気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

国連機関がアサンジ氏の幽閉状態を違法と認定

2016年04月09日 | メディア、ジャーナリズム

ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏は現在、ロンドンのエクアドル大使館で幽閉状態を余儀なくさせられていますが、そのような状態に追い込んだ英国とスウェーデンの対応を国連の作業部会が違法と認定しました。

(以前から世界各地の法曹団体、人権団体などがその不法性に抗議していて、このブログでも関連する文章を訳出済みです↓

アサンジ氏に対する人権侵害の是正を各国団体が国連に要請
http://blog.goo.ne.jp/kimahon/e/8b910f01e13da3cb9d4fa7c083c438fb


今回は、この国連の裁決をきっかけとして書かれた、英国の著名なドキュメンタリー映画監督ジョン・ピルジャー氏のコラムです。
(例によって、訳出し掲示する時機がだいぶ遅くなりましたが)

原文のタイトルは、
Freeing Julian Assange: The Last Chapter
(ジュリアン・アサンジ氏の解放: 最終章)

原文はオンライン・マガジン『ZNet』(Zネット)誌に掲載されています↓
https://zcomm.org/znetarticle/freeing-julian-assange-the-last-chapter/


この件は、アサンジ氏を追及している大元が実は米国政府であるため、英米の大手メディアは積極的に報道しようとはしない様子。人権を無視したふるまいをしたのがロシアや中国であったら大々的に取り上げるのでしょうが。


-----------------------------------------------------------------


Freeing Julian Assange: The Last Chapter
ジュリアン・アサンジ氏の解放: 最終章


By John Pilger
ジョン・ピルジャー


2016年2月5日


現代のもっとも際立った冤罪の一つが今、その不法性を明らかにされつつある。ジュリアン・アサンジ氏は、英国とスウェーデンによって不法な拘禁状態に置かれている-----こう、国連の『恣意的拘束に関する作業部会』が裁決した。同作業部会は、各国政府が人権に関する義務を履行しているかどうかを判断する国際的な裁決機関である。

アサンジ氏は汚名をはらそうとこれまで5年間努めてきた。そして、この間、正式に起訴されていないにもかかわらず激しい中傷を受け続けてきた。しかし、ここに来て同氏は、『欧州容疑者引渡し令状』に基づきロンドンで逮捕され、幽閉状態を余儀なくされて以来、もっとも公正と名誉回復、そしておそらく自由、を獲得できる距離に近づいている。
(当該の『欧州容疑者引渡し令状』自体が欧州議会により現在、疑問視されている)

国連の作業部会が判断の拠りどころとしているのは『ヨーロッパ人権条約』および他の3つの条約であり、署名国にはそれを遵守する義務がある。英国とスウェーデンは、この作業部会の16ヶ月にわたる調査に協力する共に、証拠を提出し、自国の行為の正当性をうったえていた。もし両国が作業部会の裁決にしたがわず、エクアドル政府が許したロンドン大使館での避難生活からアサンジ氏が解放されることを拒んだならば、それは、両国が国際法など鼻もひっかけない姿勢を明らかにしたということになるであろう。

国連の作業部会がこれまでに裁決した著名な事案には、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏、投獄もされたマレーシアの野党指導者アンワル・イブラヒム氏、イランで身柄を拘束されたワシントン・ポスト紙の記者ジェイソン・レザイアン氏などの場合がある。これらの裁決では、英国とスウェーデンの双方が作業部会を支持した。今回のアサンジ氏の件で状況が異なるのは、同氏に対する迫害と拘禁状態がロンドンのど真ん中で実施、継続されていることだ。

アサンジ氏に対する追及は、そもそもが同氏のスウェーデンでの性的不品行に関する申し立てに基づくとはとても言えない。同国の主任検察官エヴァ・フィン氏は起訴自体を見送った。「アサンジ氏が強姦をおこなったと疑うべき根拠があるとは思えません」と同氏は述べた。また、事件の関係者である女性の一人は、証拠をでっち上げるとともに自分に対し「強圧的な働きかけ」をおこなったとして、警察当局を非難している。「アサンジ氏になんらかの罪を問おうなどとは思っていませんでした」と彼女は抗弁した。おまけに、別の検察官が不可解にも捜査を再開したが(この前に政治的な口利きがあった)、それも結局は行き詰ってしまった。

アサンジ氏に対する追及の源は、大西洋を越えてワシントン-----米国防総省が勢威をふるうワシントン-----に発する。米国政府は内部告発者をあぶり出し、訴追することに夢中だ。とりわけアサンジ氏を標的にするのは、同氏がウィキリークスを通じて、アフガニスタンやイラクにおける米国の大罪を明らかにしたからだ。つまり、一般市民の大量殺戮、および、国家主権と国際法の軽視である。これらの真実の暴露はいずれも合衆国憲法の下では違法ではない。オバマ大統領自身、2008年の大統領選挙を闘う中で、内部告発者を称えて、彼らは「健全な民主主義の一構成要素であり、彼らを報復措置から守らなければならない」と述べていた(オバマ大統領はロー・スクールで憲法学を教えた経歴を持つ)。

オバマ氏は大統領就任以来、かつての言を裏切り、内部告発者を次々と訴追したが、その数は、これまでの米国大統領がそうした数の合計を上まわっている。あの剛毅なチェルシー・マニング氏は目下、35年の禁固刑に服している。同氏は、公判前の長期の拘留中に拷問に等しい過酷な取扱いを受けた。

同様の運命が降りかかる可能性が、アサンジ氏の頭上に「ダモクレスの剣」のようにぶら下がっている。エドワード・スノーデン氏の明かした文書によると、アサンジ氏の名前は米当局の『追及対象リスト』に挙げられている。副大統領のジョー・バイデン氏はアサンジ氏を「サイバー・テロリスト」と言い放った。ヴァージニア州アレクサンドリアでは、極秘の大陪審が設けられ、アサンジ氏を起訴すべく、罪名の確定作業が進められている。アサンジ氏は米国市民ではない。にもかかわらず、同氏は現在、米国の防諜法に基づき、罪人に仕立て上げられようとしている。当の防諜法は一世紀も前のしろもので、第一次世界大戦の最中に良心的兵役拒否者を押さえ込むために用いられたものだ。この法の条文には、終身刑と死刑の定めがある。

このようなカフカ的な状況の下で、アサンジ氏は自身を守らなければならないが、その障害となっているのは米国がこの件を国家機密と謳っていることだ。米連邦裁判所は、ウィキリークスに対する追及を「国家安全保障」にかかわるものとして、情報の公開をいっさい拒んでいる。

この茶番劇の支援役を果たしているのはスウェーデンの2番目の検察官マリアンヌ・ナイ氏である。同氏は、つい最近まで、欧州のありふれた手順を採用しようとはしなかった。つまり、ロンドンにおもむいてアサンジ氏を事情聴取し、捜査を進展させるやり方である。かかる展開は、アサンジ氏の法廷弁護士の一人であるジェームズ・カトリン氏に言わせれば「お笑いぐさ」であり、「 …… 彼らは行き当たりばったりで事に処しているように見える」。それどころか、アサンジ氏がスウェーデンを離れ、ロンドンに落ち着いた2010年より以前には、ナイ氏はアサンジ氏を聴取しようとさえしていなかった。そしてまた、今日まで、同氏は、なぜあれほど捜査の再開に熱心でありながら、この案件の決着に向けて動いていないのか、自身の司法当局に対してさえ、まっとうな説明をしていない。同様に、ナイ氏はまた、アサンジ氏を米国に移送しないとの言質をあたえない理由についても、口をつぐんでいる。この移送の件は、スウェーデン政府と米国政府との間で密約が交わされたとされており、両国政府間で協議が行われたことを英インディペンデント紙が2010年に明らかにしている。

かくして、ちっぽけだが勇敢なエクアドルの登場とあいなる。エクアドル政府がアサンジ氏に政治的亡命を許可するに至った理由の一つは、同氏自身の政府、すなわちオーストラリア政府が何の支援も申し出ず-----同氏には支援を受ける法的権利がある-----、同氏を見捨てたからである。オーストラリア政府が自国市民に不利に働く形で米国と協力したことは、漏洩された文書の中にはっきりと示されている。米国は自分を抜群にあがめてくれる臣下を南半球の政治家たちに見出した。

私は4年前、シドニーで、オーストラリアの自由党連邦下院議員のマルコム・ターンブル氏と数時間をともに過ごした。アサンジ氏が直面する危険、および、それが言論の自由や社会正義におよぼす広範な影響について私たちは論じ合った。また、オーストラリアがアサンジ氏を擁護すべき理由についても議論した。
そのターンブル氏は今やオーストラリアの首相である。そして、この文章を書いている現在、同氏はキャメロン政権が主催するシリアをめぐる国際会議に出席している。この会議の開催場所から車で15分ほどのところに有名デパートのハロッズがあり、そのハロッズと通りをはさんだ向かい側に位置するのが、アサンジ氏が3年半を過ごした狭小なエクアドル大使館の部屋である。
シリアの名を出すのは多少は関係があるからだ-----たとえ、大々的に報道されないとしても。つまり、米国がシリアのアサド政権打倒を長年目指していたことを明らかにしたのはウィキリークスだった。今、この時、ターンブル豪首相は会議の出席者たちと挨拶を交わすのに忙しいが、この会議の趣旨と真実味にわずかながらでも貢献できる機会が同氏にはあたえられている。不法な拘禁状態に置かれたオーストラリアの一市民のために声を上げることによって、である。ターンブル氏は、あの4年前の議論の際は、アサンジ氏のことをたいそう気づかっていたが。
ターンブル氏がやらなければならないのは国連の『恣意的拘束に関する作業部会』の判断を伝えることだ。はたして彼は、まっとうな世界における、オーストラリアのわずかに残された評判を取り戻すことができるだろうか。

まっとうな世界はまちがいなくアサンジ氏に大きな借りがある。下劣な権力が影でいかにふるまっているか、いかに嘘をつき、策略をめぐらすか、いかに大規模な暴力をふるうか、いかに戦争を維持し、人々を殺傷し、今話題となっている何百万人もの難民を作り出しているか-----これらを私たちに教えてくれたのはアサンジ氏だった。これらの真実を語ってくれただけでもアサンジ氏には自身の自由を取り戻す資格がある。しかも、公正な裁きを受けるのは彼の権利なのである。


-----------------------------------------------------------------

[補足情報など]

■訳文中の、

「アサンジ氏は米国市民ではない。にもかかわらず、同氏は現在、米国の防諜法に基づき、罪人に仕立て上げられようとしている。」

に関して、この点が惹起する問題については、本ブログの以前の回で訳出したオリバー・ストーン、マイケル・ムーア両氏による以下の文章ではっきり指摘されています。

「アサンジ氏が仮に米国に送還された場合、その影響は世界的に長く尾をひくでしょう。アサンジ氏は米国市民ではありません。そして、同氏の活動はひとつとして米国でなされたものではありません。かかる状況で報道にたずさわる人間をもし米国が告訴できるとしたら、同様の論法によってロシアあるいは中国は、自国の法を侵害したとして、外国人記者が世界のどこにいようと、彼らのひき渡しを要求できることになるでしょう。このような前例をつくることは、誰にとっても深刻な懸念事項となるはずです。それは、その人間がウィキリークスの信奉者であるか否かを問いません。」

上の引用文を含む全文はこちら↓

マイケル・ムーア、オリバー・ストーン両監督による声明
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-925b.html



今回の書き手であるジョン・ピルジャー氏のウィキリークス関連の文章は、以前にも訳出しています。もう5年前になるのですね↓

ウィキリークス壊滅作戦?
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-ba4d.html

ウィキリークス壊滅作戦?・(続き)
http://cocologshu.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-652a.html


■最近のウィキリークスの動向、活躍については、ブログの右横に表示される関連の文章を参照してください。



コメントを投稿