気まぐれ翻訳帖

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ウィキリークスは死なず・2

2015年06月24日 | メディア、ジャーナリズム

昨年11月28日の回に続き、今回もウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏に対するインタビューの記事です。

ご存知のとおり、アサンジ氏は現在エクアドル大使館に幽閉状態にあり、苛酷な生活を強いられています。
しかし、インタビューによると、
「あれやこれやいろんなものがなくてさびしい-----皆さんは私にこう言わせたがっています。けれども、-----(中略)----- 。私たちの戦いに従事するには強度の集中が必要です。ですから、自分の不都合をあれこれ思いわずらう余裕はほとんどありません」
と、なお精神力の強いところを見せています。

元記事は、イタリアの代表的週刊誌『l'Espresso』(レスプレッソ)誌に掲載されたもののよう。
私は、定期的に覗くオンライン・マガジンの『ZNet』(Zネット)誌に転載されていたので、この記事の存在を知りました。

原題は
‘I still enjoy crushing bastards’
(「悪党をやっつけるのは依然楽しい」)

転載された『ZNet』誌の方のサイトはこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/i-still-enjoy-crushing-bastards/

(なお、掲載期日は4月3日でした)


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‘I still enjoy crushing bastards’
「悪党をやっつけるのは依然楽しい」



By Julian Assange
ジュリアン・アサンジ


初出: 『l'Espresso』(レスプレッソ)誌

2015年4月3日


ウィキリークスは世界でもっとも強大な存在をさらし者にしました。すなわち、米国の軍産複合体です。そして、その軍産複合体はこの5年の間、あなたとウィキリークスのスタッフを執拗に追及する形で反撃しています。米国のこの活動に関して、確かにわかっていることは何でしょうか。

今年、米司法省とその裁判所はウィキリークスに対する追及が継続していることを明らかにしました。私たちはまた、ウィキリークスのスタッフに対する令状をグーグルから入手しました。グーグルによると、現在もそのほかに数多くの「口外禁止命令」を受けている、同様の命令を他の複数の会社も受けている、といいます。米司法省が適用をもくろんでいる罪状も今年明らかになりました。すなわち、スパイ活動、スパイ活動を意図した共同謀議、コンピューター不正行為防止法違反です。このコンピューター不正行為防止法違反とは、コンピューターへの不正侵入もしくはデータの違法な改竄、政府所有の情報の窃盗、一般的謀略を意味します。これらが私たちに対する公式の咎です。これは馬鹿げた話です。理不尽きわまることです。この追及活動は、出版者・情報公開者に対するこれまでで最大規模のものと考えられています。米国政府自身が内部のやり取りの中でこれを形容して「政府当局全体を挙げての活動」と述べています。また、オーストラリアの外交官がワシントン在任中に米国側の発した言葉を本国政府にこう連絡しています。この追及が「前例のない規模と性質」をそなえている、と。


注目すべき点は、ウィキリークス、チェルシー・マニング、エドワード・スノーデンなどの件とデビッド・ペトレイアス将軍の件との著しい相違です。ペトレイアス将軍はCIAの長官を務めていた当時、不倫相手に極秘情報をもらしていました。あなたやマニング氏、スノーデン氏は軟禁状態、拘留、国外追放等のうき目に会っています。世界各地のメディアと協力して機密情報を明かしたためです。ところが、ペトレイアス氏はその辺を自由に闊歩しています。同氏には何の深刻な追及もなされないままです。

「法の前の平等」などというポーズさえもはや装われていません。上院諜報委員会の委員長ダイアン・ファインスタイン女史は、一貫して私がスパイ行為の廉で訴追されるべきだと言い続け、それを強く呼びかけています。ところが、女史は一方で、ペトレイアス将軍は職をうしなったのだから将軍とその家族はもう十分に辛苦を味わったと述べています。これははなはだしいダブル・スタンダードです。彼らには責任が免除されていることがよくわかります。
権力を所有するという概念の中には権力を誇示することも含まれています。そして、権力を誇示するやり方のひとつは、責任を問われないことを見せつけるという手法です。「われわれは神聖不可侵な存在だ。われわれに手を出してはならない」というわけです。これが、彼らがウィキリークスやスノーデン氏、マニング氏を厳しく追及する理由のひとつです。私たちが強烈な打撃をあたえ、そのために自分たちが実に脆弱な存在に見えてしまうからです。


ウィキリークスはまた、銀行口座の凍結という超法規的な手段によってきわめて深刻な打撃をこうむっています。この口座凍結と執拗な捜査活動の2つは、権力者の利益をおびやかす組織に対処するにあたって欧米諸国が用いる手段の一環です。ただ、欧米の民主国家では、ジャーナリストや活動家が殺害される例はまずありません。無視されるか、あるいは、法的もしくは経済的なプレッシャーによって沈黙させられるのが一般です。非常に遺憾なことではありますが、しかし、マニング氏の言葉を借りれば、「真夜中に消息不明になるよりはましです」。これは多くの国で実際に起こったことです。これについては、いかがお考えでしょう。

それについてはかつてこう言ったことがあります。現在の欧米では、ジャーナリストが真夜中に自宅から連れ去られるという風な展開にはならない。彼らは白昼堂々と自宅をうしなう羽目におちいるのです-----雇用主からクビを言い渡されるか、裁判で訴えられる結果として。
米国、広く言って欧米諸国では、ジャーナリストを殺害せずとも、その口を封じる手口がいろいろあります。彼らの情報公開の衝撃を弱める-----かならずしも検閲に訴えずに-----、弱めに弱めてなきに等しいものにするやり口が数多く存在します。強大な権力を有する組織と人間が連結している「回路基盤」はきわめて堅固であるため、情報公開を通じてこれをゆるがすことは実に困難です。


かつて有名なインタビューの中で、こうおっしゃっておられますね。当初、ウィキリークスを創設したばかりの時、自分のはたす大きな役割は中国、旧ソ連構成国、北アフリカ諸国にかかわるものと思っていた、と。今現在、なにゆえに中国やロシア、北アフリカの人々はウィキリークスに情報を持ち込まないのでしょう。

ウィキリークスともっとも激しく衝突するであろう相手が米国であることは当初から認識していました。米国の軍事部門だけを取ってみても、その規模は世界の[軍事部門]全体の約50パーセントに相当するのですし、技術的にももっとも進んでいますから、膨大な機密情報をかかえているのは当然です。それにまた、信念上の不整合も存在します。ある価値を信じていると公言しながら、それにそむくふるまいにおよんだり、などです。そこで、組織内に疑問を持つ人々が現れます。マニング氏やスノーデン氏のように。
ウィキリークスは今では中国やアフリカ、その他多くの国々でも重要な働きを演じています。しかし、残念ながら、私たちは結局のところ資源の制約をこうむっています。ある文化と適切にかかわるためには、その言語を話すことのできる貴重な人材が欠かせません。その文化における国民的議論に踏み込む必要があります。こちらも「プレーヤー」のひとりと認識されなければなりません。時にはこちらの資源をある国に首尾よく投入できる場合もあります。東ティモールが好例でしょう。ウィキリークスはそこでの数多くの暗殺計画や不正取引を明らかにしました。東ティモールでは私たちは「プレーヤー」として認知されました。けれども、中国やロシアなどのような大国で「プレーヤー」として認知され続けるためには、これらの国の言語に相当の資源を投じなければなりません。


ロシアや中国の機密情報に関しても、他の国と同様におそれ知らずの断固たる姿勢で公開するおつもりですか。

むろんです。中国については、重要な文書を中国語で公開しました。これはきわめて重大な文書で、検閲用「バックドア」(訳注1)の義務づけを阻止するのに政治的に有効に働きました。「バックドア」は、中国で生産されるすべてのコンピューターに仕組まれる予定だったのです。

(訳注1: 「バックドアとは、裏口、勝手口という意味の英単語。ソフトウェアやシステムの一部として利用者に気付かれないよう秘密裏に仕込まれた、正規の利用者認証やセキュリティ対策などを回避してこっそり遠隔操作するための窓口のこと」(IT用語辞典))


ここ2週間ほどで、あなたに対するスウェーデン当局の追及には重要な展開がありました。スウェーデンの検事が、あなたがこれまで求めていた通り、この大使館で事情聴取をおこなうことについに同意したのです。スウェーデン当局の訴えがもし取り下げになった場合、この大使館を離れてエクアドルに渡り、無事に亡命生活を送れるとお考えですか。

残念なことに、この大使館での亡命生活はスウェーデンの「予備調査」とはかかわりがありません。かかわりがあるのは米国政府の案件です。そして、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)は、いずれにしろ、私を逮捕する意向であることを表明しています。


それはどういう理由ででしょう。

そうですね、それはいささか不分明です。彼らはまた、米国がひそかに身柄引き渡しを要請したかどうかについて確答を拒んでいます。これも確かなことはわかりません。


では、結局のところ、はっきりしていないわけですね、スウェーデン当局の追及が止んだとしても、この大使館を離れることができるかどうかは ……

はっきりしているのは、いずれにせよまったく違いが生じないことです-----政治的な違いを別にして。もっとも、この違いはきわめて重要ですが。スウェーデン当局の予備調査なるものの詳細を精査した人間は誰であろうと、それが司法上理不尽であることに気がつきます。つまり、別の追及から注意をそらすために用いられた、と。そもそもの発端であり、もっとも深刻な意味合いを秘めた件-----米国に対するスパイ行為という事由です。


この大使館での生活を、あなたは以前、宇宙ステーションの中で暮らすことにたとえました。通常の一日はどのような具合なのでしょうか。もっとも、ジュリアン・アサンジという人間の生活に通常の一日というものがあるとすればの話ですが ……

通常の一日など望んでいません。拘禁状態にある者が誰でもそうであるように、敵は単調さであり、深刻な問題は感覚の遮断です。幸いなことに、私たちは情報公開という営為を継続しており、戦闘的、国際的な調査報道組織を運営しています。ですから、私は少なくとも精神的な意味では、この建物の中だけでなく、同時に複数の異なる国で生きることができます。


四周を壁にかこまれて暮す中で、一番なくてさびしいものは何でしょうか。

あれやこれやいろんなものがなくてさびしい-----皆さんは私にこう言わせたがっています。けれども、私はただこう言うだけです、家族に会えなくてさびしい、それ以外は何もさびしくない、と。私たちの戦いに従事するには強度の集中が必要です。ですから、自分の不都合をあれこれ思いわずらう余裕はほとんどありません。これは幸いな話です。


あなたは自分のお子さん、家族のことについては彼らの身の安全を考慮して話題にするのを常に拒んできました。彼らの方はあなたに対して今やっていることを再考するよう求めたことはなかったのですか。

ありましたよ。でも、彼らは結局受け入れました。実のところ、そうする以外なかった[アサンジ氏は自分に対する皮肉といったおもむきで笑みを浮かべる]。私に近しい一部の人間-----子供を含め-----にとっては大変な負担でした。彼らはこんな生き方をすることに心から同意したわけではなかった。一方、私にすれば、目下の状況は自分が自分であることの一部です。そして、私のしていることは、結局のところ将来的に子供たちが誇りに思うであろうし、さまざまなことをここから適切に学べると思う。


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