!」
「?」
「馬鹿者め!店の者が見ていたわ!お前が丼を抱え込み食らう姿をな!」
「…んぐ。」

流石に店主の他に店の者が見ていたのでは言い逃れできまいと
表情を少し曇らせた優男を見て役人は勝ち誇ったように言う。

「さあさっさと牢に入れ!刑は追って沙汰する!」

牢の前まで行くと左手を開放し、優男を牢の中に入れようとする役人だったが
優男は役人の左手から離れると、何かすっきりしたように役人に語りかけてきた。

「お待ちを、飯を喉に詰まらせまして上手く喋られなかったのです」
「この期に及んで時間稼ぎなど、面白くも無いことをする奴じゃ!」

しかし、役人は反論を聞く良い人物であったため
一応優男の言い分も聞いてやることにした。

「丼を抱え込んだのはたしかに私ですが、野良犬・・・いえ、お犬様がもし丼の毒物などに当たり、体を壊しましては、ご寵愛された皇帝陛下の悲しむ姿が目に見えます。それを回避するために私が毒見をしたのです。私の陛下への忠義の心がそうさせたのですお役人様」

「ぬぬぬ、口の減らぬ盗人め。また屁理屈をこねおって!」


また幼稚な言い訳で切り抜けようとする優男に憤慨する役人。
だがそれをよそに、さらに口の勢いが強くなる優男。


「それに、あの店主は元から私を蔑み、忌み嫌っておりました」
「・・・」
「忌み嫌う客に対してあらぬ罪をけしかけ役人様を動かすとは・・・」
「・・・」
「客を客とも思わぬ所業!奴こそ牢にぶち込むべきです役人様!」
「・・・」
「私怨から私がしたことを罪にするなど、凡愚の気持ちはわからぬものですなぁ」
「・・・」
「それでは役人様、私はこれで。いえいえ誤逮捕の謝罪の要求など滅相もございません。人間誰しも間違いはございますからね、ハッハッハ」


その一言を聞き、今まで黙って怒りを押し殺していた役人が
ついに顔面を真っ赤にして、逃げようとする優男に言い放った!


「黙れ愚か者!!!盗人たけだけしい!言うも言ったり凄まじいわ!ワシがお前が金を払わず逃げるところを見つけて捕まえたのだ!間違いなどない!」

「げえーっ!」

ドンッ!ガシャン!!!

勢い良く放たれた役人の蹴りが優男の腹に当たると、
優男の体は牢の中の石の壁まで吹っ飛び、それを確認した役人は
重苦しい鉄の格子を閉め、けたたましい音と共に戸を閉め、施錠した。


「うぐぐ・・・もう少しで成功するところだったんだが」

牢屋の中に入った優男は、腹に食らった一撃と
背中の石壁に当たった衝撃で、食べたものを吐きそうなくらい
気分が悪くなっていた。


「あの役人め、俺がこの郡の太守になったら即刻逮捕して同じ目にあわせてやる!」

冷たい石の壁、鉄の格子によたりながら必死に幻想を訴える
優男であったが、牢屋の役人はすでに奥の椅子に座り、自分の書き物に
熱中しているようであった。

その様子を憎たらしく思った優男は、怒りに任せて
とんでもない嘘を言い放った。



「おい!そこの役人!私のような忠義者をこのようなところに閉じ込めてよいと思っておるのか!私は100年前、大臣ゴーロギーンの専横に立ち向かった時の英雄ガムダが嫡流!ザンゴーであるぞ!」



「うるさいぞ囚人!ギャアギャアわめくと極刑にするぞ!」
やれやれと言った感じで脅しの文句を送る役人。
流石に嘘をつく囚人達には慣れているのか、流石の優男も
極刑、つまり死刑は嫌だと思い、鉄格子に手をついたまま黙ってしまった。


「ううう、悔しいが死刑はたまらぬ。世の中、命あってのものだね。生きていれば良いこともあるだろうし・・・」


優男はふと石の壁にめり込むようにあった、唯一の外界との接点である窓を見た。
窓の外は暗く、すっかり夜になっており、輝きだした星空が
牢屋の中を少しではあるが照らしている。

「光の差し込みさえ少ないが、なんという見事な星空だ。外を出れば俺も酒でも飲みながら、見れるのになあ…」

牢屋で見る星空の余りの見事さに、優男は何を思ったか
鉄格子につけていた手を窓に掲げ、嘘を嘘として考え
どこか芝居がかった感じで今の自分の境遇を嘆いた。




「天よ!見ているのなら私を救いたまえ!たしかに私の不徳ゆえに今を招いたことは認めよう!だが英雄の血を引く私の血が言っているのだ!再び麻のように天が乱れ!地が割れ!乱世となり!この国が再び危機に瀕している時!どうして英雄の血筋である私が、このような場所に居なくてはならないのか!?」




「うるさいぞ囚人!本当に極刑にしてやろうか!」


ガンッ!!


牢屋中に伝わる怒号が優男の演技を一気に冷めさせ、優男は
驚きの余りに自分が吹っ飛んだ石の壁に再び躓き転び当たった!


「くうう・・・」


優男は自分の愚かさと覆いかぶさる痛みに嘆き悲しみ、その場で涙を流した。


ガタッ、、、


「おい、さっきの話は本当か?」
その時、音と共に優男の横から声をかける影が一つあった。


第一回『大陸に人生じ、争う中に英雄生まれ統治し、時流れる』

2007年05月30日 09時10分43秒 | 架空大河小説『英雄百傑』
英雄百傑
第一回『大陸に人生じ、争う中に英雄生まれ統治し、時流れる』



遠い遠い昔の話、一つの大陸があった。
四方を美しい海に囲まれ、その外海には島国が細々と点在している。
この大陸は山や野の自然に恵まれ、獣が良く育ち繁栄していたが
いつの頃からか、獣と共存するように人と呼ばれるものが介在するようになった。

最初は草や実、弱い虫などを採って単独で生活していた人々だったが、
安定を求め、やがて人々の集まる集落を築いていった。
時が立つと、自分達の天敵である大きな獣から身を守るために武器を作った。
やがて武器は進化し、獣を狩る道具として成長するまでになり
その後、自分達で足りないものを補充するため武器を精錬する技術で農具を作り
武器は形を変え農耕という文明が始まった。

穏やかな日々が続いたが、問題もあった。
土地の寒暖や土壌の差、風の吹き具合による天候の違いによって
集落農耕で収穫できる収穫量に差が出来始めたのだ。

そして、収穫量の違いから、いつの間にか人々の心には他人を妬む心が生まれ
人々は他人を支配しようと農具を武器に変え集落での争いを始めた。

弱きものは強きものに飲まれ、強きものは弱きものの支配を得た。


―――――それから500年ほどの年月が流れる。


人々は小さな統治と分裂を繰り返し、未だ大陸は争いの中、
それぞれ豪族達は自分達の地方の名を『国』、統治者である者を『王』とし
『王族』『大臣』『兵士』『平民』という身分を設けて隔て、
明確な支配制度を打ち出すと、再び互いの国と反目しあいながら
100年間、自らの力を誇示せんと争いあった。

そして100年後、一人の男が現れる。
光り輝く彗星が見える西の空から出立した一人の男は、
人と人を結び、時には力を行使し、支配を繰り返していき、
ここに誰もが成し遂げなかった大陸の全てを統治する王となった。


『英雄』


誰がそう言ったかわからない。しかし、その文字通りの活躍をした男は
大陸の全土を支配する『皇帝』となり、地方を治めるものを『王』
その中の一郡を収めるものを『太守』と呼び始め、平和を第一とし
法によって国を統治すること、大陸に暮らす人民達に戦の無い世の中に
することを確約した。


しかし、英雄となった男を取り巻くもの達も人である。
全てを収め、全てを支配した英雄と呼ばれた男が死を迎えてから
100年の歳月が流れると、不穏な動きが現れる。


幼くして即位した王族ゆかりの『皇帝』に政治を一任されていた
時の『大臣』が自分の一族だけの専横を始めたのだ。
皇帝に代わり支配をし始めた『大臣』に怒った『兵士』達だったが
その謀略に乗せられ、有能なものは全て殺され、無能なものは
『大臣』に媚び諂い、その力を蓄えていった。


専横を極めた『大臣』と『兵士』だったが、最後には
いつの間にか力をつけてきた『平民』の『英雄』に敗れ、
『英雄』は『皇帝』を擁立すると再び大陸は平和となった。



その後、『英雄』は皇帝の下を去り、再び『平民』となった。



そしてまた100年の月日が流れる。
皇帝の一族が途絶え、再び野心に駆られた人物達が己が牙を研ぎ始めると
大陸全土に天変地異が起こり、人々は不安を感じて自分達で皇帝に代わる
神を作り始め信仰し、それはいつの間にか一軍となって
天下は再び揺らぎ始めた。


一人の英雄が皇帝となってから202年、
時代はここから動き出すことになる。